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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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30.ここに分岐などない part2

「言っておいてなんですが、お前には何の得もありません」


 口元に指を持ってきて笑う彼女は、蝋燭の火を吹き消しているように見えた。


「どころか、損ばかりです。不死体質である程度踏み倒せるとは言え、危険だらけの茨の道。人に優しくない生物や、人の敵たる魔物が跋扈ばっこし、まるで見知らぬものばかりの獣道けものみち。成功や幸福の保証などない代わりに、痛みも苦しみも、砂粒以上にありふれている」


 「そして」、

 こちらに一歩、彼女が踏み出す。


「何より私は、これから知性体と、言葉が通じる敵と戦う」


 ふたつのヘーゼルアイが、僕を脅しつけるように見下ろす。


「私の最終目的は、何者にも滅ぼされぬ頂点。その存在への否定も侮辱も、ゆるされることなき絶対権威。ならば当然争う相手は、蹴落とし合うのは、同じ知性ども」


 女王に、女帝になりたいのだと、彼女は言った。

 もう誰も、彼女を中傷できない場所を、彼女自身で作るのだと。

 そしてその為に、人を殺すことも厭わない、と。


「私に同行するというのであれば、これまでと同じように、いいえ、これまでよりも不自由になります。出口のない奴隷身分となり、私に永劫えいごう仕えることを呑んでもらいます。私に屈服し、屈従くつじゅうし、時に屈辱すら受け入れると、そう誓って頂きます」


 それが、同行者に求める条件。

 君臨したい彼女に付いていくということは、いつかはその下に服従するということ。


 ならば、今の時点で従者でなければ、嘘だ。

 これからもずっと臣下でなければ、矛盾だ。

 

「お前なら、その意味が分かるでしょう?私が命じれば、お前は知性をその手に掛ける」


 彼女の為に殺せなければ、失格だ。


「論理的に、それをしない方が得になる、という提案であれば聞き入れましょう。私も無謬むびゅうではないのだから。けれど、『やりたくない』では済まされない」


 いつかは必ず、その時が来る。

 能動的に、人殺しをする時が。


「無論、罪は私のものです。従者は私の手足であり、私の命令による責を、簒奪さんだつすることなどあたわない。けれど、本物の血で汚れるのは、お前の手、お前の足、お前の胸、お前の顔、お前の魂……ああ、失礼、仮にお前が私に同行するなら、です」


 嫌悪感は無視できない。

 罪悪感からは逃げられない。

 それは確実に、僕には向いてない。

 

「お前がそれを望んだ場合、家族や友人のもとに戻る以上に、私の為にその身をけがす、そのことを優先しなければならない」


 僕の個人的な、あらゆる望みを捨てて、

 ただ彼女を、女王にする為に、一切合財いっさいがっさいを捧げる。


「お前には耐え難い、耐えられない道行きとなるでしょう。……優しくて気高い、ユイト・クロキには」


 「だからこれを訊ねるのは、この場限り一度だけ。それ以上は無意義でしょう」、

 彼女は右の人差し指で、僕の顎を持ち上げて、


「ユイト。お前は同行を望みますか?」


 決断を迫った。


 違う。

 迫ってない。

 何も求めていない。

 決断でもない。

 当たり前を、確認したんだ。

 暗黙のうちに決まっていることを、ちゃんと確定させて、

 後腐れなく別れられるように。


 だから僕は、

 僕は、


「ひと、つ、」


 気が付くと、質問していた。


「ひとつ、だけ、あの、訊いて、いいです、か……?」

 

