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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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25.悲劇の終わり

 エレノアによって自己保存欲求を喚起され、活発に種を発射していたエルドリッチ。

 天使の注意を惹く為の囮要因であり、一つ一つ念入りに虱潰されていたが、


 一本、

 たった一個、


 討ち漏らされたものがあった。


 エレノアの攻撃によって、天使が被った損害が、やった本人すら予想していなかったほどに、大きくなったタイミング。


 それは彼女の魂が、過去最高潮のたかぶりを見せたからだったが……その理由はともかくとして、エレノアがゴルゴンに脅威視されてしまったのは、紛れもない事実。


 天使の、月の矛先が、明らかにブレた。

 「エルドリッチ逃すべからず」、その方針に、確かな隙が生まれた。


 エルドリッチにとっては運の良いことに、棘の一つが敵を攪乱しようと分裂したタイミングが、まさに天使の殺気がエレノアに向けられた、その時ドンピシャだったのである。


 割れた棘の片割れは破壊されたが、もう一つが見逃されてしまった。二つの大敵のどちらの意識からも、完全に外れることに成功したのだ。


 その小さな棘は、拒絶の力を使って軌道を調整。燃える森から逃げていたリスに似た小動物に刺さり、殺傷。その死体を乗っ取ることに成功した。棘付きリスはまず安全な場所にまで逃げ、それから次の獲物を探し始める。

 

 その体が持っている野生の鋭敏さが、動物が起こす地面の揺れを感知。それなりの大きさの何かが、近くを這い進んでいることを突き止める。


 捕食者か?

 ならば好都合。

 呑み込んで貰った後に腹の中で炸裂し、殺して宿主にしてやればいい。


 と、ここまで言語的に整理された思考は持たないものの、大体そういったことをなんとなく意識しながら、エルドリッチは棘付きリスを操り、その巨体の前にまろび出させる。




 病魔がそうやって、密かに墓を拡張しようと暗躍している間、天使もまた戦況を動かそうとしていた。


 


 マナ供給源にもなる発射口として改造していた、人体の数々。それらの一部をブーメランめいて回転投射し、エレノアを囲い込んだのだ。


〈ヴォッ!〉

〈ヴアッ!〉

〈ヴォアッ!〉


 磔で描かれた五芒星達は、かつて頭部だった部分を光らせ、青白いマナエネルギーを吐き撃っていく。


 巨像がエレノアを庇い、被弾。撃たれた部分が内側から爆散。それを自在に操る為に精神を接続させている彼女は、骨の中に棲む虫が食い破って出てきたような痛みに、細く形の良い眉をそっと顰める。


「似たもの同士である、と……?」


 右手を真横に振り開き、それに合わせて巨像の髪が薙ぎ払う。五芒星達に自爆を強制。


「“成れの果て”が、随分と馴れ馴れしい……!」

 

 しかし付近に追加の刺客が突き刺さるのを見て、その場に留まるのは危険と判断。


 マナエネルギーを下方に射出し、スカートをスラスターノズルのように使って飛翔、離脱しようとする。


 その頭上に回り込むように、夜空に十数個の五芒星が配置。

 光弾でエレノアを滅多打ちにして、押さえつけ、叩き落としてくる!

 

「しつこい……!」


 巨像の体のあちこちが穿たれ、背から腹まで貫通するほどの穴が開けられていった。


「気の利いた誘い文句もなく、引きぎわわきまえない粗忽そこつものども……!」


 髪を振り乱し、回し蹴りを放ち、敵を一掃する巨像。

 だが消費した分のマナを補充し、体を再生し切る前に、次の囲いが築かれている。


 棘の塔はその袋叩きを見て、今ならシレッと通せるかと大規模射出の用意を始め、即座に天使本体からの光線照射を食らい、残っていた部分の6割ほどを失った。


 幾ら新星に目を奪われたとて、旧来の宿敵を失念するほど、蒼き月は甘くない。

 



