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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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11.難題

「ちっ、ち違います!エレノア様は、そっ、そういうことの為に、僕を連れてきたんじゃ、ないんですっ!」


 鎖みたいなもので手足を縛られ、テントの床に転がされていた僕に、ザルドさん達は思いもよらない容疑を掛けてきた。


 僕が、エレノア様の愛人だって、そう思っているみたいなのだ。


「ハッ!口でどう言おうがなあ?それ以外に考えらんねえだろうが!」

「なんで、ですかっ!エレノア様は単に、味方が、必要でっ!」


 そこでサッカーボールみたいに蹴られ、体のあちこちを打ちながら転がって、台の一つにガンとぶつけられる。それはよほど重いのかほとんど動かず、僕のことを弾き返してしまった。


「テメエが味方になったからなんだってんだ?戦力になってねえじゃねえか!」


「いや……っ、ぼくが……、ふじみ、だから……っ!」


「そーだなー!死なねえみてーだなー!傷の治りが早いもんなー!いやー、俺も欲しいなあこんな奴隷が!メスが誘ったら尻尾振りながらホイホイ付いて行って、ちょっと小突かれただけでぶっ倒れちまう、壊れにくいお人形なんて、うらやましーぜえ?マジで——」

 

 「ナメてんじゃねえぞゴミクズッ!」、胸に踏みつけを食らい、何かが折れた音がした。激痛に圧迫されて、しばらく息すら出来なくなる。


「戦場に行こうってヤツが、そんなもん買うかよっ!武器としての用途がゼロだろうがマヌケッ!リカントのチンピラになら、『護衛ですー』って言っときゃバレねえってかあ!?みくびりやがって!」


「ち……が……!」


「まともに戦おうって気がねえのが見え見えなんだよ!」


 反論できない。僕が何の役に立つのか、僕自身が分かっていないのだから。

 

 僕がいかがわしい用途で買われたものではない、というのは確かだ。自分にどれだけそういう魅力が無いのか、それは僕が一番分かっている。


 だけど彼らはまだ、僕の嫌われ遍歴を知らない。だから僕が「男として」買われたなんて、有り得ない誤解が生まれてしまう。


 抗弁するには、それ以外の利用価値を示すしかないけど、困ったことに僕はクソ弱い。エレノア様には何か考えがある筈だけど、僕ではそれが見抜けないのだ。


 根拠も示さず「そうじゃない」と、口先だけで言うしか出来ず、それが相手をもっと怒らせる。エレノア様への誤解を、解くことができない。僕が弱いせいで、彼女が汚名を着せられてしまう。


 どうして僕が与えられるのは、いっつも損ばかりなのだろうか。


「はぁー……ったく、顔の皮でも剥いで、あのクソエルフを萎えさせてやるつもりだったってたのによお……」

「どうするザルド?傷が治っちまうんなら、嫌がらせにもなんねえぞ?」

「あー……、待ってろ……今考えて……」

 

 何かの箱みたいなものに腰掛けていたザルドさんが、そこでパッと立ち上がり、


「よしっ、賭けるぞ」


 なんてことを言い出した。


「賭け?」

「今夜のメシの時にでもやろうぜ。野郎どもの前で、コイツを裸にひんむくんだよ」

「何賭けんだよ」

「決まってんだろ」


 彼の口は耳まで裂けんばかりに釣り上がり、尖った牙をギラリと覗かせる。


「“高貴なるお嬢サマ”のお好みが、デカい方か小さい方か、確かめてやんだよ」


 少しの沈黙の後、空気の詰まった袋が破れるような音がして、


「ぶわぁ~ッハッハッハッハッハ!!」

「ギャハハハハハッ!そりゃあいい!ゲハハハハハッ!」

「どうするよ?白ハムエルフが粗末な初物はつもののガキにお熱だったら……!」

「不死身って、ドーテーも復活すんのかなぁっ?」

「なんだよそれ……!クククッ!ドーテーに処女膜はねえよ……!」

「グフ…!やめろって…っ!ハラ……!イテエ……!グフッ!グフッ!グフッ!」


 そこに居た全員がゲラゲラと爆発。地面や台がバンバン叩かれ、僕はもう一度、今度は腹を潰された。


「ま……まって……!」


 胃腸を腕で掻き回されているような痛みに、吐き気と涙が止まらなかったけど、どうせ待ってれば引いていく僕の苦しさとか今はどうでもいい。

 

「まって……ください……!」


 尺取虫みたいな這い方で、ザルドさんの足元にすがりつく。このままここで寝転がっていたら、エレノア様がいわれのない侮辱に晒される!


