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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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38.敗北必至

 た、耐えたー……!きっと……たぶん……恐らくは……。

 筆記試験に関しては、事前の予想ほど悪い手応えではなかった。

 

 エレノア様から事前に習っていた、基本的な文字と数字、そしてセラについての情報。それらを総動員して、なんとか形にすることが……出来た……はずだ。うん。


 社会常識は思った通りボコボコだったけど、それ以外で大分だいぶ取り返せてると思う。算術は四則演算と分数くらいで、小学校の範囲だったし、論理思考もそこまで高度なことは要求されなかった。


 算数と国語、って思えばいい。

 

 計算問題で出て来る数字は、運良く10進法。セラの知性体は、両手の指が合計10本であることが多いけど、それが原因なのだろうか。何はともあれ助かった。


 国語の方は、「読めるけどあんまり書けない文字で現代文を解く」、って言うことを求められたわけだけど、でもそれは不可能な話じゃあない。


 こういうものは、ネットの通説とは違って、「書き手の気持ちを聞かれる」ってことはない。こういう問題を出す側が求めてるのは、文学者じゃなくて、素直な人。行間ではなく、書いてあることを読めばいい。


 特に今回は、商人として、取引相手としての、「信用」を測るもの。

 「契約書の内容を変に曲解しない」、みたいな素養を問われている。


 「こう書かれていたら、こう読み取る」、という約束事を、社会的に共有させる為の科目が、国語。個人間では、「この言葉ってこういう意味だよね」って認識に、必ず隔たりが出てくる。それを調整するのが、現代文。


 つまり、一種の“空気読み”だ。

 日常会話であれば僕の苦手分野だけど、国語の試験なら話は変わる。

 

 「読む人が変わっても出来るだけ同じように読ませよう」と、順序立てて論述された文章として、内容をじっくり吟味できるから、後はその誘導に乗っかるだけ。

 

 しかもその文章には、「問題文」という「読む上でのヒント」があるのだ。


 「この部分に注目して読むと良いですよ」、「ここを押さえてないと読めたとは言えませんよ」、「こうやって読み取って欲しいですよ」、っていう、親切な誘導。それが現代文の設問。


 だから最初に問題文を読んでから、本文を読む。

 そうすることで、「こういう文章だって分かるよな?」、っていう「空気」を掴む。


 そうして俯瞰してみると、難しく感じて飛ばした問題も、埋められるようになる。クロスワードとか謎解きとかで、答えを構成する文字の一部が分かったことで、自然と着地点が察せられる、あの感覚だ。


 極めつけに、「現代文の答えは大抵文章中にある」、っていうのも都合が良い。

 文字が書けない問題が、それでかなり軽減された。




 地球での経験が活きた。

 ペーパーテスト上でマトモ風に擬態することは、大の得意なのだ!


 そうやって自分の人間としての出来の悪さを、根本的に治すんじゃなくその場限りで取り繕おうとする、そんな性根を見透かされてたから、成績自体は悪かったんだけど。




 さて、ところ変わって地下の一室。油絵らしきものが壁に掛かっている、控え室的な部屋に居る。

 最後の科目であり、最大の問題である、戦闘能力測定の時間だ。


 天井には白い光を放つ魔導石が埋め込まれ、電灯としての役を果たしている。小さな虫が出すマナエネルギーを利用している、ってエレノア様が言っていた。


 マナを溜める石は、大抵は非常用電源用とされていて、日常的に使われるエネルギーの多くは、生物の魔導能力由来なのだとか。


 上品さすら感じる落ち着いた内装に囲まれながら、僕達はソファに座らされ、番号を呼ばれた順に、部屋の奥にある2つのドアの、どちらか片方へと案内された。


 人が入って扉が閉まると幾何学模様が浮かび上がって、再び扉が開く直前まで、ほんのり光り続けるのだ。


 中から出てくる人達の表情は様々だったけど、着ている鎧が凹んでいたり、服に血がついていたりと、中で起こっていることを察させるには十分な痕跡を、一様に纏っていた。


 けれどその激戦は、僕らのところにまで伝わっていない。

 きっと、中で思う存分暴れられるように、防御術式?みたいなものが刻まれてるのだろう。あの扉が光っている間は、戦いの余波を遮断してくれている、的な。


 筆記試験後から、ここに案内されるまでの間、エレ……じゃない、エメリア様の姿を見ていない。二人でグルになって何かをしないよう、意図的に引き離したか。

 

