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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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20.不撓の決死

 らしくない。

 希望でも見ていたのだろうか?

 エレノアは自らの軽率さをわらう。


 こんな、希望的観測だらけの作戦に、乗ってしまうなんて。


 一瞬。

 ほんの刹那だった。


 蛙が舌を伸ばして獲物を掴み、引き寄せて口に入れるより、ずっと速かった。


 ユイトは突如、下半身だけになり、膝から崩れ落ちた。

 腕の先だけ食い千切る、などという貧乏臭い発想はせず、豪快に少年の上半身ごと頂いた、というわけだ。


 それはそうだ。

 赤ん坊やキツツキみたいに、口が小さいわけではないのだから、チマチマ食べる必要がない。


 エレノアの固有魔導ユニークの誘引力で、それをピンポイントに狙ってくれないか。

 その過程で姿勢を低くし、前に乗り出し、撃ち込みやすい姿勢になってくれないか。


 そういう、穴だらけの作戦。

 やってみて、思った通り破綻した。

 以上、それだけ。


「あー、はいはい、知ってました知ってました。お疲れ様でしたぁー」


 ペイルがアホらしそうに吐き捨てながら、ユイトの足に巻き付いている体の先端を引き寄せる。触手型のそれは、「合図があれば引っ張って欲しい」と頼まれていた命綱だ。


 バラバラになったユイトは、どの部位から復活するか選べるらしい。一部でも持ち帰れば離脱可能、ということ。

 

 一応、腹に収まった方で復活して、内臓に攻撃してやる、という手も無くはないが……、まあ、ほぼ無意味だ。


 トロール・ベアは血管一つとっても、強化ゴムの如き強靭さを持つ。そこに高い消化能力も加わるわけで、形を保つのがせいぜい。魔導具すら使えない“か弱き生き物”には、傷一つすら付けられない。


 「成功」となるケースの方が珍しい、大穴狙いの下策。どうしてそんな提案を、勢いで了承してしまったのだろう?その失敗にこれほど消沈し、失望しているのだろう?


 本当に、らしくない。


 彼がなんとかしてくれる、などと、本気で考えたのか?

 「助けて」とい願ったしたのか?縋りついて命乞いをしたのか?

あの拳に、明日を預けたくなったのか?


 なんたる怠慢。なんたる醜態。


 そんな弱さは、エレノアではない。

 エレノアであってはいけない。


 往生際の悪さは持つべきだ。だがそれは、後ろ向きであってはいけない。そんなことを続ければ、敗北に無感動になっていき、魂が元老どものように腐敗する。真っ白で無味乾燥な、珊瑚の砂漠みたいな腐り方。


 それは、許されない。


 困難は避けるものでなく、粉砕してやるものだ。

 彼女がやるべきは、一人であの黄色い塔を、殲滅してやることなのだ。

 降り掛かった試練から逃げてはならない!

 

 胸いっぱいに息を吸い、撤収の号令をその場の全員に「ちょ……っ、なに……っ?」


 ペイルの様子がおかしい。

 そいつが体表を波打たせながら、あるじ無き下半身を引き込もうとして、


 ズズッ、と、土の上に足で2本戦を刻む。


「なんだ?なにやってんだ?」

「いや……っ、すごい力で、引かれて……っ」


「……繋げようとしている?」


 上半身と下半身が引き合っているのか?

 下半身から再生するだけでいいのに?

 パニックになって非効率な復元方法に——


「これが、『合図』?」


 ユイトは、このことを言っていたのか?

 こうなったら、全力で引っ張れ、と?

 

「テメエら手伝ってやれ!」

「お、おう!」


 リカントが3人、その綱引きに参加して、ペイルが引きずり込まれるのを止める。いや、どちらかと言えば、「釣り」という喩えが的確かもしれない。

 

 ユイトという餌に食いついた大魚は、喉に棘が——


「!」


 エレノアは棘熊に目を向ける。

 そいつは癇癪でも起こしたみたいに、頭を乱暴に振ってその場で暴れ回っている。棘の列が空を何重にも切り裂いている。


〈む゛ォォオ゛オ゛オオオッ!み゛む゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥウウ゛ウウッ!!〉


 うめきを垂れ流す獰猛な大口。その奥の暗闇の中で、ライフルや魔導砲の発射閃マズルフラッシュを受けて、黒点二つが白い星のようにひらめいている!


「喉に、詰まっている……!」


「「なんだと!?」」


 ライセルとザルドが目を凝らし、優れた視力強化能力で、持ち堪えているユイトを捕捉!


「ペイルとリカント3人、ただ再生の工程として引かれているだけにしては、力が強過ぎる、とは思っていましたが……!」


「トロール・ベアの嚥下能力に、再生能力で抗って、ちょうどあそこにまっているのか!?」


「いや待て、なんで吐き出さねえ!?ムキになって呑み込もうとする意味が……ああっ!」


 エレノアの固有魔導ユニークを纏った手袋!

