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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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18.手段 part1

「ってぇーっ!放てぇーっ!」


 縦に細長い台形を横倒しにしたような箱が、一対の車輪に乗せられている。その後ろから張り出した金属板は「防楯ぼうじゅん」といって、要は前からの攻撃を受ける盾らしい。


 ズラリと並べられたそれらの先端から、青い光の帯が瞬発的に伸ばされて、棘熊の防御フィールドにぶつけられた。鉄を切断するブレードが発するような、閃光と火花がビカビカと輝き爆ぜる。


 いつも暗めな空が、夜の接近に伴って光量を更に絞り、あたりが黒に染まり始めている時刻。不定形の夕闇の中で、キャンプを浮かび上がらせている光源は、炎と黄色い生物発光。


 世にもグロテスクなイルミネーションは、巨大な一本を中心に次々と数を増し、見張り台が倒れてテントを幾つも潰すところも、僕らにしっかりと視認させた。


「内部魔石の劣化は!?」

「問題ありません!ただ、このままでは砲身が……!」

「第三砲列攻撃用意!第一砲列交換急げ!」


 魔導砲。そう呼ばれる兵器の中でも、今彼らが使っている全長3メートルほどのそれらは、比較的軽量なもの。


 確か、“焙烙砲インシニレイト・キャノン”の歩兵砲タイプ、って、ライセルさんの資料には書いてあった。動物とか機関車とかにかせて使う大砲を、人力で運んで運用できるよう小さくしたもの、ってことだろう。


 流し込まれたマナの変換と増幅によって、方向を絞ったエネルギーの奔流を照射。それを受け取ったマナはランダムに暴れ出して、それらが構成する術や物質もバラバラになってしまう。


 熱が通る過程にある空気中のマナが、エネルギーを受け取って活性化して、一つ一つが思いっきり光を放つようになるから、ビームみたいに見えるらしい。




 まとめると、あれに当たったものは空気中に散乱、消滅するってこと。「普通なら」って但し書きもつくけど。

 



 棘の病の持つ特性に、“拒絶”というものがある、というのも、ライセルさんの資料にあった話だ。


 棘熊が無傷でいる、ということは、あいつが発揮した「拒む力」の方が、キャノンの「バラバラにする力」を、単純に上回っていた、というわけ。


 そして事実をもう一つ。この場にある魔導兵器で、最大の火力を持っているのは、あれら“焙烙砲インシニレイト・キャノン”。


 つまり、そういうことだ。

 僕らは今、あれを殺すに足る力を、持っていない。


 ある一つの例外を除いて。


「私の固有魔導ユニークであれば、通用する()()()()()()()()


 絶え間のない砲撃が、なんとか熊の歩みを止めている間に、エレノア様が高らかに宣言した。


「反対です危険です絶対にダメですっ!」


 僕がその言葉の意味を受け取り切るよりも早く、水球で棘付きどもを打ち殺していたペイルさんが反対し、味方から受け取ったライフルを撃っていたザルドさんも疑問を投げかける。


「テメエのも弾かれて終わりじゃねえか?」

「あれらに『拒まれたら』、そうですね」


 「けれども」、拒まれない場合がある?


「私の固有魔導ユニークは自己保存欲求の肥大化。それは『生きる』ことに直結する快楽や、それを欲する衝動をも、強制的に暴走させる」


「なるほど……?奴の方からテメエの魔導を欲しがる、って寸法か?」


しかり」


「上手くいく保証はないですよっ!それがダメだった時、誰がエレノア様を守るんですかっ!いいえっ、上手くいったとしても!」


 棘熊の中の、自己保存、繁殖の欲求を過熱させ、体内のマナを異常に活性化させて——


「その時、あいつらはただ血を噴いて死ぬんじゃないんですよっ!爆発するんですっ!」

 

 そっか。

 棘の病にとっての繁殖、増殖とは、破裂して棘を撒き、憑りつける死体を増やすこと。


 僕達人間なら、性的興奮が行き過ぎて、頭の中でマナが大暴れ、脳が焼け焦げるだけで終わる。だけどエルドリッチは、破裂する。炸裂する。種をばら撒くことで殖えようとする。


 確かに、あの熊は倒せる。

 だけどそれが死ぬ瞬間、これまでで最大の爆発がエレノア様を襲うのだ。


 いや、って言うか、もっと酷い未来だって考えられる。彼女のユニークが、もし、万一、あの“塔”に、このパンデミックの中心となったアレに、影響を及ぼしてしまったら?


