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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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60.顕在化

 ウィリ=デが現実の景色を取り戻してすぐ、硬いもの同士がぶつかり合う音が耳に届いた。


 剣と剣が数合を交わしているかのようなそれを、戦闘によるものかと彼女が考えた頃には、ほぼ無意識のうちにそちらを振り向いていた。


 彼女の五体に備わった、戦士としての経験の蓄積が、状況を把握しようとして、体を勝手に動かしたのだ。


 そこには毛の少ない猿や、肌の色が薄いノーム、耳が短くショボくれたエルフ、とでも表現すべき何者かが立っていて、


「こぉっ、こっちだ!」


 皮膚の質感と、声と、直後の行動で、それが誰かを直感する。

 “ユイト”。

 あのイカれた少年だ。


 彼は全員の視線を集めた上で、自らの喉をさばいた。

 まるでわざと大量出血しているかのような、乱暴な開喉かいこう


 自害にしか見えない行動。


 赤色を、

 蒼褪あおざめた照明の下で紫色になったそれを、ぶち撒けるという行為の意図を、誰もがはかろうとしていた。


 何かのユニークが発動するのかもしれないと、そう思った者も居ただろう。


 彼らは自然と、広間に拡散していくそいつの血潮を目で追って、その先に何があるのか、何が起こるのか知ろうとして、


 黒い物体に阻まれた。


「……?」


 それはヤギ……いや、羊、否々(いやいや)、その混成体。


 四つ足のそいつは、草でもむように首から前を下ろし、ザラついた舌で冒険者達の手足の肉をこそぎ、傷口に異物を塗り込んでいた。


 それは、マナエネルギーが作り出したビジョンであり、つまりデーモンが使役する眷属で——


「見えるっ!」


 反応は、ほとんど同時だった。

 体内のマナが、侵入してくる外来マナを即座に認識、免疫機能によって駆逐する。

 

「ディマッ!」


 羽軸が数本発射されて、四つ足の眷属を突き殺した。


 橙色の剣閃が通り、数匹纏めてスパスパと首を飛ばした。

 

 無事な手で持たれたネイルガンが、一斉射によって効率的に敵を排除。


「なんっ、なんで!?」

 

 ブリュネが二刀持ちしたスコップで1体を切り刻み、グラウがピッケルでもう1体を叩き散らし、ヘルブラがシャベルの横薙ぎで数体を処理。


「なんで見えるの!?で、なんでたおせるの!?」

「見えたから、分かったから、だから倒せる!」


 恐怖を解体し、それを全員で共有すべく、ウィリ=デがざっくりとした推察を早口で述べる。


「『恐怖』っていうのは『分からない』こと!見えないから抵抗できないし、それで怖がるから余計にデーモンのマナが強く作用する!その実質的な弱体化と強化の合わせ技で、隔絶した力量差を生み出していた!」


 鳴き声や歌唱に適性を持つと言われる、ハピノイドの声帯が、よく通る声音こわねを味方に届かせる!


「けれど今、何故か分からないけど、見えた!敵が繰り出した攻撃もそれが私達の中にどう入り込んでいるか、全て分かった!表層意識が、目を逸らしようもないほど明らかに捉えた!」


 それは戦うべき相手となり、滅ぼすべき危険となり、恐怖の対象ではなくなった。

 彼女達の全身が、相手を正しく感知し、殴れるようになった。

 そして相手のリソースとなる、“恐怖”という感情を分泌しなくなった!


 こちらの弱体化も向こうの強化も消え、条件が並んだのだ!


「セコい手品は終わりってわけかあっ!」


 仮面のドワーフ軍団からそう声が上がり、


〈分かってないな……、分からないのか?お前らクルミ頭には……!〉


 対するデーモンも、何故かテンションを上げていた。


〈「手品」……そう、奇術の手法に近い……!「好奇心」か……!〉


 その顔に並んだ黒いガラス玉は、部屋の反対側、傷を治して起き上がる少年を見ていた。


〈「分からない」という恐怖に対し、『知らないことを知りたい』という知的な欲で対抗したな……!「怖いもの見たさ」!怖さから目を逸らす弱体どもが、あの時、お前が何をしているのか、何をする気なのか、それが気になって、注視してた!〉


