44.なりふり構わない隠蔽工作 part3
実のところ、オサにとって「残飯組」がどこまで重要なのかなんて、僕には分からない。集団維持の為の切り札なのかもしれないし、幾らでも替えの利く、数ある「外側」の一つかもしれない。
そこはどうでもいい。
大事なのは、わざと相手を「怒らせる」ことで、煙に巻けたことだ。
そう、僕の本当の目的は、「僕が重要情報を持っている」、それ自体を隠すこと。
エレノア様の秘密、彼女が唯一無二の「銀髪のハイエルフ」であること、それへと辿り着かせてはいけない。だけど僕は痛みに弱いから、「何かあるだろ」と責められ続けたら、意に反して話してしまうかもしれない。
というわけで、前提をメタメタにぶっ壊した。
僕から出る情報に価値がある、という前提を。
知性って言うのは、なんでも都合よく捉えるものだ。
彼は今、僕の言うことに信憑性が無いから、だから聞かなくていい、聞かない方がいいって、そう思ってる。「論理」でそういう判断をした、と、そう思い込んでくれているだろう。
でも実際のスタート地点は、「聞きたくない」っていう「感情」の筈だ。
「こいつの言葉をあと一文字たりとも聞いていたくない」から、「聞かなくていい理由が欲しい」ってなって、「こいつが言うことが信じられないからだ」っていう、良さげな「説明」を後付けした。
「こいつはこっちを騙そうとしている」、「これを理解しようとするのは有害な行為だ」、っていうことになれば、頭を使うなんて大変なことをせずに、ムカつくヤツを気持ち良くブン殴れる。
だから、「そういうことにする」よう、自分で自分を誘導してしまう。
悲しいことに、相手の神経を逆撫ですることに関して、僕には天性の才がある。「怒らせないように」、っていうのが無理ならばと、逆に怒らせまくって、「関わりたくない、関わってはいけない不快物質」と思わせること、それを狙ったのだ。
相手のプライドを屁理屈で突いて、どれだけ叩かれても壊れたレコーダーみたいに黙らないことを徹底。後は向こうが引いてくれるまで根競べ。
企みは成功した。
たとえこれからどんな証言を溢そうと、「証拠能力ナシ」と判定されるだろう。その内容が、荒唐無稽であれば、特に。
これで秘匿は守られる。
狂人のフリをすることで、僕からエレノア様へ与えかねなかった損害を、帳消しに——
「!おいっ!止まれっ!」
そこで見張りの人が鋭く叫んだ。
小柄なノーム達が、いつも向かう先、そちらを見ながらだ。
「ねっ、ねぇっ!どいてよっ!道具!道具とりにきただけ!」
この声、たぶん「ブリュネ」って呼ばれてたノームだ。
しなやかでスポーティーな一挙手一投足。栄養不足で痩せ気味ながら、要所要所が赤ん坊のお肉みたいに、若干の丸みを帯びた体型をしている、茶髪サイドテールの少女。
「取り込み中だ。後にしろ」
「イヤっ!できないっ!いま、いまグラウがっ!グラウがキレツにおちてっ!」
——「亀裂に落ちた」?
首枷と壁とを繋いでいる鎖が、ガチャリと鳴った。
「それがなんだ。どうでもいい」
「ふざけないでよっ!アタシたちの、家族がっ!」
「オマエたちはそういう、『かんたんに死ぬ家族』なんだよ。それが死にかけるのは、まったく正常ってこった」
「いっ、いいカゲンに……っ!」
「なんだ?やるのか?オマエたちから来るなら、それを理由に今ミナゴロシにしてもいいんだぞ?何も困らないからな」
「そっ、そうだっ!おう!そうだとも!オマエらがいるとかいないとか、どうでもいい!コワかねえんだ!」
「ぐぅうううう……!ううううううう……!」
見張り役の人が、背負っていたシャベルに手を掛ける。
「本当にやる気かよ……。まあいいか。他のヤツらにも『ゼッタイに勝てない』って分からせるために、その首をかざっとくってのも良いアイディア——」
「あのおっ!」
ああもうっ、プランが整う前に叫ぶなよ!
またアドリブだ!
しかもせっかく、黙ってたらやり過ごせる状況を作ったってのに、自分から首を突っ込んで!
「情報が欲しいのでしたら、さっきの話!つまり、この巣、えーと、『オオイワ』?っていう狩猟民族的な共同体における、『残飯組』の存在意義について、的なこと、もっとちゃんと心理学とか社会学とか、あー、歴史学とかっ!そういうの絡めて詳しく話しましょうかっ!?えーっとそうですね、物語の話なんですけど、貴種流離譚って言う王道パターンがあるって知ってます?これの構造が、貨幣経済と似てる、みたいな話が——」
「ああああああ!やめろ!アタマおかしくなりそうだっ!」
短気な方の巨漢が髪を掻きむしり、地団駄を踏む。
「おいっ!行くぞっ!」
「あっ、おいおいおい!」
「ドブクソネズミにイヤガラセするために、あんなの聞いてられるかっ!オサにウンコノウミソヤローがいるって言いつけてやるっ!くせえくせえ!アホくせえっ!」
そのまま怒って走り去る彼を、見張りの人が困ったような顔で追いかけていった。
そこにブリュネさんが首を伸ばして、中を確認。二人が本当に居なくなったのを確認してから、急いでこちらに、備品置き場に駆け寄ってくる。
「僕もっ、僕も行くよっ!」
何言ってるんだよ、こいつ。
情に流されてエレノア様を危険に晒しやがって。
「はあっ!?ジャマっ!オトトイきてなよっ!」
「ほ、ほらっ、選択肢は、多い方が、いいよっ!色んなことに、対応できるから…っ!それに、軽い道具とかならっ、僕も持てるし、一人で行くよりっ、助けられる、可能性が……!」
「あー、うー、ん~~~ッ!もうっ!」
迷っている時間が惜しいと思ったのか、彼女は鎖と壁の金具を繋ぐ、ゴツい錠前の鍵を開けてくれる。
「それとそれとそれ!持って!」
「う、うんっ!ありがとうっ!」
道具の名称を知らない僕の為に、分かりやすく指を差しながら指示した彼女は、片手でロープと巻き上げ機らしきものを持ち上げた。




