55.死と隣り合わせに
同士撃ち防止の為、魔導筒は使えない。
よって巨磐どもは、近接武器で襲い掛かることとなった。
ぐおん、空気を押し退ける風音。
それと共に迫ったシャベルの先を、ブリュネはジャンプ回避、その身軽さを利用し相手の腕を踏み台にジャンプして頭にしがみつき、ツノ型突起を叩く!
ポプラーシールドがガードするも、強化された拳とエネルギー膜との衝突による硬く甲高い撃音が発生!
「ぐわぁっ!?」
「きいてる!」
両手で抱えられたそいつの頭部をもう一発蹴りつけた反動で跳躍、次の一体に取り付いた。この曲芸めいた動きは、小さい頃に森の木々で培ったものだ。
「みんな!やっぱりツノをねらえばいけるよ!」
「っしゃああああッ!」
ハンマーで一発叩かれて吹っ飛ばされながら、すぐに立ち上がったグラウが吼えて、敵の頭の高さを下げるべく足へと殴り掛かる。
体内の骨格と繋がっているノームのツノは、音波を発する機能と、その反射を受け止める働きを持つ。受信時の微細な違いを全身で検知して、地形や獲物の位置を把握するのだ。
当然、それは繊細な器官。危機を察して「傾聴モード」になっている最中に、至近で高く大きな音を出されると、空間識失調、平たく言えば「目を回したような」状態になってしまう。
ツノを強めに打ってやるのは、変異型ノーム相手でも有効な攻撃のようだ。
「テメエらツノを塞げ!ポプラーシールドも頭に重点的に集めろ!」
血走った眼で殺到する彼らのうち、何割ほどがその忠告を聞けただろうか。
ノームの優れた連携、統率力は、臆病風によって磨かれてきた。ところが巨磐どもは、それを失っている。戦場を何度も経験することで、それを補えたつもりになっていた彼らだったが、それも優勢が続いている間だけ。
「滅ぼされる」という恐怖を前に余裕を失った途端、集団としての纏まりがあっさりと瓦解してしまったのだ。
「ダラボキャァァァアアアアア!」
今にも降り抜かれんとする解体重機の如き一撃。それは残飯組の一人の顔面を軌道上に捉えていた
が、
「止まって…っ!」
ヘルブラが横から割り込み、シールドで受け止め切り、どころか自分が失った以上に、相手のポプラーのエネルギーを削り取る。
「なにィッ!?」
怯んだ隙に別の一人によじ登られ、ツノを連打されて悶絶する巨漢。その乱闘の行く末を見届ける間も惜しみ、ヘルブラはすぐさま別の誰かの壁になりに行く。
残飯組において、最多量のポプラーを受け入れ、最もその扱いに長けているのが、彼女だ。自分一人で殻に籠り、物言わぬ友とのみ対話擬きを続けたその不毛な日々は、確かな糧となって彼女を支えていた。
「ナメんなガキがああああ!!」
「こっちのセリフだああああ!!」
巨漢ノームが振り下ろしたピッケルを避け、飛散する破片を正面から受けながらも耐えて、相手の腕にしがみついて体重を掛けるグラウ。
「ずっとイノチ削ってきてんだよオレたちはああああ!」
そうやって大鬼が前のめりになり上体が下がったことで、別の一人が登れるようになる!
「うわあああああっ!やっつけてやるうううううっ!!」
「がっ!このっ!ヤメロっ!」
「うわっ!?そっちいったぞ!つかまえろ!」
すばしっこく股の間を抜けていく数人。それを取っ捕まえようと下を向いた者は、巨漢の肩を跳び渡ってきたブリュネに上から狙われる。
体格で勝てない相手に、小回りで挑む。
残飯組が選び取ったのは、極めて適確な戦い方。
けれど、それでいつまでも上手くいくかと言えば、それほど優しい話はなかった。
「ハッハー!やったぜええええ!!」
巨漢の一体が、頭を潰された四肢を掲げる。
少年の一人が、ピッケルの犠牲となったのだ。
「ガキどもおっ!こうなりたくなけりゃあ——」
蝋燭めいた戦意を吹き消してやろうと、哄笑していたそいつの腰から小型のスコップが抜かれ、頭頂に突き立てられる。
「アギャアアアアアアッ!!?」
「死ぬのがなによ……!死んだのが、なによ……!」
頬に奔るポプラーの光を、幾筋かの涙で煙らせながら、ブリュネは叫んだ。
「家族が死ぬのなんて、それでもたたかうのなんて、今までと同じだもんねえええッ!!ベーーーッだッ!!」
お前達が与えてきた苦痛は、絶望は、こんなものではなかったと。
こんなので止まるようなら、とっくに彼らは、生きることを投げ捨てていたと。
「勝ちたいなら!ぜんぶ!ぜんぶ殺しなよ!!ちゃんと!さいごの一人までッ!!」
誰一人、止まらなかった。
自分より大きく、強く、残虐な相手に、果敢に攻め続け、そして死んでいった。
巨漢ノーム1体を殺し切る間に残飯組の3割が死に、次の1体を倒すまでに残りの6割が肉塊と化した。
「ううう……!」
ヘルブラが複数人の手で地面に押しつけられる。彼女のポプラーエネルギーは切れかかっており、光を発することすらできなくなっていた。
「手こずらせ、やがってぇ……!」
残った数人が、次々と同じように取り押さえられ、うち二人は複数人の体重で圧殺された。
「ギャッ!!グェッ!!」
一発逆転に賭けて長を狙ったブリュネがハエのように落とされ、頭から踏みつけられ前歯を折られながら拘束されたことで、
「ハー……ッ!女どもに“虫籠”を持ってこさせろ!」
「でもあの」「早くしやがれトンマナスゥ!!」「へっ、へいっ!」
何か忘れているのではないか、そう進言しようとした一人は、一喝されて飛ぶように去る。
長はそいつに目もくれずに、自分に逆らってきた大罪人達を、想定を超えて遥かに愚かだったそいつらを見下ろす。
「いたぶって、いたぶっていたぶっていたぶって殺してやる……!男だろうが女だろうが、拷問と恥辱の限りを尽くしてやる!上から下から蟲どもを注ぎ込んで、内側から食い荒らさせてやるからなァ……ッ!」
それでもジタバタと足掻くブリュネへと更に体重を掛け、腹に埋め込むようにシャベルの柄を押し付ける。自らの吐瀉物で溺れかけた彼女を見ても、腹の虫は収まらない。
その、誰のことをも楽しませることができなかった、無駄な残酷趣味とでも言うべき姿は、
「はな……して……!」
けれど、この場において、確かな意義を持った。
「ブリュネを……!みんなを……!はなして……!」
ヘルブラの魂に投下される、最後の起爆剤として。