 あのサイズに詰まったマナエネルギーが、種を撒くという衝動へと一挙に注ぎ込まれ、そして大爆発。


 爆心地に近いエレノア様は、ひとたまりもない。仮に生き残れても、この辺り一帯に棘の病が拡散する。棘付きとなった野生動物や魔物どもの大群、彼女はその中心に置き去りにされるのだ。


「我々としても容認できない!」


 ライフルで小物を撃ち殺していたライセルさんが、横から鋭く異議を唱える。


「我がエリーフォン領内に、棘の病の占領地を築くのも同然だ!浄化に何十年掛かることか……!」


「『最悪の場合ならば』、そうでしょうね」


「危険が大き過ぎると言っている!」


「ですがどの道、放置していれば似たようなことになります。それともどこぞの篤志家とくしかが援軍を送ってくれる、と?」


 ライセルさんはそこで、照準に集中するフリをして視線を逸らした。


「要請しているが……返事はかんばしくない。近隣の隊はどこも手が離せない状態らしい」


「だらしなく伸び切った前線の賜物たまものですね。都市軍は?」


「『検討中』だ。“廃棄部隊フェロニアス”の為に都市防衛の戦力を動かすというのは、市民からの反発が強いんだろうな……」


「なんですそれ…っ?なんで自分達は関係無いって態度なんですかっ?早いうちに元を断っておかないと、エルドリッチが際限なく広がるだけで、損するの自分らでしょ……!」


「はーっ!都市圏民どもはこれだから!潔癖なキレイ好きの集まりだと思ってたんだが、それすらヒイキ目だったってのかよ!」


 ペイルさんとザルドさんが毒づき、エレノア様が両掌りょうてのひらを上に向けて見せる。「そら見たことか」、って顔だ。


「それで?“焙烙砲インシニレイト・キャノン”はいつまで持ちますか?」


「……専用魔石にはまだ余裕がある。だがオーバヒート解消直後最速で発射させているせいで砲身の変形が——」


「いつまで、持つのですか?1時間?それとも30分?」


「5分だ!長くてそれだけ!」

 

 5分。

 それがタイムリミット。


 その間に有効な手が打てなければ、この場の全員が死に、棘の病が大幅に拡大。何なら市街地に到達するかもしれない。


「私の固有魔導ユニークで殲滅を試みます。他に、何かご提案は?」


 誰もが沈黙してしまう。

 僕も何も思いつかない。


 だけど、

 だけどダメだ。


 ここで何も言えなければ、エレノア様に危機も責任も押し付けて、逃げることになってしまう。それはダメだ。それは——


——違う!


 言葉は正しく使え。

 それがダメかどうかなんて、僕に分かるわけない。

 正義のなんたるかなんて、僕如きに辿り着けることじゃない。


 「それはいやだ」!


 それが本音だ。

 正しくないからじゃないだろ。


 思い出せ。「少しの勇気と大きな覚悟」。理由を外に逃がすな。言い訳を用意することから始めるのをやめろ。

 

 何か、何か考えろ。

 僕はほぼ何も持っていない無能。それを正しく認識した上で、じゃあどうするか頭を回せ。「無能だから無理」っていう思考停止をやめろ!


 今ある武器で、ここにあるもので、どうにかできないのか?


「あの……っ!」


 何か、何かが欲しい。

 糸口が……!


「あのっ、えっと、訊きたい、んですけどっ!」


「四の五の申し開きを挟まずとも結構。お前はただでさえ油を注していない蝶番ちょうつがいみたいに、キイキイと余計な音が多いと言うのに」


「はっ、はいっ、その、あの熊のっ、弱点、と言いますか、うぅー……!」


 違う。その言い方だと、都合が良いものを求め過ぎだ。

 そうじゃなくって。


「つまり、皆さんが、あいつをぉ、殺せるくらいの力を、持ってるとしてっ!」

 

 指で差した僕に応えるかのように、棘の一本が目の前の障壁を叩いた。それに驚いてつっかえながらも、顎と舌を動かし続けることで、逃げようとする体を押さえつける。

 

「どこをっ、どの部位を狙うのが、一番、いけますかっ!そのっ、有効、と言いますか、ぁー、守りが薄いのは、どのへん、って言いますか……!」


 伝わった、だろうか?慌て癖と口下手の合わせ技で、モチャモチャした文章になってしまった。


 思案を巡らせ始めた様子の彼らを見て、混乱させてしまったのかと、居たたまれなくなり始めていたところで、


「頭……、って言うか、口だな」


 ザルドさんが言った。

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