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最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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4.基本的な認識の確認 part2

 さて、話を先に進める上で一番高そうだったハードルが、あっさり突破できてしまった。それなりに嬉しい誤算だ。


「つまりですね、僕はこの世界、セラについて、ほとんど無知なわけなんです」

「どうやらそのようですね」

「だから常識が無くて、見たものを見たままで受け取っていいのかも分からない、と言いますか………」


 先程のマスコミっぽい人達との一件もそうだ。

 あれが本当に報道関係者なのか、エレノア様を責めていたのか、責めていたとして、そこに法的、倫理的な正当性はあるのか、等々、僕視点だけじゃ断定できないことだらけ。


 元の世界でも文化とか経緯とか、背景情報を知ってるかどうかだけで、感じ方が180°変わることなんて、幾らでもあった。場所どころか世界が変わったら、価値観は盛大にズレるだろう。


 さっきの光景に違和感があったとしても、それは「正しくないこと」だからなのか、僕が物を知らないだけなのか、判定できない。


「そういう意味で、『最初から』教えて欲しいんです。エレノア様は、何か罪に問われているんですか?それは社会的にどんな意味を持つ行為で、どこまで実際にやったことなんですか?そして今、それが理由で、何かを強制されてるんですか?僕を買ったことと関係が?」


 舌が上手く回るのは心地が良く、調子に乗って少し捲し立て過ぎた。鬱陶しかっただろうか、という不安が昇ってきたけど、エレノア様はと言えば、


「ほう、ほう、ほう……?」


 何故だか、明らかにさっきまでよりも強く、僕に関心を寄せていた。


「お前、もしや」

「……な、んでしょう……?」

「それなりに“話せる”側ですか」

「はい……?」


 ミルククリームのようになまめかしい白と、宝石と見紛う上目遣いが、突然視野を占有する。


「い゛……っ!?あの……!?」


 音もなく自然な動きで隣に座った彼女が、鼻の頭同士がくっつきそうになるまで、距離を詰めてきたのだ。


 口の形すら見えず、花屋で漂うような甘い香りが届くほどに近くて、柔らかさが潰れる感触が腕を襲い、脈拍の熱暴走が悪化する。


「己の認識や直感の前に、社会や地理といった環境的構造が先んじている。それを意識できる者は、そうは居ません……」


 ひそひそと、ナイショ話をする控えめなトーンなのに、その吐息を感じれてしまう。口にかかったそれを、そのまま呑み込んでいる感触はまるで、喉奥へと指を突っ込まれ、肺を握られるような気分。


「それほど高度な教育を施されている、ということは、さぞかし高貴な家格の出、でしょうか?」


「いや、それは……っ!」


 色ボケし始めていた脳が危機感から瞬時に冷却された。


 エレノア様から僕への期待値が上がってる気がする……!

 こんなの、「多様性」とか「グローバル化」とか、耳にタコができるくらい聞かされた文言の受け売りだ……!


 そういう俯瞰視点に自力で到れるほど、僕は賢くも思慮深くもないのに……!


「く、国の人が頑張って、誰だって、それくらいになるように、してくれてるだけで……!僕は普通の、う、小市民、です……!」


 「失望されたくない」という思いが、予防線と同時に見栄を張らせた。

 正しくは、「普通未満の害悪」だ。


 テストの点的なことはともかく、健常なコミュニケーションという観点から言えば、「人間社会の構成員として失格」、そういう評定を与えられている。それが実態。

 そのことを咄嗟に隠してしまった、浅ましさに反吐が出そうになる。


 昔、上手くいっていない人が小人の国に迷い込んで、自分のダメさ加減を隠しながら英雄になる、みたいな筋の映画を見たことがあった。やってることはあれと同じである。表面的に隠したところで、腐った性根からは逃れられないのに。


「その野ネズミみたいな怯えようを見るに、どうやらそのようです」


 幸いにもと言うべきか、エレノア様が僕を超エリートとして見積もった様子はなかった。

 身を引いた彼女は、飽くまでよくいる凡人として、僕と接してくれている。


「それにお前は、上流階級の人間であれば、当然避けるべき誤謬に陥っている」

「えっ」


 早速ボロが出ていたらしい。一体どこを間違えたのだろうか。


「我々、高く尊き階層、利害に雁字搦がんじがらめになった者達にとって、言葉とは裏を読むもの」


 彼女の下まぶたが、回し車で延々と走るハムスターとか、そういうチビで愚かな動物を愛でるみたいに、形を山なりに変えた。虹彩から放たれるのが、妖しい黄色のみになる。


「私がお前に嘘を吹き込む、その可能性を考えない脇の甘さこそ、取るに足らない小物であることの証左」


 肉食獣や猛禽類が、人の悪い笑みを浮かべるみたいに。


「あ、それは別に良いんです」


 ただ僕は、その点に関しては拍子抜けしてしまった。


「………?『別に良い』?」

「はい。エレノア様の都合の良いように教えてください。それで……あ、でも、」

 

 彼女が話したくないことは話さなくても……的なことを言おうとして、だけどすぐに毎度おなじみの短慮に気付く。


「恩を返すなら、辛いものでも現実を知らせてもらった方が、ちゃんと協力できるから……、いや、そもそも僕がそこまで頭を回そうとするのって、おこがましいのかな……?そういう判断はエレノア様側が……うん?でもそれはそれで無責任じゃないか……?」