「許可しましょう」


 今の話には、仮定には、不明瞭にされているところがある。


「あの、仮に、仮になん、ですけど、僕が、エレノア様に、その、付いていきたい、って、言ったとして……」


「ええ、『仮に』、そうなったとして」


「僕はでも、あのその、『イヤだ』って、逆らえちゃうんじゃあ、ないですか……?」


 僕は、死なないから。

 最も重いペナルティを負わせられないから。


「僕が……、エレノア様の、邪魔をしたりぃ、うぅ、て、敵になったり……、あり得る、んじゃあ、ないんですか……?」


 細められていたエレノア様の目が、丸っこく広がった。

 「なんだそんなことか」、そう言っているようだった。


「それは有り得ません」

「な、んで……」

「何故?なことを」


 そしてまた、眼光が黄色一色となる。


「お前がユイトで、私がエレノアだから」


 そこにはやっぱり、何の疑念の影も、差していなかった。


「お前はお前自身への誓いを、そして私を、裏切らない。私がそれを知っているから」


 エレノア様は、僕も知らない僕を、知っているんだ。

 そう思った。


「さ、そろそろはらも決まったことでしょう」


 彼女は指を離し、それから何歩か後ろに下がってから、甲を上にして右手を差し出した。


「エリーフォンに向かうなら、立って、言葉にしなさい。万が一、私との同行を申し出るなら——」


 その視線の先が、すぐ前の地を這う。


「そこにかしずき、忠誠を誓いなさい」


 僕は、時間にしてたぶん10秒ほど、体感で1分くらいの間、その手を見ていた。


 僕は、

 僕が選ぶべきは、

 じゃない、そうじゃなくて、

 言い訳とか、今はよくて、

 僕が選びたいのは、

 僕の望みは、

 僕の覚悟は、


——そっか


 最初から、そうだった。

 最初から、何も変わらない。

 僕の心は、動いてない。


 初志貫徹。

 「大きな覚悟」。


 見せかけの、見た目だけのそれっぽさに、惑わされるな。

 僕がこれから何をするか、それは他人にゆだねることじゃない。

 自分のことは、自分で決めろ。




 立ち上がる。

 



 エレノア様の瞳と、正面から見つめ合い、声を整えるよう深呼吸を一つ。































 そして片膝をつき、両手で彼女の手を取った。

 

「連れて行ってください」




 砂だか石だか、固まった土だかが、警告するように、素足にめり込んでくる。

 そんな辛苦を吞めるものか。

 そんな勝手が許されるものか。


「あなたと、一緒に行きたいです」


 知ったことか。

 お前らが、みんながなんと言うか、分からないけれど、

 きっとこれが、色々な苦しみと、悲しみを呼び込むんだろうけど、


「あなたの奴隷に、してください」


 そうと分かって、進むんだ。

 それが生きるっていうことだ。

 



 生物は、僕は、結局やりたいことしかできない。

 意志通りにしか行動できない。

 そこに差があるとするのなら、覚悟があるか、それだけだ。


 


 と、彼女を見上げて、宣誓したつもりだったけれど、なんだか様子がおかしくて。

 エレノア様は空いている左手の甲で、顔の下半分ほどを隠してしまい、いつもの強さをたたえた眼差しすら外に逸らして、


「その……」


 珍しく、口ごもっていた。


「エレノア様……?」


 少し考えて、思いつく。


「も、もしかして、何かあの、儀礼的に、間違って、たり、とか……」


 もしかして、と言うか、そりゃそうだ。

 僕のこれは、地球の、それも限定的な様式だし。

 文化には収斂しゅうれんするケースもあるとは言え、全然(かす)りもしないことの方が普通なのだ。


「ごっ、めんなさい、こ、これ、どうしたら……」


 いつも通り締まらない僕に、エレノア様は目線を外しながら、


「我が手に……」

「手に……?」

「口付けを……」

「クチヅケ……口付け!?」


 思ったより僕の知ってるヤツに近いのが出て来た!?

 えっ、セラでも通用すんのそれ!?

 

「な、なんですか?出来ませんか?私の手に粘膜部分で接触するのは、そんなに抵抗を感じることですか?」


「ちっ、ちがっ、違いますっ!違います!僕的には全然、って言うかむしろ嬉しいくらいで、エレノア様がその、良いなら……!……ああ待って、今僕、何言いました……?あっ、あっ、あの、忘れて……!」

 

 ぶちかました変態発言を必死に取り消そうとした僕だったが、そこで彼女の尖った耳の端が赤くなっていることに気付いた。


 手際が悪い僕に共感性羞恥を感じてるのか、それとも良い感じの流れを乱されて怒っているのか、とかならまだいい。よくないけど、まだマシ。

 

 一番よくないのは、風が強いこの場所で、かじかんでしまっている場合だ。

 エレノア様の大切な肌を、僕のグダつきがいためつけていることになってしまう。


 ええいままよ!(この言葉初めて使った気がする!)

 改めて両手に力を籠め、


「……っ!」


 アームグローブ越しに、そのすらりと美しい手に、唇で触れる。


 その直前と直後で、手からぶるりと、震えが伝わってきた。

 やっぱり、寒いのかもしれない。

 すぐに終わらせないと。

 

 そうやって焦りで一杯なまま、今ので合っているか確認すべく、顔を上げたその時、


「これでお前は、私のもの」


 身の毛がよだつような寒気に、つーっと背筋をなぞられた。

 生きたまま、蛇に呑まれていたら、こういう気持ちになるのかもしれない。

 

「お前はもう、離れられない」


 何より恐ろしいのは、それが全く厭ではないこと。

 僕はその時確かに、喜びに浸りきっていた。


「エレノア。それがお前の、終生しゅうせいの主の名。魂魄こんぱく一片ひとひらまで余さず捧げるべき、お前の絶対にして唯一。えぬ傷として刻みなさい、ユイト」


 歯と骨が、カタカタ鳴っている。

 けれどそれは、迷いなどでは決してない。

 答えは一つに決まっていた。


「はい……!エレノア様……!」

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