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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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12.マナの便利な使い方

 エレノア達3人が広い通行路に出てすぐ、その人だかりが目に留まった。


「何の騒ぎだこれは!?」


 中でもライセルが真っ先に反応し、解散させようとした。罪人達の大規模集会など、容認していいわけがない。反乱の下準備の可能性まであるのだ。


「集まるな貴様ら!散れ!散れぇっ!」


 誰かの首輪を起動することまで視野に入れながら、何事か盛り上がっている彼らの輪を外から崩していく監督官。


 それを鬱陶しがって振り向いた罪人達が、エレノアを見て汚物を前にしたかのように離れようと左右にハケた為、結果的に彼女が、ライセルの仕事をアシストする形となる。


 そうして開けられた道の先、輪の中心では、ザルドがヒューマンに馬乗りになり、その顔面の解体工事に勤しんでいた。


「やっ、やめろコラッ!なんてことしてるんだ!」


 新知性体のサンプルとして、元老に提出を求められるかもしない奴隷を、跡形もなく破壊せんとばかりにボコる暴挙。ライセルは真っ青になりながら懲罰用の棒を抜き、ザルドを横殴りに打ち据えようとする。


 ザルドはそれを見もせずに片手で掴んで止め、


「へいへい、良い子にさせていただきますぜ。よっと……」


 ヒューマンを解放してからすぐ横の地面に腰を下ろした。


「しっ、死んでないよなぁっ!?」

「チッ、うっせーな。安心しろよ、コイツは死なねえらしいぜ?監督官ドノ。まあ、ホラ吹いてなけりゃ、だけどよ」

「貴様ぁ……!もしこれで何かあれば——」


「まって、かんトク官さんっ、違いますっ!」

 

 ザルドに向けて再び棒を振り上げるライセルに制止の声を上げ、

 むくりと、顔を再生しながら少年が起き上がる。

 

「僕から手を出したんです。ザルドさんは悪くありません」

「そんな話がっ……!?」


 恐怖でそう言わされているのだと考えたライセルだったが、開き切った黒い瞳孔の中で怪しげに蠢く眼光でされ、僅かの間だけ怯んでしまう。


 そして彼が動揺から立ち直る前に、少年は次の行動に出ていた。地を叩くようにして立ち上がりながら走り出し、そこに置かれていた小型コンテナに体当たり。


「んぐぐグググググ……!ギィィィィィィッ!」

「な、なにを……」

 

 「何をしてるのか」、という問いかけが済む前に、何かが割れたり裂けたりする音が響き、コンテナがズズッ、と、微妙にその位置をズラした。


「動いた……」

「動いたぜ、おい……」

「いや動いたって言ってもなあ……?」

「だけどさっきまでピクリともしてなかったぞ……?」

「なんで急に……?」


 何が起こっていて、何で困惑が広がっているのか、まるで付いて行けないライセルの横で、ザルドが呟く。


「リミッター、か……?」

「何?なんだと?」

「肉体は全開の力を出すと、ぶっ壊れちまう。だからいつも、全力を出さねえようリミッターを掛けている……」


 だから身体強化においても、力と強度、双方のバランスを調整が重要となる。力だけ増しても、強度が足りないと発揮できない。万が一出せてしまったら、肉体が自壊することになる。


「……だが命の危機になれば、そのリミッターは外れる」

「まさか、この為に俺に殴りかかったのかよ、あのボウズ?」


 少年の世界で、「火事場の馬鹿力」や「闘争・逃走反応」と呼ばれる現象。それを起こす為には、死を強烈に感じなければならなかった。


 だから、ザルドに攻撃した。

 そうすれば、不死がどうだとか関係なく、本気で殺そうとしてくれる。ハンパな制裁ではナメられると、ザルドならそう考えるから。


 そこまでの機微を読んで、ピタリと当てて、


「そこまでして、やることがこれか?」


 少年に出来たことは、箱を数十センチ動かせたことくらい。


「アワレだぜ、アワレ過ぎる」


 その意見に、後方から見ているエレノアも、内心で同意する。


 彼女は事の経緯の、大体のところを察していた。

 そして、「余計な自己判断をするな」と言い含めておいたにも拘らず、少し目を離した隙にならず者どもの挑発に乗って、道化を演じて踊る少年に、深く呆れ果てていた。


——この為体ていたらく、名誉挽回を企図しているなら、全くの逆効果


 客観視がまあまあ出来る男だと評価していたが、見込み違いだったか。

 肩を竦めるペイルを見て溜息を一つ落とし、やめさせるべく息を吸い込む。


 だが少年は、挑戦を自発的に中断した。

 心が折れたか、と考えを一致させる観衆の前で、何故か一枚皮いちまいがわの靴を脱ぎ捨て、箱の反対に回り込み、


 振りかぶった左手を叩きつける。


「ぃぃいいいい……っ!ヒぃ……っ!いっっっつ……っ!」

 

 ヤケを起こしたのか?クエスチョンマークが浮かび並ぶ中で、関節がプラプラと緩くなった指を、悶絶しながらも顔の前に持ってきて、


 噛みついた。


「はっ?」


 誰かの口から空気が抜けるように疑問が漏れ、


「ンンンンンンンンッ!!んんんんんん゛ん゛ん゛ん゛ッッ!!」

 

