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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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32.旅路 part2

「それなら……そこを、迂回して……えっと、もうちょっと先の街?を、目指す、とかは……ダメ、なんですかね……?」


 


 歩きでの移動を再開してすぐ、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。


「それまではその、かくじ、あ、うーん、ほぼ、確実に、えー、エリーフォンに、見つからない、と思うんですけど……」

「それも考えましたが」


 僕のすぐ隣を歩いているエレノア様が、こっちに視線を流す。

 僕と歩調を合わせてくれてるこの人は、本当に従僕の面倒見が良い。


「商業都市群の中ほどで急に余所者よそものが現れる、という不自然さで悪目立ちするデメリットが生じる、というのが一つ。あとは情報ですね。最新の動向や情勢を、逃したくはありませんでした」


「あ……、さりげなくないと、ですし……、道を変えなきゃ、とか、ありますよね……」


 出来るだけ人に会わない、正体を探られないルートを選ばなきゃいけない僕達にとって、町に集積する情報は重要になるだろう。


 一帯の支配者が変わってて、取り締まりが厳しくなったりとか、地図が書き換わってて、前まで無かったところに関所が出来てたりとか、そういうことだって無くはない。それをなるたけ早めに察知したい、となるのは当然だった。


「最も悪いのは、今私達が目指している場所が、知らぬ間に滅びていた、という可能性です」


「あー……」


「特に私はハイエルフですゆえ、注意していても、他種族の営みの早さに置いていかれることが……」


「ああー……」


 エレノア様達ハイエルフは寿命が長く、体内時計のスケールに大きなギャップがある。


 彼女はその差を補正しようと、ダークエルフやリカントも関わる戦場に赴いたこともあったらしいけれど、そうは言ってもまだ万全とは言い切れず、今でもうっかりする恐れがあるのだとか——


「……え?た、体感時間、合わせる為に、えっ、安全な都市から降りて、戦いに……?」


 スゴい。歩み寄る為にそこまでするのか。道理で命のやり取りに慣れてるわけだ。


「あまり褒められた動機ではありませんよ。ハイエルフは天上人てんじょうびととして振舞っていますが、他の種族の発展の急速さを考慮すれば、いつ何時なんどき追い抜かれ、追い落とされるかも分からない。私はの国の体制を盤石にする為に、目を光らせようとしただけ」


 「つまらぬ保身です」、

 彼女はそう言うけれど、自分の当たり前の尺度を疑って、多角的な視点を持とうとするなんて、出来る人の方がきっと少ない。

 

 僕みたいな小市民では、どれだけ身を守ろうと頭を悩ませたとて、一生掛かっても自力で辿り着けない「恐れ」だ。

 

 と、いう感じのことを、エレノア様の事情も考えず、テンションが浮き立つままに並べてしまった。こっちにとってはプラスの内容でも、相手にとってはそうじゃない時もある。


 僕は、彼女がエリーフォンでそれなりのポジションを築いていた、という話を思い出し、その頑張りや目の付け所から、有能さを見出されたんだと、そう確信したのだが——


「……面白くもない、笑い話をしましょうか?」


 彼女のキリリとした釣り目の端が、その時どこか、力が抜けてしまったように見えた。


「例の審問会の際、私が下層に頻繁に降りていたことについて、熱心な愛国者の方々や婦人会から、言及がありまして」


「それ、は……その……」


 彼女の雰囲気が気になって、「なんて言ってくれたんですか?」とか、無神経な僕でも聞けなくて、


「『甘淫かんいん令嬢エレノアは、穢れた血同士のぜ合いに興じている』」


「え………」


「『下賤な下層民や敵国の異種族と、日夜にちやおぞましき色事いろごとふけり、純正血統汚染の共謀をくわだてている』」


「なん………っ!」


 それを聞き、思わず声を荒げそうになったところで、先導するペイルさんが、僕を険しい目でかえりみていることに気付く。「いやな記憶掘り返させるなよ」、という言外の叱責が心臓を突き刺した。


「す、すいませんエレノア様、あの……!」


「ユイト?ペイルもです。妙な気を遣わないように。これは私の過誤かごの話なのだから」


「そんなっ、エレノア様が、なんで……!いっ、言い掛かりの、中傷じゃあ……っ!」


「この子に同意するのは腹立ちますけどぉー、バカ上層民にデタラメぶつけられたってのは、ミスとかそういうのじゃありませんよー!」


「いいえ、私は酷い思い違いをしていた」


 彼女は幼少期の経験から、自身の力で道を切り開く、それが力の示し方だと、そう考えていた。だけどエリーフォンでは、それは的外れだったと言う。


「あの国では、おおやけへの奉仕、社会の為の献身は、奴隷のすることだった。他の種族にとっては、『生涯』と呼べるほど長い時間、あの都市で生きておきながら、私は最後までそれに気付けなかった」


 真に力ある者は、自分で動いたりしない。

 自分の手を汗や泥、血で汚すなんて、あってはならない。


 誰か何かを動かしながら、自分は空調の効いた部屋で頭だけ使い、涼しい顔をしてくつろいでいる。それが“有能”で、“清廉”で、“高貴”で、“美しい”、そして“正しい”人。

 

「『お前が駆けずり回っているのは、お前がその血や能力において、汚らしく劣っているからだ』と、そう指弾されると、くくっ、困ったことに反駁はんばくのしようがありませんでした。私はこのように——」


 彼女の右手がそこで、サラサラと音が立つような銀髪を前になびかせて、


「あの国における“悪”を生まれ持ち、だからこそ立身りっしんりつかれ、とどの詰まり能力不足によって、敗北をきっしたわけですから」

 

 その麗風れいふうが、表情を輝きの向こうに隠す。

 

「だからこれは、私が客観を持たずに暴走した、それだけの話」


 次にカーテンが引かれた時、そこにはいつも通り、強く前を見据えるエレノア様が居た。


「私は反省し、それを次に活かせるエルフです。この私がかつてのあやまちの封印など、そのような不毛に手を染めるとでも?」


 戦意を充溢じゅういつさせるように、彼女は笑っていた。

 彼女はどんなどん詰まりでも戦えるし、なんでも武器にしてしまう、そういう人だ。だから僕は、彼女を………

 

 彼女を、何だろう?


 尊敬したのか?

 憧れたのか?

 それとも?


「えっと、エリーフォンの、文化については、その……まだ、詳しいとまでは、言えない、ですけど……」


 ただ、それとは別に、

 さっき垣間見えた目元が、幻みたいな哀愁のきざしが、

 なんだかずっと、記憶の淵の上の方に、引っ掛かっていて、


「正直、ムカつきます……!」


 こみ上げるように、口が走ってしまった。

 そんな癇癪、彼女にぶつけても、意味が無いって言うのに。

 

 エレノア様は、目を丸くしながら僕を見た後、くすりと含み笑いをこぼし、


「お前にも、そんな顔があるのですね」


 ガキっぽい感情の発散を、優しげに受け止めてくれたのだった。

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