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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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58.場違いな脅威 part1

〈お前ら、今、不安になっただろ?〉


 混ざりモノは、突き刺すように決めつけた。

 「お前は何者だ」、という疑問を、誰かが意を決して発する前に、有無を言わさず先制された。


 それだけで、金縛かなしばりにでもったみたいに、全員が動けなくなってしまった。

 血の気が多い冒険者達が、行儀の良い貴族子女の如く、指先にまで神経を通して、張り詰めたまま静止した。


〈俺のこと、次に何するか分からねえって、そう思っただろ?どんな力を持つか分からねえ、どうやってあんな殺し方をしたのか分からねえって、そうひるんだだろ?だから即行で、ぶっ飛ばそうとしてないわけ〉


 そいつの話など、聞く必要がないのだ。

 雰囲気に呑まれそうなのだから、むしろこの場をぶち壊すべきなのだ。


 引鉄トリガーしぼれば、それが出来る。

 そう、撃てばいいのだ。それ以上の解などないのだ。


 こいつが放っておいてはいけない存在なのは、見れば分かること。

 撃って悪いことなんか、何一つない。

 とっとと攻撃して、黙らせるべきなのだ。


〈そういうのを何て言うか、知ってるか?〉


 だが、できない。

 少しの身動きで、それが出す音で、そいつに目を付けられることを、嫌がっているかのように。


 怒られたくないから、ただじっと黙するだけの、内気な童子のように。


〈“恐怖”。『分からない』ってのは、そういうことだよ〉


 ズルリ、そいつが滑るようにして、冒険者達へと近づいた。

 それだけで、誰かが思わず唾を呑んだ、そんな音が聞こえた。




〈お前ら、俺を怖れたな?〉




 その姿が肥大化し、彼らの周囲を暗幕の如く一周した、ような気がした。

 実際には、そんなことはない。

 そいつは大して変わっていないし、動いてすらいない。

 

 ただ、彼らが感じる迫力が、急激に増大しただけで——

 

「ひああああああっ!?」


 その悲鳴に全員が振り向く。

 ドワーフの1体が脚を押さえている。

 そこからは黒い瘴気が、


〈メエエエエエエエエエ……!メヘヘヘエエエエエエエ……!〉


 あの黒い獣共が顔を出している!


「あ、ああ?」

「なんだ……なんで?」


〈ああ、やっぱり最初はドワーフだったか〉


 混ざりモノがそう言った直後、もう一人、また一人、次々と、他のドワーフの体にも、同じ異変が起こっていく。


 外骨格を突き破られて、肉も神経も咀嚼されてしまう。


〈フェロモンによる意識共有……並列化か?全体を一つとした高度な連携を可能とするものの、感情の伝播という副作用が困りもの。特にパニックはなあ?集団の中で誰かが発症すれば、一気に感染爆発を起こすからな〉


 あちこちで絶叫が上がり、共鳴し合い、広間の内壁で反響、増幅され、不穏な合唱がっしょうが皆の頭を、内から外から押し潰さんとする。


 内壁にびっしり人を貼り付けた、巨大な鐘に閉じ込められて、外から強く打たれたような、悪夢そのものと呼べる状況。


 やがてそれにてられたが如く、他の種族も次々と、同様の症状に罹患していく。

 

 小さな羊とヤギ達に、ぶつぶつブツブツり潰されて、血肉を別の命に変身させられる。彼らの体そのものが、彼らを喰い荒らしているのだ。


「てっ、天よっ!救いたまえ!」

 

 司祭服が金属の注射器を取り出し、苦しむ者に駆け寄ろうとして蹴躓けつまずいた。じゅくじゅくと獣達が生まれたことで、すねが腐り落ちたように黒く変色し、駆け出した衝撃で千切れ飛んだのだ。


 脚から股間を通り、腹から胸へ、頭を目指して上る激痛。

 それが体を通り抜けるにつれて、見える景色が塗り替えられた。

 

