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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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28.奇跡の内実

 波の中に居る。

 押しては引いて、寄せては返し、そうやって前後に揺さぶられている。


 このまま身を任せていてはいけない、その直感はあった。

 くうを蹴りつけて、思った方向へと進む、その力もあった。


 けれど、どっちに行けばいいのか、それが分からなかった。

 真っ暗で、何度も揺られ、方向感覚は常に狂い、失調していた。


 波動に打たれ、振り回されながら、どこかに掴みどころが無いか、手足で闇を掻く。

 そしてふと、糸のようなものに触れた。

 

 手探りでしっかりと掴み、手繰たぐる。

 前からくる波を耐え、背を押す勢いに従い、先へ、先へ。


 糸は、点から伸びていた。

 近付くにつれ、その点は穴となる。

 穴はやがて、光の塊となる。


 確信めいたものを持って、力強く、前へ。

 その輝ける道に入って、そこでようやく、自分の手足が目に入る。

 

 自分の形を思い出す。

 

 もう一度、背後を蹴った。


ドン!


 両目をいっぱいに開き、豊かな胸が跳ね、汗が散り飛ぶ。


「ハァー……ッ!」


 心拍が指導し、呼吸が再開、マナの流動が己の輪郭をくっきり浮きる。


「エレノア様!」


 10mほど離れた場所から、青く半透明の肌を持つメイドが駆け寄ってくる。


「ペイル……」

「良かったぁー……!ホントに死んじゃったかと思いましたよぉー……!」

「備えあれば、なんとやら、ですね……」


 エレノアは自らの無意識領域に、幾つかのプログラミングを施している。

 心臓が止まった場合に、固有魔導ユニークが自動発動し、彼女の自己保存能力——つまり心肺機能や自己再生能力、免疫力等——をブーストさせる、というのもその一つ。


 まあ、条件付けの過程で本気で死にかけたので、危うく本末転倒な結果になるところだったのだが。


 その脊髄反射的な能力発動については、ペイルにも事前に共有してある。

 だから彼女は触手を使い、遠隔から治療やマナ循環促進処置を行うことで、先程の固有魔導ユニークの直撃を避けたのだろう。


 ただ、体積が目に見えて減っているので、大きめのとばっちりを喰らいはしたらしい。息を吹き返すついでに周囲の生命を爆殺するなんて、我ながら難儀な体質だとエレノアは嘆息する。

 

「そ、それにしても、エレノア様自身の能力もあるとは言え、あんなに酷い怪我からよく復活できましたねぇ……!」

 

 ペイルが彼女を発見した時、全身の6割以上が焼け焦げていた。

 魂が壊れてもおかしくない重傷である。


「それを言うなら、多少なりとも原形を留めていたことが、奇跡と言えます……」


 彼女は自身の身体を見下ろし、その肌が隠されているのをしっかりと確認する。

 ペイルの腹に収納されていた予備のドレスが、彼女の固有魔導ユニークを抑えてくれていることを。


 彼女はそもそも、あそこまでの爆発を起こすつもりではなかった。


 天使の回路として使われている生物は、限界ギリギリまで魔導能力を引き出されている。だからそれを内からしたたかにつついてやれば、勝手にバラバラになってくれるだろうと、意図していたのはその程度。


 けれどあの時、彼女の魔導能力は、明らかに異常な出力を叩き出した。

 一体を殺すつもりで刺したナイフが、一帯を併呑へいどんする大規模爆撃に変わってしまったのだ。


 あの様子だと、天使の体内にあるエネルギーだけではなく、月からも余剰分を引き出していた筈だ。


 それが何を意味するか?

 限定的とは言え、彼女の意のもとに神格を従わせた、ということ。


 彼女が命じ、月が天使に過大な力を注ぎ、エルドリッチだけでなく、近くの全生命全物質を——


「!ユイトは……!」


 凍りつくような頭痛が彼女を襲う。

 もし、

 もしあの少年が、骨片こっぺん一つ残さず蒸発したとして、


 そこからの再生は、可能なのか?


「ペイル……!ユイトはどこに落ちましたか……!?」

「それどころじゃないですよぉ…っ!エレノア様、枷がっ!ミネスの枷がっ!」

「なに……?」


 首に触れると、確かにあの忌々しい首輪が無い。


「有り得ない……!心臓が止まった程度で欺けるものでは……、いや、待て、それ以前にあれは、外部から攻撃を受けた場合、自動的に変形と魂への攻撃を実行するよう、出来ている……」


 エレノアは破壊痕を、自分がやったとはとても思えない、現実離れしたその戦禍を見る。天使も棘の塔も、跡形もなく消滅していたが、奇妙なことに、大地は綺麗にり抜かれてはいなかった。


 あちらこちらまばらに、樹木がいびつじくれながらも、その根から残っているのだ。


「魔導の、命の形を操り、繋ぐ力……」


 繋ぎ、与え、組み換えるのがゴルゴンの魔導。

 それが制御不能となり、ばら撒かれた。


 それを浴びたものが破壊された後、一部の生物はその力を、偶然利用することが出来た?形や魂を繋ぎ留め、再形成したと言うのだろうか?彼女の固有魔導ユニークによって、「残ろうとする意思」がブーストされたことも、その現象を助けたのだとしたら?


 標的となっていたエルドリッチは除き、この場の全生物に、粉々になってから再生する余地があった?


 乃ち、彼女の魂は、肉体の損壊によってか、或いはミネスの枷によってか、一度バラバラに壊れたのだ。その直後、ゴルゴンの力で破片が繋がれ、彼女の魔導能力の残滓が、それらを引き合わせ、結び付け直した。

 

 彼女を連れて行こうとする波と、戻そうとする波。

 そしてしるべとなる糸。

 あれは、そういうことだった?


「だとしたら……!」


 彼女は確信を得る。


「だとしたら、ユイトは滅びていない……!」


 無事に生き残る、もしくは復活する道が、可能性があるなら、彼は間違いなくそれを掴み取る!

 彼女を置いて、死にはしない!

 

「探しなさいペイル!お前の能力なら、人探しなど容易な筈!」

「え、ええ……?本気で言ってます?」


 エレノアのその断言が、冗談や錯乱によるものではないと理解できたからこそ、ペイルは困惑した。あの無力で心の弱い少年に、そこまでの信用も信頼も、有り得ないとしか思えないからだ。

 

 彼女には、エレノアがその判断を迷いなく下した、その根拠が分からなかった。


「え、エレノア様ぁ?なんで言い切れるんですかぁ?しぶとさだけで繫殖力の無い雑草みたいな、死ににくいだけの弱者筆頭が、ちょっと頭がヘンってだけの雑魚メンタルが、エレノア様みたいに不屈の意志で、自己復元をしてるに違いないって」


 ペイルの、ある種真っ当な問いに、


「決まっているでしょう?」


 エレノアは呆れたように笑いながら、




「私がそう望み、そして彼がユイト・クロキだから」




 得意満面にそうのたまった。


「ユイトに私の願いが通じなかったことなど、無いのだから」


 狂人の理屈としか評せないその言葉は、けれど少なくとも今回に関しては、何者にも否定できなかった。


 彼女が「望んだ」通り、少年は生まれたままの姿で、焼け野原で眠っていたのだ。


 死滅と災厄から産み落とされた、不吉な御子みこであるかのように。

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