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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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54.誤算

 “掘鑿包ホロー・ブラスター”。彼女達の前に置かれた、その魔導具の一般名称だ。


 魔導石は粉末状にされることで、全体の表面積が上がり、外部からのマナ供給に激しく反応するようになる。ただし力の制御が困難となり、マナを増幅しまくるだけの、暴走機関と化してしまう。


 これを利用してエリーフォンが作った爆弾は、戦争の道具としてそれを使われたドワーフが模倣に成功したことで、セラ中に普及することとなった。


 粉末状の魔導石を仕切りで二つに分けたそれに、仕様者がマナを流し込むと、刻印された術式が、片側の粉末にのみそれを注入。


 それに反応した粉末が大量のエネルギーを発生させたところで、仕切りを開き、もう片方の粉末へと流し込めば、「高エネルギーが粉末魔導石全体を一瞬で反応させる」という状況を作れる。


 結果、容器を内部から突き破るほどのエネルギーバーストが発生。

 破片、衝撃波、高熱を撒く、破壊の具現と化す。


 この粉末魔導石爆弾に、更に「第一波エネルギーを利用して地面や岩壁がんぺき穿孔せんこうして内に入り込んでから爆発する」、という機能を足したのが、掘削作業用発破具“掘鑿包ホロー・ブラスター”。

 組合地下の魔導防壁を突破したのも、その大型版の破壊力である。




 ただ今回の場合、必要となるのは爆発力だけで、穿孔機能が使用される予定はなかった。




「選ばせてやる。気持ちよく逝くか。足先からジワジワ小間切れに喰われるか」


 それらを運ばせた長は、彼女達へ冷然と告げた。

 必要以上に悪辣でもなく、かと言って肩を組むわけでもない。


「これを背負って、敵に突っ込んで、しこたま殺して、坑道を塞げ。テメエら無能ームにもできる、簡単な“おつかい”だろ?」


 ただ「逆らえない事実」そのものであるかのように振る舞いながら、彼女達に死に方を決めさせた。


 それは、彼女達の諦念に訴えかけると共に、「選ぶ」という“尊厳”を餌にした、誘導でもあった。


「逃げるのではなく、自分で決める」と、そう言える選択肢は、「爆弾を背負って“敵”に突っ込む」方。恐怖から「イヤだ」と言っても、もっと苦しめられながら殺されるだけ。


 ならば、一番楽で、一番言い訳が利く死に方をすれば、それでいいんじゃあないか?

 

 飼い馴らされた弱者どもは、「一か八か殴り掛かる」という選択肢を、認識すら出来なくなっている。長を恨みながらも、「彼が提示した可能性が全てなのだ」、「ここから選ぶしかないのだ」と、強いられた支配構造を内心で再生産している。


 それは彼の言葉の絶対化であり、“信者化”と言っても過言ではない。


 よって彼に導かれる通りに、「これが最も誇り高い」と自分のことを騙しながら、スッキリ死ねる道に飛びつく。最初は戸惑っているかもしれないが、一人二人見せしめにしてやれば、必ずや低きやすきに流れるだろう。


 ちなみに、残飯組がこの場でホローブラスターを起爆させる危険には、当然対処済み。その爆弾とケーブルで繋がった専用装置でしか、起爆出来ないようになっている為、爆発に彼女達の意思は介在できないのだ。


 脳筋思想に“目覚めた”集団と言えど、そこまで考え無しではなかったと見える。


「とっとと選べグズども!ダラダラ考えてんなら決断させてやろうか!誰か一人の命薪にしてなあ!」


 そしてそこから、「時間」まで奪う。

 まあこれは、相手の判断力を奪う以上に、彼らが追い詰められている証でもあったが。


「ダマってんっじゃねーよ!」

「オラッ!そのセコい手足チマチマうごかしてつっこめやッ!」

「アカチャンすぎて歩けまちぇんかー?育ててやったオンを返せオシメつきがっ!」

「ここまでくるとビビリもサイノーだな!まえにしかススめねえミミズのほうがまだマシだ!」


 広間を鳴動させる、4~50人の巨漢達。

 それらが作る人垣は、「逃走」の二文字を弾く高き壁であり、骨のずいまでしゃぶり尽くす大口でもあった。


 投げられる罵声とつぶてあられに頭を打たれながら、ブリュネは考えた。

 考えて、考えて、分からなくなった。


 考える意味とはなんだ?

