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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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23.制限解除

 しゃららら、さららと、撫でるたび、ドレスの銀白が流れさざめき、

 その透け具合を変じていく。

 

 エレノアが身に着けるその華美は、出力調整用魔道具でもある。


 なんの?

 彼女が持つ、忌まれし固有魔導ユニークの。


 彼女の力は、良好な血色を僅かに浮かばせる、白い肌によって強化できる。

 その魔導能力によって発されるマナは、光や匂いに変質させた上で、全身のどこからでも放つことができるから。


 特に、エルフやリカントで言う眼球のように、「光を受け取ること」に特化した部位を狙えば、覿面てきめんに効く。


 


 簡略化して言おう。


 彼女の肌は、光線銃の銃口だ。

 より露出を多くして、より敵の近くで撃つことで、その威力を最大化できるのだ。

 



うるわしき銀白ぎんはくわずらわしき蠱惑こわく


 ドレス内部の特殊な液体が、分布を移ろわせ、偏光、反射率を変化させる。

 からだ凹凸(おうとつ)を浮かばせるころもが、みるみるうちに不可視化していく。


いのちまたたく、がたく」


 ミネスの枷の下から、深く長い谷間を通り、臍の下まで。

 両の鎖骨の端から、赤みが浮かぶ肩、腋、二の腕、グローブを脱いだ指先まで。

 頸髄けいずいの中ほどから、背中全体と、臀部でんぶの上まで。


 素肌があらわにされていく。


底無そこなしの業欲ごうよく、損なわれぬ威迫いはく

 

 上半身を隠す形は、V字を体の前から貼り付け、その上端の二つを、首の後ろで結び付けたものに近い。


 スカートの透過率は10割近くになり、腰回りはレオタード型に切れ上がって、鼠径部を覆うレース下着の上、同材質のガーターベルトから、内側半分だけ透明になった、白ストッキングが吊るされている。




一切皆苦いっさいかいく、“甘声濫色クルエ・キケリ・ミケリ・カ”」




 固有魔導ユニークの総力を引き出すまでに、彼女は幾つかの段階を踏まなければならない。

 具体的には、ドレス、ペイル、詠唱の3重ロックだ。


 まず、周囲に味方や手駒が居ない状態を整える必要がある。本気の彼女の近くに居れば、彼らの魂が間違いなく燃え尽きるからだ。


 次に、ドレスをシースルーモードに移行する。流れ弾の心配が無いと分かったので、銃を構え、発射準備に入るという手順。


 彼女が“廃棄部隊フェロニアス”に持ち込むことを許されたのは、この専用仕様魔導夜会服オーダーメイド・ドレスと、そのメンテナンス係及び「出来れば殺したくない戦力」を兼ねる知性スライム、ペイル。どちらともが、エレノアにおいそれと全力を出させない為の、安全装置セーフティ


 戦場に見合わぬきらびやかな装飾と、従者付きという特別待遇には、それなりの理由があったわけである。


 そして最後に、詠唱儀式。


 肉体を守るリミッターの話と同じだ。魔導能力にとりわけ優れた者は、その強大なポテンシャルをフルで活用すると、自身やその周囲に甚大な反動を発生させかねず、だから常にブレーキを掛けている。


 無意識領域で作用するそれを、表層意識の任意で外せるよう、自身に刷り込んだパスワード、それが詠唱。


 固有魔導ユニークの名だけを宣言する場合や、文言を省略して読み上げる場合等、解除にも段階が存在するが、今回行われたのは全力投球、手加減ゼロの出力100%。




 最高火力が必要となった際にのみ見せる、エレノアの全砲門解放形態ジェノサイド・モード

 この“はしたない”艶姿あですがたを目にするという、滅多にない幸運に浴する者には、漏れなく内から焼滅しょうめつするという、比類なき褒美が与えられるのだ。




〈ヴォ゛ォ゛ォォワ゛アアアアアアアアアアアッ!!〉


 絶殺の構えを見せる彼女の戦意に、勘付いたのだろうか。

 月の天使から、慟哭どうこくの合唱にも似た突風が鳴り響く。


騒々(そうぞう)しいですよ?控えなさい、昆虫標本」


 彼女が一歩を踏みしめる度、その足元から虫にまみれた草花が湧き、内なるマナを光らせ朽ちていく。


 木々や獣が膨れ上がって、パチパチとカラフルに破裂連発、森が炎に包まれる。


「ああ、失礼。お前だけの問題ではありませんでしたね。この辺りは誰も彼も、さかりのついたお年頃ばかりのようで」


 付近一帯のあらゆる生物が、魔導能力保有者が、今このときに強く存在を彫り込もうと、その命を燃やし尽くす。最早この地で眠っている者など、何一つ存在し得なかった。


「“光害こうがい”という概念について、耳に入れたことは?つまり、『はなはだ迷惑』と言っているわけですが、理解できるだけの脳は残っていますか?」


〈ヴゥゥゥゥォォォォワ゛アアアアアアッ!!〉


 天使はその翼から、粒状ガラスめいた燐光りんこうを散らし、青白い光線の雨を降らせる。

 突如現れた新たな脅威ごと、棘の塔を浄化しに掛かったのだ。


 エレノアの輪郭が煙の如く立ち昇り、巨人めいた姿を造形した。


 それは、一糸纏わぬ女体の彫像ちょうぞうに似ていた。

 顔の傾斜や稜線、体の起伏を肉感ごと写実しながら、目や口などの穴や各種突起など、滑らかさを損ねるものは省かれている。


 銀白と薄桃色の二色が、エレノアのドレスと肌色の比率を完全に再現。二つの緩いロールを作ってなお、身の丈以上の長さを余らす髪は、トーガの代役を担うかのように胴へと巻き付き、右手右脚の先までを螺旋型に覆う。


