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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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46.命綱

 片手サイズのハンマーといしのみを持って、ロープを巻いたブリュネさんが降りていった。

 

 彼女とグラウさんを繋いでから、通れるくらいまで穴を拡張。その後に道具をグラウさんにパスして、足を挟んでいる岩を彼自身の手で削る。そういう作戦になった。と言うか、それしかなかった。


 その為、彼女のポプラーの浄化機能も復旧する必要があり、だから事前に出来るだけ血を吸わせることになった。ちなみにそのせいで、僕は2回も手首を斬られる破目はめに。


 今、暗い穴の奥で、黄色のラインが彼女の姿を、ぼんやりと浮かび上がらせている。蛍光色の反射材を身に着けた、交通誘導員さんが、海底へと潜行していってるみたいだった。


 ここから先は、彼ら熟練者の領域。

 その様子を覗き見ながら、痛みに耐えている以外、僕に出来ることはなくなった。


「治さ、ないの……?」


 声の方を向くと、思ったより近くに顔があった。


「ん゛…っ!?」

「あ……」

「ご、ごめ……、ぐ……う……!び、びっくり、しちゃっ……ぐぬ……!ぎ……!」

「うん……」


 元は水色か青色だったらしい、くすんだ左サイドテール。他のノームと比べると、体色は若干だけど薄く、顔や体のシルエットは気持ち細め。ノームの第一印象はたいてい「丸っこい」だけど、彼女の場合は「シャープ」という表現が浮かぶ。


 だけど愛用している魔導具シャベルは、彼らの中で最大のものだから、見てくれは非常にアンバランス。


 いつも脱力した半目で、その瞳の面積の6割以上が、表に出ているところを見たことがない。坑道内だから見づらい上に、顔色の変化にも乏しいから、感情を読むのは難しい。


 でも今の彼女が、なんだか気まずそうにしていると、どうしてかそれは察することができた。ノームという種族そのものに慣れてみると、案外顔に出るタイプだったのかもしれない。


 ま、分かったところで、僕にはどうすることもできないんだけど。ただでさえ会話が得意な方ではないのに、今は普通に喋るだけの余裕すらない……いだいいだいいだい!!定期的にぶり返してくる……!


「フゥー……!スゥー……!フゥー……!」

「………」


 表情筋をできるだけグネグネ動かして、なんとかまぎらわせようとする。お腹を壊した時みたいに、「早く時が過ぎて欲しい」と思いながら、寄せては引いてまた寄せる、激痛の波に翻弄される。


 そんな地獄巡りみたいなことを、何分だか何十分だか続けていたところに、


「ねえ!ヘルブラ!」


 下からお呼びがかかる。


「もう1コちょーだい!しぼりきっちゃったみたいなの!」


 僕はそこで、気合で止めていた左手の再生を開始させる。

 暴れる獣を入れた袋みたいに、傷口がボコボコと盛り上がり、少しして完全回復。


「ふぅー……!」


 久しぶりに痛みを忘れられた解放感を味わいながら、念の為に首枷から伸びる鎖を何度か引っ張る。その端を固定している杭は、ビクともしていない。


「よし……っ。じゃあ、はいどうぞ」


 そうしてヘルブラさんに切断をお願いするも、反応が鈍い。いつもの半目のまま、眉根が逆八の字に寄せられ、困ったような色を作っている。


「あっ、あのっ、怖いから、スパッと一思いに、やって欲しい、って言うか……」

「わ、わかってる……!」


 本日3度目の手首切断。

 投下されたそれは、ちゃんとキャッチされたようだ。


 良かった。ここでうっかり取り落とされてたら、もう一回ぶった斬られなきゃいけなくなるところだった。


「うううう……!い゛う゛ううう……!」


 そしてまた我慢大会タイム。なんか良いことだけ考えてよう。エレノア様のお顔とか。


 と、土砂の堆積を引っ掻いていた僕の右手が、小さく丸みを帯びた両手に、握り締められる。ボヤける視界をまばたきで補正していくと、ヘルブラさんがまた、すぐ近くにしゃがんで、僕の力みを受け止めてくれていた。


「み……、みてなく、て……、いいの……?」

「……見てる……」

「ぼくぅっ!じゃ、なくて……!う……!ブリュネ、さんの、こと……」

「今は、アナタを、見てる……」

「そ、そう……?」


 どういうつもりか分からなかったけど、それを考察できるキャパが無いので、いぶかしさは一旦放置。僕が痛みに負けて、イヤになって逃げないよう、見張ってるのかもしれない。


 でも僕にとっては、心細さがちょっと薄れるから、むしろありがたかった。


「この子たち……」

「え……?」

「ポプラー……、アナタが吸う息も、少しはキレイに、してくれるから……」


 彼女のポプラーに僅かに残っている空気清浄化能力で、せめて僕の呼吸を楽にしてくれる、ってことだろうか。なるほど、だから顔を近づけているのか。でも、「この子たち」、って——


「す…っ!……好きなの……?」

「え……」

「ポプラーの、ことぅぐ……っ!『この子たち』、ってぇえっ!……ふー……」

「………好き……ノームはみんな……」


 溶けた琥珀めいた彼女の目を見詰めて、意識をボーッとさせようと試みる。蜂蜜色のそれがねっとりと僕を包み、内側に閉じ込めてしまうような、妙な気分になってくる。


 暖かい息に人中じんちゅうを湿らされて、鼻と鼻の間の距離が、思ったより狭まっていると気付かされた。


 ポプラーによる空気清浄を抜きにしても、ヘルブラさんのクセ、みたいな理由もあるのだろうか?声が小さめだからか、喋る時に人に近寄っている姿を、何度か見た気が「あっ、ああっ!」


