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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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26.喜劇の始まり

「良かったんですかい!看守サマよおっ!」


 四つ足で駆けるリカントが、馬上のダークエルフに問う。


「あいつら逃がしちゃ、上から大目玉とか喰らうんじゃねえのかい!」


 そう言われた彼は、囚人へと振り向いて、


「ナンノ話ダー?」


 三文芝居を始めてしまった。


「誰カ逃亡デモシタノカー?……先輩方ハ何カ気付キマシタカー?」


 大根役者の自分だけでは間が持たない、そう思った彼は同僚にアドリブ要求。


「さあなあ!こう見えても俺ァ!不真面目な監督官でよお!」


 無茶振りされたダークエルフは、スマートに要求通りの演技を披露。


「馬に揺られて居眠りしちまったモンだから、なあんも憶えてねえや!」


 堂に入ったお道化どけぶりは、まるで不正申告に慣れているかのようだった。


「お前らはどうだ!」

「なんだって!?聞こえねえぞ!」

「囚人のカスが何人か居なくなろうが知らねーよ!どうせミネスの枷(ミネカス)がなんとかすんだろ!」

「だ、そうだぜぇ!」


 即興にもかかわらず、見事な口裏の揃いぶり。

 訊ねたリカントは、官憲のやり取りを見ているにもかかわらず、いたずらっ子の集団を目撃したが如く苦笑して、


「そうかあ!俺の思い違いだな!悪かった!」


 面白そうだったので、政府には黙っていることに決めた。




——————————————————————————————————————




「まままま待ってペイルさん!そっ、それっ!壊さないっでっ!」

〈……はいはい、そーでしたそーでしたぁー……〉


 引き返していた僕達の前に、棘付きの小動物が躍り出てきた。

 蛇型になったペイルさんはそれを呑み込み、液体の層で爆発力を殺してしまい、そのまま棘を潰そうとする。


 僕はそれを必死に制止した。

 入手にもっと手間が掛かるかもしれなかったものが、こんなに簡単に転がり込んで来た、この幸運を無駄にしたくない。




 起きてすぐ、状況をざっと聞いた。

 蒼き月の天使、その情報も、エレノア様やライセルさんから、事前に少しだけ教えてもらっていた。


 ザルドさんも含めて、たくさんの人が死んで、しかも神格2体の始末をつける役を、エレノア様が押し付けられた、そう知った時は悲しくて、絶望しかけて、だけどすぐにそんな場合じゃないと思い直す。


 少なくとも、まだエレノア様は死んでない。

 そこで自己憐憫に逃げるのは、彼女を見殺しにすることを、自分の意思で選んでいるのと同じ。


 考えを止めるな。

 「少しの勇気と大きな覚悟」、

 パッと見の勝ち目の無さを、やらない理由にしちゃダメだ……!


 難しい?分からない?無力感に襲われる?

 だったらエレノア様は?


 彼女は僕よりもっと考えて、ならもっと打ちのめされている!

 じゃあそれより気楽な僕が、「仕方ない」に逃げてちゃいけない!


 何も思いつかないとしても、その無能さに、どうしようもなさに苦しめ!

 「出来る筈」と思い続けて、出来ないのは何かに気付けてないからだって、今この時だけは思い込め!僕の頭が鈍いからだって、思い上がれ!思い違えろ!


 「僕は死なない」、その前提を設定し、発想から常識を外して、出来ることを模索する。

 そこで、一度眠った効果が出た。それとも、無意識に首を引っ掻いているうちに、血管が破れて頭が冷えた影響か。


 整理された記憶を、偏りなく俯瞰したことで、得た気付き。

 「エレノア様が、本気を出せている」。

 ってことは、さっきと比べて、もっと敵を倒しやすい、ということ。


 火力の差は、棘熊を殺した時よりも小さい。

 しかもエレノア様の、優れたユニークをフルで使えるのだ。


 取れる手段の幅が広まっており、ならずっと勝ちやすくなっている筈。

 その確信が強まった、そのおかげか、閃きはすぐに降りてきた。




 エルドリッチの種を、あの棘を手に入れることさえできれば、

 もしかしたら、勝てるかもしれない!




