風雲急を告げる
「エレノアが、死んだ」
チカリ、チカ、チカ、カラフルな光点。
キラリ、チラ、チラ、無作為な明滅。
宝石散らす黒墨の川。
そこは空か?いいや違う。
どこかの屋内。魔石の宝庫。
「エレノアが?」
「嘘でしょ?」
「んなわけ、ないよな?」
立ち、腰掛け、横たわり、
部屋のあちこちで寛いで、小さな明かりに輪郭を浮かべる、
てんで不揃いな影法師達。
「お前が言う『エレノア』とは、『甘淫令嬢』のエレノアか?『淫涜の天幕』と呼ばれた女か?同衾が死を意味する、あの淫売か?」
「如何にも。彼女はもういない。二つの神格の末節もろとも、名誉ある閃光と化してしまわれた。高貴で誇りある一等星となられた」
その言葉で、活気が熾った。
室内の誰もが、俄かに猛った。
くぐもった、忍ばされた、あけすけな笑いが、空間を満たした。
これでようやく、応えられる。
彼らの肩に掛けられた、創造主からの特別な期待に。
「計画を進めろ、それが我が君のご命令だ。我らが君は、血が見たいと仰せだ。白地に映える、鮮やかな赤が」
ピカ、ピカ、ピカリ、
バラついた点滅。
瞬くほどに、明るさを増す。
その輝きを遮っていた、奇妙な形の黒影たちが、
一つ、また一つと消えていくから。
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エリーフォン純白魔導優民国、元老議会にて。
議員の一人が起こした不祥事の後処理と、その代役の選定について、台本通りに進行していたそこに、乱入してきた者があった。
「臨時会中失礼致します!」
そう言って警護を押し退けた彼は、人数分印刷した用紙を配り、口頭報告の代わりとする。
元老議会中の発言は、全てがテレストラによって記録されるので、権限が無い者の発声は、最低限でなくてはならないのだ。
「新知性体からのメッセージ……!?」
「矢張り甲種遭遇か……!」
「“類猿族”……、!?このエリーフォンに、対等な国家関係を要求すると……!?」
「いや、この文言はそれに留まらない……!」
「『民族解放』……!『ハイエルフ優遇を打倒し完全実力主義国家を樹立』……!これでは我らが国体への挑戦……!宣戦布告だ……!」
「まだ出現から月日も浅いはず……!魔導兵器が満足に配備されているとは思えん……!この強気はどこから来る……?それとも単なる示威か……?」
「だが限られた戦闘記録からすると、高い魔導能力を有している可能性が……」
「新参の猿がユニークを持つと……?」
「しぃっ!滅多なことは言うものではない……!」
その内容に目を通した者から順に、議場内に漣の如き動揺が広まり、進行役の議長がガベルを叩いて、それらを打ち消さんとする。
その行為によって、幕が下りるように発生した、テレストラ議事録の空白の中に、
誰かが一言、
「“新生十二頭国トゥー・スィー”……!」
声明文に記された、新種知性体集団の名義を書き込んだ。
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それは、本来なら簡単に死に、
仮に生き長らえても末代として、潰えるものだった。
甘さであり、出来損ないであり、過ちであり、敗北だった。
善意に縛られるが為に、その「善意」を時代の先に受け継ぐということが出来ず、自分の番で途絶えさせる、“役立たず”。
理想に酔って、一縷の希望すら絶やす、“ゴミクズ”。
そういうものとして、消える筈だった。
記憶からも記録からも蹴り出され、その例外は無かったものとなり、「人類は愚か」だと、そう一括りにされる筈だった。
だが、それが死ななくなったことで、天地が裏返る。
困ったほどの頑迷さが、
生き物として、言い換えれば“残るもの”としての欠陥が、
無敵の一本筋となった。
他者を利用し、蹴落とすことに躊躇が無いような、短絡的な横暴に勝てない、机上の空論。
世代交代と進化の過程で、排除されるだけの最弱さ。
そんな無用の長物が、不撓不滅へと引っ繰り返った。
これはそういう物語だ。




