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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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39.金貨の使い道 part1

 組合による戦闘能力の測定は、厳重な防護術式が張られた、石造りの部屋の中で行われる。


 音や光など、戦闘に付随する“情報”の一切は外に漏れない。中には受験者と、組手の相手役、そして治療係も兼ねた立会の職員1名のみ。


 やろうと思えば、二人がかりで受験者をリンチしたり、事故に見せかけて殺害することも可能。だが、組合の機能を阻害し、威信を傷つける行為には、相応の罰が待っている。信用スコアや、“大切なもの”を喪う、という「罰」が。

 

 だから今回、侵略的外来生物の可能性がある二人に対して、組合はルールを破らなかった。ただその範疇で、なるたけあくどいことをやっただけ。


 それは、「すぐに用意できる単騎として最高の戦士を、組手の相手としてぶつける」、という策。


 通常ならば、ある程度の時間戦ってから、実際に打ち合ったものと外から観察した者、二人分の評価を総合し、受験者の実力を測る。だが今回は、明確な決着がつくまで終了宣言をしないよう、話が通っている。


 


 早い話が、「能力測定っていうていでボコッて締め上げて口を割らせようぜ作戦」である。


 


「う、あっ、ぁの……!」


 新参な上に正体不明、それも冒険者の価値観的にアウトなことをやらかした少年。組合の用意した“取調室”に入ってしまった彼は、気の毒なほど無力だった。


 彼より先にこの部屋にぶち込まれたダークエルフの少女が、相手役を完膚かんぷなきまでに叩き伏せ、何一つ情報を落とさなかったことで、組合が余計に躍起やっきになってしまったのも、彼にとっては痛い向かい風。

 

「君さ」


 ウィリ=デは助け舟を出してやるつもりで、肩を組みながら彼の胸を指先で叩く。

 

「折れてるでしょ?心、ぽっきり、って」


 優しさから出たものだったが、少年の背が低く肩幅も狭かったものだから、上から物理的な圧を掛ける形となった。

 そしてその重みは、心理面にも強く作用する。


「てっきりあの場で、負けを認めると思っていたのよ?だけどそれだと、あそこに居た全員に、問答無用で知られちゃうから、だから頑張って、なんとかこの部屋に入ったんでしょう?」


 その状態で、「よく頑張った」と、逃げ道を作った。


 人がギッシリ詰まった、狭い部屋の出口を開けば、倒れ込むような勢いで、皆がそちらに殺到する。同じように、圧迫し、圧縮したところに「出口」を与え、自分から吐き出すように仕向ける。


 彼女はこれを、完全な善意でやっていた。

 彼女は手間が省けるし、組合は情報が得られるし、彼は痛い目を見ない。

 三方ともに得をして収まる、そんな“提案”だと思っていた。


「おね、が、おかね、あ、いや……!」


 それに対し少年は、複数のことを一度に言おうとして失敗し、一旦呼吸を止めてから、


「お願いします……!」


 皮で作られた袋を差し出す。


「降参しますし、これ、お金、払うので……、何も探らないで、み、見逃してください……!」


 震える手で何度か失敗しながら袋を開け、


「あ、えーと、これ、金貨?金貨が、うん、金貨、なんですけど、何枚だろう?えーと、こ、これくらい、あるんですけど……」


 と、グッダグダな買収劇を繰り広げ始めた。

 

 ウィリ=デは黒服職員と、困ったような目配せを交わす。この少年、大金を扱うことどころか、不正というもの自体に明らかに慣れていない。どう見ても人生初賄賂。


 その為、絵面が“裏取引”ではなく、“カツアゲ”現場になってしまっている。なんだか彼女達の方が居たたまれなくなってきた。


「実力以上の点をくれ、って言う要求じゃないなら、金額次第で……とか、いつもなら考えるところなんだけど」

 

 「ごめんなさいね?今回はムリ」、

 組合が力を入れている案件で、わざとヘマをする。それによって発生するデメリットは、目先の大金程度では打ち消し切れない。


 組合から爪弾つまはじかれるということは、豪商達が窓口を閉じるということで、エネクシアからの追放に等しい。


「それ、しまっておきなさい?お金は要らないから」


 だからウィリ=デは拒絶したものの、ここで「それはそれとして金貨は頂く」、とならない辺り、エネクシアの人間にしては、聖人に近いと言えるだろう。


 誠実な彼女は少年の身を案じ、「逃げ道はそちらではない」と、背中をそっと押して方向を調整。

 ここで開くべきなのは、「財布の口」ではなく「秘匿の中身」だ。


 彼もそれを、理解したのだろう。

 「落ちた」、と、少し離れたところから見ていた、立会人からもそれが分かった。


 生きたまま熊にかじられる魚の目をして、絶望を色濃く訴えた彼は、半開きの口からカタカタと歯が触れ合う音と共に、


「じ、じゃあ、お願いします……!」

 

 という言葉を合図にウィリ=デの腕からけ出し、地面に引かれた短い白線を指して、


「えっと、それで、これ、ここに立つ、感じですか……?」


 そう訊ねてきた。


「……?いや、うん?」

「あっ、え、えっと、すいません、どう、進行するん、ですかね?分かんなくて……」

「進行って、その場でその外套を脱いで、エネクシアに来た目的を語ってくれれば、それでオールオーケーなのだけれど」

「あっ、はい、それは——」




——それは厭なので



 

 幻聴でも聞いたかと思った。

 脈の止まった死体が喋り出したような、不気味な驚き。

 心身の隅々まで屈服している弱者から、強い否定が放たれたのだ。


「『厭』……?」

「ごっ、ごめんなさい……っ!でも、すいません、けど、厭です」


 なんだ?何故この顔、この仕草、この弱さから、この意思表明が出力される?この食い合わせの悪さ、気持ち悪さは?新手の前衛芸術か?


 どこをどう見ても大したことない相手、だからこそ、警戒心が強まっていく。

 ウィリ=デの勘が「チョロい」と「おかしい」という、二つの相反あいはんする分析結果を、体内で何度も同時に囁く。

 

「で、あの、するんですよね?『測定』……」

「する、の……?」

「さっき、言ってました、よね…?僕の、あ、相手なん、ですよね……?」

「それは……」

 

 奇妙な事にその時、彼と彼女の立場が、反転していた。

 何故か少年の方が、相手に迫り、要求を通す側となっていた。


「どう、始めるんですか……?bぼ、僕はどこに、立てば良いんですか……?」


 生まれたての小鹿が、人喰いワシを相手に、何故か主導権を握っていた。

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