「え……?」


 そこは、見覚えのある場所だった。

 そこまで広くはないが、惨めでもオンボロでもない木造の寝室。

 彼が俗世から外れる前、家族と共に暮らしていた家。


 外から黄色い日光が差し込み、反対の壁まで届いている。窓の向こうに広がっているのは、当時管理していた農園だ。


 彼はこの景色を知っている。

 この太陽の角度を、不気味なほどの静寂を、知っている。


 そう、あの日は静か過ぎた。

 いつもならボウヤ達のハシャぐ声が聞こえるのに、その日だけ空気が穏やかだった。


 隠れんぼでもしているのか、彼はそう思って部屋から出て、一家が集まるダイニングへと向かう。そこで朝食を摂るのが、習慣だったから。


 そこには先客が居た。妻だ。

 彼女はどうしてか部屋の隅に座り込み、彼を見るなり、震える手で反対のかどを指した。


 そちらに目を向けると、全身に頑丈な毛をびっしり生やした、大蜘蛛おおぐもの魔物が張り付いてた。


 全長が部屋の高さほどもあるそいつは、彼が入室したことに気が付いている筈なのに、何の反応も見せずに平然と口らしきものを動かしている。


 そこにズルズルと引き込まれていく、2、3の小さな肉塊、その球体部分に二つずつ埋め込まれた、ガラス玉が彼のことをじぃぃぃぃぃっと………


「ひぃっ!?」


 何かがチクチクゴソゴソと肌の上を這う。

 急いで服をめくってみれば、腹の内側から蜘蛛が頭を覗かせ、横並びの顎をカチカチと鳴らしていた。


「ひああああああああっ??!?」


 テーブルの上にあったナイフを取り、何度もそいつに突き立てる。何度も何度も、その粘つく体液をぶちまけさせ、


「お、とう、さん……?」

「いた、いよ………」


 その声にハッとして見れば、腹に詰まっていたのは、何度も夢に見る愛すべき家族の顔で、


 彼の手はそれを滅多刺しにしていて——




 ぽぉん、




「ねえっ!ちょっとっ!?」


 風邪の悪寒を酷くしたような感覚が、つたい落ちるしずくのように、右腕から全身を駆け巡った。


「目、覚めない……!?」

「ダイジョブなのっ!?ねえっ!」

〈ほう、ほう、なるほど?ポプラーの浄化能力、か……〉


 司祭の腕に光るコケが取り付いており、焼き焦がすかのように肉を破壊しながら、彼のマナを急激に吸い上げている。


「ごめんなさい……!他に、方法が……!」

「いや……っ!感謝します……っ!」


 幻覚から復帰した司祭は金属注射器を取り出して静脈に注入。それは自身のマナを、身体の原状げんじょう復帰機能を強化する効果を持ったものへと、変換する魔導具。


 それを流し込まれたことによって、彼の体を構成するマナの、自己治癒や免疫系の能力が向上。傷が塞がるのと並行して、黒き獣どもやポプラーのような、外来の存在が排撃はいげきされていく。


「皆さん!これを!」


 彼は生体マナエネルギーを体外に出力。

 小さな爆発を起こしてありったけの注射器を飛ばし、冒険者達に配っていく。


「ポプラーを、他の方々にも!早く!」

「うっ、うん……!」


 ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ、

 胡乱うろんな意識状態のまま夢とうつつあわいで溺れかけていた彼らへ、一人ずつ順番に胞子を植え付けるヘルブラ。


 それらポプラーは——彼らの肉体ごとではあるが——、体内の汚染マナを滅していく。その効果とそれに伴う痛みによって、僅かにではあるが精神の主導権を取り返す、その一助となる。


「ああもう!最悪の気分……!」


 ハピノイド、ウィリ=デが己に注射を打ちながら上体を起こし、混ざりモノを睨みつけた。


「見たくない記憶モノ見せるだけならまだしも、勝手に改悪してるんじゃあないわよ……!」

〈より刺激的になっただろ?〉

「あなた料理下手でしょ?余計なアレンジして失敗するタイプね」


 司祭が限りある注射器を送ったのは、ここに居る中でも特に腕の立つ者達だ。


 体内のマナを強化しても、混ざりモノのマナに侵食されることに抵抗できなければ、何の意味もない。従って、高レベルの体内マナ操作を可能とする、凄腕でなければ土俵に上がれないのだ。


