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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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35.自由の庭 part2

 入って左、一つ一つがATMみたいに、簡易的な仕切りで区切られたカウンターに、エレノア様が足を向ける。そこが受付なんだろう。「搬入口」の方からも直行できるよう、手前の真ん中辺りに設けられている、んだと思う。見た感じ。


 近付いてみると、穴の開いた透明のプレートで、職員と隔てられていることが分かる。チケット売り場みたいだな。


「いらっしゃいませ!」

「はじめまして」


 耳の形や白い体毛が兎を思わせる小柄な女性が、元気ハツラツな挨拶をしてきて、エレノア様は特に動じずサラリと返す。「直接足を運ぶのは初めて」って事前に聞いていた僕ですら、そうは思えないくらい堂々としていた。


「本日はどういったご用件でしょうか?」

「組合への加入を」

「なんと!ようこそ!“自由の庭”エネクシアへ!」


 ただ、どっちにしろこの時点で、応対した人には新顔なのがバレる。

 これから「冒険者」なるものになろうとするなんて、9割9分(くわりくぶ)エネクシアに来たばかりの人くらい、というのが常識なのだとか。


「所定の加入費用とー、それからこちらに血判けっぱんを押して頂き、認証用の血液と指紋を登録してくださーい!手続きの間、『冒険者』についての詳しいご説明をお聞きしますか?」

「ええ、是非とも」

「かしこまりました!おっほん!」


 情報の更新がないかの確認の為、お願いするエレノア様。

 僕も復習がてら、しっかり聞いておく。




 元々は、野生動物や魔物、周辺諸国といった外の脅威に対し、豪商同士の軍事的連携を、円滑に進めるシステムだった。


 例えばAという組織が直面した危機に対し、「あいつなら担当者として適任だ」と、頼りたい人が居るとする。


 その人は過去にAからBの組織に移っていたので、連絡を入れて「ちょっとアイツ貸してくんない?」と交渉するのだが、Bの組織は「アイツ?Cに入ったよ?」と答える。


 そこでCに渡りを付けてもらい、改めて交渉すると「アイツ?Dに引き抜かれたよ?」と言われ、今度はDに繋いでもらうと、「あ、そいつこの前、組織の金使い込んだからブッ殺したよ?」となって、みんなが「この時間なんだったんだよ……」ってなる。


 加入や喪失といった人材の流動性が激し過ぎる、というのが、「エネクシアの良い所」と表裏一体な難点。

 今の例はまだ平和な方で、「人の取り合いから発展した商人同士の抗争」とか、もっとシャレにならない場合だってある。


 そういった面倒が何度も起こったという経緯から、「戦力だけでも全体で共同管理しようぜ」、「無駄な殺し合いはみんなの睨み合いで抑止しようぜ」と、豪商達が共同出資して作った組織、それが“冒険業支援協同組合”。


 戦士の一人一人を、その所在や経歴について、組合が一括管理。引き抜き交渉等も、組合が中立的立場として間に入り、なるべく穏便のまま進める。


 「全ての戦士は、どこかの商人に雇われる前に、まずエネクシア全体の共有財産である」、という考え方。


 このエネクシア独自の在り方は、従来の傭兵と区別する為に、「“自由”の為に()()()()()()の集まり」という意味で、「冒険者」と名付けられた。


 んだけど、そのうちまた別の問題が発生する。

 つまり、「どこまでが『戦力』なのか」問題だ。


 直接の戦闘員はそうとして、じゃあ運送とかを担当する人達は?戦士としては微妙でも、平時のエネクシアを強くし、長期的な「戦い」を有利に進める上で重要なのは、むしろ彼らの方だったりもする。


 武器を製造する鍛冶師や魔導技師は?

 物資を調達する生産者や商人だってそうなのでは?

 「使い走り」と言われる人だって、情報伝達という無視できない役目を担っているのでは?


 それに、エネクシア内で生まれた子どもを、優秀な戦士や商人として育て上げる、その大局的なプロジェクトも、共同出資で行うべき「戦力増強」なのでは?