 ここから助かる方法なんて、もうないのに?

 

 怒りはある。

 憎しみもある。

 だけれど、それをどういった行動として、出力すべきなのか?


 選択肢の中に答えが無い時、どうすればいいのか、彼女には分からなかった。

 文句、不平、呪詛、そういったものは、幾らでも出てくる。

 が、じゃあ自分が何をするべきか、それが見つからない。


 ただ、憤怒ふんぬと悲嘆が、無為に堆積していくだけ。


 「オン」?「恩」だと?

 家族も故郷も自由も尊厳も、何もかも奪っておいて、それが恩だと言うのか?

 

 この世の一体誰が、自分を虐げた者の為に、その身を削りたいなんて——


 そこで何故か、あの「センサー」の姿が浮かんだ。

 彼女に恐れをなす目と、彼女の家族の為に捧げられた片手。


——やめて!

——ヨワっこいヤツがアタシの中に入ってこないで!


 巻き付いた毒蛇を振り払おうとして、暴れながら衣服ごと捨てるみたいに、彼女は「外れ値」を追い出すべく、頭の中を一掃。

 それが逆に、思考がクリアに冴え渡らせる。


 今自分がやりたいこと、それが言い訳抜きで、見えるようになる。

 

 グラウは彼女に、「ジマン」があると言った。

 そうかもしれない。

 いいや、きっとそうだったのだ。


 彼女は「家族を守る自分」という誇りの為に、自分より立場が弱い者達を利用した。欲望を満たすのに「使った」のだ。


 やっと分かった。

 彼女は巨磐おおいわどもと同じだ。


 散々叩いた彼女達に、自分達の「正当さ」をいて、「恩」がどうだとか言い放って、奉仕されるのが当然だと思っている、奴らと全く同じだった。


 「願望を叶える力」を持っていたから、それを最大限に振るって、それによって出る利益をすすり倒して、けれども、自分の「あくどさ」を抱えることは拒否していた。


 彼女に巨磐おおいわのような力があったら、今家族扱いしている残飯組に、やっぱりこういう待遇を与えるのだ。それがようやく、理解できた。

 

 最悪の気分だった。

 どれだけ己が醜いのか、それを見ない為のフィルターまで、先程の“一斉リセット”で、取り除かれてしまったのだ。


 死ぬ寸前に襲ってきた、特大の自己嫌悪。

 これを解消するには、また自分を騙すしかない。

 嘘を吐き通すしかない。

 

 何があっても、家族の為に動くのだ。

 彼らに少しでも幸福を、希望を。

 それだけを考えて、戦い抜くのだ。

 



 どれほどの痛みを伴ったとしても。




「……なんだ?何のつもりだぁ?オイ」


 巨磐おおいわが意識させないようにしていた道。

 最後に残った反抗。

 「血路けつろを開く」こと。


 逆らわれると思っていない奴らに襲い掛かり、その隙に一人でも多く逃がす。

 何やらこの巣は今、混乱状態にあるらしい。なら、逃げ切れるかもしれない。


 どっちにしろ、みんな死ぬ。

 だったら、自分の死が確定的となり、その内容がむごたらしくなることを承知の上で、家族が生きる可能性を、拡げてやる。


 家族の為に、傷だらけになって、死ぬのだ。

 

 「自分ならやれる」、「それだけ難しい道も、怖気おじけづかずに選ぶことができる」、そんな自信、彼女には無い筈だった。もうとっくに、そんな意地は折れていたと、そう思っていた。


 だけど今は、「やり切れる」と信じている。

 何がなんでも信じようとしている。

 何故だろうか?

