52.上には上が
「はあ……、あのさあ……、頑張る頑張るって、口先の威勢だけはいいけどさあ……?言うだけならさあ、誰でも出来んだよ。舌動かして、ベロベロベロベロゥッ、これでいいんだから。つまり、全然、価値がないわけ。違う?」
「………」
「訊いてんだけど?」
「ち、ちがい、ありません……!」
「言葉より、数字なんだよ、す・う・じ。お前が嘘吐いてないかどうかは、嘘吐けない数字でないと、証明できないわけ。言葉とかどーでもいいの。で?お前、自分の数字見た?目標達成率、ぷっ、35%ってお前……んふっ……やる気あんの?」
「そ、それはしかし……!」
「いや、ないんだろ。つーか無い。これは『無い』ってこと。数字が『無い』って言ってんだから、つまり『無い』んだよ」
「い、いえ、わたしは……!」
「え?なに、“事実”認めないの?お前はホントに『ある』つもりかもしんないし、『ある』って思い込むのは自由だけど、それ嘘だから。嘘吐くのやめな?お前がどんだけ信じてても、無いものは無いの。なーいーのー!」
「つぎは、次こそは……!次の機会を、頂ければ……!」
「『次』ってなに?その言葉嫌いなんだよなあ……。じゃあ聞くけど、何がいけなかったわけ?何をどう改善してくれる感じ?具体的に言ってみ?はい3、2、1どーぞ」
「い、いえ、その、ですね、魔石を……いや……」
「言えねえだろ。そんなんで『成長するから待ってください』?35%とかふざけた数字出して、口を開けば嘘ばっかで、説明してほしいことは『うー』とか『あー』とか、これのどのへんに成長を期待できるわけ?なに?こんなのに期待することを強いるっての?お前は?俺の頭おかしくしたいって?精魂障害にしたいってこと?」
「け、決してそのような……!」
「適当言ってんじゃねえよその場しのぎで。お前の部下も迷惑してるよ。『俺達の上司は35%サマかよ』って。だから部下も実績アゲてくれないわけ。分かる?ん?35%クン?」
「お、お許しを……!必ずや、指定された分を提供させて——」
「オサ!オーサアアアア!!」
「んだよ!今大事な話してるってのが分かんねえのかダラボケが!!」
「オサ!タイヘンだよ!なんか、なんかタイヘンなんだよ!」
「何言ってやがんだ!もっと要領よく喋れねえのかクソ溜まり水道管が!」
「てきっ、テキだっ!」
「なんだと?」
「リカントとか、ドワーフとかが、いっぱい、いっぱいきて、いっぱいコロされてるよおっ!!」
—————————————————————————————————————
坑道内で無闇に火砲を使うことは、推奨されない。
火が燃え続けると、その場に毒気が発生する。その量がポプラーの浄化能力を超過して、毒気の濃度が上がってしまえば、その通路はたちまち、好気性生物皆殺しゾーンと化す。
また、可燃性ガスや粉塵爆発等、思わぬ二次破壊を起こす危険もあり、火気の取り扱いには細心の注意が求められる。適当にぶっ放していいものではないのだ。
また、質量生成機能を持つ魔導具も、不向きと言わざるを得ない。
坑道という、空間の幅や体積が限定された環境では、使う道具が出来るだけ運びやすく、小型化されていることが求められる。
エネルギーだけではなく物質まで生み出す術式は、大型化、鈍重化の原因となるので、この場に適していないのだ。
以上のことから、外敵から身を守る際に自分達の巣の中で撃つ場合も想定して、ノーム達がメインウェポンとして採用したのが、空気を吸入、圧搾してから、放出するタイプの魔導筒だ。
そういったものには、跳弾のような現象が起きにくい、という利点もある。
最初はただの単射ライフル型を作っていたのだが、射程や精密性を向上させるのが難しく、ならばと開き直って破壊力に振ることにした、という経緯から発明されたのが、大量の筒口から同時に噴射する形態、“散空筒”だ。
これは言わば、“空気”というどこでも調達できるものを、弾丸として使う武器。理想的なエコ兵器に思えるそれは、二つの大きな弱点を持っている。
一つは射程距離の短さ。
そしてもう一つは——
グォオオオオオン
グォオオオオオン
グォオオオオオン……!
洞窟内に張り巡らされた金管が、ガラガラゴロゴロと重低音を響かせる。
ノームの巣にありがちな警報装置だ。
その音色に満たされた通路の一つで、侵入者と巨漢ノームの一団が、今まさに衝突を繰り広げていた。
「ガードしろ!」
「ポプラーシールドを前に集めるんだよおおっ!」
「いいからすすめ!はやくいけよ!にげられるだろ!」
「テメエらこそちゃんと当てろ!」
壁役と射撃役に分かれる、巨磐の一族のスタンダードフォーメーション。
この隊列のまま前進し、敵側の前衛を食い破ってやる、というのが彼らの得意戦術。
だが現在、先頭集団が横並びにタックルを繰り出すも、至近戦の間合いに辿り着けない!
