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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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44.なりふり構わない隠蔽工作 part1

「おーおー、ズイブンおサカんみてえだなあ、おい!」


 今日もまた“現場”に向かおうと、疲れた顔でいそいそと支度をする、“残飯組”と呼ばれるノーム達。そんな中、朝の鐘を鳴らした「見回り」の巨漢ノームが、僕を見ながらそんなことを言った。


「その、ヒヒ…ッ!服みてえにボロゾーキンぶら下げてんのは、ヒヒハ…ッ!ゼンエー的なファッション、プッ!ってヤツかあ?ヒハハハハッ!」


「こ、れは……、もともと来てた、服が……あ、えー、色々あって、ぼろぼろに……」


「分かってんだよマジに返すなよウゼエなアタマ足りてねえのか?」


「うっ、ssすいま、せん……」


 二人組の彼らは、それから“残飯組”を急かして追い出し、僕だけを休憩スペースに残した。

 そして誰も近付かないように、一人が見張りにつく。


 どうやら、聞かれたくない話をするらしい。


「あ、の……?」

「ひでーよなー?アイツら。一緒に仕事してるヤツに、この仕打ちだ」


 無残にもズタズタになった毛皮を、手の甲で撫でるように揺らす巨漢。

 なんだか、不自然な馴れ馴れしさを感じてしまう。


「いえ……、あんまりその、貢献できて、ないですし……」


「いいんだよ!今ここにはアイツらはいねえ!イヤなこと言うのにエンリョなんかいらねえんだ!」


「え、えー、えっと……」


「なっ?こんなトコ、いつまでもいたくはねえだろ?」


「それは、まあ、はい……」


 一応、正直に答えておく。

 と言うか、僕は嘘が得意じゃない。いたとして、高確率で見破られるだろう。


 だから、今のこれが腹の探り合い的な場であったとしても、できるだけ嘘には頼らないつもりでいる。


 「虚実を織りぜる交渉上手」的なものを目指して、下手ヘタ過ぎてヤケド、いたずらに悪感情を与えて終わる、ってオチになるよりは、必要なところ以外で馬鹿正直であった方が、まだ損が少ない……と思う。


「だよなだよなあ?そうだよなあ!わかる、わかるぜえ、その気持ち」


 何か分からないが、巨漢のテンションがどんどん前のめりになっていく。取り敢えず、無駄に怒らせることは避けられたらしい。


「そんなオマエに、オレたちから……あー、なんだっけ?」


 彼はそこで見張りの人の方へと顔を向け、


「『テーアン』だろ?」

「それだ!テーアンしてえんだよ!」


 用意していた言葉を引き出して貰ってから、こちらに爛々(らんらん)としたまなこを戻す。


「オマエさ、ほかのヒトジチみてえに、フツーのオリに入りたくねえか?」

「え……?」

「だーかーら!」


 彼はそこでもう一度振り返り、それから顔を寄せて声を落として、


「ここから助けてやるって言ってんだよ」


 そう言って僕の肩を、何度か強く叩いた。


「たすけ……?」


「そうだよ。オマエここにいたって、ヒデエ目にあうばっかりで、いいことなんて何もねえだろ?役に立ってねえ、って言うなら、本当に意味ねえじゃあねえか。そいつはなんつーか、ヘンだろ?カワイソーじゃねえか。なあ!」


 そこで振られた見張りの人は、「知らねえよ、オマエだけで勝手に言っとけ」、とただ無愛想に返す。


「まあアイツはともかく、オレは思ったんだよ。どっちでもいいなら、じゃあオマエがここにいなくてもいいってな。あー、アレだ。なんかの理由さえあれば、ホラ、オサに言って、オマエを上に連れていけるんだよ。わかるか?」


「な、なんとなく……」


 今の僕は、この「残飯組」に置いとくにしても、別の場所にある牢屋に収容しておくにしても、どちらでも大して変わりないと、そう見られている。


逆に言えば、僕を後者に入れておく理由、そうすることで生まれる得さえでっち上げられれば、僕の扱いはあっさり変わる、ってことを言いたいのだろう。


「で、でも、そんな『理由』、なんて……」


「なんかあるだろ?オマエ、オレたちが知らない種類だし、オレたちの知らないこと知ってんじゃあねえか?まあオマエについてじゃなくてもいい。あの町とかボーケンシャのことでも、それ以外の地上のことでも、なんかねえのか?こう——」




