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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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22.開幕

「エレノアはまだ戦わないの?」

「怖気づいてしまったのかしら。だとしたらなんてつまらない女」

「通信士に、もっと死の恐怖を煽るように、お願いしましょうかしら」

「おやめなさい。ますます動いてくれなくなるかもしれませんでしょう?」


 エリーフォンの辺境部に位置する都市の一つ、キヴィル。

 その上空に、巨大な魔導飛行船が浮かんでいる。


 ガス袋の下部に位置する船体は、豪華客船に比するほど広く、その内装も劇場や上流市民の屋敷のように、調度一つとっても贅沢なもの。


 その中でも特に大きな窓を持つ部屋、その中にパンツスーツやドレスを着た、ダークエルフやハイエルフの女性達が、10人近く集まって、据え付けられた双眼鏡で、西の戦況を遠巻きに見物。


 肘置きにも凝った細工を施した、臀部でんぶが沈み込むような椅子に腰掛け、テーブルの上にケーキや茶菓子を用意しながら、談笑に花を咲かせている。


「まさか神格が2体も揃っているところを拝見できるとは、思いもよりませんでした。それもちょうどあの女の前に」

「セラを導く天の御意思が、エレノアに罰を与えているのよ」

「こんな絶好の機を覗かせて頂けるなんて、なんという巡り合わせ」

「アスター様にお誘い頂き、大変光栄です」

「それもこんなに太っ腹な待遇を頂き……流石は初の女性元老議員の御一人」

「およしになって。面映おもはゆいわ」


 この集まりの中心人物は、長い金髪を編み込んだ束を、幾つも頭の上から後ろに流す、白いボール・ドレスのハイエルフ、アスター・ブランド・ウィートリー。


 その髪型と言い、ドレスのあちこちにあしらわれた刺繍と言い、外見に手間暇をかけていることを、言外にこれでもかとアピールしている。

 

 彼女達は、“エリーフォン純白魔導優民国婦人連合会”、略式名称“婦人会”の一員である。ここに居るのはその組織の中で、アスターが特に懇意にしている者のうち、幸運にもこのタイミングで、スケジュールに空きが出来ていた者達。


 この飛行船は、彼女の提案と権限で飛ばされている。希望する者を最短で半日滞在させる、期間限定の娯楽イベント。


 朝と晩の一回ずつ地上に降りて、客の入れ替えと各種メンテナンスを行い、また飛び立つ。そんな彼らが見物するのは、西部方面軍第5懲罰部隊の戦いぶりだ。

 

 目玉は言うまでもなく、悪名高いハイエルフ、“甘淫令嬢エレノア”である。


 そもそもこの企画が、その女の存在ありき。世にも珍しい、最前線で使い潰されるハイエルフ。その見世物に興味があり、加えてビジネスチャンスも感じたアスターが、立ち上げたもの。


 密着“廃棄部隊フェロニアス”24時。


 極限のリアリティの為、見られる側である部隊には、徹底的に秘匿されたこの催事。アスターは主催及び元老議員特権として、いつでも好きな時に乗り込めて、VIPルームに好きな人間を招待できる。


 まさに今、この時のように、だ。


「はやくあの女が無様に犯されるのが見たいです」

「純正血統に逆らう愚かしさを思い知って……どんな顔をするんでしょう?表情までは見えないことが悔やまれます」


 棘の病発生の報せを受け、急いで駆けつけた一同。

 そんな彼女達は、戦場のスリルをも疑似的に楽しんでいるわけだが、けれども流れ弾が恐ろしくないのだろうか?


 その疑問の答えは、「特に心配はしていない」、だ。

 飛行船には、推進力発生や双眼鏡の倍率向上の他にも、材質強度強化や防護シールド展開等、様々な術式が搭載されて、飛行中は常時稼働状態。


 万が一、神格がキヴィルへと進行し始めたとして、このままこの飛行船で、自分達だけ逃げてしまえばいいだけ。


 機関部では今も奴隷達が、交代で魔石にマナを注ぎ続けている。その多大な労苦によって、優雅で和やかな空の旅が成立しているわけだ。


 これほどの資源を動かすプロジェクトは、元老議員でないと実行できない。アスターの目的であるカーストの誇示は、極めて効果的に果たされていると言えよう。


 「貴重な砂糖」と「安全」という、豪華嗜好品欲張りセットをきっしながら、神格の絢爛けんらんなる破壊と殺戮に、感嘆の声を上げる一同。


 その誰もが今か今かと、エレノアの出番と、そして退場を、


 待望していた。




—————————————————————————————————————




「あ……?」


 気が付いたザルドは、谷底に居た。

 近くにはあの黄色い塔があり、遠くには存在感がうるさい羽虫が飛んでいる。


 何が起こった?