 

——()()()

——あんなヨワいヤツにできて、アタシにできないわけが——


 何にしろ、その一連の思索と蛮勇は、全てが無意味となった。


「テメエに訊いてるんだぜ?おい、虫歯のエサの食いカス如きが」


 彼女が拳を握った時、既にグラウが前に出ていたから。


「テメーら……」

「あん?」

「アセってるよなあ……?」


 挑発。

 彼は笑みを浮かべ、自分の倍ほどの背を持つ相手を、真っ直ぐ見返していた。


「ぐっ、グラウ……!?」

「なーんか知らねえけどよお?今この巣、ヤベエことになってんじゃあねえかぁ?」

「……口の利き方がなってねえぞ」


 異常発達した牙を見せ、魔導具の切っ先を突き付け、凄みを利かせる長。

 けれど彼の瞳は、暴虐の眼光をそっくりね返す。


「テメーらぶっツブす、サイコーのチャンス、ってヤツじゃねえのか、これ」

「グラウ、アンタ……っ!!」


 なんとか引っ込ませようとするブリュネに、横顔だけで振り向いて、


「ブリュネ、悪かった」


 彼が口にしたのは、場違いな謝罪だった。


「え……?」

「えらべるってのも、やっぱり、こわいもんだな」


 彼と共に、他の者達も踏み越える。

 ブリュネという存在によって引かれた、見せかけの安全圏、その境界線の向こうに立つ。


「でもやっぱりオレは、こっちの方が良い」


 彼女の背に、そっと手が置かれた。

 隣に並び立ったのは、彼女と同じく無力な、そして誰より大切な半身、ヘルブラだ。


「戦って死ねる方が、ダンゼン良い!」


 ブリュネは、尊厳を独占していたのかもしれない。

 それを振りかざし、家族を苦しめていたのかもしれない。

 



 けれども、彼らが「尊厳」という概念を、忘れずにいられた理由もまた、彼女だった。




 土壇場での危機回避より、知性としての誇りを優先する、理性的狂気。

 それを彼らが選べたのは、彼女があの日、選んだからだった。


「やるぞ、ワルデベソ……!戦争だ……!」

「ま、まけないぞワルモンめ……!」

「お、オイラたちはおこって、おこってるんだからな……!」

「死ぬまで、やる……!」


 巨磐おおいわの長の中で、焦燥が膨らんでいく。


 残飯組全員による、自爆特攻のボイコット。

 これに対し、彼が取れる選択は、二つ。


 一つはここで全員を殺すこと。


 これは、プラスマイナスゼロどころか、明らかなマイナス、損切りだ。わざわざ残飯組をここに呼び寄せて、手間を掛けて殺す。群れの存亡が掛かったこの状態で、無意味なコストを掛けただけで終わり、である。


 もう一つは、徹底的に、言うことを聞くまで痛めつけ、脅し続けること。


 どうしてもプラスを生みたいなら、こちらを選ぶべきだ。だがそれに人手と時間を掛けて、その間にも敵は迫っている。結果的に、一つ目の場合よりマイナスが大きくなりかねず、つまり博打ばくちなのだ。


 どうしてこう、上手くいかない?

 こういうことが起こらないよう、日頃から念を入れて教育してやっていたのに、どうしてこうなるのか?


 彼の手下どもは誰も彼も、長の顔色を見ながら指示を待っている。


——ふざけんな……!少しは自分の頭で考えろボッ立ち脳無ノームども……!


 彼らをそういった“従順な”手駒に仕立て上げた自分の所業は棚に上げ、損得勘定をぶっちぎって、


「ざけてんじゃねえぞ現実もの知らずのガキモグラどもがッ!」


 長はただ激昂した。


「そのきったねえ口、一文字も喋れねえように整形してやるウウウウッ!!」

 

 その言葉を契機として、巨磐おおいわどもの手がワッと残飯組へ伸びる。

 「とにかくこいつらをタコればいいのだ」と、競うように飛びつく。

 生かすか殺すか、そんなこと難しいこと、考えようともしていない。


 このようにして、巨磐おおいわの一族の巣窟、その中枢にて、ノーム達の戦いが始まった。


 「こんなことしてる場合なのか?」、といった冷静な疑問を抱ける者は、


 おりわるくその場に居合わせていなかった。

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