47.衝突 part2
「アタシ、がんばってたのに……!家族を守ろうって、みんなのために……!」
「ほら!それだよ!そういうところに、ジマンがあるだろ!」
「ちがう!アタシはそんなこと思ってない!」
「ぶ、ブリュネ……、やめよ……?」
「おいグラウ、もういいだろ?な?」
「うるさい!死なないためにアワててるオレらを見下してんのは、コイツだ!」
「アタシのこときめつけないでよ!アンタがカッテにキレてるだけじゃん!」
「ブリュネ……!ねえってば……!」
「グラウ、ブリュネにそんな気はないって……」
「オマエらもオマエらだ!」
グラウさんの指弾が、他のみんなにも向く。
「分かってんだぞ!」
「な、なにが」
「オマエらがブリュネとヘルブラの言うこと、すなおに聞いてるの、女の子にほめてほしいからだろ!ジマンがなかったから、代わりに『女の子にモテてる感じ』がほしかったんだろ!」
「は、はあっ!?なにわけわかんないこと……!」
そこで、室内が不自然なほど静まり返った。ブリュネさんが彼らを見回し、
「え……?え……?」
混乱の極致、という声を出してから、ヘルブラさんを振り返る。
「ヘル、ブラ……」
「………」
「そう、なの……?ヘルブラは、気付いてたの……?」
「ごめん……」
愕然として、口を閉じることもできなくなったブリュネさん。
彼女の中で何かが崩れ落ちた、そんな音が聞こえるようだった。
「オマエ、自分がユーノーだから、カリスマ的なモンがあるから、みんなのリーダーになれてるって、そう思ってたんだろ」
「………」
「ジマンに思ってたんだろ?『コイツらとはちがう』って」
「………だもん」
「なんだよ?」
「ウソ!ぜんぶウソだもん!」
俯いていた彼女は、再度彼へと怒鳴り、言葉で責め立て始めた。
「うそうそうそ!アンタがウソついてる!」
「んだと……?」
「どーでもいいこと気にして、ありもしないハズかしさ感じてるだけ!みんなアンタに引いてるからダマってるの!」
けれどそこからは、筋道立った反論ではなくなった。
ただの感情的暴力だ。
「オマエ……!」
「えらべなかったぁ!?しらない!しらなーい!そんなのアンタのカッテじゃん!アンタがえらばなかっただけじゃん!」
「な……!」
「モテたいってのもなに?みんなにモーソーおしつけてさぁ!あ!もしかしてモテたいのアンタだった?ゴメンだけどアンタはゼッタイムリだから!」
「ブリュネ……!」
「アンタ、言いわけしてるだけじゃん……!アンタみたいなヘタレは、えらべる時がきても、なぁんにもえらばないで、『えらべなかったぁー』とか泣きごとゆっちゃうの!」
ブリュネさんがグラウさんを挑発するように、前傾姿勢で顔を目いっぱいに近づけて、
「何回やり直しても、どんだけチャンスがあっても、アンタの今は変わらなぁい。ウスギタナイ“残飯組”」
囁くようにそう言ったところで、彼が彼女に掴みかかった。
「ブリュネえええええ!」
「なによ!クソガキ!言いかえせないからって!」
二人は揉み合いながら僕の方に、備品置き場の方に転がり込む。そのまま叩き合い、殴り合いつつ、マウントポジションの争奪戦を繰り返す。
「ちょっ、えっ、あっ」
「ブリュネ……!グラウ……!やめてよ……!」
「な、なあ、とめないと……!」
「ど、どどどっ、どうすればどうすればどうすれば……!」
喧嘩は激しさを増していき、砂を掴んで顔にぶつけたり、手近な道具を投げたりして、そのうちに小さいスコップや杭を手に取り、どちらからともなく激情に任せて相手へと突き立て、
黒緑の体表が赤く汚れ、切っ先が骨とぶつかる音が木霊した。
「あ……っ!ああ……っ!」
ブリュネさんとグラウさん、どっちの声だろうか。
彼らは血を見て頭が冷えたのか、凶器から手を放して後退る。
「や、やった……!」
死ぬほど痛いけど、でも、動けた。
見ていることしかできなかった、ドワーフの砦の時とは違う。
今度は間に合った……!