 それはでも、どちらでもいいことだ。

 どの道、彼女に迷惑はかけないつもりではあったから。


 これは測定で、試合や決闘じゃない。

 別に勝てなくていいのだ。とにかく何とかして、相手が僕を測り終わるまで、やり過ごすことさえ出来れば——

 

「はいはーい、みんな、調子はどんな感じ?」


 入り口が出し抜けに勢いよく開かれ、気まずい沈黙が破られる。ギョッとした室内みんなからの、殺気立った注目を受けても、その女性は気圧されることなく、ツカツカと部屋の中に入ってくる。


「あらら、ドンヨリしてるわね?気負い過ぎなのよ、ちょっと体を動かすってだけで」

 

 「肩の力抜いとかないと、いつものパフォーマンス出せないわよ?」、フレンドリーにそう喋りながら、歩みは止めずに職員さんの前へ。


 深めの緑色をした体毛……と言うより、羽毛に覆われた全身。


 しなやかな革鎧はヘソ出しスポーツウェアみたいに簡易的で、局所的にしか身に着けられていない。


 手首が二又に分かれており、片方の先が肩の上にちょっと出ている。折り畳まれた翼が、そういう形になっているんだ。靴の先は三又みつまたに分かれ、踵も長く、それぞれの先端部は特に硬くなってるのか、コツコツとカスタネットみたいに床を鳴らしている。


 外ハネ気味のセミショートヘアには、メッシュみたいな黄色が混ざって、顔から突き出る黒いクチバシは、よく見るとそういう形のマスクらしかった。

 

 有翼族ハピノイド

 鳥類に近い知性体種族。


 動体視力や空間的な認識力、そして声帯の自在さに優れてるとされている。ちなみに、飛べるかどうかは個人による、のだそう。


「Bスコア冒険者ウィリ=デ、よろしく」


 職員さんと握手を交わした彼女は、くるりと反転して全員を見回す。


「それで?世にも光栄な私の王子様パートナーは?」

「もう少しお待ちください。じきに分かります」

「はいはい、デートは待ってる間が一番楽しい、ってワケね」


 二人がそんな言葉を交わしている間に、みんなの困惑が追い着いてきたらしい。


「ウィリ=デ……?」

「“き誇るカーテン”ウィリ=デか……?」

「Bスコアって言ってたぞ……!間違いねえ……!」

「なんで基礎能力測定に来てるんだ……!?」


 どうも、それなりに有名な人らしい。

 「B」ってことは、準最高スコア。

 上から数えた方が早い優秀さ、ってことだ。


 確かにここに居るのが場違いなほどの格上だけど、どんな用件なんだろう?気になって、もうちょっと観察してみる。

 お金持ちの商人、って感じじゃないし、第一印象だけで予想するなら、武勇で名を挙げてきたタイプの冒険者……?


 なんて思量しりょうの途中で、片方の扉の光が消えて、ゴリラみたいな顔のリカントが出てきた。


「お次の方、整理番号0105番の方!」

「あっ、わっ、はいっ!」


 他のことに気を取られて身構えられておらず、ワタワタしながら手を挙げて直立することになる。急いで動いた勢いで全身が縦に伸び切った僕は、はたから見たら棒みたいになっていただろう。

 

 何か恥ずかしくなってきて、そそくさと会場に入ろうとして、だけどその時、職員さんの様子が妙なことに気付く。


「……ウィリ=デ様」

「……へー?君がそうなんだ」


 さっきまで丸みを帯びていた、ウィリ=デさんの目、それがしぼられて紡錘形ぼうすいけいへと変わる。

 目蓋の下から覗くオレンジ色の虹彩は、高熱をしたたらせる鉄の刃先みたいだった。


「あ、あの……?」

「ユイト君だよね?初めまして」

「え、え……」

 

 彼女は爪先をカタリカタリと鳴らし、僕の前で止まる。

 こうして近くに立って、向かい合うことで、分かる。

 この人、背が高いし、怖い……!


