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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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16.棘の病

 監督官達の殆どは、それを知っていた。

 文献や伝聞、数々の報告書に望遠写真等、様々な資料が、彼らの知識として定着していた。


 それら、強烈なエピソードの数々は、警句や教訓、対策綱領と共に、彼らの脳に深く刻まれていたのだ。


 だが、実際に見たことがある者は、ほんの僅かだった。

 外なる脅威と戦う最前線、監督官という立場であっても、肉眼での目撃経験を持つ者は、稀と言っていい割合しか居ない。

 

 それに出会える機会が少ない、と言うのもある。

 けれどそれ以上に、もっとシンプルな説明が出来る。




 それに出会って生き残れる者は、ほぼいない、と。




「簡易バリケードだ!とっとと持って来て展開しろ!」


 言われるまでもなく、リカントを始めとする囚人達は、魔導具である棒を1列に突き立てていき、最低限の障壁を構築。


「撃ち方始め!撃て!撃て!全火力を叩き込め!」


 その作業終了を待つのも惜しいとでも言うように、巻き添えを無視して魔導筒を斉射する監督官達。


 彼らが持つそれは筒部分が長くなっており、金属弾頭を生成して炎と共に撃ち出すタイプ、“炎弾筒バレット・ライフル”。


 弾速、精度、威力が高くなった代わりに、取り回しや反動安定性が若干悪く、更に筒の中に余計な残留物が残るので、一発撃つごとに中ほどを折り開いて排出しなければならない。


 理論上は高速連射も可能だが、実際にやれるには高度な訓練を受けた者だけ。では、監督官達は?


 彼らは、捨て駒であってもエリーフォンの正規戦力。何なら実戦経験に関しては、軍の平均を上回る。


 従って、練度には期待が持てるし、それに充分応える活躍も見せてくれた。それなりの連発レートを実現し、兵数によって厚い弾幕を現出させ、燃え盛る鉛の嵐によって、爆光ばっこうを花火大会の如く連続炸裂させていた。


 それを受けているのは、魔物の死骸を保管していたテントから現れた、物言わぬ筈の肉塊達。


 その物体から生え並ぶ、黄色く光った棘の数々は、稜線に配置された軍団が、天へと突き上げる槍の穂先のよう。


 そいつは周囲に、半透明な黄色光おうしょくこうのドームを生成。ライフルが吐いた破壊エネルギーが、その表面を五月雨式さみだれしきに打ち叩く。ドームはやがて粘性の高い膜のように割れはじけ、棘山にボコボコと焦げ穴が開けられていく。


「緩めるな!攻め立て続けろ!」


「魔石の摩耗も筒の焼き付きも激しくなっています!そのうち撃てなくなりますよ!」


「構わん!既に武器庫に別働隊を向かわせてある!時間さえ稼げば補給は幾らでも来るんだ!後の事は考えず全力を投入せよ!」


「魔石交換!援護カバーしてくれ!」


 棘を持つ塊、その形が失われていくのを見て、魔導術式の発展と日頃うんざりしている戦闘訓練に、感謝の念さえ覚え始めた監督官達。


 その内の数人が、全身に棘を並べ立てられながら後ろに吹き飛んだ。

 悲鳴を上げたかもしれないが、彼らの耳に届いたものは、何かが割れた甲高い残響のみ。


「なっ!?バリケードは!?」

「は、破壊されました!」

「バカな……!?一撃で……!?」


 厳密な話をするなら、「一瞬」であって「一撃」ではない。


 塊から発射された黄棘おうきょくは、散弾ではなく連撃。1秒にも満たない間に起こった、数十発の放出。

 瞬きだけ降った通り雨は、障壁の一点に集中的に衝突。十何発目かが防御を突破し、後続が監督官達を襲ったのだ。


 刺された者達はビクリビクリと体を震わせ、段々とその振幅を大きくしていき、打ち上げられた魚のようにビチビチ跳ね始めた。


「おっ、おごっ、がぼっ、ぼまっ、」


「まずい!あいつらを焼け!破壊しろ!」


「ぼむっ、むみ、み、みィィィィィィイイイイイイッッ!!〉


 その、死にかけているのか死んでいるのかも分からないからだに、周囲の監督官が慌ててライフルを撃ち込む。だが黄色の膜に阻まれ処理に失敗。直後、その肉体達が空気を吹き込まれた風船のように急膨張、


「総員防御たいせ——」


 爆発する!


