41.組合襲撃
幾つかの揺れ。
外套に擬態したゲルとゾルの混合生物、ペイルがそれを敏感に察知し、増幅して主に届ける。
「爆発?」
エメリア改めエレノアが立ち上がると同時、エントランスの扉や壁が外側から吹き飛ばされた!
突入してくるのは、黒い肌を持った筋骨隆々の襲撃者!
冒険者達がすかさず武器を手に取るも、最も入り口に近かったリカントの頭がスイカめいて飛散する!
「んだあテメエら!!」
「冒険者ナメてんじゃねっぞコラ!」
「うっせえ死ね!毛玉ども死ねぇーッ!」
「ゾーモツぶちまけろクソがッ!!」
だが脳漿の噴水に動揺するようなオトボケは、戦闘系冒険者の中では少数派だ!
一瞬にして魔導筒の斉射合戦が開始!
黒鬼が持った魔導筒の一つがエレノアを捉えるが、彼女は机を倒して刻印されている魔導術式を起動。
組合支部内のテーブルは、基本的に楯として使えるようになっている。
「おらあ!んだよこのガラスはよお!お客様のお口がおクセえからシキリを置きますゥ、ってかあ!?」
「受付オシャレにしてキドってんじゃねえぞクソメスどもがッ!!」
応対カウンターが蹴り破られ、内部に突っ込まれた筒口から、視覚を歪ませるほどの突風が何度も射出!鳩が羽ばたいた後の羽根のように無数の紙や破片が宙を舞う!
「気体を噴射している……」
筒の前に開けられた幾つものノズルから、圧搾空気を槍衾めいて同時高速突出。
それにより貫通力だけでなく、面の破壊力をも持たされた、散弾タイプの魔導筒。
「あん!?姉ちゃんなんか言ったか!?」
「あれらは高圧気体の束を撃っている。“散空筒”です」
彼女と相席することになったイタチ頭のリカントは、体を出さずに飛焔筒を乱射していたが、その言葉を聞いて片目だけで相手を観察する。
「マジみてえだな……!ってことはアレか?あの模様と言い、ツノと言い、空気筒を使うところといい、あいつらは……!」
「“小土族”、でしょうね。どうも図体が肥大化しているようですが」
「ちょっと見ねえ間に成長期かあ?クソが!」
小土族。
穴を掘って巣を作り、そこに暮らす小柄な種族。
ドワーフと似た生態だが、あのアリ型知性体が山を好むのに対し、ノームは低地の森の中を活動拠点とする傾向がある。
発育の良い赤子のようなモチモチとした体形、黒緑の肌、ボディペイントめいたラインやツノ型器官など、なかなか特徴的な種ではあるが、全体的に臆病であり、自分からテリトリーを出ることはまずない。
長身で、体が分厚く、好戦的。
その部分を抜き出せば、似ても似つかないと言えるようだが、しかし様々な状況証拠は、巨漢達がノームであることを示していた。
「ヤベエぞ!投擲弾だ!」
室内に投げ込まれたのは、二種の魔導石粉末を詰めたカプセルらしきもの。
それらが爆発し、吹雪めいた肉や骨の乱散をあちこちで起こす。
“爆弾”。
発破の扱いに長けているノームが、それを武器化するのも当然の流れ。
起爆することで、球の形をした空気の壁が、音より速く周囲に叩きつけられる。更にその魔導具を構成していた外殻片が、魔導筒の弾頭以上の勢いで、オマケとばかりに高熱撒布されるのだ。
身体強化だけで耐えることは困難であり、咄嗟に投げ返せた者や、何らかの能力で爆風を減衰できた者を除けば、甚大な被害を受けることとなってしまった。
「オラオラ行け行けぇッ!!」
「少しでも下がりやがったケツは便の通りを良くしてやるぜえ!!」
ノームどもの半分ほどが、魔導筒の膨れた部分、腹に当たるそこに装填された魔導石を新品に交換し、前部下側にあるハンドグリップをガシャガシャと前後に反復運動させる。
それをしていない者達は、背中から近接戦闘用の得物を引き抜いて、
火や礫の雨の中を強豪ラグビーチームのフォワードめいた迫力で一斉に突っ切ってくる!
エアスキャッターライフルは、空気を噴射して攻撃している関係上、距離による減衰が激しくなってしまい、至近距離でないと真価を発揮できない。だからこその接近戦法!
当然冒険者達が撃つ魔導筒の命中精度が上がるが、薄皮一枚、魔導障壁によって防ぎながら前へ前へ。そうやってエネルギーシールドで攻撃を受けているうちに、体に引かれたラインが青から緑、黄色、赤色へと変化していく。
「赤色のヤツを優先的に狙え!そいつはあと少しで死グバァッ!!」
リーダーシップを活かすべく奮って目立った一人が驚異的な膂力で殴り殺された。
パンチ一発、それで首から上だけ180度振り向いてしまったのだ。
肉体の強さに自信があったリカント達が、ただのタックルで押されている。
しかも鬼の軍勢は、陣形までもが整っていた。
シャベルやピッケルを振るう前衛が遮蔽を叩き割り、剣やナイフを引き抜いた者達の列を割って、すぐ後ろに続く魔導筒持ちがその援護と討ち漏らしの処理に当たる。
味方が怖気づいて止まるかもだとか、背中を撃たれるかもだとか、そういった“細かいこと”は言いっこなしで、脇目も振らずに吶喊してくる!