「皆様ご存知の通り、ゴルゴンの力の本質は、繋ぐこと……より分解して言えば、与えて、保つことです」




 飛行船内VIP席にて、先程とは別のダークエルフが補足する。


「お気遣いありがとう。是非聞きたいわ」


「続けさせて頂きます。ゴルゴン、月の神格は、繋がった相手に何らかを付与するすべを持つそうです。それは単なるエネルギーであったり、情報であったり、思想であったりする、と言います」


 正体不明の智慧ちえを強制的に授け、思考を矯正。

 そうやって言いなりにした生物に、エネルギーを供給。


「月の啓示を受けた者は、その魔導能力とマナ供給能力を、ゴルゴンの目的への奉仕の為に使います。それはもう熱心な自己改造が行われるわけですが、そこで壊れ切らないよう、ゴルゴンが全体の調整を行っているようです」


 生物とは、マナを取り込み、効率的に運用するパーツ。ゴルゴンは限界ギリギリまで、そのスペックを引き出すよう、魂の無意識領域をそそのかす。


 そうして、バラバラに自壊しそうになる肉体や魂を、それらが持つ魔導能力を利用して、一つながりの回路として保ち、マナエネルギーの生成、発射機として変身させる。


 更にそれを幾つも連結させることで、全体として引き合う大いなる力を生み出し、回路の強度を向上。より強いマナエネルギーの流動に耐える、優れた回路が完成する。


「そこからは効率化です。回路の形、配列を工夫し、要所要所にマナ流動の勢いを活性化させる、増幅器トランジスタ役を配置させておく。とにかく天使化した個体達に、『一つの大きな体を作る』、その事業に従事させるわけです」


 そしてその全ては、天使化個体達の“自由意志”によってなされる。

 月がやっているのは、魔導能力を「使わせる」こと。

 決断と行動は、個別の魂によるものなのだ。


 ただ、強烈な思想誘導を食らわせている、というだけで。


「まあ、なんておぞましい」

「大まかな情報しか耳にしたことがありませんでしたが……、ゴルゴンとは、くも怖ろしいものなのですね」

「エリーフォンが“真のエルフ”に“到達”したそのあかつきには、必ずのぞかれるべきものです……!」


「ええ、その通り。この世に存在していいものではない」


 そして——


「それと酷似したものを生まれ持っていたのが、あの甘淫かんいん令嬢なのです」


 エネルギーを与え、時に思想や思考をねじ曲げ、汚染し、自滅させる。

 力を注入し、相手の持つ能力によって、相手を壊し、殺す。


「天使が行うマナ照射。あれも一種の『付与』と言われています。エネルギーの押し売りによって、相手の生命活動や術を暴発させる、と」


 例えばエルドリッチの拒絶に、その蒼白なる手を差し伸べる。そうすることで、棘が発した力そのものが、過剰なエネルギーを溜め込み切れず、爆発することで棘を傷つける。


如何いかなる防備も貫く矛。対処するには、出力と制御能力とにおいて、圧倒的に上回るしかなく……」

 

「けれど神格相手に、力押しで勝る者など存在しない」


 双眼鏡を覗きながらアスターが繋いだ言葉に、口角を上げて頷くダークエルフの女。


「あの淫欲のはしためのユニークは、天使と類似している。つまり、《《下位互換そのものなのです》》」


 エレノアに勝てる道理などない。

 月へと吠える愚か者は、狂い死ぬのがお似合いなのだ。


「じきに、エレノアのマナ吸収、変換処理能力が、焼き切れるでしょう。そうなれば貯蔵分のマナを引っ張り出すしかないわけですが——」




——足りない




 エレノアはそれを悟っていた。

 

 空気中のマナを取り込み、自らのマナとする体内機構。それを短時間で酷使していれば、どこかで正常に動作しなくなる。一旦大幅に稼働率を下げなければ、最悪の場合呼吸すらままならなくなってしまう。


 そうなると、予備のマナに手を出すしかない。

 企業で言うなら内部留保だとか、肉で言うなら脂肪分だとか、そういう「いざという時の為」の“とっておき”だ。

 

