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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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43.反抗期の終わり part1

 ブリュネとヘルブラは、母の胎内たいないにいる時から、いつも一緒だった。


 勝気な姉のブリュネと、内向的な妹のヘルブラ。

 茶髪の右サイドテールと、水色髪の左サイドテール。


 太陽と風、朝と夜のように対照的な二人は、互いの不足を補完し合うことで、完全な一つのつもりでいた。なんだって出来る無敵の双子、そういう自負があった。


 それが結局「完全」でもなんでもなく、「屑と粒をくっつけただけの矮小なゴミ」でしかないと気付いたのは、彼らの巣穴が殺戮と略奪の限りを尽くされた、その後のこと。


 同じノームである筈なのに、比べ物にならないほど大柄で、頑丈で、獰猛。“巨磐おおいわの一族”と名乗る彼らは、二人の生家せいかを土足で踏み荒らし、一昼夜いっちゅうやのうちに廃坑はいこうに変えた。

 

 生き残ったのは、と言うより生かされたのは、まだ若かった者達のみ。彼らは“戦利品”として持ち帰られ、そのうち少年達は劣悪な環境下で、巣穴の拡張や鉱物資源の採取といった、危険労働を強制された。


 本来は大人からじっくり教わり、一通り習熟してから担うべき、高度に専門的な作業。まだ成熟していない子供ばかりを集め、スピードの為に安全基準を投げ捨ててしまえば、実質的な過重拷問となるのは、言うまでもない帰結。


 工事用の魔導具に手足が巻き込まれ、体の形が変わることなどよくあること。

 窒息死や圧死、病死、爆死などが短期間のうちに立て続けに起こり、酷い時には生き埋めにされながら、じわじわ蟲に喰われていく。


 悲劇は大抵の場合、判断や手元のミスから起こり、更にどれだけ助けを求められても、パニックで処置などできないことも多い。そういった事案の積み重ねが仲間内での亀裂を深め、その隙間に憎しみのマグマを流し込んでしまった。


 全体で助け合った方が、死亡率は低くなる。それは正しい。だが出来ないヤツに構ったせいで作業スピードが遅くなり過ぎると、「連帯責任」として全員の食事を抜かれる。


 そして“達成目標”は、生存者数によって設定された。

 「それだけの人数分の食事を用意してやるのに見合うコストかどうか」、そういった目安が採用されていたからだ。


 逆に言えば数が減ることで、進捗がかんばしくない言い訳になる。




 状況が彼らを、「仲間を見捨てる」、「積極的に殺す」方向に誘導した。


 それぞれが互いに巻き添えにならないくらいに離れ、各々の方法で工事を進め、適応できない奴は死なせ、貢献できない奴はリンチして殺す。そんな働き方が最適解になったのだ。




 その仕事場に連れて来られた時、そこには先人が、もっと前に連れて来られたらしいノーム達が居た。けれど彼らは子供達に対して、助けようという素振りすら見せなかった。


 見よう見まねは許しても、近くで作業されることを、断固として拒絶した。

 救いを求める怪我人を見れば、叩き殺してとどめを刺した。


 彼らもまた、助けてもらえなかった少年達なのだ。

 自分の命を守ること以外、頭に入らなくなったしかばね達なのだ。

 

 少女達は、少年達が“協力”を放棄するまで、その一部始終を見学させられた後に、選択を迫られた。


 少年達と共に毒や汚泥おでいまみれて、親の仇に資源を貢ぐ為、命を燃やす生活に従事するか、それとも“新世代の母体”という、相対的には安全で清潔な役目に就くか。


 ブリュネとヘルブラが最初にここに来てから、今日に至るまで数年間、数百の“戦利品”達が、同じことを訊かれてきた。その中で掘削を選んだ者は、彼女達二人を除いて、誰も居ない。




 だが彼女達は、他の者とは違う。

 そうとも。二人は状況を変えたのだ。




 この管理の仕方が、「損をしない」為のものだと、彼女達は気付いた。


 少年達に教育を施し、労働を体系化すれば、総合的にはもっと効率よく資源を手に入れられる。けれど奴らは、不条理にすら見える決まりを作って、それを妨害した。


 “団結”。

 それだけはしないようになっている。

 奴らはそれを避けたがっているのだ。


 懸命に働いてくれる上に、結束して牙を剥くこともない。そういう無害でオイシイ奴隷へと成長するよう、全てのルールが組まれている。


 「奪い取ったものからは、それが持つ旨みを一滴残らず搾り尽くす」、このシステムから読み取れるのは、そういう運用思想。


 恐らく巨磐おおいわどもの中にも、掘削、採掘担当は存在する。彼女達“残飯組”は、必要だから用意されているわけではない。余剰分だ。


 ただ殺すより、オマケの利益がある分、お得。

 ゼロを加工して、プラスに出来る。

 だから生かして、追い詰めているだけ。


 そう考えると、求められるのは効率、つまり「出来るだけプラスを大きくすること」ではないと分かる。仕事が遅かろうが彼女達が全滅しようが、ほとんど損は生まれないから。


 では、奴らが最も重視するべきは?

 「余計なマイナス」を生まないことだ。


 その「マイナス」とは?