 いや、それをやっているのは僕だ。

 僕という存在が彼女を侮辱してるんだ。


「デタラメです……!あなたが言ってること、全部……!」


 何でもいい。何か、何か能力を示せ……!


「僕は……!僕には、活用方法があるから……!だからエレノア様は、僕を買ったんです……!」


 なんとか彼女に押し付けられる不名誉を否定しろ!


「あなた達は勘違いして」


 顔面を蹴り抜かれ、時計の針みたいに回ってから後頭部が何か硬い物に激突。


「そうかそうか、なるほどなあ?頭がワリい俺達なんかには、分かんねえってか」


 頭を掴まれ、引っ張り立たされ、鼻先にライオンの獰猛な笑顔があった。

 

「言ってみろ。テメエに何ができる」


 どこか煙っぽい臭いも混じった生暖かい息を吐きかけられ、


「か……」咄嗟に「考えること……」そんな事を言った。


「考えるゥ!?」


 ザルドさんは大袈裟にって見せてから、


「考える!そりゃすげえ!テメエら聞いたか?コイツ、『考える』ってのが出来るらしいぜ!」


 わざとらしく感心したような声と共に、周囲を見回してオーディエンスの注意を惹く。


「よっしゃあ!じゃあゼヒとも『考える』ところを見せてもらおうか!せっかくだしなあ!」


 首級みたいに僕を周りに掲げてから、子どもがぬいぐるみをそうするみたいに雑に振り回しながら外に連れ出し、


「おい!そこのテメエら!今すぐそれを置け!そうだよテメエらだよ!俺が他の誰を見てるように見えんだボンクラメクラ!」


 キャンプの中を少し歩いた先で誰かを呼び止める。

 首の骨が繋がり直るのを感じながら、何が起こってるのか把握しようとしていたところで、全身が宙に投げ出され、受け身も取れないまま大きな箱に投げつけられた。


 咳き込んでいる間に鎖が解かれ、混乱から最低限立ち直ったことで、野次馬の集結を認識。死ぬほど注目されていることに気付く。


「そいつは陣営用のバリケードだ」


 ザルドさんが顎で示したのは、さっき僕が強めに接触した、補強されてゴツゴツしている黒い箱だ。側面にビールケースみたいな、取っ手代わりの横長の穴が開いたそれは、すぐ近くに立っているリカント二人掛かりで、運搬されてた物らしい。


「運べ」

「え、え……?」

「何してんだグズグズすんな。テメエの仕事だよ。使えるヤツなんだろ?お前」

「いやっ、その……」


 僕はそれに目を向け、試しに取っ手に指を掛けてみて、


「!?……おっも……!?」


 「あ、ムリだ」、そう瞬時に悟る。


 一辺が1メートルくらいあるその立方体の中身は、さっき最前線で魔物達を止めてた、あの棒だと言う。一本でもかなりの重量感があったあれが、一体この中に幾つ入ってるのだろうか?


「どうした?ホラホラ、効率ワリいぞ?」

「すいませんあの、僕、身体強化とか、その……」

「知らねえよ。いいからやれ」

「そうじゃなくって、えっと、せめて何か、道具とか……」


 次の瞬間、鼻を潰された。

 さっき僕を縛っていた鎖、あれの端についているおもりで殴られたのだと、そう理解するには短くない時間を要した。


「テメエよお。分かってねえなあ」


 「ああ、分かってねえよ」、鉛みたいな金属の塊で、バシバシ地を叩きながら言うザルドさん。


「戦場はよ、テメエの要望なんか聞いちゃくれねえんだよ。防具がねえのは良い方で、武器が手に入らねえってことだってある。いや、このクソッタレなエリーフォンじゃあ、俺達リカントにとっては()()()()()()よ」


 だから彼らは、腕っぷしだけで生き残れるよう成長したのだと、彼は語る。そうなれなかった奴は、生き残れなかったのだと。


「身一つだ!それ以外は何だって俺達を裏切りやがる!そうやって全部にそっぽ向かれた時にテメエが出来ること、テメエに残ってるモン、それがテメエの価値!少なくとも戦場ではそうだ!」


