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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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61.天敵

「ねえどうしてできないの!?ねえどうして!」


 バチリと回路がショートしたような音が鳴り、そのたびに頬が裂けるように痛む。

 何度も何度も同じところを叩かれて、生暖かく塩辛い鉄の臭いが、鼻の奥からけ上る。

 

「なにが!なにがわかんないのよ!空気読んでよ!こんな簡単なこと!」


 「ごめんなさい、お母さん」、そう声を出そうとして、またぶたれ、舌を噛みそうになった。僕は謝罪さえまともに出来ない。


「先輩は、いつもそうですよね。何も出来ないし、何の成長もしないし」


 背中から肺にまで、ヒヤリとした先端が入ってくる。

 何か、冷たい刃物で刺されたのだ。


 僕が罰されるところを見ている、沢山の人の気配に気づいて、痛みに恥ずかしさが先回る。


「そんなんだから、お前の周りで、いつも誰かが泣いてるんだ。お前が悪だから、他人の歩み寄りにタダ乗りするクズだから」


 顔を叩かれ、後ろに下がろうとして、でもそうすると刃が深く刺さり込んでしまい、それから逃げるように前に出たところを、また強く張り飛ばされて——


 突然左の肩が裂け、横開きに腕が飛ばされた。


「うアアアアアアアッ!!」

「ユイト……!ごめん……!ごめんね……!」


 そして青白く光る天井が戻ってくる。

 自分が居るのが地球ではなくセラだということと、自分の復元能力を思い出し、左腕を生やしながら起き上がる。

 

 顔や背中の痛みは、どうやら夢の中だけのものだった。


「起きた……!?」

「うん、な、なんとか……!」

 

 さっきの悪夢は、走馬灯かとも思ったけど、僕はクラスメイトに刺されたことはなくて……


 左を見ると、元々僕のものだった腕が転がっており、そこからキノコみたいに、四つ足の獣が生え伸びていた。ノーム達がポプラーと工具で、それを打ち殺している。


 あのマナに、デーモンの魔導能力に、見せられた?


「へ、ヘルブラちゃん……!あいつの、能力、って……!」


「よくわかんない、けど……、侵食して、乗っ取って、魂の情報を盗み見てる……?」

「あいつのマナ、アタシたちしか知らないハズの、イヤなもの見せてきてた!」


 あの黒いマナに触れられると、こっちのマナを向こうに吸われて、しかもたぶんそれを通して、記憶とかを閲覧される?


 !!

 マズい!それじゃあエレノア様のことも……!


 僕は慌ててデーモンの様子を探る。


 いつの間にかそいつは劇的に変身して、デッカい虫……ううん、細い花弁を持つ花の方が近いかな?そんな感じの姿になって、さっきまで激しく飛び回っていたのに、急にこちらを見ながら停止。


〈お前それ、マジでどうなってんだ……?〉


 僕の体質の異常さに、気付いてきたのか?


〈別の世界……全く異なる法則……そしてその能力……二重構造だが、魂は一つ……?蝶の見る夢?いやしかし……〉

「あっ、そっちの話?」


 しめた!どうやら僕の中にある異世界の情報の方に、気を取られてくれてる!

 ヘルブラちゃん達がポプラーと腕の切断によって、僕の魂への干渉を早期にシャットアウトしてくれたから、そこまで読み込み切れなかったのかもしれない。


 まだセーフ。

 それについては、まだなんとかなる。


 だけど、でも、くそっ!失態だ!

 あの時思わず飛び出した弊害が、あと少しで炸裂するところだった!


 しかも、そんな特大リスクに飛び込んでまで、「助けたい」って言い張ったクセに、弱っちいせいでそれすら満足に果たせてない。

 お前がノンビリ夢見てる間に何人死んだんだよ……!


〈俺が一番お前に、好奇心を煽られてるんだけど?興味津々なんだよ!もっとじっくり見せろ!“ユイト・クロキ”!〉


 また来る!それがなんとなく分かった。

 でも僕にあの攻撃を避ける方法が無い!


 その時、目の前に巨大なシャベルが突き立てられ、その表面をはしるポプラーのシールドが、何度かの衝撃と共にまたたいた。


「もう、させない……!」

「ひっ、ひあっ、あっ、ありがとう…っ!」


 よく見えなかったが、ヘルブラちゃんが遠隔攻撃から守ってくれたのだ。

 だが鋏を幾つか投げられただけで、シャベルを覆うポプラーが目に見えて減っていた。


 今のをただ繰り返していたら、そう遠くないうちに破られる、それを理解してしまう。


 幸いにもと言うべきか、冒険者が攻撃を仕掛けたのをきっかけに、高速戦闘が再開されて、こっちにかれる火力が緩んだ。


 ただ結局のところ、今度は彼らに犠牲が出るだけだ。そしてそれによって戦える人が少なくなったら、今度は誰も止めてくれない。それより前に、何か手を打たないといけない。


 冒険者を囮に、ヘルブラちゃんを盾にして逃げるのは、道義的にも実現性って意味でも論外だし、やりたくない。


 なら勝つしかない。

 だけど、あれをどうやって出し抜く?どうやって倒す?