 膝を立ててから、周辺を見回す為に上体を起こ……そうとして、叶わない。

 肘で地面を押しても、だ。


 腰に問題があるのかと手探りで調べ、そもそも脚を動かしたところから、錯覚だったと理解する。


 下半身が、無い。

 腹筋も恐らく、半分ほど失われた。

 起き上がれないのも納得であった。


「やきが、まわったか……」


 いけ好かないエリーフォン相手に大立ち回り、泣く子も黙る牙辣のザルド。

 その最後が、エリーフォンに繋がれた犬として、災害により事故死とは。

 締まらぬ話もあったものである。


「あのとき、しんどきゃあ、よかったか……」


 口ではそう言うものの、気分はそこまで悪くなかった。

 おめおめと生き長らえたからこそ、面白いものをそれなりに見られた。


 特にあの、高慢ちきなハイエルフ。

 あれは笑えた。


 あの女が落ちぶれている姿は、思ったよりはつまらなかった。何なら偉ぶる余裕が見えて、逆に腹が立つくらい。


 だが、そいつが連れてきた少年。あの、よくわからない奴は、最高だった。


 あの、異常者そのものな奴隷の言動で、骨のあるハイエルフが目を白黒させて、ピンと張った糸を曲げゆがませる。その様はなんとも、傑作だった。


 それにあの少年は、戦士だ。

 彼がこれまで見た中でも、とびっきりバカな狂戦士だ。


 ああいうバカ野郎を見て、まだまだ世界も腐り切っちゃいないと、そう思えた体験は、冥途の土産として至福の贅沢。


「まあ、こんなもんか……」

 

 棘に乗っ取られた死体が、少し離れた地点に着地した、その音が聞こえた。

 できればあれらに体をくれてやらないよう、頭から火でもかぶりたかったが、流石にそれは望み過ぎか。


「ませきとか、そこらに……おちてねえか……」


 万事都合良くはいかないものだ。


「ご注文の品はこれかい?」


 そう溜息を漏らした胸の上に、ポピュラーな軍事用魔導石が放られる。


「おま……!」

「なあに、礼はいらないサ。常連への義理ってヤツサネ」


 バナフスはそう言って、彼の左腕を枕にしながら、土の上に横たわった。

 その腹には、何かの破片が深々と刺さっている。


「そんくらいなら、まだ、たすかんだろ……」


「それをアタシの口から言わせようってのかい?野郎ってのは、どいつもこいつもブスイな連中だねえ」


「るせえ…!ユルいヤツだとおもってたけどよ……ナニがなくてもはつじょうすんのかよ……!とんだ、しりがるだ……」


「誰とでも寝れるのが、アタシの良い所、ってネ」


 「お互い、因果な商売サ」、

 そう言って彼女は、彼の胸、魔導石の上にそっと手を置いた。


 「ちげえねえ」、

 そう言って彼は、その手を握るように右手を重ねた。


 魔導石は抽入されたマナを、燃焼に変換。


 棘付きどもの目前で、餌食えじきは舞い踊る朱火あけびに化ける。


 その情景はまるで、真っ赤に熱された彼らの魂が、

 互いを求めるあまりに体から抜け、融け交じり合っているようだった。




—————————————————————————————————————




 逃げている。

 彼らは今、誤魔化しようもなく、逃走している。


 信念を通す為に、信念を曲げる。その二律背反を解消できないと、敗北を宣言。

 「どうしても」の片方を曲げて、妥協。苦悩を噛み殺して一目散。


 慙愧ざんき

 口惜くやしさが、恥ずかしさが、喉の奥の痒みのように、彼らを解放してくれない。


 「これしかない」と分かっているのに、その決断は()()()となって、気道も食道も圧迫する。




 「ライセルと共に生存者を集め、後方へ逃がせ」、ペイルはそう命じられた。

 監督官と囚人が多く生き残るほど、エレノアがエリーフォンに従順である証となる。彼女が処分を免れるかどうかは、その働きに掛かっている、と。


 「この戦いの後の為」、それを言い訳に、目の前の危機の中、主人を独りで置いてきたのだ。


 「ユイトを託す」と、ライセルは言われた。

 新発見の種であり、不死身という特異体質。どんな扱いを受けるか、まるで分からない。


 好き放題に弄り回されないよう、政府側に訴えかけるパイプがあり、それをすべきと考える良心も備えている。加えて、行方不明扱いにして国から隠す、という選択肢も持っている。そんな彼だから「頼む」のだと。


 そして彼は、囚人に守られる看守に堕ちた。

 「罪無なき者を庇え」と悪女の口から請われた、間抜けな監督官に。




 ペイルは水蛇形態となり、歩けない者を治療しながら運搬。

 ライセルは馬を駆り、同僚や囚人達を先導する。


 それは最高効率の撤退であり、見事な退き口。

 全くもって正しい行動で、「逃げる」という目的を最大限果たしており、


 だから余計に、二人の心中を刺すように痛めつけた。


 「なんだかんだ言いつつ、しっかり逃げるんだな」、「迷いから足を鈍らせもしないなんて、『信念』なんて結局そんなものか」、

 そういう声が、内側から聞こえてくるようだった。


 そんな彼らが背を向けた、西の戦地。

 そこから、銀色の輝きが立つ。


〈始まった……!〉


 空を割るような柱耀ちゅうように照らされたせいか、

 それを受けたペイルの体内に走った波のせいか、


 彼女に運ばれていた一人が、


「エレ、ノア、さま……」


 意識的か定かでない、ささやかな反応を示したのだった。

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