 何の言い訳も利かず、どんな不利や不運も考慮されず、ただ結果だけを求められる場所。ここはそういうところ。


「力仕事は苦手だからやりたくねえか?今は自分の使いどころじゃねえって?活躍できねえのは状況が悪いってか?ちょくちょく居るんだよなあ、そういう、頭でっかちな知能派気取りが。どいつもこいつも1ヶ月持たなかったがよ」


「いや、あの」


「あのクソ女と言いテメエと言い、リクツやらカネやら立場やらでジャラッジャラ着飾りやがる……!ナメクサッて死ぬのは勝手だがよ、だったら大人しく上層で首でも切られとけよ!観光気分で俺達の足まで引っ張ってんじゃあねえっ!」


「ちっ、ちがっ、エレノア様は!」


「『考える』!なるほど良い能力だなあ?いいぜえ?考えてみろよ!テメエの力じゃ動かせねえモンを、道具も助けもナシに運んでみせろ!方法を考えんだよヒョロガキッ!」


 だ、ダメだ。彼の方が正論だ。


 これは、彼らを納得させる為の試験。

 僕に価値がある。つまりエレノア様が戦場を甘く見てるわけではない。という、何の裏付けもない僕の言い分を、証明するチャンス。


 つまり、譲歩されている。

 無力な僕のお願いを、聞いてもらってる形なんだ。


 この場が設けられた時点で、大サービスを受けている。これ以上を求めて、それで成功させたとして、それは「納得」にならない。

 

 そして、彼らが納得してくれないと、僕の主張は通らない……!


 これは、罠に掛かった上に口を滑らせた、僕という愚か者が招いたこと。僕の力で解決しないといけないのだ。


 出来なかったら?エレノア様が、「危機感を持たずに遊びほうけるワガママなバカ女」扱いされる。あの人は生きる為に全力を尽くしているのに。


 そんなの、恩に仇で返すのと同じだ!


 改めて箱を観察し、取り敢えず押してみるが、まるで歯が立たない。


 物を動かすには、静止摩擦力を超える力を掛けなきゃいけない。僕の力を強くするなんて高が知れてるから、摩擦の方をなんとか軽減する方向を考える。


 一般的には底面を浮かせることで解決するんだけど……、やっぱり僕の力が足りない問題が立ち塞がる。基本スペックが貧弱過ぎるのだ。

 

 中のものを一つずつ別々に運ぶ、みたいなトンチも考えたけど、ロックされてるのか開いてくれない。って言うかこれ、どこから開くのかもよく分からない。


「おーい日が暮れちまうぞ?まあ俺は別に、テメエのナニのサイズで一儲ひともうけすんのでも構わねえがな?」


 ザルドさんの言葉に続き、伝播していく笑い声。

 さっきまで頭から追い出せていた、大勢の注視が意識に入り込んで、全身が冷や汗を噴いてしまう。一挙手一投足を、思考の回転まで含めてびつかせる。

 

 壁に囲まれている。

 表面にびっしりと、百万のまなこを見開いた壁に。

 

 やめろ。考えるな。恥とか緊張とか言ってる場合じゃない。そこには誰も居ないと思え。そう言い聞かせて踏み出した先、地面がぐにゃぐにゃと形を変える。

 

 違う。地面はなんともない。精神的なものだ。浮足立っているんだ。この、繰り返し浅く吹く隙間風の音は、僕の呼吸音だ。ちゃんと息をしろ!脳に酸素を送り込んで、なんでも良いからアイディアを捻り出せ!


 音も光も遠のいて、そんな自分への焦れったさで煮えくり返る。何も感じない、考えないよう殻に籠って、そうやって逃げようとするのをやめろ!本気で振り絞れ!「少しの勇気と大きな覚悟」、そうだろ!?死ぬ気で——


——死ぬ気で持ち上げる……?


 そう言えば、どうして僕はあの日、アゲハさんを持ち上げられたんだろう?

 この前、槍で刺された時も、しばらく相手を放さずにいられたんだろう?


 それを超単純に考えれば………いや、でも、そんなこと、自分で意図的に起こせるのか?臆病者の僕なんかが、自分自身ですら怖れるほど容赦なく——

 

 僕はバッと顔を上げてザルドさんを見た。


「何見てんだ?もう降参かよ?」


 あっ、この人、使()()()


 思い付いた僕は拳を握って突進した。

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