「うわああああっ!!」

「ぐぼぉっ!?」


 爆風や血肉の破片とともに黄色の棘が撒き散らされ、監督官達の外装に穴を開けた。


 彼らが着用する制式魔導アーマーは、表面にマナエネルギーを利用した防護膜シールドを生成していたが、黄棘はそれを皮の服も同然にしてしまったのだ。


 そして、刺さり込んだ棘は、その先端から拒絶の作用を発生させる。さっきまでライフル弾を防いでいたのと同じ力だ。それによって傷口は大きく広げられ、全ての刺創しそうが重篤化。それで死亡した者がいれば、それがまたクラスター爆弾に変えられてしまう。




「連鎖するぞ!離れろ!離れろオオオッッ!」「構えたまま後退!盾係が最後だ!攻撃しながら防衛戦を下げろ!」「バリケードの追加はまだか囚人兵ども!今すぐスイッチを押してやってもいいんだぞ!」「やってるよ!良いから撃ってろよ!あんたらが一番良い銃持ってんだろうがッ!」「囚人兵にも発砲を許可しますか!隊長!隊長っ!?」「隊長はたった今ザクロになられてしまわれた!今後は俺が最先任だ!囚人どもには近接武器を渡して突っ込ませろ!」「そうなると思ったよチクショウがあ!」


 

 

 エリーフォンの最新兵器で固めた懲罰者達も、死線を渡り歩くことを生業なりわいとする歴戦の悪党どもも、誰であっても等しく同じ状態。生死を隔てる壁が、急に紙切れ1枚ほどに薄くなり、狂乱へと落とされている。

 

 彼らを見下ろすのは、鉱物にも見える黄色の塔。

 それは、どこからか落ちてきたもの。


 それが撒く破片は、生物の死骸にりつき、手足として操る。

 死体達から生えた棘は、拒絶の力で攻撃を弾き、互いに反発し合う作用を利用して自身を飛ばし、時には全方位に散射する。


 セラに住まう者達なら、誰でも知っている魔導の頂点。

 その体の一切れだけでも、村を、森を、都市を滅ぼす、生体災害。

 今、そこにある神話、七大神格の一柱ひとはしら

 

 


 “逆立さかだ墓廟ぼひょうエルドリッチ・ヴァイラス”、

 或いは単に“エルドリッチ”と呼称される、亡者の王。




 それが持つ棘の一本が、彼ら“廃棄部隊フェロニアス”の兵営内に着弾。それによって出た死傷者と、調査用に運び込まれていた魔物の骸を、“棘の病”が乗っ取って、その結果の多重連鎖生物学的災害(バイオハザード)


 無頼ぶらいの巣窟を、悲鳴と恐慌の坩堝るつぼに変えてしまった。


 いわば、その棘は卵であり、生物であり、エルドリッチが持つ細胞。

 死体の列を使役する者の本質は、自らを広め、全てを自らと同じに変えることで残ろうとする、生命力そのものなのだ。


 なんとも自分本位で、惨たらしい命もあったものである。


 それを相手に、装備が薄い囚人兵を突っ込ませるのは、敵の戦力増強にくみするのと同じ。などという道理が通るには、この場の混迷は極まり過ぎていた。

 