 その日の成果以上の食費を掛けてしまうことと、もう一つ。

 彼女達が一定以上の戦力となって、一族に逆らい、損害を出させること。


 だから、“団結”だけは絶対にしないようなやり方で、飼い殺す。

 バラバラのままであれば、都合の良い労働力であり続けてくれるから。




 で、あるならば、無理にでも“団結”することに、勝機があるかもしれない。




 残飯組であっても、纏め上げることさえ出来れば、巨磐おおいわどもの巣の中に陣取った、存在感を持つ同居人となれる。


 「放っておくには危険だが、力を入れて潰すのも割に合わない」、そんな絶妙な立ち位置。


 僅かだが待遇改善交渉の余地が生まれるし、少なくとも「楽に管理できる底辺」、「勝手に資源を吐き出してくれるマシン」、などと、安穏とした態度ではいられなくなる。




 ブリュネとヘルブラは、それを成し遂げる為に、少年達と共に残ることを選んだ。




 動機は“意地”だ。


 奪われたままで終わりたくない。

 全てを奪った奴らに得をさせる為に、一生を捧げるなんてまっぴらだ。


 どうせなら搾取されるのではなく、奴らの敵としてちゃんと負けたい。

 奴らに損をさせた者として、その記憶に残りたい。


 二人はそんな子どもじみた理想を胸に、着々と計画を遂行した。


 少年側と少女側、双方の心を折る為に設けられた、悪趣味な「見学」の時間。その際に基本的な作業方法を先人達から見て盗み、まず同じ巣穴出身のノームに共有した。


 一度粉々になった関係性を接着し直し、“集団”を構築。そこからは数の力を使い、先人達を一人ずつ派閥に引き込んだ。


 巨磐おおいわどもに媚びを売る為、密告しようとする者も出たが、容赦なく始末した。

 日常的に事故死が繰り返され、見張りが巡回しに来るのは1日に多くて3回という閉塞的環境の中で、圧倒的多数派を握っている状態。粛清しゅくせいは簡単だった。


 暗くて狭い、ゴミ箱の底みたいな穴倉の中に、教育と秩序が取り戻された。

 残飯組は、“家族”になったのだ。


 彼女達は表向き険悪なまま、生存率の鈍化が巨磐おおいわどもに勘付かれる、そのギリギリを見計らった。

 次の“戦利品”補充のタイミング、人数が増えたその時に、巡回を人質に取って交渉を開始してやろうと、算段を整えていた。


 


 ある日、ブリュネとヘルブラだけが、巨磐おおいわの一族を束ねる長の前に、引っ立てられた。




「俺達は、テメエらを“教育”してやらなかった」


 そいつは声を荒げもせず、淡々と語った。


「俺達がテメエらを組織化して、それで反逆されてみろ。わざわざ自分の手で、自分の敵をこさえてんのと同じだ。大損だよな?」

 

 張り上げられているわけでもないその口調に、何故か二人とも、震えが止まらなかった。


「だがよ、テメエらが勝手に統率を取ってくれるなら、むしろ願ったりだ。何せ、俺達がセコセコ苦労せずとも、効率化を進めて、実入りを増やしてくれるんだからな」

 

 二人が互いの手を握り合い、けれど相手の体温を感じることが出来ず、素手で氷を掴んでいるかの如く、肌がヒリヒリと痛みに泣いている。


「それに、アヒルの親子みてえに、扱いやすくなる。テメエら全員分の空っぽポンコツ頭蓋骨を、俺達が一斉に叩き直すのと違って、集団の“先頭”となる誰かが居るからな」


 「それさえ押さえれば全体を操れる、“カシラ”ってヤツが」、

 そいつが拳で肘置きを何度か打つと、巨大な容器が二人掛かりで運ばれてくる。

 それは透明な板で作られていたので、中身を難なく見通せた。

 

「「ヒっ!」」


 掻き混ざる土のように見えたそれは、ウジャウジャと揉み合う毒虫の大波。

 なみなみと注がれた液体めいて振舞う、蜘蛛やムカデ、ワーム等々。よほど腹が空いているのか、喰らい合っている者の姿もあった。


 ノームは地虫を見慣れているが、しかしその異常な数を相手にすれば、本能的な怖気おぞけもよおさざるを得ない。ブルル、と、輪郭をボヤけさせるほど強い揺れが、二人の体を背中からつらぬき上げる。

 

 そこに引き摺られてくるのは、彼女達にも見覚えがあるノーム。

 

「ブリュネ…!ヘルブラ…!」


 同じ巣から連れて来られて、生殖役に回った少女。


「コイツよお、どうやらもう、生めないみたいなんだよな。ってことは、持っといても損になるだけだろ?だったら——」


——有効に使い捨てる方が良いよな


「え?」

「まって……!」

「よし、そうするか」

 

 彼女達が制止の懇願を言語化する前に、それは実行されてしまった。

 絹を裂くような悲痛な叫び、その高い周波数が鼓膜の奥まで焼きあぶる間、両手両足に目蓋を押さえられた二人は、目を逸らすことも、耳を塞ぐこともできなかった。


 耳鳴りが止むまで、体感では数時間にも思えるほどの劫罰ごうばつ

 それは、「逆らった者がどうなるか」を、二人に対してだけでなく、自らの手下達にも深く記憶させる、極めて効果的なデモンストレーションとなった。


 げに「有効活用」である。

 

「残飯組の、1日あたりのノルマを増やす」


 呆然とするしかない二人に、そいつは無慈悲に告げた。

 

「集団でやらねえと終わらねえくらいにな。お得意の手腕しゅわんで奴らをキビキビ働かせろ」


 その言葉には、声に出して読み上げられていない、続きがあった。

 「出来なければ、次はお前達の誰かが、あの『水槽』に入るだけだ」、と。


 


 二人の反抗期は、こうして終わりを告げた。

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