 どよめきに揺さぶられ、どうしてか後ろめたい気分になった僕は、ついってしまった。ヘルブラさんも、ふいっと視線を横に逸らしている。


 ただ、今の声は僕達にではなく、穴の中の現状に対して、発せられたものらしかった。見れば、それなりの大きさの塊が、穴の側面から滑り落ちている。


「ブリュネーっ!」

「だいじょぶ!ポプラーがまもってくれるし!」

「でも時間のモンダイだ!うまっちゃうぞ!」

「いいからアンタは集中して!アタシ死なせたくないなら急ぎなよ!」

「ムチャ言うなよな!」


 タイムリミットが近い。急ピッチで進める必要があるけれど、僕やヘルブラさんだけでなく、ブリュネさんにももう出来ることはない。応援と祈りを捧げるだけ。

 

「て、くび……!」

「……!なに……?」

「ぼくの……っふぎィ……!てくび、もって、る……!?」

「ブリュネ……!えっと……『センサー』の手首は……!?」

「今つかってる!」


 心のどこかで、「もう捨てた」って答えを期待した、自分の怠惰を蹴り退かす。まだだ。まだ楽になろうとするな。


「はなさ、ないで、って……!」

「ブリュネ……!それ、ちゃんと持ってて……!」

「なんでぇ!?」

「いいから……!」


「やった!抜けた!」

 

 グラウさんの声に素早く反応したヘルブラさんが、巻き上げ機に飛びつく。他の少年達もそれに続き、機材を押さえてその場に固定。


「ゆっくりね!シンチョーに!」

「あせらないで……!」


 クランクハンドルをそーっと回して、ロープに負荷が掛かり過ぎないよう注意しながら、二人を引き上げていく。けれど亀裂の途中で、大きめな破片がゴロリと転がるように欠け、それにき止められていたのか、石礫いしつぶての滝が流れ始めて——


「治れ!」


 左腕に力を籠めて叫ぶ!

 手を戻せと遮二無二しゃにむに念じる!


 復元能力が発動し、僕の体と左手首が引き合う!

 僕本体は鎖で杭に繋がれており、首は絞まるもののそこにとどまれる!


 左手首の側を持った二人の浮上スピードが加速。

 間一髪、固形滝行(たきぎょう)を免れた。


「あ……っ」


 「あぶない」、その言葉がちゃんと出てこないほどの、緊迫の高まり。それが瞬間的に彼らを襲い、そして指先だけで触れて、足を捉えることなく落ちていった。


 もう少しで二人は“そちら側”に、引き込まれるところだったのだ。「もし保険を掛けていなければ」、そう考えると、生きた心地がしなかった。

 

 ブリュネさんが、続けてグラウさんが這い出し、駆け寄ったみんなと抱き合う。


「よかった!よかったよお!」

「オマエ、ほんとに、もうダメかって……!」

「ムチャするよなホントさあ!」

「あ、足に力、はいらな……!」


 手首を繋げ直し、欠損の苦痛とオサラバしながら、涙を流して無事を喜び合う彼らを眺める。


 めでたしめでたし……ほんと、何してんだろ、僕。


 いや、ほら、アレだよ。

 ここの「オオイワ」ってヤツらは、組合を襲ってきたわけで、エネクシアでやっていこうと考えるエレノア様とは、敵対する側だ。ヤツらに反抗的な人達を助けるのは、きっとエレノア様の為に………


 これも合理化、理屈の後付けか。あの短気な巨漢を笑えない。


 あの人の所有物として、取る意味のないリスクを取ったのだ。それは、彼女の財産の使い込みに等しい、って言えてしまうかも。指示待ちロボットとどっちが良いやら。


 結局、あの人に惚れ込んで、この身を捧げたいなんて、嘘なんだろう。

 僕は今日も、自己満足をやっている。


「……へっ……?」


 自らの半端ぶりに自嘲していたら、目の前から小さな顔が覗き込んだ。


「ヘルブラさん?」


 さっきまで笑顔でブリュネさんを迎えてたけれど、もう良いのだろうか?もっと余韻とか……あっ、いや、そんなわけにもいかないか。


「そっ、そうだよね。ノルマ、終わらせなきゃ、だから、うん、休んでるヒマ、あんまり——」

「なまえ……」


 僕は「センサー役」の業務に戻るべく、慌てて腰を上げようとしたのだが、彼女が口にしたのは、全く別のこと。


「え?」

「なまえ、ある……?」

「え、なんの……?」


 彼女の睨みが、ちょっと強くなったような気がした。それからその人差し指が、こっちに向けて控え目に伸ばされる。


「えっあっ、ぼ、僕の……?」


 コクコクと頷くヘルブラさん。

 思い返してみれば、教える機会を逃し続けていたような?


「ゆ、ユイト……」

「『ユイト』……アナタはユイト……おぼえた……」

「ああうん……、よ、よろしくね……?」


 で、合ってるのかな?この場合?

 いや、なんか微妙な顔してる……やっぱ違った?


 コミュニケーションってホント分からない……!

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