「戦い慣れしている……!」
これほどに仕上がるまで、幾つの戦場を越えてきたのだろうか?
ノームらしからぬ有り様に疑問を抱きながらも、接近してきた1体をペイルの触手に掴ませるエレノア。
それを相手の後衛に放り込んで混乱させ、その間に別の1体を太めの触手の先端で滅多打ちにし、シールドを剥いだ上で溺死させる。
彼女はマナ漏れによって敵味方問わず再起不能にしてしまう為、魔導能力に制限を掛けている。身体強化すら、控え目にしか行使できないのだ。
よって、戦闘はペイルが担当しなければならない。
けれども、そこには問題があった。
彼女が完全に独立して動いてしまうと、「エレノアの能力の一部」という偽装が、通用しなくなってしまうのだ。出来れば知性スライムという存在は、トラブルの火種としても切り札としても、隠しておきたい。
つまり、エレノアの肉体とペイルが連動する必要があるのだが、これは本来容易なことではない。
ペイルが好き勝手動けば、エレノアの表面から離れ、白い素肌を露出させてしまう。
無理にエレノアの肉体ごと動かそうとすれば、筋肉や骨を痛めることとなる。
逆に気を遣って慎重に動くと、大きくパフォーマンスが落ちることになり、そもそも「エレノア」を守るという職務に支障をきたす。
この二律背反に対して、エレノアは予め方針を示していた。
「私をお前の思う通りに動かせ」、と。
彼女はペイルに自律防御を任せ、それを阻害しないよう精妙な体運びを心がける。相手と息を合わせ、社交ダンスを踊るような感覚。
密着する流動体に伝わる力を感じ取り、その意図を察知。タイミングを合わせて行動してやることで、まるで「水を操るダークエルフ」であるかのように、自身を演出していた。
危険なマナを僅かにすら漏らさぬよう、その操作精度を研ぎ澄ませてきた彼女にとって、触れた相手の動きを読むことなど、児戯に等しい。
「このアマッ!!」
次なる一体に対して流れ作業のように対処を開始。
けれどこれに関しては、無用な所作となる。
横合いから飛び込んできた黒服が、その貫手を黒鬼の首に付き入れ、傷口を爆ぜさせ絶命させたからだ。
手の甲からエネルギーを炸裂させる、拳鍔タイプの魔導具だろう。
「何を壊したか、理解してるんですかああああ!?」
後衛のノームの一体に飛びつく黒白の塊。
首に脚を絡め、シールドごと頭を捻ってコキャリと骨を折る。
「組合の備品を傷つけるってことはぁ!出資者の皆様に、エネクシアの秩序に損失を生んだ、ってことですよおおおお!?」
黒服の白兎、あの受付職員だ。
筒口を向けられる前に隣の1体に飛び移り、同じように処理しながら、別の一体への頭部に短身の魔導筒を連発している。
「どおーう弁償してくださるおつもりでしょうかあ!!お前如きの命が億単位で積もっても、贖えない罪ですよコレはああああ!!」
連携では異常発達ノーム達に軍配が上がるものの、一度膠着してから優勢になったのは、ズバ抜けた個人戦力を含んだ冒険者陣営の側。
尊い犠牲を払いながらも、着実に黒鬼の数を減らしていく。
と、壁に開いた穴から見える町の景色、その中に柱状の土煙が立つ。
掘り当てられた温泉の飛沫めいて路面の砕片と共に飛び出すのは、異常ノームの増援である。
「地下から直接現れたか……」
町の中心であるこの建物に、騒ぎを起こさずに到達できた理由が分かった。
コソコソと地面の下を掘り進んでいたから——
「!!しまった……っ!」
だとすれば、敵が攻めてくる入り口が1階だけとは限らない!
「ペイル!」
視線で階段を指す。
「敵は下から、地下階からも侵入している可能性がある!」
周囲の冒険者に情報を共有するフリをして、彼女は従者に命じた。
今すぐ向かえ。
一刻も早く、“彼”の無事を確認しろ!
わざわざ危険が待っている可能性のある場所へ、自分から向かう。ペイルにとっては承服しかねる行動だったが、けれど今の一体化状態で、二人の足並みを揃えないわけにはいかない。
生み出した水流に乗って、速やかに命令を遂行。
弾頭が行き交う戦場を滑るように抜け、高速エスカレーターめいた挙動で階段を降りた先で、
手に手に武器を携え、今まさに駆け登ろうとしていたノーム達が、通路を埋めるほど詰め掛けているところに出くわす。
「………道を開けろ……!」
その時フードに隠されたエレノアの目は、白地部分をいっぱいに広げ、
「カビの生えた泥人形ども……!」
その中心に、空洞の如き瞳孔を穿っていた。




