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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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57.「無能死すべし」

「おっ、押さえろ!全員でやれ!」


 長の命令が響き、巨漢達が蹴り上げられるように動き出す。

 ヘルブラは振り下ろしたばかりのシャベルを逆袈裟に斬り上げて一人を断殺だんさつし、そのまま360度を薙ぎ払って牽制。


 距離を取ろうと後ろに下がった巨漢達、その一人へと1歩詰め、割断かつだん。地面に食い込んださきを支点に棒高跳びめいた跳躍軌道を見せ、彼女の家族を捕まえていた数人の前に着地。


 揃えた両足を軸に独楽こま回転し、一掃!


「テメエ!コイツがどうなっても……っ!」


 少年ノームを盾にしようと掲げた者が居たが、


 ぽんっ、


 小太鼓の音と共に、その腕のポプラーが人質の体表へと移り、シールドによって巨漢の指を焼き落とす。


「あぎゃっ!?おっ、オレのだぞぉっ!!」

「へーんだっ!くやしかったらウバってみろよ!いつもどーりさっ!」


 ポプラーを与えられた少年がシールドを纏いながら股座またぐらを蹴りつけて脱出。同じことが他の残飯組の面々にも起こっている!


「く、くるなっ、くるなよおおお!」

「あっ、うわあっ!あぶないだろっ!」

「と、止まれ!とまっ、だれか止めろよ!」


 逆に巨磐おおいわどもの体は、シールドを奪われたことで刃が通りやすくなっていた。それによってヘルブラの「舞い」の脅威度が上昇。彼女がシャベルを一振ひとふりすれば、恐れを為して退散していく!

 

「バカな……、バカ言ってんじゃねえぞ……!」


 自慢の防御を没収され、へっぴり腰で武器を構えながら、オタオタしている手下ども。それを見ながら、あってはならない現実を呪う長。


「今?今だと?そんなことが、有り得ねえことが、よりにもよって、“今”!起こったってのか!?」


 このタイミングで、この適時で、今ここで!

 まさにそれが必要なこの時に!


「たった『今』!ユニークに目覚めたって言うのかよ……ッ!?」


 個体ごとに異なる特殊なマナの挙動、固有魔導ユニーク

 それを発現させることは、ハイエルフの特権である、というのは、エリーフォンのプロパガンダだ。


 実際のところ知性体なら、極めて低確率ながら、誰でも獲得する可能性を持つ。ハイエルフという種が、全ての個体がユニークを持つ例外的存在であるだけで、彼らが完全独占している、というわけでもないのだ。


 だが、そうは言っても、レアなことはレア。

 生涯ユニーク持ちに会わないで過ごす、なんて者も居るくらいには、なかなかお目に掛かれない存在。


 今まさに新能力が生まれる現場に立ち会う、なんて幸運に恵まれるのは、更に限られたひとにぎり。

 

 その稀なケースが、長の目の前で、しかも彼にとって最悪な機を狙ったかのように、起こってしまった。


 ノームがエコーロケーションに使う音波によって、ポプラーの魂を共鳴させ、それらを操りつつ、その魔導能力を強化する、という固有魔導ユニーク


 盤面を引っ繰り返す材料を探していた、残飯組の要望にこたえるかのように、まるで天恵の如きそれが、図ったかの如く降りてきたのだ!


「そんな……!都合の良い話が……!あって、あっていいわけねえだろ!許されるわきゃねえだろお!!」


 起こってしまったことは、起こってしまったこと。

 彼がやるべきは、事実を受け入れた上で、次にどうするか考えることだった。

 それを怠ったから、


「どいちゃってぇっ!」


 足下をすくわれた。

 ポプラーにエネルギーを充填されたブリュネが、柔軟に体を曲げて彼の脚を蹴り飛ばし、バランスを崩しながら踏みつけを脱したのだ。

 

「くっ、クソガキィッ!」


 右手でハンマーを、左手でエアスキャッターを抜いた長。もはや加減の一切は無意味と見切ったか!


 が、彼はずっと忘れている。自分達が何をしていたのか。

 そもそもどうして、残飯組を使い捨てようなどと、考えるに至ったのか。

 

「ぎゃ!」


 巨漢の1体が頭から後ろに跳ね倒れた。その上半身には、無数の釘が打たれている。

 

 オレンジ色の軌跡がはしり、流れるように3体のうなじをパックリと開かせ、急カーブしてからもう1体の額を穿うがつ。


 翼を持った長身が固まっていた数人に飛び掛かり、手足の付けづめで致命的な動脈を次々とっ切る。


 襲撃者が、冒険者達が、着いてしまった。

 出入り口から雪崩なだれ込んできた彼らによって、広間に集結した巨磐おおいわ勢力は、瞬く間に総崩れとなる。


「わわっ、なんだなんだ!?」

「うひゃあっ!?」

「こ、これって……!」


「今来たばかりなんだけど」


 思わぬ追い風に戸惑うノーム達の横に、ハピノイドの女がスマートに着地。


「なんとなく、事情は分かるわ。結構やるじゃない、あなた達」


 ただ勢いで全てを薙ぎ倒す2流と違い、敵の敵を見分ける能力を備えた彼らは、残飯組に加勢する形を取ることで、最も仕事がはかどるだろうと看破していた。


「ち、チクショオォォ……!」


 長は歯軋はぎしりしながら、相手の戦力内訳(うちわけ)を把握しようとする。ドワーフやリカントの群れと、ハピノイド一体、それから四つ葉めいた紋章を身に着けた、バイソン顔の司祭服。


