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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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62.恐るべき不可解

「でっ、デーモン!デぇーモぉーーーンッ!」


 突然呼ばれたそいつは、ちょっとしたサービスとして鋏を投げてから、

地に足を着き、構える。


 他からの攻撃に対してく、意識のリソースを制限してでも、それが何をしてくるか、十二分に警戒する。


 この場で最も盤面を返し得る者、それが誰か、そいつには絶対の確信があったのだ。


〈どうした?ユイト・クロキ。投降する気にでもなった?俺からすると、大歓迎ではあるけど〉


 冗談半分期待半分で言ったデーモンに対し、ノーム達に囲まれた少年は、右手の人差し指を立て、


「いっ、一度だけ!」


 そう言った。


〈おい大事なところを省くなよ。何だって?〉


「これは、僕のその、ううう……っ!エゴとして、一回だけ、んぐっ、訊いときたい……!お前は、僕達との、ぐぎ、この戦い——」


——平和的に、終わらせるつもり、ないかな?


〈……はーあ?〉


 敵と認めた相手が、予想外の角度へズッコけたので、驚きを通り越して呆れに突入したデーモンは、思わず緊張感のカケラもない声を出してしまった。


〈おい、俺の聞き間違いか?今お前、平和がどうとか、達成する気もねえ目標を、ぶち上げたように——〉




「お前は、これから、負ける……!」

 



 脂汗あぶらあせで黒髪を濡らしながら、少年は懲りずに大言壮語たいげんそうごを続ける。


「罪を、償って……づッ!すゥー……っ!エネクシアと、関係を、構築し直す、う゛っ、意思は……?」


 デーモンの中でそいつへの関心が、金融危機の如く急速に下降していく。


「よく、考えて……?お前が、熊とかと違って、言葉が通じるからこそ、ヴウ……!手に入った……ふぅー……、()()()()()の、チャンスなんだから……!」

 

 そこまで黙って聞いたデーモンは、


〈くくっ、くっくっく……〉


 遂には笑い出した後、


〈あーあーあー……!〉


 多腕たわんを上げて「うんざり」のポーズを作った。


〈失望、きょうざめ、ガッカリでしかない……!ホントにガッカリだよユイト?その生産性ドン底ゼロ以下のゲボみてえな提案は、一体なあんだよお……?〉


 そいつはどうやら、本気で怒っていた。

 吐き気を催すほどに激しい、憎悪を燃やしているように見えた。


〈ちょーっと他より話せるヤツが居ると思ったら、これだからなあ。分かるか?俺のこの、飼育用の檻の中に、一人で残されたみてえな孤独。右を見ても左を見ても、口のくせえケダモノが吠えやがって。辟易へきえきさせられるな、低知能との会話って言うのは……!〉

 

 一つ愚痴をこぼしたが最後、決壊したダムめいて、次から次へと止まらなくなる。世の中が如何いかに下らないか、それを力説し始める。


〈論理より情緒?利益より信頼?持ちつ持たれつ?そっちの都合振り回すだけで、随分と偉そうな言いぐさばっかり。進化を知らねえ野良畜生のらちくしょうめ。せめてあの方にしつけられて、行儀良くなろうって心掛けがあるなら、息をするくらいは許してやるのに——〉


——それすら拒むなら、死ぬしかねえだろ


 一気に低く落とした声を、


〈あー!やめたやめたバカらしい!〉


 次の段では跳ね上げるデーモン。


 言葉より原始に近いコミュニケーション、その声音の急変こそが、相手への攻撃であるかのように。

 “語り”で殴って、言う事を聞かせるように。


〈お前のこと、割れモノとして扱うつもりで、配慮してやってたのに。『分かり合って許し合う』とか、そんな退屈なことかすなら、多少状態が悪くなるのも、許容してもらおうじゃあねえの。美品も瑕疵かしも知ったこっちゃあない!〉


 腕の1本1本に、4丁ずつの鋏が握られた。

 ひづめの間から噴く黒いマナが、より絞られて密度を増した。


 悪魔から、最後の遠慮が無くなった。

 もう少年の細かいきずなんて、構ってはくれなくなっていた。


「へっ、へ、ヘルブラちゃんっ!」


 その迫力に気圧けおされながら、助けを求めるようにユイトが伸ばした左手を、彼女は両手でしっかり掴み、


「守りたいもの……!届けたいもの……!」


 ユニークを、完全な形へと組み立てていく。


「みんなヘルブラをまもって!」

「おっしゃあ!かかってこぉいっ!」

「ぼ、ボクらがあいてだぞぉっ!!」


 彼女の力で分け与えられたポプラーで、壁を作るノーム達。

 そこに黒い光線が何本も突き立てられ、溶接時に散るような火花を、春の桜の如く満開にさせた。


 けたたましくつんざくノイズに、回転ノコギリで削られるように、鼓膜がジリジリ痛めつけられる。


 デーモンがマナの壁に密着するほど迫り、裂け目を作ろうとしているのだ。


「支えてくれたもの……!守ってくれたもの……!」


〈マナーを知らない洟垂はなたれのガキども……〉


「ひいいいいい!!こっちみないでよぉぉぉ!」

「バカっ!ビビんなっ!」

「ッベーッ!ベーーーッだっ!」


 これまでで最も目まぐるしい眩しさが、ノーム達を襲っていたところに、各々(おのおの)の渾身の攻撃を叩き込みに来る、ウィリ=デを始めとした冒険者達。


〈しつこい……!〉


「冒険者がそう簡単に死ぬかあッ!」

「まあほとんどフツーに死んだんだけどなあッ!」

「それを言うなや!」

 