 その量は、当然の如く有限。

 ハイエルフは、その中でもマナ操作に向き合い続けたエレノアは、かなりの貯蔵量を内有ないゆうしている。


 が、「足りない」。

 それっぽっちでは、あの審問会の面々を、皆殺しにするのすら困難。


「どうせならあの時に、あの部屋の中を滅茶苦茶にして、エリーフォン全土を敵に回しておいた方が……いえ……」

 

 結果論の事後講釈。

 それに、その賭けに出なかったことを、彼女は全く後悔していなかった。


 ユイトを見つけ、あの狭い牢から解放し、天道てんとうの下に送り出す。


 それがきっと、彼女の役目だったのだ。


「ここが、夢の果て、ですか……」


 天使の祝福が巨像を照らし、その内から暴流をあふれ出させる。

 薄桃と銀白に通された風穴から、幾筋いくすじもの光明がし漏れる。


 ボロボロと崩れゆくその裸体に、新たな肉が付け足されるも、

 体積が減っていく早さが上回る。




「ユニークのビジョンが!崩壊が止められていないわ!」

「いよいよ!いよいよなのね!尽きてしまうのね!精もこんも尽き果ててしまうのね!」

「終演よ!終わってしまうわ!どうするの?終わってしまうのよ!お前の足掻き!お前の命!」


 まるで窓の外へ身を乗り出しているかのように、レンズに瞳を押し付け盛り上がる婦人会!


「どんな気分?ねえあなた今、どんなものが見えているの?エレノア!」




「こんなもの、か」


 一方の彼女は、自分でも意外なほど、落ち着き払っていた。

 その意識は、とても穏やかな世界に浮かんでいた。


 青々とした光に包まれた、その絶景。

 激動の最中さなかに、不思議と静謐せいひつを感じさせるそこは、

 太陽を仰ぐ海面の下。


「大したことではありませんね。“非業の結末”なんて」


 宙に全身を投げ出す彼女、その肌がかえす銀色は、

 身をくねらせて漂い泳ぐ、たおやかな魚のうろこの輝き。


「恐れていたよりは、ずっと」


 一生に一度、せっかくの今わのきわ

 だから彼女は、記念に最後までしっかり見てやろうとしていた。


 自ら目掛けて撃ち下ろしてくる天使、その姿、その鳴き声、その光の拍動を、魂に焼き付けておこうとして、


 それが背負う三日月に、長細い影が横切るのを見た。


「……?」


 マナを視力強化に回す。

 棘の塔とエレノアにとどめを刺すべく、高度を下げてきていた天使の上を、何かが飛行している。


「あれは……」


 ペイルだ。


 水分を操る固有魔導ユニーク、その内容の一つに、水球を飛ばす時のような、水を浮遊させる能力がある。それで浮いて、水流を背後に放った反動を利用し、海蛇めいて夜空を遊泳している。


「余計なことを……」

 

 絶対王政に(なら)って、殉死じゅんしでもするつもりか?

 なくてもいい犠牲が増えただけだ。

 

 なんとか、その端の方だけをはじけさせ、飛翔軌道を曲げられないか、そう考えて、親指、人差し指、小指を立てた右手を、気怠けだるそうに上げたエレノア。


 細められ、緑に染まっていた彼女の目が、ペイルから切り離されて投下された、そこそこの大きさを持つ塊を捉える。


「魔導石で、空爆でも試みているのですか?そんな石ころで、何が変わるわけでも——」


 眼球の前にマナによって、簡易的な望遠鏡——空気を暖めて温度差を作り光を曲げるもの——を作り、高倍率でそれを見た彼女は、




「——……は?」




 生まれて初めて、時間が止まる瞬間を体験した。


「な、なんで……」


 さっきまでの、潔く散る決意を固めた、成熟した美しさは霧散し、


「なにを、なにをやって……!」


 か弱い少女のひとり狼狽する姿が、そこに残された。


「お前は何をやっている……っ!?」


 彼女を襲った衝撃は、二つ。


 一つ、ユイトが天使の背中目掛けて、高高度から落下していた。


 もう一つ、彼がエレノアに向けて広げた、右の掌。


 そこに、黄色く光った棘が、突き刺さっていた。

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