「よろしく」

「い…っ」


 握手を求められ、咄嗟に返してしまう。

 ジロリと、彼女の視線が下へ、その手へと落とされる。


「文官って感じの手だね。武器を持ったこと、無いでしょう?」

「う……」

「しかも、嘘を吐くのも、隠すのも、得意じゃない、と……」

 

 彼女の首から上が職員さんの方へ巡らされたことで、舌先まで痺れる金縛りのような状態から解放される。

 今、僕の中にあったのは、「死にたくない」って反射思考。


「本当にこのコ?」

「間違いありません」

「ふーん……?まあいいか、仕事は仕事ね」


 膝の笑いが止まってくれる前に、彼女は僕へと向き直り、優しげな目をして言った。


「大人しく降参して、洗いざらい話してくれる気になったら、早めに言ってね?素人を痛めつけるのは、あんまり趣味じゃないの」


 あ、勝てない。

 これ、無理なヤツだ。


 正確な戦力評価なんて出来ない筈なのに、なぜか迷いなくそう断定できる。

 緊張から解放されようと、手がひとりでにフードを取っぱらおうとしてしまう。


 でも、勝たなきゃ、なんとかしなきゃ、いけないのだ。拳を握ることで、両手の暴走を押さえ込む。


 僕が弱くて珍しい動物だって知れたら、トラブルを呼び込む。そして自動的に、エレノア様がそれに巻き込まれる。


 それは、絶対にダメだ。


「と、とりあえず、部屋に……?」

「あら、そう?思ったより頑張るじゃない。男のコって意地っ張りね」

「どうぞ、お入りください。後がつかえていますので」


 僕は逃げるように扉へと進む。

 だけど実のところ、それは逆だ。自分から危ない方へ、飛び込んでいるのだ。


——どうしてこんなことに……!


 ここから、エレノア様に累を及ぼさずに、この局面を切り抜けられる可能性。それを探して、絶望的な気分に陥る。




 僕がこの人の一枚上手(うわて)を行く、という“不可能”を仮定しない限り、必ずエメリア様に損をさせる。

 それが分かってしまうのだ。




 一時のテンション、自分本位の夢想、

 そういうものを優先した、その短慮な行動の行き着く先が、恩人への、大切な人への不義理。


 どうしてあの時、彼女に付いて行くと、決めてしまったのか、言ってしまったのか。


 呪いそのものみたいな僕が、誰かと一緒に居続けたら、いつかその人に被害を与えるって、予想出来ただろうに。


 彼女がくれる思い遣りの言葉を、真に受けて調子に乗ったのか?

 僕の疫病神ぶりを、忘れてもいいかって、思考放棄したのか?


 逃げたのか?

 自分の至らなさの証拠を、元の世界ごと捨てようとしたのか?

 恥知らずにもほどがある!

 

 だからこそ、だ。

 だからこそ、僕はここで諦めちゃいけない。

 

 もう僕は、エレノア様の船に乗った。

 「なんでお前はこんなに重いんだ」とか、自問してる場合じゃない。


 何をやってでも、船を沈ませるな。

 お前みたいなヤツに出来る、唯一のことは、諦めないことだ。


 考えることも、戦うことも、投げ出さないこと。

 お前なんかでも持てる武器なんて、それだけなんだから。


 そんな煩悶はんもんを打ち切るように、背後で扉が閉まる音がした。

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