 この前、フェロニアスのキャンプで、神格の末節と戦った時は、エレノア様やザルドさん、ライセルさんという頼れる味方が揃ってて、相手の知能がそれほど高くなくて、僕の不死身ゴリ押しが出来て、と、色んな好条件が重なったから勝てた。


 今回は違う。

 ここには、エレノア様レベルのゲームチェンジャーが居ない。

 そして敵は、暗躍が出来るくらいには狡猾こうかつ


 とどめに、僕の不死体質が、実質的に無効化されている。


 魂に直接アクセスしてくるあの能力が相手だと、肉体が不死身の僕でも、「当てられたってヘッチャラ」とはならない。指先が侵蝕されただけでも、そのままさっきみたいに、無力化される可能性があるんだから。


 ヘルブラちゃん達になんとかしてもらう、っていうのも、何度も繰り返せることじゃない。そのうち対策されるだろう。って言うか、そもそも復帰させるメリットが見つからないくらいに、僕とあのデーモンの相性が悪い。




 僕の唯一の強みが、優位性が、

 奴を前にしたら全く無意味!

 地球に居た頃と同じかそれ以上に、今の僕は置物と化している!




「なんだありゃ!?」

「つっ、ツメが!ツメがわれて、そのアイダから出てるよぉ!」


 戦況に更なる変化。

 デーモンが足の先から、黒いマナエネルギーで出来たブレードを生やして、振り回し始めた。


 千手観音せんじゅかんのんみたいな目まぐるしい斬撃。

 それが通った後を見ると、魔導具類がスパスパ切り裂かれ、時には肉に溶断ようだんあとが焼き入れられている。


 「防具や武器で受けて止める」ことすら、あれは許さないんだ……!

 対抗できるのは、それこそポプラーシールドくらいかもしれない。


 だったら冒険者達にポプラーを配ればいいかと言えば、拒絶反応で肉体が破壊されるので、むしろ負け筋になってしまう。


 傷がすぐ治る僕であれば、そのデメリットをある程度無視できる……んだけど、そもそも僕がクソ弱いという問題に戻ってくる。“罪餐ペッカータ”のせいで相手の攻撃がちゃんと見えない問題を、僕だけは克服できてない、というのも致命的。


 せめて魔導筒とか使えればまだ……


 ポプラーのマナで魔導筒撃てないのかな?

 いや、それって結局ヘルブラちゃんのタイミングで撃つってことで、だったら普通に彼女が戦ってる方が互いにとって安全だ。わざわざ僕を使う意味がない。


 彼女が立ててくれているマナの壁は、さっきから何度も白くひらめいている。あのデーモンは時折ときおり、しっかりこちらへの攻撃を挟んで、ちょっとした休息すらさせてくれないのだ。


 良い考えは浮かばないまま、「手遅れ」という瞬間だけが、刻一刻と迫ってくる。


 どうする……?

 ヘルブラちゃんが僕を守るより、僕を見捨てて彼女単体で戦う方が、良いんじゃないか?


 エレノア様の情報が漏洩しても、彼女が冒険者と力を合わせてデーモンを倒せば、それで……いや、だけど、そんなことできるのか?ノームのみんなが合流したところで、勝てる相手なのか?


 もしその状態で負けたら、目も当てられない。

 僕と言う、どう雑に扱ってもいい、エレノア様マル秘情報の宝庫が、デーモンの手に渡るのだ。


 もう迷惑とかいう次元を超えている。はっきりばっさり利敵行為。


 本当にそれでいいのか?

 やるにしても、他に手が無いか、全部考えた後……でもそんな時間は無い!もう!堂々(どうどう)めぐりだ!