 生物は恒常性を、簡単に言えば「変わらなさ」を求める。

 この異常な状況下において、彼らもまた日常の影を追った。


 囚人達が前に出て、監督官達はそのバックアップ。その「いつもの陣形」に、無意識に吸い寄せられてしまったのだ。


 高度な魔導術式が施されたアーマーでも、貫通するクラスター爆発。身体強化をどれだけ磨いていたとしても、囚人達の皮膚や毛皮で防げるわけがない。


 5人で切り込んだら5人が、10人突っ込んだら10人が、棘を生やしながら向きを反転し、防衛戦攻略に参加するだけだ。


 魔導障壁に隙間を作り、そこから侵出しようとする、遠隔操演された遺体達。

それらが拒絶の力を利用した膨張爆発によって、人の壁に穴を開け、より広く拡散しようと試みる。


「バカども!やせっぽっちのクソバカエルフども!」


 その突撃行列の前に斜めに着地した影は、燦然と輝く黄色おうしょくドームからの逆光を受けて、豊かなたてがみすみふでのようになびかせた。


「ザコをむやみにぶっこむんじゃねえ!ガタイだけじゃなく、頭の栄養も足りてねえってかぁっ!」


 バリケードに使われている棒を両手に持って、棘の連射を障壁でガード。手甲てっこうに備わったかぎ爪で、手近な奴から次々切り裂き、爆発する前に相手方に蹴り返していく!


「“見えてる”ヤツだけだ!あの棘が飛んでるのが見えて、防げるヤツだけが前に出やがれっ!」


 この“廃棄部隊フェロニアス”における現最強戦力、それがとうとうご到着である!


「かかってこい病人ども!針治療狂いの夢遊むゆう腐肉ども!今日、今、ここで加えてやるよ! “牙辣がらつのザルド”様の大悪党伝説に!」

 

 エリーフォン正規軍を10年苦しめ続けた過去を持つそのリカントは、口上をえる間も手は一切休めずに、棘付きどもを布の服の如く破り捨てていく。


 それらが背負う棘から放たれる、拒絶の力場、それが弱い部分を狙い、爪を入れ、ビリビリにいていく!


 棘の投射は、その間、ほぼ彼一人に集中砲火を浴びせていた。それを時に避け、大部分は防ぎ、障壁が破られたらバリケードポールを捨て、あらかじめそれに結んでおいたワイヤーを手繰り寄せ、次のポールを手に取り新たな盾とする。


 それを繰り返し、みるみるうちに敵の懐への侵攻を進めていく!


「ポールの鎖……!?信じられん……!あんなものを取り付けられたら闘牛でも動けなくなるぞ……!」

「ボケッとしてないでしっかり見ろ!敵の火力がザルドに集中しているぞ!」

「チャンス到来だ!撃て!撃て!ヤツに当てないよう最新の注意を払って最速で撃ちまくれ!」


 「慌てずに急ぐ」が如き高度な指令だったが、そこは鉄火場に慣れ親しんだ戦士達。敵から狙われにくくなり、精神的余裕が出来たこともあって、その程度の工夫なら実行可能であった。


 やがて棘付きどもは黄色い塔の側へ、ジリジリと押し込まれていく。


 様相が一変。

 空気は一新。

 誰の目にも勝ち戦の炎が燃え盛り始めていた


「神格っつってもぉッ!俺の敵じゃあっ!」その最中さなか、味方を鼓舞する広く巨大なその背中が、後衛の許まで一気にスッ飛んでいた。


「がぁぁぁぁああああっっっ!!?」


 盾持ち数人が巻き込まれ、後方のテントすうはりを倒壊させてようやく止まる。

 それを目で追っていた兵士と囚人、彼らは顔を前に向け直し、今の出来事の犯人を知る。


 ちょっとした小屋ほどはある体躯と、4本の前足、2本の後ろ足。毛皮の下から、それを押し上げるように突き破って生える、無数の黄棘。眼球や歯列さえ棘に代わられた、「残虐」という言葉を絵にしたが如き凶相きょうそう


〈む゛み゛、ぃ゛ぃぃいイ゛ィィィイ゛イ゛ィィいイいいイイイ……ッ!!〉


「と、」


 トロール・ベア。

 それが棘の病に侵され、強靭な膂力に強固な拒絶能力を得ていた。


 危険な野生獣と思っていた巨大生物が、金棒を携えて現れた時、きっと今の彼らみたいな気分になるのだろう。


〈み゛い゛い゛い゛んッ!!〉


 棘付き熊が後ろ足で地を蹴った。

 肉体の反動を意に介していない全力と、棘から発された拒絶力、それらが地雷でも爆発したかのような土煙つちけむりを噴き上げる。


 戦車じみた巨大質量の体当たり。


 知性を持っているだけの雑草達は、なすすべなく蹴散らされ、スピンしながら放物線を描くのだった。

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