 オレンジの光芒が乱舞し、羽が鋭く宙を駆ける。

 リカント達が突撃し、「血を見たい」と刃面はめんをギラつかせる。

 ドワーフ達がデーモンの巨体に張り付き、何本ものペグを突き立てようとする。


 どれもこれも、多数の手足や鋏、ブレードで阻まれ、体に傷をつけられない。逆にバタバタと斬り散らされる。


「みんなの喜び……!みんなの命……!」


 けれどその間に、詠唱が終わりを迎えていた。


「私の勇気…!“嬉殖万面ロッコ・ポッコ・ノコシン”……っ!」


 ぽんっ、ぽぽん、ぽん、ぽん、ぽん、ぽんぽんぽんぽんぽん………


 彼女の手から水色の光があふれ、リボンのように広がって、


 ぽぽんっ!


 プレゼントのようにユイトを包む。ポプラーが、彼の体を補強していく。


〈俺と殴り合うって?頭の悪い解決法だなあ。ネタ切れだってバレてんぞー〉

「グゥいいいいいいっ!!へっ、ヘルブラちゃん、やって!」

「みんな、離れて……っ!」


 刹那、ノーム達が守りを解除して三々五々に散り、少年の左腕がムチの如くしなり、貫手ぬきてをデーモンに突き刺した。


〈ぬ?〉


 突然の高速化を意外に思いながらも、身体強化の比重を変えたかと数本の脚でそれを防ぎ、


「ごめん……っ!」

〈何?〉


 触れたところから焼き溶かされ、止め切れなかったそれに皮膚を焦がされたデーモン。

 その威力もさることながら、より驚かされたことが一つ。


〈なんだよ、今の軌道……?〉


 ユイトの体運びが、不自然だった。

 筋肉の予兆がチグハグで、関節や骨が無視されて、本来なら非効率などと言うレベルではなく、有り得ない動き方をされたのだ。


 書き割の前で切り絵の人間を動かすだけの低予算絵芝居(えしばい)舞台のような、

 足を動かすグラフィックが用意されていない素朴なゲームのキャラクターの走行のような、

 直感に反する奇妙な挙動で——


〈んヌんっ〉


 ユイトの全身を観察していたそいつは、喉から変な鳴き声を出してしまった。


 黒ガラスの瞳が見たのは、片手は少年の手を放さずに、もう片方の手で少年の脚を掴み、持ち上げているノームの少女、ヘルブラの姿。


「ぐぎいいいいいいッ!!」

「……ごめん、ユイト……!」


 彼女は足を支点に彼を振り上げ、ポプラーが生むエネルギーによってその体勢を制御、大斧の如きポーズを取らせる。


 光り輝くユイトを掲げ、重さとシールドの反発力による加速を乗せて、振り下ろした!


 身を守ろうと咄嗟にクロスされたデーモンの脚が、数本纏めて叩き焼かれ、潰れ断たれる!


「うぎゃあああああああッ!」


 ただし今のはユイトの悲鳴だ。


〈なん……あ、ああ……?なにやって……なにやってんのそれは一体……?〉


 見ているものの意味が分からなさ過ぎて、ヘルム越しにも動揺を隠せないデーモン。


 ただ、背徳の限りを尽くしてきた、悪逆非道そのものであるそいつらにとって、アイディア自体は珍しくもない筈だ。


 泣き叫ぶ少年を童女が沈痛な面持ちで振り回す絵面の奇抜さと、一種アホくさいその手法が異常な威力を発揮する不思議さ、といった諸々を排除して考えれば、そいつにはなんでもないことなのだ。


 人を武器にするなんて、悪魔にとっては慣れっこで——


「ぐニいいいいい!!」

〈おわっ!?〉


 地を削りながら斬り上げられるユイト……これは「ユイトが斬撃を食らっている」のではなく、「ユイトが斬撃を放つのに使われている」という意味だ。


 ポプラーに体を破壊され、自分の意思が追い着けないスピードでグニャグニャと変形させられ、けれど身悶みもだえすら許されない悲惨な姿を見て、

 

「ユイト……!」


 ヘルブラは泣きそうな顔をしてから、


「許さない……!」


 デーモンを憎悪によって睨めつけ〈待て待て待てちょっとしっかり考えろそれはおかしいだろ!〉「うるさい……!居なくなれ……!」


ユイトをまた異なる姿勢に変形させながらの、左袈裟斬り。


「ユイトが痛がってる……!はやく死ね……!」


 攻撃の度に増していく自身への憎悪、

 変化し続ける“武器”の形状と彼女の太刀筋、

 彼の高度なマナ防御を破る謎の威力、


 それらを前にしてデーモン脳は、理不尽さにクラクラと震えるのだった。

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