 あれがトロール・ベアの体の本能を喚起させ、なんとしてでも体内に入れようという衝動を引き起こしているのだ!


 トロール・ベアはなおも頭部を揺らしながら持ち上げ、後ろ足2本で立ち上がる。

 その腹にある解剖時の傷口が開き、粘っこい血流が溶岩噴火の如く飛び出る。


「マナの流動経路に変化がありました!」


「トロール・ベアの肉体を使ってんだから、さっきまで鼻やら口やら、頭からの呼吸だった……!だが今あそこには、」


「呼吸と身体の再生にマナを消費し続ける、死なない獲物が詰まっている!」


 著しいマナ吸収妨害。

 棘熊は別の呼吸口を開かざるを得なくなった。

 と言う事は、今あの腹に現れたあれが、あれこそが!


「腹部だ!狙い撃て!」

「砲撃急げ!当たれば即内部構造破壊だ!」


 ここぞとばかりに集中する火箭かせんと光条!

 その部分の拒絶が弱いと見るや寄ってたかっての全力腹パン祭り!


 左前足から展開されるフィールドでガードする棘熊だったが、大きく開いた弱点を庇いながら、片側の高めなポイントにエネルギーをぶつけられ、バランスを崩して大きくよろける!


 右前足を棘投射による反撃と姿勢制御に費やし、腹部を守る手が足りなくなり、ライフル弾が遂に突き刺さる!


「もっとだ!ありったけぶちこめッ!」

「ピクリとも動けなくなるレベルでぶち壊せ!」


 棘熊はそれでも、類稀たぐいまれなる防御力を発揮して攻撃を止め続けた。全てが防げないと見るや素早い取捨選択を始め、ライフル弾のヒットを妥協。砲撃だけはなんとしてでも遮断し、致命打を食らわない。


 砲身と熊と、どちらに限界が来るかの勝負、誰もがそう思っていて、


「熊公は、俺の担当だからなぁぁぁ……!」


 だがその男は違った。


 数々の断頭と熱線が飛び交う中に躍り出た彼は、ひとっ飛びで距離を詰め、その腹に両手甲りょうてっこうのかぎ爪を突き入れる!


「ガキが体張ってんのに、ショクムホーキなんて出来っかよ!」


 気を逸らされ、懐への侵入を許した棘熊腹部の傷口が、メリメリと裂き開かれていく。


 エルドリッチは反射的にザルドを拒絶。その意思は、背中から腹を貫く力場の発生として出力される。


 棘の力が、熊の骨肉を分断してしまった。ザルドはその自壊を利用して、手早く解体、それぞれの部位をバラバラにぶち撒け、一つ一つが持つ爆発力を最小限に抑制。


 彼がバックジャンプで遠く離れた直後、ドン!と胴体部が爆圧を放ち、他の切れ端が別々の方向に放られた。そのうち頭部はバリケード障壁にぶつけられ、細かな連続炸裂の後、地にちた。


「ちょっ、まだ危ないですからっ!」

 

 引く力を感じなくなった下半身を放り出しながら、止めようとするペイル。

 それを一顧いっこだにせず、エレノアはバリケードを越え、その頭に歩み寄り、汚れるのもいとわず素手でその顎をこじ開ける。


 内側から、赤を被った黒髪が、這い出してきた。


 惨たらしく咬み切られることを前提に、作戦を組み上げていた少年。

 鋭い牙にズタズタにされ、狭苦しい食道に圧搾あっさくされながら、

 生きて戦う意思だけは、絶やすことがなかった不滅。


 生々しい鉄臭さで、全身をドロドロに浸され切ったそいつに、彼女は右手を差し出した。


 彼は顔を上げ、破顔して、


「エレノア、様……!これで、大丈夫です……!」

「お前、最初から、こうするつもりで……」


 前に出した両手で、彼女のアームグローブをそっと捧げ持つ。




「これで、エレノア様が死ななくても、よくなります……!」




 彼女の二色の虹彩の中で、色味の深い領域が急激に拡大。

 思わず、という動きで、右手が少年の腕を掴んでしまう。


 その時、呪われた銀の河の底、エレノアの頭蓋の中で、何かが弾けた。

 その衝撃波は脳天から脊髄を通り、背筋や肩甲骨をゾクりと撫で、肩から肘、そして指先までをなぞって甘く痺れさせ、


「わぶっ!」


 素肌越しにユイトへと伝達。

 大量出血と共に意識を奪ってしまう。


「あ……」


 固有魔導ユニークが、暴発した。

 その瞬間、彼女の中で自制がまるっきり利かなくなり、甘美なたまらなさに身を任せていた。


「な、にが………」


 少年を抱き寄せる手の震えは、自らのマナ制御の未熟さを恥じたか、恐れたか、


 それとも、何かによろこんでいるのか。


 肉の内側を駆け巡った稲妻の正体を、

 それを表すに足る言葉を、

 彼女はまだ知らなかった。

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