 等々、「冒険者」業務の範囲が広がりまくることになり、商人達はそこで開き直った。


 「自由経済の為に集った者達によって、エネクシアは形成されている。つまり!俺達はみんな冒険者だったんだよ!」ドーン!と、都市群を成立させている全ての人に、組合への加入を“要請”したのだ。


 そうした経緯の末、従業員の雇用や仕事の外注に始まり、短期的な儲けとしては微妙な公共事業等まで、あらゆることが組合経由で行われることになる。事実上、エネクシア内で生計を立てるには、「冒険者」でないといけなくなったようなもの。


 そんな感じで、組合という巨大中立組織を介して、エネクシアで生活する一人一人がこれまでどんな経験をして、どんな技能を持っていて、どこに所属して、何をやっているのか、それが全ての豪商達からざっくり見えるようになった。


 言うなれば一億総個人事業主社会……ちょっと違うかな?一億総転職サイト時代、の方が近い?


 フィクションで言う冒険者ギルド的なものに、広範な人材マッチングサービスと、あとは行政とか警察とか証券取引所とかの機能が詰め込まれている、ってイメージ。


 一応組合に加入しない「自由」もあるけど、「強大な後ろ盾がある」みたいな特殊な場合を除いて非推奨。


 「冒険者」でないということは、エネクシアの“自由”に賛同しないということであり、取引相手としての信用に値しない、となるからだ。




 そういった背景を踏まえて、エレノア様は冒険者になると決めたらしい。

 ここで成り上がるなら、それをしない理由はない、と。




「はい!“エメリア・シルヴェルト”様ですねー!」


 勿論、職員さんから渡された用紙には、偽名を記入する。

 今の彼女は、「謎のダークエルフ、エメリア様」だ。


「それではこれから簡単な職務適性の測定に移らせて頂きます!最低限の戦闘技術確認と、基礎的な算術、論理思考、社会常識ですね!それ以外、それ以上のものに関して計測をご希望の場合は、別途料金をお支払い頂いております!」

 

 今説明されたのは、資格試験的な仕組み。


 他の冒険者達がビジネスの為の人材を探す時、組合のデータを参照する。そこに「このレベルのことができますよ」と、アピール情報を付加するには、職歴を重ねる以外に、各種適性測定で良い結果を出す、という方法もあるのだ。

 

「計測後、冒険者信用スコア認定が行われます!スコアは上から順にA~Gまでの7段階!あっ、S(シグマ)って特別な枠もありますが、今は気にしなくて大丈夫なので、頭の隅にだけ置いといてくださーい!」


 「信用スコア」も、データに載せられるアピールの一つ、なんだけど、それだけじゃない。


 冒険者が組合に共有される個人データを検索する時、信用スコアが自分より低い人のものしか見れない。


 本人の希望で全公開にしていたり、同格同士で組む時に当事者間で見せ合ったり、という例外を除き、同スコアまでを対象に手の内を隠しておける。


 他にも色んな特権や優先権、組合からの便宜を図ってもらえたりとかがあるけど、一番大事なのはやっぱり、情報戦での優位。


「今回の測定結果によっては、初期信用スコアが高くなり、有利なスタートを切れますから、頑張ってくださいねー!」


 そんな重い意味を持つ「スコア」は、基本は“取引”を繰り返して上げていくものなんだけど、初手での飛び級制度も完備されているみたいだ。よく出来てるなあ……。


「ご丁寧にどうも。行きますよ」

「はっ、はい……!」

 

 必要事項を書いた紙を提出し、試験会場があるという2階を目指すエレ……エメリア様。いそいそとそれに付いて行こうとしていたところで、

 



「忠告させて頂きます。エメリア・シルヴェルト様」




 背中を刺すような冷気に、立ちすくむ。

 エメリア様もその場で止まり、けれど鷹揚な様子は崩さず、ゆるゆると振り向いた。


「そのままお進みになるのでしたら……あなた様の()()の公算は、極めて高いものとなります」


 恐る恐る後ろを見て、息を吞む。

 受付の職員さんが纏う空気が、さっきまでと打って変わってしまっている。


「今一度、お考え直し頂きますよう……」


 人で言う白目に当たる部分が、真っ赤に照り輝いている、大粒のルビーのような双眸そうぼう

 

 その眼光は、けれど情熱とは真逆で、鋭利な酷薄さを帯びていた。

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