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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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無邪気

 星明ほしあかりの下の夜と同じように、ぼんやりと照らされる暗がり。

 けれどもどこか無機質に思えるのは、青みが無粋に強過ぎるせいか、それとも空間の狭さのせいか。


 そこは、通路のような場所だった。

 ゴツゴツした岩肌に、青色に光るラインが引かれ、それが視界を確保している。


 その途中、少し広くなったところ。

 壁からテーブル代わりとなる台が彫り出され、その上に食べカスや工具などが散乱している、休憩所らしき広間。


 今、その端の方に、小柄な人影がたむろして、闇色の塊を作っていた。

 餅めいて柔らかそうな輪郭をした体には、濃淡様々な黄色のラインがはしり、その頼りない照明が、琥珀こはくの如き褐色の瞳を、何対なんついも暗中に光らせる。


 その視線の無数照射を、穴だらけになるほど受けているのは、壁に取り付けられた金具に鎖で繋がれた、一匹の珍種。


 光る線を束ねる体に見下ろされ、蛍光灯のように黄ばんだ明かりの中に居ることで、そいつが感じている痛みが、ますます生々しいものとなる。


 その、地に付いていた右手の甲を、一本の細い金属棒が貫いた。

 頭に一対いっついの突起を持つ小鬼の一人が、さっきまで食事に使っていた串で、オモチャをいじくり始めたのだ。


 掌の内が凍り付いたと感じた後、今度はそこから火が噴き出たと思えるような、激しい体感。それ以外にそいつが得られたものは、耳をつんざくヒステリックな叫び。


 遅れて、喉にやすりを掛けられる痛みがやって来て、喚いているのが自分だと気付く。


「イタがってるよ……!」

「マジだ……こんなので……」

「すっげー……!ぜんぜんコワくねえや……!」

「ね、ね、つぎボクにやらせてよ……!」

「あ、おい、ぬかすなよー……!」


 喉に籠った笑い声と、その空気が漏れたような言葉。それらが風の強い夜の森めいて周囲を騒がせ、彼らの血の気と体温のたかぶりを増長させる。


 そう、彼らは興奮していた。

 しばらくぶりに貰えたプレゼントが、自分達の好きにしていい動物。幼い彼らが熱中するのは、自然な成り行きだった。


「ほんとに、なぁんにもできないんだぁ……?」


 彼らの最前列には、やっと回ってきた自分達の順番を、仲良く共有する双子の姉妹。


「クヒヒッ、やめてほしい?やめてほしいのぉ?じゃあ言わなきゃさあ。ちゃんと口に出さなきゃだよねぇ?」


 串をぐりぐりと乱暴に回し、傷口を乱暴に押し広げる姉。


「うわ……、ブリュネ……こいつ、泣いてる……」


 冷たい目と口調で、ただ観察するだけの妹。


「ほんとだ!ほんとだほんとだー!クヒヒヒッ!アタシたちにスキホーダイされて、テーコーできないどころか、ないちゃうんだぁーッ!」


「ふるえてる……びくびくーって……ばかみたい……」


 体が反射的に防御反応を見せ、本気で逃れようと藻掻もがいている。

 その様を仔細に捉えながら、妹は姉にヒソヒソと、その生き物の哀れさを暴いていく。


「たぶん、ほんとにこれが、精一杯……。これが、本気……」


「やだやだやだーって、そーやってビクビクプルプルするしか、できないんだぁー?くるしいよー、たすけてーたすけてーおねがいー、って、そうゆってるの?ねえねえ?どうなの?」

 

 「オモチャ」がグシャグシャの顔を、何度も上下に振って見せる。

 姉がそれを、素足で踏みつけにしてしまう。


「おい、なにきたないカオみせてんだよ。アタマあげるなよ。そこでメソメソ、ゴメンナサイしてろよ」

 

 体重を掛け、硬い岩盤に押しつけて、雑巾みたいに前後させ、顔面に泥土を塗りつける。

 そこまでされて、けれどその生物は、じっと耐えることすらできず、なすがままにされている。


 何も感じていないのではない。

 そいつの身体が命の危機を訴えて、全力を解放して嫌がって、涙を流しながら抗って、


 それなのにここまで、良いように遊べてしまうのだ。


「弱過ぎ……キモチワルイ……」

「よわいクセにさからおうとすんなよ。ラクになろうとすんなよ。シアワセになろうとすんなよ。よわいんだから、ずっとなきわめいてろよ……!」


 自分達より明確に下の存在。

 どれだけ頑張っても自分達を害せず、言い分を押し付け放題な、安心感と全能感をくれる遊具。


 それはまるで麻薬のように、彼らの脳をピリピリと喜ばせた。




「つぎは左手いっちゃおーっと!」

「ブリュネ……、爪はがそう、爪……」

「クヒヒッ、おもしろそー!せっかくだし、耳とかモいでみるぅー?」




 これからしばらく後、その巣は壊滅した。

 彼らの生き残りは、「遊び」の光景を何度も思い返すことになる。

 後悔と共に、何度も夢に見るのだ。


 「あんなこと、しなければよかった」、

 「あれさえなければ、許されたかもしれないのに」、と。

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