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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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65.自分がやったこと part1

 善意はきっと、何の言い訳にもならない。

 「その人の為だと思って」、とか言っても、傷つけてしまった事実が、変わることなんてないのだろう。


 ましてや僕には、どこかで下心したごころがある。


 「助けたい」からじゃない。

 誰かを助けて、それで喜んでいる人を見て、「自分にも笑顔が作れる」って、そう確認して安心したいから。


 みんながやっているような、相手の気持ちをんだ上で、最適な方法で手を差し伸べる、なんて、僕にはできなかった。


 それはきっと、本気で人の為を思ってないから。

 ただ自分の為に、人を利用する偽善者だから。


 「誰かの為に」、そう言いながら、矛盾した行動ばかり取って、よく分かんないことに必死になって、肝心の当人の気持ちはおざなりで。

 

 分かってる。

 僕は、本当は居ない方がいい。


 その方が、色んなことがもっとスムーズに運ぶし、みんなが厭な気持ちにもならないし、世の中の憎しみの総量もマシになる。人と重荷を分け合えない僕は、自分が生きる上での辛さを、誰かに押し付けることしかできない。


 周りにとっては、余計な負荷の発生源でしかない。


 分かってるんだ。そんなことは。

 分かってて、でも、僕は勝手なヤツだから、

 どこまでもセコい小人物だから、


 周りの目を盗んででも、この世に居たいって、思ってしまう。

 死んだ方が良いと思いつつ、色んな言い訳で尻込みして、「自然な死に方」を待っている。


 自らの生き死にについてすら受け身で、そんな自分が大嫌いで、

 でもやっぱり、生きていたくて、


 違う。「いいこと」をしたくて、

 それもちょっと違う。「いいことをした」って、そう思い込みたくて、

 心からそう思えた時に、得られるだろう幸せが、どうしても欲しくって——


——だ、れ……?


 “それ”を感じた時、「何」ではなく、「誰」という疑問が浮かんだ。

 体の前面から首の後ろまで、優しく覆ってくれる暖かさ。

 ふわりと鼻をよぎる果樹園のようなかおりと、頬を撫でる絹糸の触感。


 それはまるで、誰かに抱き締められているみたいで、

 その正体を探ろうと、意識が今の状況を、分析する方向へ寄って、


「ユイト……っ!お願い……っ!」

「ちょっと!ねえホントにおきるんだよねっ?これ!」


 平衡感覚が、肩を揺さぶられていることに気付いた。


「落ち着いて。むやみに動かさない方がいいわ」

「ユイト……!目を……!」


 サーチライトを向けられたみたいに、青い光で視界が潰れる。それが徐々に落ち着いてきたので、目蓋を慎重に持ち上げてみると、


「あっ!」

「ユイト……!」


 ノームのみんなが、全方向から僕を覗き込んでいた。

 

「あ……うん……?」

「ユイト、私、分かる……?」

「その、頭とか、フッとんじゃったわけだけど……、キオクとか、なくなってない、よね……?……ね、ねえ、なにか言ってよぉ……!」


 不安そうな顔が見えて、なんとかそれを晴らしたくて、とりあえず今僕にできることを考えて、まずは質問に答えることにした。


「ヘルブラちゃんと、ブリュネさんと、グラウさんと、オランジさんと、ゲルブさんと、それから」「ユイト!」「グェッ!」


 顔が見えた順に呼んでいる途中で、急に首に抱きつかれて、潰されたカエルみたいな声が出る。ツノっ、ツノグリグリしないで……っ!ちょっと痛い……っ!


「良かった……!良かった……!」

「ほっ……よかっ……あっ、ま、まーあ?アレよ。ヘルブラが悲しむことにならなくて、よかったってゆーか?」


 全体的に安堵が広がっていたが、ヘルブラちゃんのことは泣かせてしまった。小さい子をちゃんと安心させるには、どうしたらいいのか、ちっとも思いつかない。自分という人間の、他者とかかわる能力の低さが、今日も今日とて憎かった。


「って言うかコイツ、ゼーインの名前言おうとしてなかったか……?」

「もしかしてオボえてるのかなぁ?ボク、ジコショーカイとかしたことないケド……?」

「やっぱこの兄ちゃんヘンだって」

「なにげにずっと『さん』つけてくるし……」


 苦心しながら、ヘルブラちゃんごと体を起こして、状況を把握するにつれ、自分のやったことを思い出してくる。


 指の1本をヘルブラちゃんに持っててもらった状態で、自爆して……そう言えば服とか吹き飛んだ筈、と思って体を探ってみれば、質素な貫頭衣を着せられていた。冒険者の人達が落ち込んでいたのだろうか?