 そう考えて、僕は必死でペイルさんとライセルさんを説得した。今すぐあの塔の近くまで行って、あの棘を確保して欲しいって。彼女が助かる希望がある、って。


 結果、エレノア様の能力に巻き込まれる範囲ギリギリまで、戻ってくれることになった。そこまでで棘付きに出会えなくても、そこに行く以前にエレノア様が負けてしまっても、どちらにせよきびすを返す、という条件付きで。


 そしたら、カモがネギと鍋を背負しょってきた。

 殺しやすい姿形で、エルドリッチが向こうから現れてくれたのだ。

 



「ひぃっ!ぎいいいいいいいっ!!」

〈な、なんでもいいですけど、毎度毎度うるさい……〉

「フー……っ!フー……っ!ごぉ、ごべん……なざい……!」

〈あーもーいーから!さっさとやって!〉


 ペイルさんが放つ高圧水流カッターに、右腕を切り落として貰ってから、断面同士をぴったりとくっつける。


 その状態で、掌に棘を刺してもらって、止めていた再生を即座に開始させる。


「ぐ……!ぎ……!ああああ……ッ!!」

〈なにそれ、どうなってんですか……?きも………〉


 神経が繋がることで、何かに侵食されている感覚が、末端から襲ってくる。

 血管が残らず電動ノコギリの刃に変わって、骨を研いでくる、みたいな厭さ。


 だけど、それは途中で止まる。

 そして後退して、と思ったらまた広がろうとして、それを繰り返す。


 最初の賭けに勝った!

 「死体」となった僕の右手に寄生しようとして、だけど途中でそれが息を吹き返して、そこから殺して奪う棘と復活する僕の手との間で、せめぎ合いが起こった!


 それも、うまいこと拮抗してる!

 停滞してくれている!


 これで!




()()()()()…ッ!!」

〈うわあ……、まぁじぃ……?〉




 後は、天使にうまいこと……、だとすると位置関係は、エレノア様から見て、天使と僕が一直線上になって……、それで天使が手前、僕が後ろ!


「ぺっ、ペイル、さん……!」

〈うわっ、な、なんですかぁ……?〉

 

 たぶん、水を操る能力の応用でイケる、と思うけど……


「そら、とか、あの、飛べたり、とか……?」




 彼女は最高に万能なメイドさんで、本当に飛行機の代役をやってくれた。

 そして僕を、天使の背へと投げ下ろしてくれた。


 タイミングも狙いもバッチリ。

 有能過ぎる……!


「こっちを見ろ、ゴルゴン……!」


 エレノア様に、そして天使に見えやすいように、みぎてのひらを、そこに癒着したエルドリッチの棘を突き出す。


「ここだ!よく見ろ……!これは、お前の嫌いなものだろ……!」


 命綱ナシでただ落ちながら、

 僕の中の生物としての部分に、耳元でうるさくわめき散らされながら、


 でも、姿勢は飽くまで「対決」だ。

 虚勢で良い。バグってていい。

 ドン・キホーテを今だけ宿せ。

 

「小さくても、無視するわけには、いかないものだろ……!喉に引っ掛かった、魚の小骨だろ……!」




 あの巨大な翼がドン引くほど、自信満々に勝ちに来た顔をしろ!




 それで、僕の小細工は終わりだ。

 出来ることを、全てやった。

 飛び降りたのだから、もうやり直せない。


 後は結果を待つしかない。

 エレノア様を、信じるしかない。

 

 失敗するのが怖い。

 なんで目を覚ましてしまったんだろう、って思う気持ちもある。


 ここまで関わったら、エレノア様の死が、神格やエリーフォンのせいじゃなく、僕のせいになる。僕が弱くて、考えが浅かったからになる。誰にも押し付けることが出来なくなる。


 それを分かった上で、彼女が助かる確率が高い方を選ぶ!

 僕に掛かる重圧なんて知ったことか!どうせ死なないんだ!

 非力なら、せめてえるものだけでも負え!


「これが、僕の『覚悟』だ……!」


 凄まじい勢いで風を切っている響きが、命が発する怯えによって恐慌状態の精神と、頭の中で変にミックスされたのだろうか。


 どこからか、女の子の笑い声が聞こえた気がした。


 おかしくてたまらないとお腹を抱える、そんな姿を幻視するほど、


 とても楽しげな音色だった。

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