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5.暗殺者達 part1

 エレノア・エメラルダス・アシュルブランが生まれたエリーフォン純白魔導優民国は、先鋭化した血統主義国家である。


 マナを操る魔導こそ、世界の真理と接続する術。そしてその能力は、才能に依存する。もっと言えば、魔導は血に宿り、優劣は血統によって決まる。

それが彼らの認識。


 だから彼らは、優れた血脈同士を掛け合わせて高め合う、自発的品種改良によって、世界と一体になるほどの、完璧な魔導能力行使者を作り出せるのだと、そう信じている。


 「良い血統と良い血統から、もっと良い血統が生じる」、そう思っているのだ。


 「美味しいものを混ぜたらもっと美味しくなる」という、ラーメン・ケーキ誤謬ごびゅうと同系統の過ちを犯しているのだが、兎も角、彼らはそれを大真面目に信じ、最終結論的なエルフ個体を生み出すことを国是に掲げ、その為の社会システムを作った。


 彼らはまず、「ノイズ」を排除した。


 別の種族は勿論のこと、ダークエルフ達ですら不純物、それが彼らの見解。


 ダークエルフが得意とするのは、魔導の力の中でも、野生動物も含めて最もポピュラーである、身体強化だ。


 その魔導は、才能無き者の逃げ先。その方向にしか伸ばせない血は、獣に堕ちる間違った道である。と、そう判断されたわけだ。


 肌の色と魔導の適性の差によって、彼らは遺伝病患者として定義され、自動兵器ゴーレムによって管理される下級市民となる。


 反対に、白肌に金髪の“ハイエルフ”達は、“首都上層”と呼ばれる天上浮遊ドーム都市に引き籠り、下界を従わせる神のように振舞った。


 ハイエルフの血統、その正当性の拠り所は二つ、魔導術式と固有魔導ユニーク

 

 魔導術式は、理論に基づいた技術であり、完成させてしまえば万民が利用可能。ただし、最初の一つを作るには、選ばれた者達の優れた知性が無ければならない、とされる。未開文明を営む穢れた民族では、確立できないものなのだと。


 では固有魔導ユニークとは?

 その名の通り、特定の者のみが行使できる属人的能力だ。

 

 例えば火をおこす、例えば土を生み建物を作る、例えば物の中身を透かし見る。そういった、特殊な現象を起こせるもの。


 まあぶっちゃけて言ってしまえば、生まれつき持っているマナ操作系の力で、身体強化以外は全て固有魔導ユニーク扱い、というだけの話だったりする。


 魔導術式の発明・発展に必要な高度知性と、優れた固有魔導ユニーク。それらは遺伝によってしか得られないものだと、エリーフォンはそう規定している。


 特に固有魔導ユニークは重要だ。彼らが作りたがっている最高のエルフとは、最高の固有魔導ユニーク保有者のことなのだから。


 故に家と家が結ぶ婚姻は、固有魔導ユニークの合成実験に等しい。どの家、つまり系統から出て、どの家に入るかは、実験記録という意味で重要であり、だからこそ名前として明確に記される。


 エレノアは、エメラルダ家の血が混ぜられた、アシュルブラン家の娘、というわけだ。


 そんな国で、「綺麗な」血同士から生まれた筈のエレノアが、銀髪というダークエルフによく見られる形質を発現した、その重大性が想像できるだろうか。


 エレノアの母は穢れた血との姦淫を疑われ、心労の末に倒れた病床で、娘に呪いの言葉を吐き続けた。父は母の周辺から、血眼になって容疑者を探そうとして、けれどそれらしい影すら見つけられず、だからエレノアを実の娘として育てるしかなくなって、そのことで彼女を憎み続けていた。


 誰もがエレノアを、外の血が混じった敵だと、半ば決め付けていた。

 けれど一方で、エメラルダ家も名家の一つに変わりなく、その令嬢を大した証拠も無しに疑うとなると、小さくない摩擦が生じることも事実。


 悪ければ暗殺合戦や内戦に発展する火種。従って誰も不用意に触れたがらず、なあなあで済まされていた。それはそれとして、いつか機会さえあれば、純正血統を紡ぐという父祖から受け継いだ事業から、叩き出してやりたいとも思っていた。


