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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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33.好奇心 part3

「ふむ、決めました。ユイト、これからも私と食事をしなさい」

「「えっ!?」」


 そしてさっきからこの人は爆弾魔か何かなの!?

 言う事やる事一つ一つのインパクトがデカいって!

 ペイルさんまで突き放す勢いだって!


「あの、でも、呼吸だけで、1年?とか持ったわけですし、食べなくても……」


「それによって、お前のマナ運用能力が、酷使されている可能性もあります。激しい戦いの最中に、力尽きて体が戻らない、なんて、笑い話にもなりはしない」


 う、うーん、それは確かにそうだ。


 僕の体にマナ貯蓄能力があるかは分からないけど、でももっと簡単に取り込めるマナを、日頃から大量に体に入れておくことで、少ない分を必死にやりくりしてくれているユニークのシステム?を、休める意味はあるかもしれない。


「それに、です。外部から命やマナを意識的に取り込む行為は、お前の人としての価値観を、形成する営みでもあります」


「ひと、として……」


「ハイエルフほど極端でなくとも、種族の平均寿命の差が、三大欲求の扱い方の相違が、価値観に断絶を生む。いわんや不死をや、です」


 この世界で親切にしてくれた人達の一人、バナフスさんにも、同じような事を言われたと、思い出す。


 人らしくあるには、形だけであっても、人と同じことをするべきだって。

 それを忘れてしまえば、人でなくなってしまうかも、って。


「お前の特長とは、『見方のこまやかさ』であると、私はそう考えています」

「よく、気が付く、って、ことですか……?」


 地球では、ずっと真逆のことを言われていた。だからその評価を、にわかには真に受けられない気持ちもある。けれど、何故か彼女の口で語られると、すんなりと受け入れられる気がした。


 この人の見る目を、僕が信頼してる、ってことなのだろうか。


「それは、目の前の物事を完全に知りたがり、『今よりいい状態』を願い、それをどうにか成立させようと考える、貪欲さを持つがゆえの性質。


 換言かんげんすれば、『理想や目指す』志向が強い、ということを意味します。


 そしてその種の意志は逆説的に、『不完全で制限された者』でなければ持ち得ない。そのお前を生かし続ける為に、お前は『ちっぽけな一人』のままでなければならない」


 「特にお前は、すぐに己を捨てようとしますから」、僕が斜めに振りあおいだ先で、お日様みたいに黄色い目が、見守るように暖かく抱き留めてくれた。


「言ったでしょう?お前は私の所有物であるのだから、壊れてはいけない、と」

「エレノア様………」


 彼女はどうしていつも、僕の胸を熱くしてくれる、そんな言葉ばかりをくれるんだろう?「たとえそれが詐術だったとしても構わない」、「何もかも差し出してしまいたい」、そう思わせる文ばかり、つづれるんだろう?


「“生きる”には、『喰らう』ことが必要ですよ、ユイト。たとえ不死であっても」


 彼女の見ている前なら、自分を誇っていいかもしれないって、僕がそう思ってしまう。

 玄桐唯仁が、そう思えてしまう。


 それはとても、

 とてもとても、

 想像を絶する“不思議”なのだ。


「まっ、ほんとーに体外排出が必要ないのかどうか、その結果次第ですねぇー」


 「私、キミのおしりとか絶対洗いたくありませんから」、ペイルさんの言う通り、トイレタイムとかの余計な手間を増やして、二人の足取りを鈍らせたりとか、そういうデメリットが発覚したなら、また考え直すべき議題だ。


 あくまで優先は彼女達二人、と言うより、エレノア様の野望なんだから。

 

「というわけでペイル、ユイトの分も足しなさい」

「はぁーい……、ひと噛みひと嚙み感謝してくださいよぉ?キミィ」

「あ、ありがとうございますっ」


 そうして皿が追加されるステーキと山菜のサラダ。

 ここまで来ると食べない方が失礼なので、ありがたく頂くことにする。


 調味料とかは僅かに保持していたらしいけど、そうは言ってもその種類や分量は限られているから、全体としては素朴な味わい。……エレノア様は、贅沢な食事とか恋しくないのだろうか?


