表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/101

15.暖かみ part2

「アンタのその、チマチマした考え方は、ご主人サマの受け売りかい?」


 対面に座りながら訊ねるバナフスさん。


「エレノア様の?あ、いえ、僕達はホント、まだ会って間もなくて、あのー、経済とか、そこまで込み入った教育は、特に……」


「なーんだ。アタシはてっきり、自分で買った奴隷に寝床もくれてやらないケチクサさを、そっくり叩き込まれてんのかと」「エレノア様はっ」「うおっ?なんだい急に」


 言葉も感情も整理せずに走り出す悪癖が、僕を勢いで立ち上がらせていた。焦るな、落ち着くんだよ玄桐唯仁。腰を下ろして、ゆっくり話せ。

 

 「僕なんかが返答の速度を上げたところで、何の虚飾にもならない」、「大人しく首を差し出すべし」、だ。


「エレノア様は、薄情なんかじゃ、ありません」


 言いたいことを、言いたい順に、簡潔に、だ。


「寛容で、用心深くて、深い考えを持ってて、相手の気持ちや、些細な長所にも気づけるくらい、ちゃんと周りを見ている、そんな人です」


 補足情報を付け足しまくりたい無限の衝動を抑えて、彼女の良い所を掻い摘む。


「アンタをテントから締め出してるのに、かい?」


「だってその、僕がエレノア様に従う、って言う約束には、僕の言葉以外に、あー、保証が、安心材料がありません……。僕が死なないせいで、そうなってます……」


「それは……、アンタが信用されてないってことだろう?忠義に対して酷い仕打ちじゃないのサ」


 とんでもない。

 むしろ、過大な評価を受けてしまって、もったいないくらいだ。


「僕ごときを相手にして、寝首を掻かれる可能性を考える人なんて、居ないんです、普通は……」


 気にするべくもない砂粒か、見てて気分が悪くなるクソか、僕がなれるのは、もっぱらそのどっちかだ。


「エレノア様なら、不快なら不快って、言うと思うんです」


「確かに、それは想像がつくわね」


「僕を、あのテントに入れない、その理由を言わないってことは、きっと、ですけど、それが脅威視から来てる、ってこと、だと、思います……」

 

 警戒している相手に、「警戒してます」って言う人は、そうそういない。その人に本物の害意があった場合、「警戒されている」という情報そのものが、アドバンテージになるからだ。


 エレノア様は、きっとそういうことまで考えている。

 僕が裏切って、エレノア様を危機に陥れる、それを決して「ゼロ」と見ていない。


「僕は、見ての通り、その、ダメなヤツで……、でも、そんな僕でも、エレノア様は、『敵になるかも』って、そう思ってくれてるんです」


 僕が“可能性”を持っている。それを信じている何よりの証拠が、居住スペースに入れないという徹底ぶりだ。


「口では尊大で、周りを見下してる感じ、出してますけど、でも、あの人にとって、僕も、皆さんも、根っこの部分では、そうですね……、“対等”なんだって、そう思うんです」


 僕が感じているこの二面性を、何て表現したらいいのか……。


「立場的に上に立ってるし、戦ったら、勝つ自信はあるんだけど……、その力関係が、いつ入れ替わるか分からなくて……、えー、だから、その、そうならないよう、備えるんです。警戒する。それは——」




——それは、“敬意”、ですよ




「敬意……かい……?」

「はい。あの人は、うーんと、蟻を視界に入れてくれる象で、芋虫の気持ちになれる鶴、みたいな感じ、なんです」

「フーン……?怪しいモンだけどねえ……?」


 バナフスさんは、納得いっていないようだった。そういうこともあるだろうと思う。

 この人にはこの人の、エレノア様が見えている。僕の見方、僕の想いと重なり合わなかったとしても、おかしい話じゃないのだ。


「ま、心変わりして、愛想が尽きたらアタシに泣きつくといいサ。野郎をなぐさめる手管てくだには自信があるからね」


「そんな……、これ以上、お世話になるのは……」


「エンリョするんじゃないよ、アタシは大歓迎だから。誰とでも寝れるのがアタシの良い所サ」


「『寝れる』って……あっ、えっ!?『慰める』ってそっ、そういう……!?いっ、いいですっ!いいですからっ!それはっ!」


「アハハハハッ!顔がリンゴになってるわよ?ボウヤはウブなネンネかい!」


 そ、そっか……、バナフスさん達は“廃棄部隊フェロニアス”に娯楽を提供する人だけど、“そういうサービス”も有り得るのか……!


