51.狩り
巨磐の一族。
幾らノームという種の域を超越し、鋼の身体を手に入れたとは言え、彼らもまた単なる生物であり、食わなければ生きていけない。
なので、森の中に狩りに出かけて、そこらの獣や野草を採ってくるといった、神秘性や異常性をカケラも感じさせない、所帯じみた習慣を持っている。
元来争いを好まないノームは、罠を作って待ち伏せし、掛かった者を囲んで叩く、絶対的優位からの狩猟法を採用していた。
一方、弱さを克服した巨磐どもは、自らより大きな獲物に食らいつく肉食獣の如く、追いかけ、殺し合い、勝ち取るものへと、やり方を変化させていた。
元々種として優れていた連携力や、ポプラーという守りもあって、生存闘争において負けなし。犠牲者が出る方が稀という絶好調ぶり。
また、長の目が届かない巣の外で息抜きできる、貴重な時間であるということも、見逃せない。
かつては貧乏くじだったお役目が、ノビノビ運動した後につまみ食いもできる役得の塊として、今や一番人気。
その日の担当となった彼らも、塒から離れてむしろリラックスしていた。
自分達の肉体を思う存分に躍動させ、血肉の鉄臭さを全身に浴びる。
素手で命を奪うことで、感触を楽しむ者まで出る始末。
さながら大自然の中で行われるスポーツ、その最中に、一人が見慣れぬものを見つけた。
「おおい!おい!みんな!きてくれよ!」
5、6人ほどで囲んだのは、腐葉土のベッドの上に倒れている、フードを目深に被った異種族の女。
「あの肌の色って……ダークエルフか……?」
「エルフのクニって近いんだっけか?にげてきたのかもな」
「なっなっ、エルフ系の女って、高く売れるって聞いたことあるぜ……!」
「ニクとかホネとか、クスリになんだろ?」
「みやげが増えたってわけだ。うっし、いっしょに持ってかえって——」
「ペイル」
気絶していたように見えた彼女の、2枚の花弁の如き唇。
そこから一言、名前か、或いは術を発動するパスコードらしきものが唱えられ、
彼らを囲むように、水の壁が立ち上がる。
「んなあっ!?」
「おい!ヤバいぞ!」
「なんだなんだ!」
「おーいッ!敵だあーッ!」
異変を察知するとその場で出来るだけ大声を出すのは、ノームの遺伝子に刻まれた行動パターンである。
けれどそれらの警報は、ドーム状になった水の檻に吸われ、そこから外の空気に出ようとするも撥ね返され、仲間達には届かない。
そうとは知らずに他の者へ呼び掛けながら武器を構えようとした彼らの上から、小さな影が幾つも降って彼らの急所をほぼ同時に貫き、傷の内側で衝撃波を炸裂させる。
巌のような巨漢達が、2秒も掛からず皆殺しにされた。
「ロトの言ってた通りね」
水の幕を下ろすと、討ち漏らしを片付けていたハピノイド、ウィリ=デが合流した。
「警戒心が薄い平時だと、ポプラーのシールドを薄く全体的に張っているだけだから、一点集中型の攻撃には弱い」
組合が寄越した職員は、同じノームということもあって、適切な殺傷プランを用意してくれていた。何かに触れたり、拾ったりする際、強く干渉しないよう、シールドの効力を弱めるという情報も、極めて有用なものだった。
「ノームの人材なんて、よく確保したもんよね、組合も。フツーは森に引きこもってるレア種族なのに」
ナイフを抜いて血を拭き取りながら、雇い主たる組織の層の厚さを賞賛する、大耳ネズミの女リカント。
切っ先の方から見ると、中心となる一点から三方向に直線が伸びた形となる、“三稜剣”と呼ばれる刃。それを螺旋状に捻じった彼女の得物は、魔導能力による治癒すら遅らせるほど、酷い状態の傷口を作れるが、そのぶん手入れが面倒であるようだ。
「そんなことよりも、誰か一体は生け捕りにしろと、そう伝えておいた筈ですが。頭に付いているその器官は、実は翼か何かでしょうか?だとしたら仕方ありません。鳥頭から進化していないだけでしょうから」
ダークエルフ、エメリアが棘のある声で咎めるも、ネズミ女はどこ吹く風。
「『出来れば』、でしょ?初めて戦う種族相手にいきなり手加減なんて、わたしがそんなウス寝ぼけたクセ持ってたら、いまごろクマとかオオカミとかのクソになってるっての!そーゆーのはもっとムサくてタフな……あいつらみたいなのがやること!」
そう言って指差した先から、肉食獣に近い知性体達の集団、つまり牙猟連盟に属するリカント達が、ズルズルと変異型ノームを引き摺ってくる。
「“案内役”を雇った」
先頭を行くドーベルマンが、酒場の予約でも取ったような軽さで報告した。
「人数は?」
「2体」
「ドワーフの方は?」
「殲滅を滞りなく完了させたようだ」
突入前に削れる分は、これで獲りきったと見るべきだろう。
相手に脅威を悟らせずに、巣をこれ以上手薄にするのは、恐らく困難である。
と言うことは、これで「準備が整った」のだ。
「ならば速やかに済ませましょう」
外套の裾を翻し、事前に共有された目的地へと急ぐエメリア。
その褐色の肌を、川底から拾った冷たく滑らかな石の如く感じさせるほど、いかなる時も平然とした様子を崩さない彼女だったが、もしかしたら強い心配の念があるのだろうかと、印象を改めるウィリ=デ。
この仕事への参加を強く希望していた、という話を思い出し、意外と従者想いなのかもしれないと、黒マスクの下の口角が、自然と上がっていくのだった。