 ペイルさんの努力と、ダラダラ続く僕の空腹というスパイスがあってなお、肉の固さや臭みをバリバリ感じさせてくる獣の肉を、文句も言わずに食べている。


 その適応能力と言うか、バイタリティを尊敬せざるを得ない。

 だって、僕なんかより良い物を食べていた筈なのに、その生活水準の落差にも耐えてるってことで………


 ………


 あっ、そうだ!

 

「えっ、エレノア様…!僕も、実験、思いつきました…っ!」

「ほう?試しに言ってみなさい」

「僕、そこらへんの、土とか石とか、食べてみます…っ!」

「………」


 エレノア様の手が止まり、穏やかに曲げ上げられていた口角が、スンっと平らに均されてしまう。陽が沈んだみたいに、その目の色が暗い緑へと落っこちた。


 あ、あれ?

 

「あ、あの、いやっ、もしかしたら、その、ペイルさんみたいに、消化能力が、高くて、分解できるかも、ですし……、ほ、ほら!襲われた時、武器とか、喉の奥に突っ込ませて、僕の体の、マナ処理?に巻き込めるんだったら、それで先端を、壊せたり、とか……」


 エレノア様だって食の不自由を耐えてるんだ。僕も色々がんばらないと。という意気込みから出た思いつきだったのだけれど、何故か受けが悪い。


 慌てて活用方法とかを挙げてみたけど、むしろ言葉を重ねるほど、彼女の瞳の温度は下がっていく。


 彼女とくっつきそうなほど近くで、その腕の中に座っているのに、肌寒さがみるみる広がり、こごえからくる震えが、舌のもつれを更に酷くさせる。


「あの……、すいません……、僕、その……、何か、間違って……」


 そこでエレノア様の目が細められ、アルカイックスマイルみたいな、薄っすらとした笑みがかたどられた。


「ユイト」

「へ、はい……」

「その提案は却下します」

「え、あ、えと、どうして、とか、聞いても……?」


 一応出来るかどうかだけでも知っておくことに意味があるとそう思ったんだけど、何か僕の知らないマナの性質的に危ないとかあるのだろうか?或いは今までの話からどうなるのかは簡単に導き出せるから、「話聞いてなかったのか?」みたいな感じで怒ってる?でも百聞は一見に如かずとか言うし、やってみる分には——


 と、火花が跳ねるほど高速回転していた脳ミソを挟み潰すように、二つのゴムまりみたいなものが、ぐんにゃりと重量感たっぷりに押し付けられ、


「私の判断に、何かご不満が?」

「ア゜……ぃぃぇ……」


 全ての思考が「まあいいや」と放棄された。

 エレノア様が「必要ない」と言うなら、そうなのだろう。

 きっとこの世界について知るうちに、意味も分かってくる筈だ。




「ちょっ!こらっ!脳溶けてる!脳溶けてますって!そいつ!」

「とけてませえええええええ………」

「溶けてるでしょ!?溶け出してるでしょうっ!?頭蓋骨をスープのダシにしてやりましょうか!?」




 そうやってクラッシュしてしまった脳からは、この世のものとは思えない柔らかさを感じた直後から、食後に再起動するまでの間のデータが、全てパッタリ飛んでいた。


 そのことをちょっと惜しいように感じてしまう気持ち、それが徐々に大きくなり、とうとうその日の悪夢の中に入ってくるまでになって、そんな自分の気持ち悪さに、吐き気がこみ上げる。


 よりによって恩人であるエレノア様に、“そんな感情”を向けるなんて、救えないクズ野郎め、と。


 頭がその問題に引っ張られたせいもあって、最後に残された大きな謎、「僕を膝に乗っける意味とはなんだったのか」、ということについては、訊ねる機会をいっしたままとなってしまった。

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