 目の前にあるのは、岩と土砂の山、と言うより壁だ。明らかに「つい最近崩れました」、って状態。

 僕の作戦が起こした被害。


「ほかの、他のみ、みなさんは……!」

「あそこよ、“悪魔狩り”のユイト君」


 近くに立っていたウィリ=デさんが指す方に、数人のリカントとドワーフが集まっていた。全員、体のどこかしらを失っている。


「無事が確認できたのは、あれで全部ね。まああの状態を『無事』と言っていいのかは、諸説あるでしょうけれど」

「そう、ですか……」

 

 彼女は僕の顔を見て、少しムッとしたような表情で、両手を腰に当てる。


「ちょっと?なんであなたがそんな顔をするのかしら?」

「え、す、その、すいませんっ、僕、今、その、ふっ、不謹慎、でしたかっ?」

「不謹慎……?そうじゃなくて!」


 彼女は片手で、負傷者達を力強く示した。


「彼らはあなたが助けたのよ?そんな暗ーい感じじゃなくて、もっと誇らしげにしてなさい?あそこまでの大物を仕留められる冒険者には、私もそんなにお目にかかったことがないわ。どれだけ偉大なことをしたか、その自覚はある?」


「それは……でも……」


 そう言われて、けれど僕は明るい気持ちにはなれず、視線は自然と崩落ほうらくあとに向く。


「あの人達、だけしか……」

「え?」

「僕は、あの人達以外を、殺してしまって、だから……」


 あのデーモンの攻撃から、守れなかった人達。

 僕の作戦をアシストして、命を落とした人達。

 あの爆発と崩壊に、巻き込まれた人達。


 みんな、助けられなかった。

 ノーム達だって、小柄な子達も、巨磐おおいわの一族も、ほとんどがここに居ない。

 彼らもきっと、ほとんどが死んでしまった。


 そして何より、僕はほぼ直接的に、デーモンを、言葉を話すあいつのことを——


「あのねえ……」


 溜息と共に言葉を続けるウィリ=デさん。


「殺したのは、あのデーモンでしょ?」


「でも……なんて言うか……僕が、強かったり、賢かったり、口が上手かったり……あと、魅力があったり、とかすれば、誰も死ななかった、可能性だって……」


「そんなこと言ったら、全部に同じことが言えるじゃない!それとも何?あいつにやられるだけだった弱い私達も、共犯だって言いたいわけ?」


「そっ、それはっ!それは違いますっ!それは、ぜ、ぜんぜんっ、全然違う話です…っ!」


 そんな偉そうなこと、口が裂けても言えるわけがない。


「何が違うと言うの?同じことでしょう?」

「それは、」


 だってそれは——




「僕の話じゃ、ありませんから」




「……なんですって?」


 他の人がどうするかとか、そんなこと、お願いすることはできても、命令することはできない。みんなが思い通りに動いてくれなくても、僕に糾弾する資格なんてない。


「僕にとって、その、理想的に、ならなかった……って話の責任って、僕にしか、ないんです……。だって、ぼ、僕の、理想、なんですから」


 「どうしてその理想を目指してくれなかったんだ」、とか言われても、「いや、それが良いって言ってるのお前だけだし」、と返すしかないだろう。

 

 だから、後悔して、反省して、改善を目指すべきなのは、自分の言動だったり、能力だったり、立ち回りだったり、そういう自分に許された領域だけ。


 他の全ての人が、非協力的どころか、妨害しに来たとしても、文句を言える筋合いじゃない。


 感情的なことは……ともかくとして、理性はそれを抑えなきゃいけない。


「だから……すいません。今の、よ、余計、でした……。皆さんの、祝勝ムードに、水を、差しちゃって………」


 ウィリ=デさんが、僕を見て「暗い」と感じたってことは、彼女を僕の「理想」に付き合わせたってことだ。よくないことだと、頭を振る。


「ごめんなさい……。あの、裁いて欲しい、とか、勝手なことは、言わないので、えっと、僕の……辛気臭さ?は、無視して、頂けると……」


「あー……、いえ、空気悪くするなとか、責めたいわけではなくてね?あなたは凄い人なんだから、もっと自分を褒めてあげても……」


 みんなが喜んでいる場を、壊してはいけない。

 自分本位の()()()として、一度ヘルブラちゃんに離れてもらってから、両手を合わせて黙祷もくとうして、頬を挟むように叩くことで気分を切り替える。


 まだここは戦場で、僕は一人じゃない。

 「反省会」が開ける段階じゃないのだ。

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