 精神的に余裕の無い者達の目を惹き、考える間を与えずに「あっ」と驚かせ、「その不可解な行動にどんな狙いがあるのか?」、という聴衆の興味をき立てた。


 「分からないものを見ようとする」、その情動を生み出し、「分からないものから目を背ける」、という“罪餐ペッカータ”の効果をほぼ打ち消した。


 視線誘導に掛かった冒険者とノーム達は、さっきまで見ないようにしていたデーモンの眷属達を、「うっかり」意識に入れてしまった。目を逸らすことを、忘れていたのだ。


〈お前、オツムの出来はそれなりだな!悪くない……!そこらのし脳ミソと違って、ちゃんとボリューム感がある!いいモン食ってるって感じ……!〉


 デーモン黒く厚い毛皮の下から、無数の腕を持ち上げた。そいつの首回りから突き出た、草食獣の頭の幾つか、それらの口が開き、手が突っ込まれる。


〈その発想と、回転と、そして再生能力……!気になるな、お前……!ちゃんと()()()()()()()()……!〉


 取り出されたのは、毛むくじゃらのはさみだ。刃の部分が三日月めいて太く湾曲したそれを、一つの手に2丁ずつ握っている。


〈一つくが、それでダメだったら、どうするつもりだった?最悪、ノームどもは無駄死にになったけど?〉


 単なる興味本位らしいその問いに、声が出せるようになった少年は、不安そうに首を押さえつつ、咳き込みながらもなんとか答えた。


「僕があなたの、共犯者になる、だけでしょ……!大量、さ、殺人の、共犯者に……!」


 えらく並びの良い、白い歯列が、悪魔の口元をズラリと飾った。

 どうやら笑ったようだった。


〈ますます気に入ったわ〉


 キンッ、


 その手元がブレ、突風が冒険者達の間を抜け、気付けば少年の腕に、幾つもの刃が食い込んでいた。


「はや…っ!?」

「ちぃぃぃっ!」


 眷属をあらかた片付け終わった冒険者達は、本体への攻撃を開始。だが手元に残した鋏だけで、デーモンはそれらを流し、さばく。

 

「ウぎゃああああああッ!!」

「ユイト…っ!」


 鋏の刃の内側から、じくれたヤギのツノらしきものが何本も生え、傷口の形を汚らしく加工。そしてマナを注入し、そのデーモン独自のユニークによって、魂の情報を読み込んでいく。


〈いい感じに作り替えて、便利な自律思考機器に出来ねえかなあ……!お前の魂なら、なれると思うんだよなあ……!〉


 本体に急接近したオレンジのブレードを鋏でガッチリ掴んで止め、生やしたツノを使って掬い取ることで奪うデーモン。その使い手であるドーベルマンを、ひづめを持つ脚で蹴りつける。


〈まあ、8割方ぶっ壊れてオシマイだとは、思うんだけど……!〉


 それを横に避けつつ新たな得物を抜いて、食い下がろうとした彼へ、もう一本別の脚が繰り出され、大きくノックバック。


〈死より重く、祈りより深く、命より濃く、余白よはく無く〉


 黒いマナエネルギーで飛ばされた鋏が、高速縦横飛行する羽虫めいた動きで、羽軸と釘の弾頭だんとうらんを、一発一発正確にブロック。


「詠唱してる!」

「撃て!撃て!絶対に止めろ!」


 デーモンの下半身が無数の脚へと分裂、蜘蛛めいた多足形態へと変化。


ひたりて沈み!染めてはおかし!〉


 背中からも複数の脚が生え、一対いっついの翼、或いは二つの大きな掌のように、放射状に広がっていく。悪魔崇拝の神殿で飾られる、おぞましき光背こうはいめいた形状。


 儀式を止めるべく無理に接近したドワーフ達が、ひづめをシャワーのように浴びせられ、硬い外骨格を叩き割られていく。


〈久しく忘れじ!“潜罪威式ダラ・ルト・ガラ・リテ”!〉


 詠唱完了。

 魔導能力が全開になるのと時を同じくして、デーモンが戦闘特化形態に移行。


〈意外に思うかもしれないけど、〉


 下半身の多脚が曲げられ、バネを解放してホバー走行に瞬発移動!

 鋏を豪速投擲しながらロケットスタートを決めたそいつは、反応し切れなかったドワーフとリカント計10人ほどをき飛ばす!


 騎士や傭兵が入り乱れる戦場に大型トラックで突っ込んだような暴挙!

 この場のバランスをたった1体で大いに偏らせているあからさまな外れ値!


〈暴力で無理矢理怖がらせる方が、得意なんだよな。こう見えて〉


 頭にヤギだか羊だかの頭骨を被り、頭部装甲も確保したデーモンは、準備運動でもしているみたいに、時に上下を入れ替えながら何度も軽く跳ね転がり、その度に何人かを踏み潰す。


 そして体が温まったとばかりに、その場でパーカッションめいた足踏み。


〈よっし、まずは邪魔なモンから掃除してくかー!〉


 土石の噴流を広げながら跳躍し、天井を蹴って急落。

 隕石となって冒険者達を爆撃した。

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