 マズい、混乱してきた。これはどっちが正解なのだろう。どれが最も、彼女の為になることなのだろう。

 「間違えたくない」って、前置き時点で頭を回し過ぎるのって、僕が現代っ子だからなのだろうか。


「ユイト、お前、何か根本から、食い違っていませんか?」


 勝手に袋小路に追い詰められていたところで、エレノア様からのツッコミが入った。うん、それはそうだと思います。察しが悪いコミュ障なので、なんかズレててもおかしくないです。


「私はお前を助けたのではなく、道具として使う為にあがなっただけです」


「はい」


「………」


「………」


「………?」


「………?」


「……私の言っていること、理解していますか?」


「えっ、あっ、はい、たぶん?」


 えっ、ごめんなさい、本当に分かんないんですけど、今コレ何を問われてます?


「恩を売った憶えはない、と言っているんです。お分かり?」

「あっ!そ、そうですよね、すいません。お役に立ちたい、恩返しがしたいって、一方的に僕が思ってるだけで……、いきなりそんなこと言われても、キモいですよね……」


 今度は上の目蓋がスッと落ちて、見えている部分の瞳が緑色のみになる。光の反射が遮られるせいか、暗くて深い印象を与えるそれは、なんだか怒りの表出に思えてしまい、ガチガチに恐縮しそうになる。


「あっ、そのっ、」

「謝罪より先にこの私の質問に答えなさい。急に寄る辺の無い異郷に放り出されて、現在は私に身柄の自由を制限されているお前が、私に恩を感じると、そう言っているのですか?」

「え……はい……」


 そりゃいつかは帰りたい。


 僕がここに来てから、かなりの月日が経ってる筈だ。お父さんとお母さんも心配してるだろうし、それ以前に僕が二人を心配している。あの巨人が来襲した結果、あの付近にどれだけの被害が出たのか、想像するだに恐ろしい。


 だけど、彼女からこんなにも受け取っておいて、それへのお返しを考えなくていいかと言えば、そうは思えない。

 ダメ人間を自認する僕でも、流石にそこまで不誠実ではないつもりだ。


「私がお前に、何を与えたと?」

「そりゃあ……」


 ………ん?あれ?

 確かに言われてみれば、具体的に何を貰ったかって話になると、難しいな……?

 

「えっと……、ほ、ほら、鈍器で殴ってくる人から、遠ざけて、あー、安全を……」

「今私の頭は、戦場におけるお前の用途を考案中ですが?」

「う、うーん……」

 

 それを聞いても、やっぱり心は変わらない。確かに彼女は、僕に何かをくれたのだ。


「………」


 エレノア様はそこで、アームグローブ越しに自分の両手を見下ろし、


「マナが漏れている……?」


 低い声で呟いた。


「マナが?どういうことです?」

「ユイト、お前に問いましょう」


 彼女は僕の質問には答えず、逆に訊ねてきた。


「私を見て、どういった感情を抱きますか?」

「………ゑ゛゛っ?」


 反射的に目を逸らそうとしたけど、


「私から目を逸らすな」


 手の甲で頬を軽く叩かれ、顔の向きを戻されてしまう。


しかと向き合い、包み隠さず正直に答えなさい」


 えー………


 僕は彼女を、改めて観察する。結論は疑うべくもないけれど、ダブルチェックは大事だって言うし。


 レースのカチューシャ状ヘッドドレスで装飾された、銀白色ぎんはくしょくに輝く髪は、頭の後ろで二つに纏められ、その先は腰あたりにまで届くほど。余った襟足が、それでも背中あたりまで伸びているので、相当長くて豊かな御髪おぐしだ。


 あどけなさを感じさせる童顔。だけど切れ長の釣り目は、とげとげしく張った霜みたいな睫毛で縁取られて、大人びた怜悧さをも見せつける。そういった二面性のバランスを崩さないよう、職人が慎重に配置したみたいに、尖った耳も含めた顔パーツ、それら全ての均整が取れていた。


 体のラインにぴったり沿った、イブニングドレスみたいな服の、ベースの色は白だと思う。テラテラした光沢と、ラメが入ったようなギラつきがまぶされていて、角砂糖を彷彿とさせる。


 ホッブル・スカートの横が動きやすく展開するようになったバージョン、みたいなものに包まれた長い脚は、シルクめいた白いソックス?タイツ?を着用。その先を辿って降りれば、銀色のブーツが待っていた。


 ガラスの精みたいな透明感を持ち、露出だってほとんどないのに、8の字に近い体型もあって、全体として煽情的な仕上がり。


 彼女は一応、別種族の筈なんだけど………うん。やっぱり感想は変わりませんでした。

 これ、言わないとダメ……ですよね、はい……、大人しく白状します……。


「………キレイ………だと思います………」


 なんならちょっと、いやかなり、“思春期的な”、汚い目で見てしまってます……。

 なんで僕羞恥プレイみたいなの受けてるんだ……?


「……そういうことですか」


 エレノア様は半目となって、またしてもくらい緑色を覗かせる。

 きっと僕に呆れているんだろう。


「まあ、使いやすいと言えば、使いやすいので、このままで良いでしょう」


 うん?あれ?何故か納得したご様子。って言うか今の、何を確かめる儀式だったんだ?僕がそれを訊く為に口を開いたのと、




 走行中の馬車が爆撃されたのは、ほぼ同時のことだった。

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