原因は、正面から地面と平行に打ちつける、鉛の土砂降り。
釘の形をしたそれら一滴一滴がシールドにぶつかる衝撃で、僅かに押し返され、追走を減速させている。
しかもそれを放っている奴らは、その雨を1秒たりとも絶やさぬようにしながら、巨磐どもが接近した分だけ離れていく。
壁役達はただただポプラーを消耗させられ、その色が赤に変わった箇所から、順次釘の先に食い込まれてしまう。
その傷が更に彼らから速度を奪っていき、そうなるともう届きようがなくなる。
後衛組も射程不足のせいで、いつまでも有効な攻撃が出来ない!
「前だよ!こっからうってもコロせねえんだよ!」
「まて!まってって!オッ、オイラのポプラーもうダmぐああああっ!!」
「うわああっ!たおれるなっ!当たるだろオレたちにぃっ!!」
壁に欠けが生まれ始め、焦ってエアスキャッターを乱射する巨漢ノーム達。
厳密な話をするなら、彼らが持っている魔導筒の中には、圧搾空気で矢を飛ばすボウガンタイプもある。それならばこの距離でも、「急所に当たれば」敵を殺し得るだろう。
だが敵側から押し寄せる、反対側が見えなくなるほど通路内に満ちた弾幕のせいで、狙った場所に飛ぶ前に弾かれることが大半。
矢弾を手動で装填しなければならないこともあって、連射性能が低いそれでは、「数撃って当てる」という手段も、机上の空論とならざるを得ない。
まとめると、今彼らが闇雲に撃ちまくっている弾、その全てが「無駄撃ち」である。
パニックに陥った戦士は、魔導筒の引鉄を、とにかく引きっぱなしにしがちだ。少なくとも自分が撃っている間は、相手がこちらを狙うことを抑止できる、安全な時間だと思えるから。
彼らは安心しようとして、トリガーを引き続けた。そういう後先考えない攻撃によって、エアスキャッターライフルのもう一つの弱点が露呈する。
「うてよ!おいボケッとしてんなカスゴミッ!」
「空気が出ねえ!出ねえんだよ!」
後衛組の一人、また一人が、攻撃などそっちのけで、筒身の下にあるハンドグリップをガシャガシャと前後させる。何をやっているのかと言えば、ポンプを作動させて空気を吸引させているのだ。
襲撃者、ドワーフ達が撃っている魔導筒、鉛の釘を圧搾空気で放つ“噴杭筒”は、半自動方式だ。
彼らの体に巻き付けられた釘の弾帯と、魔導石をセットすれば、後は術式が空気調達と次弾装填をやってくれる。
反面、弾帯が無くなった時に新しいそれをセットし直す、そこに大きな隙が生まれるわけだが、ドワーフ達は「腕が4本ある」という身体的特徴でそれをカバーした。
それぞれが2丁ずつを持った上で、片方を2本でリロードしている間、もう片方を別の2本で撃ち続けているのだ。
対してエアスキャッターライフルには、手動での外気供給が不可欠。
なぜ作動方式が異なるのかと言えば、弾頭が「空気そのもの」か、「空気で飛ばしたもの」かの違いが、必要な空気量の差を生んだから。
一回撃ったあと、グリップを3、4往復する、という手順を繰り返せば、魔導石の交換だけで、射撃を長期的に続けられた。だが巨磐どもはさっきから、とにかく撃って撃って撃ちまくることしかしていなかった。
その結果、彼らのライフルのほとんどが、一時的にだが単なる鈍器と成り下がってしまう。そして当然、襲撃者達はそれを狙っていたのだ。
「あがっ」
「おいなにして……な、なんだお前!?」
「うしろだあああ!!」
「はあ!?なにいってんだ!」
意味がよく分からない絶叫に混乱する彼らの陣形の中、オレンジ色に熱せられた刃が弧状の残光を引いている。
黒に近い薄暗さをバックに流れるような乱舞を魅せるそれは、大道芸やサーカスが披露する松明ダンスショーか、或いは長い帯を靡かせて回る踊り子めいていた。
シールドの守りを前方へ偏重させていた巨漢ノームが、背から心臓を穿たれ、後頭部を割られ、頸椎を砕かれていく。一体につきほぼ一撃の、無駄のないナイフ捌き。
巨磐どもはいつからか、挟み込まれていた!
「ヒィイイイイ!!」
「ガボォッ!!」
慌てて撃った一発が味方の脇腹を抉り、そこからは崩壊が止まらなくなる。後衛の恐慌が前衛にも伝播し、進行は完全に停止。後は外側の両面からも、内側からも圧潰していくだけだった。
「ハッ!なるほど良い腕だなァっ!」
群れでお揃いの仮面を被り、戦場特有のハイ状態になりながら、ドワーフのリーダーが笑う。その言葉は、牙猟連盟のドーベルマンに向けたものだ。
幅広の両刃短剣が、中ほどから片側の刃の方へ、折れ曲がったような形状を持つナイフ。それを相手集団のど真ん中で振るいながら、敵味方どちらの攻撃も掠らせていない。
ドワーフ達が注意を惹き付けながら後退し、予め掘っておいた窪みに隠れたそいつが、前のめりになった敵陣の後方を突く、という作戦が上手くハマったというのもあるが、にしたってそいつの手際は「鮮やか過ぎ」と言ってよかった。
「牙辣に磨き上げられてただけはあるってか!頼もしい限りだ!」
かつての戦友の置き土産が、思った以上の傑作だと知ったドワーフは、
吠えるような笑い声を上げながら、キルカウントをまた一つ加算した。