 ただその“登板とうばん”も、一時的なものでしかない。

 マナ強化が切れた時点で、彼らにはなす術が無くなってしまう。


「君達のポプラーは……」


 ウィリ=デはノームの少年少女の様子を見て、その表面のラインが端の方から、急速に黒ずんでいるのを確認する。炎が野草を炭化させながら、這い登るさまを見ているが如く。


 ポプラーをかなりの自由度で操れるらしい一人が、何やら魔導能力で押し返してもいるが、仲間達全員をカバーしようとしているのもあって、遠からず力尽きるのが目に見えていた。


「注射の残り回数的に……、みんな、持って数分ってところ……?」

「なんでコイツ……!攻撃してこないのよ……!」


 大耳ネズミが脚の治りを待ちながら、もっともなことを口にする。

 確かに、その場で佇んで微動だにしないそいつは、なんとも悠長と表現できた。


「今の隙に、殺されてても、おかしくなかった……!」

「あのバケモンが言ってただろ……!『恐怖』だよ……!」

 

 ドワーフのリーダー、と意識を深めに共有中の1体が、流暢りゅうちょうに語る。


 匂い(フェロモン)を使った複数体精神並列接続によって、情報処理速度を飛躍的に向上させたドワーフ達は、高い水準の体内マナ操作能力も実現。「精神攻撃に弱い」という弱点と相殺そうさいしていた。


「オレ達が無力化したところを、ドタドタ殺しに行くような余裕の無さを見せたら、魔導能力の効力が、下がるんじゃあねえか……?アイツ、オレ達のことをビビらせてやがるんだ!」


「予兆が見えない……マナの侵蝕しんしょく……!」

 

 立ち上がったドーベルマンが、横向きに短剣を構える。


「見えていない、ではなく……、()()()()()、としたら……?」

「……本気で言ってるの?それ、冗談とかじゃなくて?」

「筋は通るけどさ……!なんでそんなのが出てくんのよ!こんな仕事ヤマに!おかしいでしょ!」


「なっ、なにっ?ちょっと置いてかないで!どういうこと!?」


 冒険者達に、最悪の確信が広がるのを感じ取り、ブリュネが堪らず口を挟む。今起きていることを少しでも理解することで、腹に溜まった色濃いおそれを、薄めようと努めているのだ。


「……そもそもマナを使った効果や現象の押し付け合いでは、相手を精神的に圧倒することで、大きな有利を取れるのは分かるわね?世の中には更に、怖がらせることと、そこから優位を引き出すことに、特化した魔導能力が存在するの……」


 「知る」ことで戦意が折れるかもしれない。けれど、「知らない」ことで怖れられるよりはマシかと、ウィリ=デは教えてやることに決めた。


「『怖いものから視線を逸らす』、その自然な意識を利用して、攻撃を知覚させないようにしたり、危機を感じて生体マナが暴れることで、発生する余剰エネルギーを、『自分の生んだもの』として操ったり……みたいな効果を持つそれは、広く知れ渡ってるわ」


「つかってる人が、いっぱいいる、ってコト?」


「いいえ。使い手にはそうそう出会えない。私も実際に見たのは初めて」


 それが有名なのは、普遍的だからではない。

 とある絶対的な“名前”と共に、伝わっているものだから。


 それは恐怖をつかさどり、恐怖をかてとする。

 それは人の意識を握り、その弱さを使うことにける。

 それは生きとし生けるものどもを改造し、代行者に変えてしまう。


 筆舌に尽くしがたい、禁忌的生体研究者

 度合いを大いにハミ出した、生命進化的加速主義。


 命への挑戦者にして、魂をもてあそぶ見えざる手。

 求道ぐどうと探究の果てにある、秩序と支配の完成形。




「“恐威きょうい征閾せいいきデーモン・ロード”……!」




 七つの名の中で唯一、「コミュニケーションが可能」とされた、


 ()()()()()()()()である。


 「相手の恐怖を使う魔導能力」は、その信奉者に授けられる、共通の恩寵おんちょう

 彼ら、デーモン・ロードの手足となる末節まっせつを、“鬼胎族デーモン”と、そう呼ぶのだ。


 


 つまり今、彼らの前に立っているのは、神格を狂信し、神格にその身をいじくらせた、デーモンの一体なのである。

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