 間髪入れずに低くギザついた獣の唸りが響き、腕と首の筋肉、顎の力を使って、指がブチブチと噛み千切られた。


 今度こそ、全員が唖然としていた。

 慮外の行動に、ザルドやエレノアまでもが、口を開きかけたままフリーズした。


 少年は、ユイトは右の掌の上に指を吐き出し、取っ手となる穴からコンテナの中にそれを放り込んだ後、そこに手を掛ける。


 そして左手、欠けた指を容器の側面、上側にくっつけ、


「ギ、ィィィィィィィィィィッ!!」

 

 全身全霊で重心を背後に傾ける。

 バキリ、その音は、骨が折れたからか、奥歯が砕けたからか。

 

 コンテナの片側が、浮いた。


「も」

「持ち上がった……」

「持ち上げやがったぞ……!」

「どっ、どうやって……?」


 ユイトの固有魔導ユニークをよく知るエレノアは、その絡繰りの一端を理解した。コンテナの中から、千切れた指が彼の左手へと、引き寄せられているのだ。


 マナによる身体強化は出来ない。だが、マナを使って物を引き寄せることなら、工夫すれば可能。


 ならば、「引っ張る力」に限定すれば、身体強化が働いているのと、ほぼ同じ。

 体の末端を切り取れるだけの、力と思い切り。それさえあれば、これを実現できる。




 そんな馬鹿な話があるか。




 こんな発想、凡夫には、ましてや小心者には、思い浮かばない。

 浮かんだとして実行しないし、実行したとして成功しない。

 どこかで止まってしまう。生理的な防御反応が、必ず挟まってしまう。


 エレノアは、ユイトの性格を知っている。

 その弱さも、ちっぽけさも、甘っちょろさも、実感と共に思い知っている。


 さっきから一々悲鳴を上げ、幼子おさなごのように泣き叫んでいるのだって、それと一貫した姿と言える。バカみたいな震えと、滂沱ぼうだの涙、それらには何の違和感もない。


 ただただ、行動だけが、外れている。脱輪し、脱線し、暴走している。まるで別の何かが体に憑りつき、意識をそのままに操っているような、見ているだけで不安定になるチグハグさ。

 

 こいつは、なんだ?

 彼女の中で、暗闇のように得体の知れない何かが、加速度的に膨張していく。


 一方、ユイトはと言えば、目的をほぼ達成させていた。


 裸足となったことで自分と地面の摩擦を上げ、逆にコンテナの接地面は最小限にし、リミッターの外れた筋力とマナが生み出す引力によって、ズルズルとだが着実にそれを動かしていた。


 途中で何度か体のどこかがぶっ壊れるも、その度にしっかり持ち上げ直して、罪人達が退いていく中を、血走った眼で突っ切っていく。


 そうして10メートルほど進んだあたりで停止し、


「あの……っ!これ、どこに……っ!もってけば、いいん……でしたっけ……っ!?」

 

 息も絶え絶えになりながら、力の抜けるような質問をした。


「……いやっ、終わりだ!終わり!」


 それを機にハッとしたライセルが、場の主導権をなんとか奪取。


「解散!解散しろ!ミネスの枷を起動されたいか!」


 罪人達は顔を見合わせ、一人、また一人、気まずそうに去っていく。


「まっ、待って!監督官さんっ!まだです!まだちゃんと終わって——」

「ユイト」


 その声を聞いた瞬間、彼の黒目がいっぺんに収縮。


「えっ、エレノア様……っ!」


 彼女を見て、それが幻聴ではないことが確定すると、赤くなったり青くなったりしながら、視線を右往左往迷わせる。


「あ、あのっ、えっと、これは……」


 怒られることへの恐怖と羞恥、その両方を感じる子どもみたいで、それは彼女の中のユイト像そのまま。


 先刻の異常な様相から、あっさりと怯えた少年に戻ってしまった。


「すっ、すいませんっ、エレノア様っ、今、とにかく、これを……!」

「放っておきなさい」

「あ、でも、これをやらないと」

「捨ておけ、と言いました。私のめいが聞こえませんでしたか?」


 静電気でも散ったような勢いでコンテナから離れ、「きをつけ」の姿勢で直立するユイト。

 

「この私が、下賤な犬猫が吠える雑音にかかずらうなどと、そう思うのですか?お前は」

「あ………」

「そんなことで揺れ動くほど、安い情緒など持ち合わせてはいません。分かったらそれを置いて、とっとと付いてくるように」


 回れ右して来た道を戻るエレノアに、彼はだばだばと慌ただしい動きでついていき、「勝手なことしてぇー!エレノア様の持ち物としての自覚を持ちなさい!」と、ペイルから辛辣な説教を受けることになった。


 その丸まった背中を見ながら、興が冷めたとでも言いたげに、後ろ髪を掻きながら立ち上がったザルドは、


「おい、貴様」


 すぐにライセルに呼び止められる。


「へいへい、ケーイセツメーですよね、監督官ドノ」

「無論だ。だがその前に」


 官吏の視線を追った彼は、その先に放置されたコンテナのことを思い出した。


「あれは貴様一人で運べよ?」

「マジかよ………」


 全くの自業自得だった。

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