33.好奇心 part2
「あの……」
「こら。よく噛んで飲み込みんでから話しなさい?」
「………」
とても正しき御言葉なんですけども!この異常な状況で言われると釈然としない!
これはどういう意図で、どうなってるんだ?誰かに説明して欲しい。
助けてペイル先輩!……ああっ!ダメだ!ポカンとしてる!完全に頭の中のCPUが固まってる顔だ!いや待てよ?「スライムにとって脳に相当するもの」が頭に入っているっていうのは僕の思い込みなわけで………じゃない!現実逃避してる場合じゃなくて!
「んぐっ……、あのっ!えっ、エレノア様っ!?」
「なんです?食事中はお静かに」
「そ、そうじゃなくてっ、これっ、何を……っ!?」
「お前が言ったのでしょう」
「はぃイ?」
「『好奇心』、ですよ」
これはどうやら、「検証」らしい。
「肉体の状態が巻き戻るお前が、食事をしたらどうなるか。非常に興味深い」
「あ、た、確かに……?」
言われてみれば、僕ではない「異物」がどこかから排出される、みたいな気配もない。別に死なないからって、今まで何も食べずにいたから気付かなかったけど、変な話だ。今口に入れたものは、どこに消えたんだろう?
そう言えば、バナフスさんからお茶を貰った後も、その……排泄は、した憶えがない……?
「最終的な結論は、もう少し時間をおいてから出すべきでしょうが……、どうやらお前の体のマナ運用は、それなりに高性能なようです」
「え?」
体内のマナの……運用?
みんなが出来る身体強化さえ出来てないのに?
「ペイル。軽く説明してやりなさい」
「ええー?」
「私は少し忙しくなります」
そう命じたエレノア様は、僕を懐にすっぽり収めたまま、何事もないみたいに自分の食事を始めてしまった。
……って言うかそれ間接キ……いや、深く考えてはいけない。ここで不用意に心拍数を上げると、胸を通して彼女にこの失礼な動揺がバレる。不快にさせないようにしないと。
「ぺ、ペイルさん、お願い、できますか……?」
意識を逃す先を求めて、僕が懇願すると、不承不承という感じで、彼女がエレノア様から後を引き継いでくれる。
「物を食べるとは、それを構成するマナを取り込むことです。これはいいですかぁ?」
「はい」
呼吸とは別に、大きなエネルギーが得られるマナ吸収。
だけど、他の物体の形となったマナは、特定の性質を強く表したものだから、“相性”みたいなものを発生させる。
一般的に生物は、生物のマナしか取り込めない。
そして生物同士にも、「こいつからは取り込めるけど、こいつからは難しい」、みたいな関係性がある。
例えば、植物のマナを取り込める動物は限られていて、それが“草食動物”と呼ばれる。
草食動物が得たマナは、その体を作るのに回され、つまり「動物型」に変化させられる。
そうすると、肉食動物でも食べられるようになる。
植物と肉食動物の間のマナ移動を、草食動物が仲介している構図。
「が、何事にも例外はあります。分かりやすいところでは、この私とか!」
ペイルさんの右手の先が、張られた胸に当てられる。
スライムは消化、吸収できるマナの範囲が、かなり広いのだと、彼女は言った。
「私くらいマナ運用能力が高くなると、水に関係のあるものなら、一欠けらも残さず取り込めます!」
「すっごお……!」
思わず拍手だ。
フードロスがゼロだし、生物でないものからでもマナの抽出ができるわけで、無茶苦茶エネルギー効率が良い。
ちょっと酷い言い方だけど、僕らにとってはゴミでしかないものでも、彼女には糧に出来る。「無駄」と言われていたものを、利用価値のあるものに変えられるのだ。
スライムは簡易的に飼育する方法が確立されてないらしいけど、それが可能になった瞬間に文明レベルとかが進みそうな迫力がある。
「ちっちっち、私はスライムという体質があるからこそです……。本当にスゴイのは、研鑽によって消化吸収の範囲を拡張した御方……!」
「そ、そんな人が……、はっ!まさかっ!?」
「そう!我らが主エレノア様は!生物由来のマナであれば、完全に己が物にすることが可能なのです!」
ウワー!なんてことだ!
食べたら食べた分、老廃物無しに全部動力として利用できるってことぉ!?
そんなのもう、昭和のアイドルじゃん!神域じゃん!一種の理想じゃん!
しかもその能力を訓練で後天的に!
僕のご主人様が留まるところを知らなくて困る!!
「ペイル……?文言は正確に扱いなさい。生物種によっては私のマナとの間に、拒絶反応を起こすものもあります」
ペイルさんの盛った解説が、流石に看過できないレベルに突入したのか、口を挟んだエレノア様だったけれど、その言い方だと、今食べてるお肉とかなら、100%エネルギー化できるってことですよね……?
あの、否定が入ったせいで、余計に偉業のリアリティが上がったんですけど……?
「私が大食漢であるかのような情報操作を行わないように」
しかも食いしん坊扱いされるのを気にしてる……!?
茶目っ気まであるの……!?
この人恐ろし過ぎるよお……!
「そーゆーわけでエレノア様は、キミの体内でも同じようなことが起こってるんじゃないかって、そう考えていらっしゃるのです!」
「うぇっ、ぼぼくが?」
そこで急に「偉業」と同列に扱われ、みっともなく狼狽えてしまった。
いやまあ、みっともないのはずっとなんだけど。
「でも僕、あの、マナを操るとか、からっきしですよ……?」
「恐らくユニークの特性でしょうね。お前の現状を保存、維持する、その為のエネルギー確保、及びマナ運用に、全魔導リソースが割かれている、と考えられます。」
固有魔導。
ペイルさんの「水を生み出し、操る力」みたいに、誰にでも出来る身体強化とは違う、個人ごとの固有能力。
僕の不死身体質もその一つ、だと思われる。そしてそれは、かなり高度なマナ操作を必要とするらしい。
「ユイトの魂が、肉体の巻き戻りの影響を受けないよう、それぞれを全く別個のルートで扱う、ということまでしています。それほどの高精度処理が、無意識レベルで常に稼働しているのですから、手も足りなくなろうというもの」
「呼吸分だけでヤバい復元能力してますよねぇー。こう言うのもシャクですけど、燃費って意味ではエレノア様以上に見えます……」
「もしかすれば、ですが、外部のマナを自身の一部に加工する、マナ変換処理能力ですら、上回られているかもしれません」
「ひぇぇ……?」
一応僕の話なのだけれど、自覚は一切ないのだから、褒められている気分なんて、全然感じられない。と言うか、僕の努力とか関係なく与えられた“性能”でしかないから、どこか後ろめたさすらある。
恐縮と収縮を交互に繰り返すしか、やれることがない。




