65.自分がやったこと part2
「あっきれた……!あなた意外と強情……いえ、強欲?かしら。お花畑みたいに他人を信じてるのか、逆に全くもって信じてないのか、どっちなの?」
「うっ、そ、それは……、す、すいません、僕、それが、分かんなくてぇええっ!?」
僕のダメな部分、その核心を突かれて落ち込んでいたところで、下から首にしがみつかれてしまった。
「ユイト……、もっと頭、下げて……」
「へ、ヘルブラちゃん゛……っ!?あの゛……っ!」
「抱きつきにくい……」
「まって……!い゛ったん、まってぇ゛……!」
ぶら下がる形になっても一切腕の力を緩めないヘルブラちゃん。そして相変わらず、ツノのアピールが凄い。
ズルッと転んで彼女に怪我をさせないよう、慎重に腰を下ろす途中で、この「甘えん坊モード」を見て、またブリュネさんがショックを受けていないか、心配になってしまったのだが、
「なあにぃ?ヘルブラが重いってゆーの?」
「えっ、う、え、いや、」
「言っとくけどさー、女のコにそーゆーのダメだからねぇ?」
「う、うん……」
何故か今回は反応が薄かった。
「あ、あと、さ……」
「ど、どうしたの?」
「……りがと……」
「……え?」
「その、私と、ヘルブラと、みんなのこと、まもってくれて、たすけてくれて、さ、」
手を後ろに回し、少しお腹を突き出すようなポーズで、ユラユラ揺れていた彼女だったが、ギュッと全身に力を入れてから、
「ありがと、ね……?」
潤んだ上目遣いでそう言った。
「……その………」
僕の口から言う事なのかは、分からないんだけど、
「よく、頑張ったね、ブリュネさん……」
でも、言葉にするべきだって、そう思った。
僕を含めて、みんなが生きている今は、彼女達が戦うことを選んだからだ。
勇気を出してくれたからだ。
彼女達が、自分より強い相手を、どれだけ恐れていたか、それを僕は知っている。
歯向かうのに、どれだけの精神力を振り絞ったのだろうか。
彼女にも、他のみんなにも、誰よりも自分のことを、褒めてあげて欲しかった。
「なあ……っ!?」
ブリュネさんは両目を見開いて、顔色をグルグルと変えながら、
「ふっ、ふんっ!そんなこと、言われたって……!」
プイと背を向けてしまった。
懸念通り、余計なお世話だっただろうか。
「あ、ご、ごめんね……?その、言いたく、なって……」
「~~~~!あやまらないでよねっ!とりけしたみたいになるじゃんっ!」
「あ、う、うん……」
怒らせてしまった。
やっぱり僕は、どこかしらがズレている。人の機微がちゃんと分かってなくて、こういう時まで相手の気分を害してしまう。
「おや~?おやおやおやぁ~?」
と、他のノーム達がニヤニヤと、ブリュネさんに集りだし、
「ブ~リュ~ネ~~?お前さあ、もしかしてさあ~?」
「ええ~?」
「まじまじまじぃ~?」
そんなことを言いつつ彼女の顔を、斜め下から覗き込んでいく。
「………なに?」
「いやぁ~?別にぃ~?なあ?」
「うんうん」
「なんでもないよねぇ?」
意味ありげに交わされる視線によって、何かしらの揶揄を鼻先で嗅がされたブリュネさんは、
「ウガーッ!なによなによーッ!!」
「うわー!ブリュネがキレたー!」
「にげろっ!」
沸騰して全員と鬼ごっこを始めてしまった。
「子どもは元気ねえ……?」
「そ、そうですね……」
「でもノームの年齢って、エルフとは逆の意味で分かりづらいのよね」
「えっ?」
あー、そう言えば、ノームはみんなちっちゃいし、寿命も短めだから、他種族が大人と子どもを見分けるのは難しい、って話が……
「ねえ、ユイト……?」
なんてことを思い出してたら、少しは落ち着いたらしいヘルブラちゃんが、よく分からないことを訊ねてきた。
「ユイトの、ふるさとの、文化で……、左手の、薬指って……、どういう、意味、あるの……?」
「え?えー……けっ、結婚指輪とか、嵌めたり、とか?な、なんで?」
どうして急に、ドンピシャで左手の薬指のことなんか?と思いつつも教えたら、また腕の締め付けが強くなる。
「あ゛ぎゃっ!あのぉ゛……!」
「そう、なんだ………ヒッ、フヒッ、フヒヒ……ッ」
な、なんかすっごいウケてる……!?
ヘルブラちゃんが声に出して笑うなんて……、って言うか笑いのツボどこらへん!?今の話の何がそんなにクリーンヒットしたの!?
「ねえ、ユイト……」
やっと首が解放された、と思ったら、今度は頭を両手で固定され、真正面から向き合う形になる。
「私も……」
人と目を合わせるのは、どうも苦手だ。ついつい視線を泳がせて、彼女の水色の毛先とか、柔らかげな頬とか、小さめな口とか、そういう周辺に逃げてしまって——
「私も、ユイトと……けっ」「あ!ちょうどいいところに!」
そこでウィリ=デさんが突然大声を上げて、遮られたヘルブラちゃんが、ちょっと怒ってしまった……気がした。半目だと、感情の変化が読みづらい。
「ちょっと手伝ってもらっていいかしら!結構な数の重傷者が居るの!」
誰か来たのだろうか?
状況を確認するべきか、それとも彼女の言葉を改めて聞いてあげるべきか、迷っていた僕だったが、
「無線での救援要請は……、ああ、『異常変異したノームに傍受される可能性アリ』、でしたか」
その声を聞いて関節を壊す勢いで首を振り向かせた。
「あ……っ、ユイ——」
「エレっ」
あっぶ!あぶなっ!おい!しっかりしろ!
「エメっ、エメリア様!」
「え……?」
そこに立っていたのは、フードを目深に被っている、褐色肌のエルフの女性で、
僕の思っていた通りの人で、
「おや、ユイト、居たのですか」
極めて平静な彼女の態度に、全身が浮き上がったかと思うほど、心が軽くなったのだけれど、
「お楽しみ中でしたか?拐かされたにしては、大した壮健ぶりですね」
次の瞬間、どうしてだろうか、正体不明の圧を感じ、叩き落とされたような気分になった。