「ユイト……!」
「なに、やって……!?」
「ふっ、二人とも、さ……」
スコップと杭を抜くと、粘っこい液がドバドバ流れ出した。それを見てクラついたところで、ヘルブラさんが体を支えてくれる。
飛んで行きかけた意識を引き戻しながら、頭の中の引き出しから、適切な言葉を急いで漁った。
「恥ずかしいとか、みんなの為とかは、分かるけど、」
そう言うなら——
「とりあえず、一旦、周り、見よう……?」
二人はそこで、みんなの方を見る。
酷く怯えた目をした彼らに気付いて、そこでどちらも震え出した。
逆上状態が終わり、自分が何をするところだったのか、それを実感として理解し始めたのだろう。よし、そこで後悔できるなら、修復不可能じゃない筈だ。……いやこっからどうすればいいのかは全然分かんないけど。
「グラウ……、アナタは、たたかってる……」
ただそこで、ヘルブラさんが引き継いでくれた。
「生きるために生きる……、それは命の使命……、ハズかしくない……。それをしながら、それでいいのかって、考えるのはすごいことだし……、不満をおさえて、協力してくれるのも、ありがとう……」
「あ、ああ、その……」
「でも、今までかくして、いきなり全部言って、『分かってくれない』は、フェアじゃない……。ブリュネが言う『家族』は、本心だから……、もっと相談して、いいと思う……」
「そ、うだよな……、わるい……、カッとなって……」
「ん……」
ヘルブラさんは彼の頭を、ポンポンと優しく叩いてから、ブリュネさんの方を見る。
「ブリュネ……、アナタは、ガンバってるし……、家族を助けたいのも、本当……。できることをやろうって、たたかってきたのも、私は、ずっと見てた……」
「………」
「でも、それなら……、自分が思う、『家族にとっていいこと』、だけじゃダメ……。みんながうれしいことは、みんなに聞かないと、分かんない……」
「う、うん……」
「それと……言い負かされそうになったら、悪口で、なんとかしようとするの……、本気でハズかしいから、やめて……」
「はい……、ごめんなさい……」
「ん……」
彼女にも同じようにしてから、ヘルブラさんは二人を抱き寄せた。
「みんなで、生きよう……?」
「うん……、うん……!」
「仲良く、力を合わせて……、いつか、ここから出よう……」
「う、ん……!」
「ごべん……!グラウ……!アダジ……!」
「ごめんな……!オレ、オレあんなこと、するつもりじゃ……!」
他のノーム達も集まってきて、言葉少なに、二人を輪の中に迎え入れる。そこかしこから、啜り泣きも聞こえてきた。
は、ハラハラしたー……!
どうにか、一件落着、だろうか。
状況は、でも言うほど好転はしていない。
彼らはこの暗がりに押し込められ、蜘蛛の糸は見つかっていない。
でも今は、そんなことより、彼らが「家族」のままでいれた、そのことを喜ぼうと思う。もうあんな悲劇は、目の前で見たくなかったから。
と、微笑ましく思っていたら、僕に一番近い一人が、顔だけこっちに振り返った。
「……?ヘルブラさん、どうしたの……?」
「……アナタも……」
「え?」
「アナタもちゃんと、ゼッタイ、家族に入れるから……」
透き通った琥珀みたいだった瞳は、そこがちょうど光量が足りてない場所だったからか、黒ずんだ不透明色に変わっていた。
味方扱いしてくれた、ってことで良いのだろうか?
とりあえず、エレノア様の戦力が増えたんだって、前向きに捉えておこう。
「あっ、ありがとう、ヘルブラさん」
「……ゼッタイに、家族にするから……」
「あっ、うん、ありがとうね、ホントに」
「だから、『さん』は必要ない………」
それだけ言って彼女は、頭の向きを前へと戻し、
ポプラーで赤く色づく頬を、僕の視界から隠してしまった。