 彼らにとってダークエルフとは、性交によって広がるタイプの疫病だ。

 エレノアへの蔑視が苛烈になるのも、そこまでおかしい話ではない。

 

 かてて加えて、彼らが抱いた「血を穢される」という猜疑心、それを余計に煽り立てたものが、もう一つある。

 



 エレノアの固有魔導ユニークだ。




『呆気ないもんだ』

 

 エリーフォン領内、首都メガラルブスから西へ、鉄道線路沿いに伸びる幹線道路の途上でのこと。


 そこを通る貧相な馬車が、何者かの襲撃を受け、爆散した。


 国家的インフラ上での狼藉であり、最優先指名手配待遇を受けてもおかしくないくらいには、命知らずの蛮行。けれど、彼らにある程度の後ろ盾がついており、その者が()()()根回しを済ませているなら、話は別。


『首か臓器を探せ。依頼達成の証拠になる。何しろ“廃棄部隊フェロニアス”送りでも不満足だって言いくさる、心配性な御仁ごじんだからな』

 

 枝や草を貼り付けた、地味な色のフード付きローブを纏う一団。彼らは木々や藪から出て、黒煙をくゆらせる残骸に近づいていく。


 が、


『離れろ!奴らまだ生きて——』


 大気中の励起マナ濃度を計測していた者の警告が間に合わず、飛び出してきた淡青たんせいの大顎によって一名が胴から下を失った。


 現れたのは、長い水流のからだを持つ生物。鎌首をもたげただけで、街路樹くらいの高さになる蛇……いや、尾ビレや胸ビレ、背ビレのような部位も持っている。魚かもしれない。


〈ごぽぽん……。あなた方、沈んでも良い、ってことですよね?この馬車を襲うってことは……潜水訓練、受けたいんですよねぇ……?〉

『撃て!撃て!』


 道の両側から挟み込む一斉射!


 彼らが携えているのは、マナを溜めた特殊な鉱物、“魔導石”をボディに嵌め込んだ、腕くらい太く、直剣のように長い筒と、それを補強する流線形フレーム、及び持ちやすくするストックだ。

 

 魔導筒まどうづつと呼ばれるそれは、身体強化しか使えないものにも、マナによる遠距離攻撃を可能とする。まさに世紀の技術革新であり、魔導、暴力の民主化における希望の星。


『魔導石はケチるな!経費はたんまり貰ってるんだ!』


 それらには、大きく分けて三つの種類がある。


 エネルギーの塊で殴る最もシンプルなタイプ。

 触れたものに特殊な変化を与えるマナを飛ばすタイプ。

 圧力で石や金属等を撃ち出すボウガンの延長タイプ。


 彼らが持っているのは主に、一番目に属するもの。火球を飛ばして敵を破壊する、“飛焔筒イグニッション・ライフル”。厚さ数十センチの鉄板や、魔導術式を施された鎧ですら、穴を開け得る威力を持つ。


 ところが、蜷局とぐろを巻くみずへびが建てた水流の壁に当たると、それを突破する前に弾頭が掻き消されてしまう。


『おい!気化熱奪われてるにしても減衰が酷いぞ!どうなってる!ゴミ魔石掴まされたのか!?』

『沸騰圧だ!水の壁が層構造になって、蒸気になって一気に膨れた水分が前に押し返すようになってやがる!』


 水が蒸気になった際に発生する爆圧。それを敵側方向以外に逃げないよう閉じ込めることで、圧力を狭い範囲に集中させ、弾頭のエネルギーを正面から殺す。


 水を入れたヤカンに穴の無い蓋をして、火にかけて中身を沸騰させると、中から蓋がガタガタ揺らされ、時に吹き飛ばされる。それをより大きなスケールでやっている、と考えて貰えればいい。