 十人力じゅうにんりき、百人力とうそぶく彼でも、くつがえがたい戦力差。

 ポプラーの自由が利かないとなれば、余計に勝ち目などない。


「チクショウ……!チクショウ……!ふざけんな……!ふざけんな……!」


 彼は反撃する気も失せたようで、ただただ悔しがっていた。


「どうして、テメエらなんかがどうして!天に祝われてやがるんだ……!」


 無力で役立たずの残飯組に、幸運の女神が微笑み掛ける。この巣を持たせた彼のこれまでを、たった一度の幸運に否定される。それが我慢ならなかったのだ。


「お前、お前達にばっかり、そんな、そんなラッキーがあって、恵みがあって……!俺には、俺にはどうして、俺には——」




——悪魔しか来なかったっていうのに




 ぐちゃり、


 


「え?」


 不吉な音に視線を下ろした彼は、自分の太ももから飛び出た、ドス黒い瘴気の塊を見た。


「ウギョアアアアアッ!!」


 内側からそれに、肉も骨もえぐられて、悶絶しながら転がる巨磐おおいわの長。

 空気が一変したのを、冒険者達が敏感に察知。各自が一斉に、警戒度を引き上げる。


〈あーあー見なよ。お前の足が要らねえものになったから、喰われちゃった〉


 声は、広間の奥、開け放たれた石扉いしどの向こうから、蛇のように這入はいってきた。


 長の居室でもあったそこは、外から見ていた彼らには、真っ黒な絵の具に沈んでいるように見える。その“水面”を、じわりと破って、尋常ならざる風体ふうていみ出した。

 

〈俺、言ったよね?お前に。俺の関与がバレねえように、脱出経路を通せって、命令しといたよね?ん?そんな難しい言葉使ったっけ?それとも俺の記憶違いだった?〉


 涙を流して足を押さえる長を、「聞いてんだよ無能カス」と、乱暴に蹴り飛ばすそいつは、左右で異なる顔を持っていた。


 顔の右側がモコモコとした羊で、左側が歪んだツノを持つヤギ。それも、真ん中でスッパリ分かれているのではなく、シームレスに混ざり合っている。


 体を覆う、黒いローブかケープの如く見えたものは、黒毛の羊やヤギの頭が多数突き出て、ぎちぎちに押し合っているさまだった。


〈俺の話聞かずに、ノンキこいてお昼寝かな?ほーんと、いちいちやることが常人離れしてんなあ?35%クンは〉

「ひぃいいいい!!おゆるしを!おゆるしをおおおおおお!!」


 残飯組がその時感じた衝撃を、言い表す言葉があるだろうか。

 彼らにとって絶対的な支配者、絶大の破壊者であったそいつが、手と額を地に着いて、泥を食いながら命を乞うている。


「だってぇぇぇぇ!だって今ぁっ!まさか今、ざんぱんのクズがぁっ、ユニークを持つなんてぇぇぇぇ!分からなあああああっ!!」


〈使えない人材の王道言い訳プリセットでも買った?だとしたら無駄金ムダガネだったなあ?こういう時くらい独創的な感性で、感心させたりとか、してくれないもんかねえ?「運が悪かったから仕事できませんでしたー」って?知るか。結果が全てだろ〉


 そこには少なくとも、大熊と赤子ほどの力量差があると、誰の目にも明らか。

 今まで世界だと思っていたものが、岩一つの広さに収まる石積みでしかなかった、そんな価値観の崩壊が、密かに起こっていた。


〈ンメェェェエエエエヘへへへエエエエエエエ〉


 その間に、黒い物体が今度は長の腹を破って、産声めいたものを上げる。それが何か、その時やっと判別できた。仔羊こひつじ仔山羊こやぎの詰め合わせだ。

 

「ぎゃああああああ!!いや!いや!いや!いやだああああ!!」

〈おっ、腹からも出たな。ん?昼食はラムチョップだった?ん?〉


 懇願も哀訴あいそ歯牙しがにもかけず、混ざりモノは淡々と観察し、その死に様を見物する。面白そうですらなく、不機嫌を表出させる様子が、余計に長の絶望を煽っていた。


〈ったく、感謝しなよ?お前みたいなやつだって、俺は()()()()してやるんだから。これが本物の有能ってヤツだよ〉


 「少しは見習え、腐れドロンコ脳ミソ」、追い打ちのようにぶつけられたその罵倒は、けれど届かなかったのだろう。両手両足、腹、胸、喉や顔からも、黒い物体がボコボコ湧き出て、長は声も出せなくなっていた。


 そのうち、小さな獣たちの動きによって、反射的に起こる筋肉の収縮以外、身動きと呼べるものの全てが、どこにも見られなくなってしまい、


 そして瘴気に沈んでいき、やがて跡形もなくなった。


〈さて、次は〉


 瞳孔が定かでない、落ちくぼんだ眼窩がんかの如き双眸そうぼう

 それを向けられて、残飯組も冒険者達も、「目が合った」ことを何故か確信した。


 様子がおかしく、話の通じない不審者をやり過ごそうと、目を逸らしながら通り過ぎようとしたら、


〈お前らを査定する番だ〉


 肩が赤くなるほど強く掴まれ、呼び止められたような、そんな気分だった。

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