「ねえはやくなんとかしないと!」

「オレは、オレは行くぜ……!ヘルブラ、オレのピッケルにポプラー分けてくれ!」

「まってよグラウ!行ってどーするんだよぉ!」

「ここでウジウジしてても死ぬだけだ!戦って死ぬぜオレは!」

「あっ、アタシも、アタシも行く!」

「もっとホラ、にげる方法とか考えよーぜ!かてないって!」

「でもお、でもあんなハヤいヤツからさあ……!」

「やるの!タタカうしかないの!」


 “家族”達の中で意見が割れ、議論が座礁ざしょうしかけたその時、


「私は……!」


 ヘルブラちゃんが振り向きもせずに宣言した。

 

「私はここを、動かない……!」

「へ、ヘルブラ?」

「ユイトを、守る……!」

 

 それは——


「「それはダメ(だよ)ッ!」」


 僕とブリュネさんの声が期せずして重なった。


「僕を、気遣ってくれるのは、嬉しいけど……!君と、君の家族のことを、一番に……!」

「あ、アンタ……いや、でも……」

 

「でも私は、私はユイトが居なかったら、死んでた……!」


 彼女の背中は、岩から彫り出したみたいに、不動の意思を宿していた。


「グラウも、ブリュネも、そう……!みんな、そう……!彼のおかげで、私はこのユニークに目覚めて、みんなを助けられた……!彼から勇気を、もらったから……!」


 「彼が私達を、ここまで連れてきてくれた……!」、彼女はそう言うけど、それは違う。

 僕には、人に分けられるほどの勇気はない。ヘルブラちゃんの勇気は、ヘルブラちゃんの物だ。

 

 ユニークも、闘志も、諦めない心も、全部最初から、彼女が持っていたものなんだ。

 彼女に、他者に分けてあげられるものなんて、僕なんかが持っているわけがない。


 僕にはこの死なない体と、小賢こざかしい悪知恵以外、何も無いんだ。何か詰まっているように見せかける為に、それらしいペテンばっかり、あれこれ身に着けた伽藍洞がらんどうだ!


 それで、僕はエレノア様まで——


「ヘルブラちゃん、もう、僕をま、まもっ、守らなくて、いいよ……!」


 気が付くと、そう言っていた。

 自分の都合に子ども達を付き合わせる、それに耐えられなくなったのだ。


 ほうら、考えてるフリをして、体はいつも、感情だけで動く。

 合理とか論理にのっとった生き方を、通すことすら僕にはできない。


「恩なんか、ないんだ……!君達は、きっ、きき君達の為に、戦って……!」


 ヘルブラちゃんの隣に、ブリュネさんが立った。


「ユウキ、ねぇ……?」


 彼女はこちらとチラリと振り返り、


「さいごくらい、カッコつけてみるのも、いいかもね」


 ヘルブラちゃんと腕を組んで、そう言った。


「え……?」

「ヘルブラ、オレの分のポプラーも、守りに回せ」

「え、ちょっと……!」

「……がんばる……!」

「クソー……!もー、しーらね!」

「待ってよ!おっ、おかしいって!」


 ノーム達みんなが、僕を庇うように、前に並んでしまう。

 なんで、なんでそうなるんだ?

 みんな、家族を守る為に、今まで戦ってきたんじゃないか。


「僕を、僕を守る必要は、ないよ!僕の役目はさっき、みんなを手助けした、あそこで終わりだ!君達に、りっ、あっ、えっと、とく!得なんかない!そ、そうでしょ!?」


 カメラのフラッシュみたいな閃光。

 間隔がどんどん狭まっている。

 デーモンが自由になってきているんだ。


 「おしまい」の足音が、聞こえてきた。


「僕なんか、助ける、理由が……っ!」

「ハァ……?リユーがないってぇ?」

「『おかしい』って言ったかコイツ?」


 懇願するような僕に、みんなが褐色の目を向けて、一斉にニヤリと笑った。


「「「おまえがゆーな!」」」


 なんで、

 本当にいっつも、なんでこうなる。


 なんで僕は、災いばっかり呼び寄せる。

 関わった人を、傷つける。

 そのクセ自殺する殊勝さもない。


 なんで僕は……!


「みんな、お願いだから……!」


 なんで……!


「ポプラーを、自分を、守る為に……!」


 なんでだ!


「君達の、武器に……!」


 なん——




——武器にポプラーを纏わせる?




 ガバリと身を起こし、目元を発火する勢いでこすって涙をぬぐい、目的のものを探す。

 何がある?どれだけある?どこにある?

 使えるのか?どう使う?


 使うなら、ちゃんと活かすなら、やっぱり「復元」を——


——あれは?


「ヘルブラちゃんっ!」

「ユイト、私は、何度言われ「そうじゃなくって!き、訊きたたたいん、だけど!」……え……?」


 気が抜けたのか、キョトンと幼さが出てしまった顔を、こっちに見せた彼女に、


 ()()を指差して僕は訊ねた。


「あれって、なに!?」

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