——カネになりそうな“オハナシ”ってヤツが




「ああ……」


 色々と腑に落ちた、っていうのが顔に出ていたんだろう。


「おっ!やっぱなんかあんのか!」


 体当たりでもしてるのかみたいな食い付きぶりだった。両肩に太い爪が食い込んで、凄く痛い。


「いえっ、あの、今のは……」

「あー!わかってるわかってるって!オレが信用できねえよな?いいぜ?ちょこっと、サワリだけ教えてくれよ!」


 親指と人差し指の間に、何かを挟む小さな隙間を作って見せる巨漢。


「そうしたらオレからオサの方に言って、まずオマエを上に連れてくのを先に——」

「ぁあの!すいませんあの、そうじゃ、なくって、ですね……」


 確かに、この人達を満足させられそうな情報については、心当たりがある。

 売り先によっては、大金になるような事実を、僕は握っている。


「じ、実は、えー、な、なんて言うか……」

「ンだよ、だしおしみしてんなよ、おい」

「ごっ、ごめんなさいっ」


 ただ、それがあろうとなかろうと、この話には関係ない。


「ご、ご協力、できません……」


 僕はその提案に乗りたくない。

 それが結論だ。


「な、なので、あの……」

「………?」


 彼と見張りは急に落ち着きなく目配せを飛ばし合い、それからぎこちなくなった笑顔で訊ねてくる。


「なっ、にがいけねえかなあ?ん?オマエ、あるんだろ?なあ?なんかこう、売れそうなハナシが。だったら言った方が得だって、それすら分かんねえバカだったか?もっかいセツメーするか?」


「本当に、う、こ、心苦しいと、言いますか、えっと、お気持ちだけ、ありがたく……」

「そうじゃあねえだろうがガガンボボウズッ!」


 左の頬骨ほおぼねの砕ける感触と、鼓膜や首を打つ衝撃。

 耳元で風船が爆発したみたいな爆音と、鈍器のように硬い痛み。


 巨漢の右拳で殴られた。

 この人、思った1.3倍くらい早く手が出るみたいだ。


「おいおいおいオタンコカスコラ。言った方がいいんだから言えつってんだよコラ。耳クソと脳グソどっちがつまってるせいで分かんねえんだ?コラ」


「ひぐっ、わっ、わかって、わかってます……!わかって、その上で、お断り、します……!」


 腹に激痛を感じた後、一瞬だけ意識が途切れる。

 頭にも貰って、脳がダメージを受けたんだと思う。


「分かってたら『オトコワリ』なんて……あ!?ちげえ!『オコトワリ』なんてしねえだろうがよ!」


「ぼくっ、何もっ、思いつかなくてっ」


「どう見ても『思いついた』って顔だったろうがよ!」


「今のはそのっ、『ああそういうことか』、っていうっ」


 問答無用とばかりに肉弾が飛ぶ。何度も殴られ、蹴られ、骨を砕かれ、きっと頭蓋骨も割られて……、だけど、その決断を曲げることは、僕にはできない。

 それは許されない。


「ハー……っ!ハー……っ!ナヨナヨテキトーぬかしてんじゃねえぞカマオトコ!」

「あっ、あがっ、ほ、ほんとにっ、うー……!ど、どう言えば……!」


 数えてないけど、100回を超えてもおかしくないくらい、打たれまくって、そこで相手が疲れて、ようやく手を止めてくれる。


 これ……、ちゃんと納得してもらわなきゃ、終わらないヤツかなあ……?「殴っても無駄そう」とか、思ってもらえないヤツかなあ……?


 嫌だなあ……。

 誤魔化しとか建前とか、そういうのを上手く使えないコミュ力の低さは、こういうところに出てくる。


 本音を言えずに場を納められず、本音を言ったら言ったで怒らせて、どっちにしろ穏便に済ませることができない。だから僕みたいなのは、相手をしょっちゅうイライラさせるのだ。


 マジでどのツラ下げて、エレノア様にくっついてきたのだか。大人しくエリーフォンの中で、地球に帰ることを目指すっていう、堅実な生き方を捨てた、その報いがこれなんだろうか。


「なにを口ン中だけでモガモガもがもがァ…っ!タネつめこんだリスみてえに!」


「そ、その、その感じ、ですよ……!焦ってる、感じ……!」


「ああ!?」


 仕方ない。

 たぶん殴られるんだけど、もうそれは良い。どっちにしろボコボコにされるような気もしたので、腹をくくることにする。


 ()()()()()

 怒らせて、殴られながら話そう。


「あなた……、優しさじゃなくて……、『やらなきゃ』って、『義務感』……と言うか、『職務』?『強迫』?的な意識で、提案して、ますよね……?」


「しょっ、しょく?きょう……?あんだって……?」


「その……、あー、あなたの、上の人から、例えば……あなたが言った『オサ』とかから、命令されて、訊きに来たんじゃ、ないんですか?って、そう言いました……」


 褐色の目をみはり、言葉に詰まる巨漢。

 この人も、嘘が下手らしい。なんだか親近感を覚えてしまった。


「だ……っ、だったら、なんだってんだよ……?だとしても、オマエが助かるってことは、変わんねえだろ……?」

「……えー……とぉ……」


 図星を突かれた彼が、ちょっとだけ手を止めてくれている間に、考える。

 どこからどの順番で説明するべきか。その整理に苦慮してしまう。


 さっきぶたれまくって朦朧もうろうとしかけたのが、まだ尾を引いてるような気がした。傷はほぼ治ってる筈なんだけど、意識の側が偽の痛みを、ズキズキとこしらえているようなのだ。

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