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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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48.落とし前 part2

「去る8の月、第24日、我々冒険業支援協同組合キャドマス支部屋舎、及びキャドマス第1初等教育施設が、未確認の敵性知性体から襲撃を受けました。その際、複数の死者、及び行方不明者が出ております」


 彼女が話す間、他の職員が紙の束を一人ずつに配布する。1枚(めく)ると、ピントのズレた写真画像が印刷されていた。強靭な巨躯を持つ、変異型ノーム達。

 彼らの狙いの本命は、恐らく組合屋舎、ではない。


「特に問題となるのが行方不明者です。彼らはほとんどが未成年であり、『敵がそういった者を狙って生け捕りにしていた』、という証言も多数出ています。つまりこれは組織的な略取りゃくしゅ事件であると、そう考えることが自然でしょう」

 

 勿論、ここニキナフ大陸において、女子供が略奪されることなど、しょっちゅうである。では今回のケースの何がいけなかったかと言えば、それらの“持ち主”がエネクシアだったことだ。


「敵の正体が何であれ、一つ瞭然りょうぜんとしていることがあります。彼らは身の程知らずにも、エネクシアにおける力の集合体、秩序そのものである我が組合を攻撃し、出資者様方の投資対象である“児童”を強奪ごうだつしました」


 「エネクシアの財産を、著しく侵害した、ということです」、その言葉で立ち昇った熱気が、室内を僅かにひずませる。


 組合の運営資金は、直接、或いは間接的に徴収された、冒険者達の金である。それに手をつけるということは、エネクシア内の論理においては、ある意味で人殺し以上に重い罪。


 「出資者」とは、素直に受け取れば豪商達だが、

 より広い意味で言うならば、全冒険者のことであるのだ。


「よって今回、奪われたものを可能な限り回収した上で、許されざるほどに愚かな咎人とがびと共に、正当なる罰を与えるべしと、そういったご命令を組合本部から頂きました。その実行役として、皆様にお声をお掛けした次第でございます」

 

 組合員は守りのかなめである。他領に侵攻することになった際、纏め役や監督員、連絡役として同行する場合もあるが、彼らは本来、領内の社会を回す為のリソース。


 矛としての役は、主に民間冒険者が担うことになる。

 エネクシア草創期から続く、傭兵戦力運用システム。

 

「こちらにいらっしゃいますのは、戦闘力派遣サービスを設けている商会の中でも特別な、Aスコアの冒険者を代表とする優良信用認定団体の連絡員である方々、及び、襲撃時に目覚ましいご活躍を遂げたお二方ふたかた


 同じ作戦に従事する上で、互いの腕は信用していい、と言いたいのだろう。実際、室内に居る誰もが、そこに居るのが強者揃いであると、そう嗅ぎ取っている。


 正体不明のノームからの“資産回収”という、困難な商売における提携相手として、申し分ないと言えるだろう。


「無論、拒否権はございます。ご希望頂ければ、当該組織はこの場から御退出頂き、参加していなかったこととなり、信用スコアにも傷はつきません。ただしその場合、今この場で申し出て頂くこととなります」


 「あの変異型ノーム」自分から希望したウィリ=デやエメリアと違い、各商会には事前の打診があった。商会としての方針を出す時間は、十分に設けられていたと言える。


「へんっ、よく言うぜ……」


 「ノーリスクなんて嘘だろう」、という含みを持ったボヤきが聞こえてか聞こえずか、兎の職員はドワーフへとニッコリ微笑みかける。


 「信用スコア」という“記録”は傷つかない、そうだろうとも。

だが組合内部の、今回の案件を担当する者達には、「どの団体が組合の要請を断ったか」、その“記憶”が残ることになる。


 記憶は噂となり、時には尾ひれがついて、人と人の間を泳ぎ回る。

 それによって、組合職員全体から薄っすら“要注意”扱いされれば、今後の信用スコアの判定が厳しくなることも、容易に考えられ得る話。


 また、組合内にコネクションを持つ有力商人達に、「エネクシアの為の仕事を蹴った」という情報が、人づてで洩れる可能性だってある。取引先にマイナスイメージを持たれてしまえば、目も当てられない。


 組合は歯車で動く計算機ではなく、人の集まりだ。「中立」、「公正」、「秘密厳守」といった建前と実状との間には、必ず乖離が生まれてしまう。

 

 ゆえに余程の事が無い限り、こういった緊急要請は断れない。話を持ち掛けられたのが、業界でも有力な団体であるのなら、なおさら話を蹴ったりしないだろう。

 

 ちなみに、増長した組合に酷い要求をされた、と訴え出る制度も存在するが、今回それを利用する者は居ないようだった。


「皆様のご同意が頂けた、という認識でよろしいでしょうか?」


 それぞれが無言のまま軽い仕草で意思表示し、それを受け取った職員は満足げに両手を打ち鳴らす。


「ご協力大変感謝致します!それでは!詳細を詰めさせて頂きましょう!」


 「お入りください!」、彼女の呼びかけに応じて、会議室の扉が開く。入ってきた小柄の男は、黒服の合間から黒緑の肌と、青く光るタトゥーめいたラインを覗かせる、赤ん坊のような柔らか体型。


 赤みが強い焦げ茶の後ろ髪を、オールバックに掻き上げて、頭の後ろで纏めている。


「こちら、変異型ノームの巣の場所を特定した、本組合支部土木関連部門開発課所属のロトさんです!」


 その壮年男性の外見は、彼らが思い浮かべる典型的な「ノーム」、そのものだった。


「よろしく。当日は私が組合代表として同行する」


 その堂々とした肝の据わり方は、イメージから外れるものだったが。


「なあ!巣を見つけたってことはよ!」


 上側にある右手を挙げるドワーフ。


「中の地図が出来てたりすんのか?」

「申し訳ないが、それは断念した」


 その表情からは、とても「申し訳ない」と思っているようには見えない。


「どれだけ変わり果てていたとしても、奴らは『臆病者のノーム』だ。向こうに異常を察知させずに、それほど深い偵察をすることは、不可能だと判断した。強行すれば、最悪奴らに追跡を勘付かれ、逃げる余地を与える」


「つまり下見ナシのぶっつけ迷路探索、ってわけだ。楽しそうだな」


 楽な仕事などないものだ。

 その教訓を得るのは、ドワーフの短い人生において、何百回目かのことだった。

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