 マナの最も基本的な在り方とは、エネルギーだとされる。

 彼女が今作り上げたのは、そのエネルギーの塊。

 

 純粋な物理的干渉、破壊力と、それに触れた者に固有魔導ユニークの効果を叩き込む性質、その双方を持つ、彼女の魔導能力の具現。


「そのやかましい点滅は、求愛行動のつもりですか?節操のないこと……」


 それは右腕をかざし、その身と髪で青白いマナの波濤はとうを受ける。

 やがて耐え切れずに爆壊ばっかい、肩から先を喪失するも、エレノアからのマナ供給によって、即座に再生を完了させる。


生憎あいにくと操り人形は、ダンスパートナーとして対象外です」

 

 銀白と薄桃の粒子が、手持ち花火の輝きの如く散らばり、地を跳ね飛んで木陰を暴く。

 それが触れた地点の周囲から、生まれ、えて、滅ぶまで、爆発的速度で栄枯盛衰が上映される。


「星はただ輝いているだけでなく、慎ましさをも持つからこそ、美しいと知りなさい」


 エレノアは左手の親指、人差し指、小指を立て、それで棘の塔を差し示し、


「ほら、どうせあなたは、これにも喜んでむしゃぶりつくのでしょう?」


 巨像が背面方向に回転しながら、右手をそちらへ打ち振るった。

 そこに纏わりついていた長髪が、パラリとほどけて伸び上がり、毛先でコソリと棘をくすぐる。


 ボコン、塔の先端が丸くなり、


〈み゛ィアッ!!〉


 炸発さくはつ

 棘が火山弾めいてばら撒かれる!


〈ヴォォォアアアアアア!!〉


 怒り狂った叫号(きょうごう)を唱和しながら、数十本の光線を涙めいて同時照射する天使。

 エルドリッチの種をすべて撃墜せんとする。


 その時、エレノアは右手でも同じ形を作り、それで天使を指して、


「ずきゅーん」


 棒読みで一声ひとこえ。再度月に向き合うまで、一周回り切っていた巨像は、それに合わせ、後ろに引いた右足で地を叩き、斜めに真っ直ぐ蹴り上げる。


 その先端から髪が伸び放たれ、輝く矢弾やだまとなって翼の末端をし割った!


 


「あら?棘の方からではないのね」




 意外そうに言ったアスターに答えるべく、スーツ姿の短髪ダークエルフが仮説を開陳する。


「通常であればそうするべきですが、公共の概念が無く、自らの命にのみ執着するあの女の行動と考えれば、紐解けなくもありません」


 実戦経験こそ無いものの、軍事に一家言あるつもりの女。


 「戦いは野蛮で下賤な者の仕事」、そう考えるエリーフォン上流階級の中では、珍しい人材である彼女は、アスターの面目を潰さないよう、言葉を慎重に選びながら語った。


「あの女にとって問題となるのは、月の天使と共に棘の病を滅却したとして、ではそれがなされた後はどうするのか?という点です」


 万全に近い天使と1対1で戦う?危険過ぎる。軍隊を用意してやることだ。


 自分をスルーしてくれるのを願って隠れる?神格はそこまで甘くない。天使の攻撃から身を守れるほどの魔導能力を行使した時点で、敵として捕捉され、殲滅対象に設定されていると考えるべきである。


 スタコラ逃げる?その素振りを見せた瞬間、神格を引き連れて市街地や友軍に突っ込む可能性を睨まれ、ミネスの枷がボカン、だ。

 

 模範解答は、「被害を大きくしないよう、その場で天使を引き付けて、最後の犠牲者として散る」、である。だがエレノアという「三下の小悪党」は、死ぬのが怖くてそれを選べない。


「ならば狙うは、漁夫の利しかありません。少しでも生き残っていれば、そこから瞬く間に感染と勢力拡大を遂げる棘の病を、優先的に叩きつつ、その陰に隠れて天使を害する。それが唯一の勝ち筋となるのです」


 塔の欲求を煽り、棘を撒かせたのも、天使がそちらに掛かり切りで、自分に構っている暇などない状況を作る為。


 巨獣同士の戦いの中で、兎が勝つ為に出来るのは、目立たないよう気をつけながら、双方をチマチマ齧っておくことだけ。


「地を這って見せて、男の足の指を舐めて、と、そういう媚びへつらいで命を伸ばしてきた、芋虫女らしい生存戦略です」


 その理解が伴ったことで、婦人達はますます心を弾ませた。

 「そうそう、こういうのが見たかった」、と、そんな顔だった。


 思い上がって世にはばかり、思いり合う輪を乱した“悪”が、焼けた靴を履かされて、踊るように跳ね回る。


 その涙ぐましい努力の先で、自分が助からないことに気付く瞬間。

 それの到来が確定していることが、彼女達の気分を一層良くした。

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