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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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15.暖かみ part1

 昨日、監督官のライセルさんが、“負渦ケイオス”の位置が判明したから、山越えの準備が始まってるって、そういうことを教えてくれてた。


 敵の本拠地的な場所に乗り込むわけで、だから監督官の人達を除いて、“廃棄部隊フェロニアス”の全力を投じる予定らしい。エレノア様っていう最大火力も、その作戦に“使われる”ことが決まっている。


 僕は、どうすればいいのだろうか。


 死にはしないとは言っても、それに付いていける身体能力があるのかって言うと、微妙なところ。大した考えも無しに、彼女の後ろにノコノコくっついていって、進軍を妨げる重石になる未来が、鮮明に想像できてしまう。


 同行するべきか留守番するべきか、その答えは簡単で、僕はキャンプで待機しているべきなのだ。本当は僕だって何かしたい。だけど、できないヤツが「したいから」って出しゃばるのは、マイナスしか生まないって、それくらいは分かっている。


 エレノア様にも、「大人しくしていろ」と言われてしまった。

 そう命令されると、僕としては従うしかない。


 だからまた、後ろの方でコソコソしているだけになる。僕の用途は、いつになったら見つかるんだろうか。


 この世界に来て、「死なない」っていう超常的な力まで手に入れて、だけど役立たずは役立たずのまま。きっと、どこへ行っても、何を得ても、そうなんだろうと思う。


 僕の出来損ないぶりには、夢も希望もありはしないのだ。


 まあ腐っても仕方がない。

 待ってる間、「次」に備えて自分の有用性を高めておこう。

 他の人達に邪魔にならないようにしながら、少しでも知識や技能を増やすんだ。




 今僕に出来ることは、「考える」ことくらいなのだから。




 というわけで、バナフスさんの“店”で、ライセルさんからもらった、セラについて書かれている資料を読んでいる。なんと、わざわざ手書きで作ってくれたものだ。


 これが結構面白い。例えばマナの循環についての項目を読むと、この世界での呼吸って言うものが、空気中のマナを取り込んで体中に行き渡らせることだって分かる。


 地球には、植物の酸素製造によって嫌気性生物が殺しまくられ、酸素で代謝するのがメインの世界になった、って経緯があった。セラはそれと違って、マナって言う割と万能な物質が、生命のレギュレーションを握っているってわけ。


 他にもお役立ち情報が沢山載っていて、とても助かっていた。元々居た場所でちょっと事情があって、こういうことを教えてもらえなかった、その遅れが取り戻せる。


 罪人の奴隷という立場の僕に、監督官である筈のライセルさんは、何故かこうやって親切にしてくれるのだ。ここの話を聞いた時は、もっと殺伐とした場所を想像してたけど、実際は全然違っていた。何事も思い込みは良くない、という教訓話。

 

「ケナゲだねえ……」

 

 テントの隅に置かれたテーブルで、紙の束と睨めっこしていたら、バナフスさんが色の付いた液体を持ってきてくれた。


「ホラ、飲みなボウヤ。アタシの奢りサ」

「そっ、そんな、悪いですよ……。今でさえ、お金も払わないで、い、居座ってるのに……」


 ここは、彼女が働いている酒場の出張所、みたいなものらしい。エリーフォンからお金を貰って、囚人のガス抜きを担当してるんだとか。


 人を容赦なく使い捨てる為の制度には、命を顧みない自爆的な逆襲の危険がつきまとう。だから、不満が破裂しないような工夫みたいなものが、しっかり整備されてるってわけ。


 元々は、このお店を利用するつもりなんてなかった。エレノア様が寝泊まりしているテントは、当たり前だけど使わせてもらえなかった為、キャンプの中でも人通りが少ない地点を探して、そこで立ちながら勉強していた。


 そこを見つけたバナフスさんが、厚意でこのテーブルを使わせてくれたのだ。


 だけど、エレノア様の所有物である上に、絶賛「空白期間」更新中の僕には、財産を持つよしもなく、正真正銘の無一文。スペースを借りているのに、還元することが全くできない。


「なーんでアンタから金を取るのサ」


「え、いや……あの、僕がここ、独り占めしてると、えーと、本来のターゲットが、囚人の皆さんが、その分使えなくって………そうやって、利用してる、お客さんの数が減ったら、その、エリーフォンから貰えるお金が、減っちゃったりとか……」