 蒸気機関車が走る原理、その大元に使われる現象としても知られている為、襲撃者達も短時間でそれに思い至れたのだろう。


『チッ、水系統のユニーク使いって聞いた時から、イヤな予感はしてたんだよ……!』


 大抵の攻撃を防ぐのに、水は有効な障壁である。彼らが持ってきたものは、そんな水の壁でも打ち壊せる魔導筒、だったのだが、ターゲットの護衛の生成水分量と操作精度は想定以上だったようで、ご覧の有り様だ。


『腹を括れ!プランBで行くぞ!』


 砲丸のような水球を飛ばされ、土石を呑んだ波に潰され、被害が大きくなっていくのを見て、彼らはリスクを取ることにした。


 残った手勢の3分の2ほどが、武器を換装かんそうする。


 そのうち半数が背負ったパーツから組み立てて設置したのは、全長が彼らの背丈ほどもある巨大な固定ボウガン。


 水の防御に効くのは、点の攻撃、つまり尖った刺突だ。


 単なる弓では威力不足だろうが、ボウガン型の魔導筒、“巨矢筒バリスタ・エンフォーサー”なら足りる筈だ。まあ、矢弾やだまの生成機能まで付いているせいで、見ての通り大きく重くなっているので、反撃から逃れられない危険がバカ高くなる、という難点付きだが。


 それ以外の半数が組み上げたのは、穂先の付け根に魔導石が嵌められ、柄に幾つかのグリップスイッチが取り付けられた槍。


 魔導兵器“爆雷槍エア・スピア”。気体やエネルギーの噴射によって、突き刺し攻撃を加速させ、刺さったところから内側に傷を発破膨張させる、対生物において汎用性の高い武装だ。


〈ごぽぽぽぽ……!小細工を……!〉


 額から2本、頭の後ろへと伸びる、触覚とも魚のヒゲともつかない器官。それを立てて威嚇する水蛇。


 そこに“飛焔筒イグニッション・ライフル”と“巨矢筒バリスタ・エンフォーサー”の連続発射!

 水の壁は内側に流動を作ることで、突き抜かれるのを阻止!


 だが、高度な防御の為に思考リソースが割かれたその時、壁の向こうに火球のせいでブワリと湯気が立ち込めたことで、視界と身動きが一度に制限される!


 その隙を狙って槍持ちが躍り出る!

 水の壁に立てた穂先から熱焔ねつえんを放ち、通れるくらいの穴を穿たんとする!

 

〈エレノア様には触れさせない……!〉


 最高速の補修によって侵入路を即座に塞ぎつつ、波と水球で反撃。

 しかしその限界マルチタスクを、いつまでも100%遂行できるわけがなく、稀に槍の先端のみが入り込み、その身に刺さって破裂させていく。


〈ガぽッ!〉


 それらを尾びれで打ち払い、その身が削れ切れるか、固有魔導ユニークの行使限界が来る前に、なんと敵を殲滅しようとたける水蛇。


 そいつ——変身したペイルに巻かれ守られている内側で、隣でヒイヒイ言っているユイトを無視し、エレノアは一人、ふけっていた。


 マナが漏れないよう慎重に、動体視力の強化のみに回して、観察。


 襲撃者達は、それぞれがタンクのようなものを背負い、それと鼻から口までとをチューブで接続。更に目元も、遮光ガラスのようなもので覆っている。


 あれらは対エレノア用に特化した装備であり、最初から彼女狙いであることは明白。


——買い物に時間を掛け過ぎましたか


 首都から前線まで、鉄道で行く方法もあった。と言うより、そっちの方が普通のルートだ。であるからこそ、待ち伏せされる危険が、無視できないほど高かった。


 元老議員の内の誰かが、「事実上の死罪だけじゃ安心できない」と考え、独断で刺客を差し向けてくることは、可能性として考えていた。その対策として、敢えて本道から外れ、地味な馬車で向かうことにしたのだ。


 しかしながら、奴隷選びに思ったより時間を取られた上に、屍肉漁りの新聞記者共に騒がれ、目立ってしまった。「エレノアは小型馬車で移動している」、それが知れ渡ってしまったのだ。


 何なら、エレノアの着任日が報道にリークされていた可能性すらある。彼らを目として、彼女が予想外の動きを取らないか、間接的に監視する為に。

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