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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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27.愉快な顛末

 笑ってしまう。

 もう、笑うしかなかった。


 激しく跳ねる心臓の鼓動が、爆ぜるような声となって、小ぶりな唇を割り開いてしまう。


「もう……!どうして、お前は、そう……!」


 横隔膜の苦しさは、けれど決して嫌な感覚でなく、だから余計に止まらない。

 誰にも見せたことのない、無邪気で爛漫らんまんな顔と声音こわねで、

 清々(すがすが)しい月光の下、エレノアはジタバタと身をよじった。


「どうしてお前はいっつも、そうやって……!一番、《《間の悪い》》時ばっかり……!」


 いつもいつも、彼女が一番弱くなる機を、

 世の中をナメた「助けて」を、子どものような「守って」を、心中ですら嚙み殺した、まさにその時その瞬間を、


 何の打算もなく撃ち抜いてくる。

 狙ってもいないのに、ぴったり合わせて、伸ばした手を掬い取る。

 僅かに差した魔を、肯定してくる。


「普段はあれだけ鈍臭どんくさいクセに、そのお前が、そういう時だけ、どうして……!」


 なんなのだ、一体。

 面白過ぎる。

 胸の一つや二つ、それはもう高鳴るに決まっている。


 楽しくなって、小躍りしたくなってきて、暴れる感動を笑声しょうせいとして吐き出して、それでも体温は上がり続ける。


 冬を越え、春を迎えた大輪のようにわらっているのに、そのグツグツと荒れる騰熱とうねつは、こみ上げる怒りに何故だか似ていく。


「本当にもう、許しませんから……!」


 吐く言葉までもが、呪詛に寄っていってしまう。

 その対象は、不俱戴天の仇を嗅ぎつけ、注意を背後に飛ばした天使、ではない。


「やることなすこと、私にとって都合の良いことばかり……!私の恥ずべき願望を、たっぷりと満たすことばかり……!」

 

 ゴルゴンの目を彼女から逸らさせた、そこらの幼児にすら劣る最弱の奴隷。

 彼を標的とする、喜悦きえつふくれた逆ギレだった。


「私は完璧でないといけないのに……!珠玉しゅぎょく逸品いっぴんでないといけないのに……!そんなことされたら、取り繕えるわけないでしょう…っ!こんなの…っ!」


 多幸感で張り裂けそうな、激昂げっこうだった。


「我慢とか、無理に決まってるでしょう…っ!みっともない顔にもなるでしょう…っ!私がどれだけ、愛着欠乏(けつぼう)こじらせていると…っ!」


 親指、人差し指、小指を立てた右手を真っ直ぐ伸ばし、その肘に左手を添えて固定。


「許しません…っ!もう絶対に、許してあげません…っ!」


 その目元を随喜ずいきしずくが濡らし、銀の睫毛まつげをキラリと縁取る。


「乙女の痴態ちたいをその目にした責任、取ってもらいますから……っ!」


 彼女は今の自分の顔が、グシャグシャに崩れて酷い様相を呈していると、そう思っているけれど、少年がそれを目の前で見たなら、矢張り心から感嘆しただろう。


 いつかのように、「綺麗」、と。


 エレノアは顔を右腕に寄せるように傾け、左眼をつむり、右眼だけを開く。

 天使の体と、少年の掌で光る棘、それらを一度に射抜けるよう、極度に集中していた結果、自然と作る表情が、ウィンクのような形に寄っていく。


 そして、ゴルゴンが少年へと、彼が持ち込んだエルドリッチへと、何らかのアプローチを敢行すべく、マナを強く巡らせたその時を逃さず、




「ずきゅーん……!」


 晴れやかに崩れた相好と、万感の想いと共に、

 固有魔導ユニークを撃ち放った。




 両腕と胸から下を失っていた巨像が、首を回す動きで髪を繰り出す。

 その先端は縦1列に並べられ、限りなく二次元平面に近い剣身けんしんとなって、刺し上げられる。


 それは天使を貫き、その先で棘を刺激。

 少年の右腕が内から破裂し、エルドリッチの種が大量増殖、そして拡散。


 バケツを引っ繰り返したように降り注ぐそれらを、ゴルゴンは一つ残らずマナ照射で捉えようとする。


 刺しきずの修復、エレノアへの反撃、そして増大した棘への総攻撃。

 その全ての命令が天使の内部を我先にと駆けて、“甘声濫色クルエ・キケリ・ミケリ・カ”が、それらの背中を蹴り押した。


〈ヴォ゛ォワ゛ア゛アアアア゜——〉




 早過ぎる日の出の訪れ。

 否、それは爆発だった。

 


 

 地上から、少し離れたそこに、青白い太陽が生まれていた。

 星々は勿論、投光量を増していた蒼月すら、見えなくなるほどの眩しさ。


 球体状のそれは、かつて兵営だった平地を、そこに立っていた棘の塔を、丸ごと呑み込んだ。範囲内のどれもこれもを、消しずみに変えてしまった。


「ぎゃああああああああっ!?」

「アアアア!!なンデ!?アアアアアアアア!?」


 VIP席のエルフ達が、両目を押さえてのたうち回っている。

 天使があらわした奇跡の強光が、念の為に挟んでおいた遮光ガラスすら貫通し、彼女達の視神経を焼いてしまったようで、なんとも滑稽な阿鼻叫喚だった。


「あああああ!?」

「いっ、いいいっ、イシャをっ!いしゃヲオオオオオ!!」

「ぐぎゃああああああああ!!」


 同じ事は、一般観戦室においても、大なり小なり起こっていた。

 乗客達が一斉に、目の痛みや気分の悪化を訴え、大混乱が勃発。


 コストカットで人員が最低限に絞られていた、船内医師達のキャパシティでは、到底対処しきれない上に、彼らがVIP席に優先的に回されたことで、騒動は留まるところ知らずに暴走。


 船長の判断で緊急着陸してからも、1時間ほど続いたそれは、ほとんど「暴動」とすら言えるほど、深刻な被害をもたらすことになる。




 後に“蒼月光害ゴルゴン・ショック事件”と呼ばれるこの一件で、女性初の元老議員の一人、アスター・ブランド・ウィートリーが引責辞任。続いてその取り巻き達も、ドミノ倒しのように失脚。新たなお茶の間の娯楽として、全員纏めて華々しいデビューを飾る。


 それに伴い政財界のパワーバランスがグラつきを見せ、上層市民にも及ぶ世情波乱が引き起こされることにもなるのだが、


 まあ、喜劇にもならない余談である。

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