「はー…っ?思った以上に()()()()()()な頭してるガキだねえ!」


 流し目を作っていた目蓋を丸く開き、縦長の瞳孔がキュッと縮む。猫系リカントが作る“呆れ”の表情だ。


「いーんだよ。男どもが魔物狩りにサカッてんだから、どーせ今はどーしたってヒマになんのサ。アンタ一人が居たところで変わりゃしないよ」


「でも、嫌われてる、僕が、ここに居ると、その、貴重なお客さんを、遠ざけちゃう、かも……」


「アンタ、アタシが聖人に見えるのかい?」


「え……っ」


 非常に返答に困ることを聞かれた僕は、迷いに迷って迷走した末に、「親切な、美人だって、思います……」、と論点から明後日へ外れた方向に暴投。


 相手を怒らせる会話術、だったのだが、バナフスさんは爆笑してくれた。


「アンタっ、さては口説き上手だねえっ!」


「いや……っ!?いやっ、そんなことは……っ」


「まーでも、見る目はないねえ。アタシはこれっぽっちも優しくなんてないサ」


「でも、実際に僕のこと……」


「それはお得意サマへの義理立てサネ」


「?………」


 「お得意様」も何も、何度も言うように僕は何一つ利益を落としていない。じゃあ、エレノア様とかペイルさんとかと面識が?


「アンタじゃないよ。ザルドのことサ」


「ざっ、ザルドさん、が?」


「アンタが外に突っ立ってんのを見かけたらしくてね。『チラチラ目障りだから見えないとこに引っ込ませろ』って、しつこくてねえ……」


「ああ、なるほど……あれ?でも、ザルドさん、って、このお店、利用するんじゃないんですか?」


「ああそうサ」


「視界に入る機会、え、かえって高くなりませんか……?」


「そうだろうね」


「……教えて、あげなかったん、ですか?」


「そんなヤボなことは言わないサ」


「???」


「はぁ……、裏まで読もうとするクセに、急にニブくなる子だねえ……。こりゃ将来、女難で苦労しそうだわ」

 

 なんかよく分からないはぐらかされ方をされ、その間にさりげなく、木製ジョッキがテーブルの上に陣取っていた。


「あの、だとしても、これは……。僕、何も飲まなくても、ほら、生きてられますし……」


「一杯くらい気にするもんじゃないよ。だいたい、人らしい休息ってのは、スペックの高い体を持ってても、持っちまったからこそ、必要なものサ。水飲んで頭を冷やす、みたいな、なんてことない気分転換を忘れちまったら、いずれ人から外れることになるって、アタシはそう思うね」


「う……っ、でも、僕、お酒はその……いや、不死身だから、オーケーなのかな……?」


「想像通りサ。そんなこったろうと思って、酔い覚まし用のお茶を淹れてやったんだ。アンタの為を想って用意したものを、飲めないって言うのかい?」


「ぐぅ……!いただきます……」


「そういうのは素直にとっとと受け取っとくもんサネ」


 ポコポコ泡立つ緑の液体をためらいながらも口に含んで、


「んぐっ!?」


 味覚が化学物質みたいなドギつさに刺し包まれ、異常物質の体内侵入が最大音量で警報される。


 だがここで吹き出すのは、失礼なんてものじゃない。

 目と口を線になるほど強く閉じながら気合いで呑み込んで、


「あっつッ、にっっっがっ!?」


 息を吐き出すと勝手にその言葉が飛び出した。


「あっ、いえ……、お、奥深い味、と言うか……」

「アハハハハハハッ!そりゃ苦いサ!二日酔いの頭をぶっ叩いて修理する為のお茶だものっ!」


 な、なるほど……。それでこんな、目玉が多角形になりそうな、衝撃的な味わいだったわけか。


 ふぅふぅと冷ましつつ、舌先でチビチビ舐めながら、ライセルさんの資料にあった、エリーフォンではお茶文化がさかん、という記述を思い出す。


 元の世界の方でもそうだったけど、安全な飲み水が手に入る場所っていうのは貴重だ。そういった理由から、沸騰というプロセスを挟む飲み物が好まれたのだ。


 お酒メインの地域もあるらしいので、転移した先がそこじゃなくて良かったとつくづく思う。ビバ、煮沸消毒。世界を超えても“加熱”は偉大だ。

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