「ホントに変なところで察しが悪くなる子だねえ?幾らタネが殺されてるとは言っても、ヤるこた出来るんだからヤるに決まってるサネ。特に攻撃性の強いオトコってのはあっちの方も——」


「んっ?えっ!?ちょっ、ま、待ってください!?」


 なんか今サラッと変なこと言わなかった!?


「『タネが殺されてる』って……」

「………聞いてないのかい?お嬢サマはともかく、ライセルのヤツが教えてやってもいいだろうに」


 なんだかジットリと、嫌な汗が背を伝った。


「エリーフォンじゃあ、重めの罪人から子を産む能力を奪うのサ。ヤッてもできなくなるってわけ。逆にヤリまくるのに便利だ、って思ってるバカもいるけどね」


 “廃棄部隊フェロニアス”に所属している人は、当然全員がその対象なわけで。


「じ、じゃあ、エレノア様も……?」


「そりゃそうだろうね。ハイエルフとしちゃあ若い身空みそらで、生き物としてのお先真っ暗サ。そういう意味では、同情しなくもないねえ」


「なっ、なんで、そんな……」


「お国の話じゃあ、犯罪者になるタチってのは、血で継がれるらしいわよ?じゃあ、まあ、仕方ないのかもね」


 「それは間違い」、というのは僕の世界での知識で、だから否定しきれず、語尾を曖昧にモゴつかせてしまい、


「決めつけは、よくないですよ……」


そんなことを言うしかない。


「そーだろーけどサ、私が言い出したわけでもないしねえ」

「あっ、そう、ですよね、すいません……」


 胸を痛めるのは、けれど自己満足だ。

 エレノア様がそのことをどう思ってるかなんて、お前に分かるわけないじゃないか。


 彼女の心情を決め付けるな。他人を言い訳に自傷して、その痛みに浸るのをやめろ。


 頭をリセットしようとお茶をぐいっと呷り、口の中が痺れたみたいにバグった。それで顔の筋肉をうねらせる僕を見て、愉快そうに目を細めたバナフスさんは、


「そうサネぇ……」


 おばあちゃんを思い出させる、優しく長閑な声と表情を作る。


「アンタみたいに、アホくさいほど優しくて、なんでもかんでも見ようとしちまう、実行できちまうヤツだったなら、もしかしたら——」


 


 腰が跳ね上がった。

 続けざまにもう一度、背中を一本の衝撃が通った。

 下顎が無理矢理閉じられ、歯と歯がガチンと舌を噛み潰す。


「ぎゃあガっ!?」

「なんなんだい一体!」


 痛みによって時間感覚が引き伸ばされ、その間に脳が今起こったことを整理していく。


 揺れたんだ。

 地面が縦に、大きく震えたんだ。


 だけど、鋭いのが一発、って感じで、地震とはまた違うような………


ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ


 次に耳に入ったのは、キャニスター型掃除機の起動音みたいな空気の流れと、


ゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!


 それが高まり強まっていく過程。

 

 どこか聞き慣れた、不安と危機感に爪を立てられる音色!

 サイレンだ!


 確か、穴の開けた円盤を重ねて、回しながら空気を送り込むことで、鳴らしてるって何かで見た。仕組みが同じだから、同じような音になったのか?


「緊急警報だ!」

「エレノア様!」

「ちょっとボウヤ!」


 僕は咄嗟に椅子を蹴飛ばす勢いで駆け出す。

 そして外に一歩出て、それを見た。


 キャンプに、高々とした石柱せきちゅうが、突き立っていた。

 貸し倉庫みたいなサイズのテントを挟んで、それでも僕達の視界に入るほど、巨大なそれが、突如としてそこに出現し、鎮座していたのだ。


「不用意に外には……ありゃあ、と、棘のやまいかい……!?なんで…こんな突然……!?」


 それは、仄かに黄色の光を発する、縦に鋭い長石みたいだった。

 僕の記憶の浅い部分を、その色がムズムズと刺激した。


〈みィィぃぃいいいイィィイイィィィア゛ア゛ア゛ァアアァアァァァァァッ!!〉


 そして、その“鳴き声”で、完璧に思い出した。


 僕がこの世界に転移する直前、

 あの日、荒れ回る渦の中で、僕達を襲ったナニカ。


 あの針山から生えていた黄色い棘、

 それが鉄塔みたいに屹立きつりつして、天をいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