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最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第一章:不死身以外に取り柄が無いヤツ

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8.傍観 part1

 熊だ。

 前足が4本あるし、体がデカ過ぎて、人をギリギリ丸呑みできそうな大口をしてるけど、一番近い生物は?と言われたら、熊って答える。


〈むぅぅううう~~~~~~ん……!〉


 後から聞いたところによると、トロール・ベアって名前の魔物らしい。

 “トロール”って種類の熊型、っていう意味だとか。


 「トロール」とか「ベア」とか「エルフ」とか、そういう聞き覚えのある名称が混じっているのは、偶然なのか、それとも謎の翻訳パワーが仕事してるせいなのか。


 とにかく、木々をなぎ倒しながら、その化け物が現れた。


「だーっ!まーた出て来やがった!仕事増やすなよなあっ!」

「口答えをするなザルドォッ!総員!トロール・ベアには射線を向けるなよ!」


 色々と叫びながら防護柵を飛び越えたのは、ライオンみたいな頭の大男。

 隊を構成する人達のうち、ほとんどが彼みたいな“リカント”って種族らしい。


 彼は手斧を持った数人の仲間と一緒に、トロール・ベアへと一直線。

 丸太みたいな4本腕を相手に、両手の甲につけた鉤爪の列で打ち合っている。


 あの魔道具が硬いっていうのもあるんだろうけど、それにしたってスゴい。拳のぶつけ合い、殴り合いに見えて、「ザルド」っていう名前のリカントは全然攻撃を受けず、大熊の方だけがズタズタに傷をつけられている。


 他のリカントの皆さんがパワーであっさり弾き飛ばされているし、そもそもあの銃みたいなもので倒すのが大変だから近接組が担当しているらしい、ってことからも、大熊の戦闘能力が半端ないことは明らか。


 筋骨盛り上がる前足が殴り抜かれる余波で、ここから見えるほどの土煙まで立っている。


 なのにライオンのリカントは、一方的に打ち込んでいた。膂力で負けていても、スピードやテクニックにおいては彼が優れているんだ。


 フィジカル強者に技量が乗ったら手に負えなくなる、みたいな言説を、激闘を遠巻きに見ながら思い出す。

 

「おい!イグニッション用の魔石持ってこい!早く!」

「ジャマだボケッ!背中に穴開けられても文句言うなよっ!」

「ケガ人!ケガ人だ!治療してくれ!」

「誰かあの鳥公を落とせ!」

「そこのお前撃ち過ぎだ!首都からの補給物資は限られてるんだぞ!」

「惜しんでる場合かクソ役人!」


 絶賛修羅場の真っ最中。

 あちこちでダミ声が叫ばれて、慌ただしい行き来が繰り返されている。


 石なのか金属なのかよく分からない棒で組まれたバリケード、その後ろから魔導版の銃みたいなものが突き出されて、火の玉をドバドバ吐き出していた。


 撃つ時の光はそれほど強くないけど、轟音は腹に響いてくる。連射速度は特別速くない一方、撃つ人は沢山いるわけで、奏でられるのはけたたましい連続爆裂。

 

 更に据え付け型のボウガン、銃みたいになってる弓のことだけど、それもぶっとい矢を撃ちまくっている。でも“魔石”って言われてるもの以外、装填してる様子が無い。矢をゼロから作る機能も持ってるらしい。


 それらの猛攻に食い破られているのは、ざっと見て100なんか余裕で超えて、1000以上になるかもしれない魔物の群れ。


 野生動物を肥大化させて、より狂暴にした感じのそれらが、爆発と熱波を正面から受けて、焦げた肉を撒き散らしながら、なりふり構わず突っ込んでくる。


 橙色の弾幕の向こうから登場するのは、牙を森の如く生やす猪、仲間を後ろに庇いながら進むダンゴムシ、足先が顎になっている狼、喉からキリンの足みたいなのを生やす肉食恐竜………。


 ボタンみたいな瞳を持った目玉を一杯に開いて、カメレオンめいてくるくると回し、口を広げて舌を出すその顔は、まるでオモチャとか着ぐるみだ。「普通の動物とは違う」と、そう直感させる不安定な気配を、そいつらは持っていた。


 仲間の死骸を遮蔽物として、どんどんと距離を詰めてきて、バリケードが生み出してるらしい半透明の壁に、正面から体当たり。中には、酸だか体の一部だかを飛ばして、壁にぶつけているヤツも居る。


 バリケードが壊れるなりエネルギー切れになるなりして、突破されかけているところでは、リカントの皆さんが一体あたり複数人掛かりで相手して、なんとか拮抗させている。時に手足を失いながら。


 “リカント”っていう種族は総じて体が強い、ってエレノア様が言っていた。近接戦闘でそれに有利を取っている光景は、“魔物”って生物のヤバさを分かりやすく教えてくれている。


 欠けてしまった部位は一応くっつけることが出来るらしく、それも含めた治療を担う係の人達が、一番大変そうだった。ペイルさんもその一人だ。


 ちなみに彼女みたいな液体状のメイドさんは、この世界でも珍しいらしい。会う人会う人にびっくりされていた。

 

 で、なんでそんなゴチャゴチャした状態の中、僕がこんなに全体の状況を把握できているのかと言えば、答えはつまらないほど簡単で、後方見張り台の上から見てるから。


 と言っても、リラックスしながら見物できてるわけじゃない。みんなが居る方に、それか魔物から遠ざかれる逆の方向に、走り出そうと浮く腰を押さえつけ、中途半端な姿勢でオロオロ中。


 騒々しく掻き混ざる空気が心を荒立て、何か行動を起こさなきゃとはやらせる。彼らを助けなきゃと良心が叫び、命の危機から逃げろと本能が喚く。だけどエレノア様からの言いつけを思い出し、なんとかそこに踏み止まる。


 そう、僕がここにいるのは、彼女の命令に従っているからだ。


 開拓・防衛拠点に着いてすぐ、この大襲撃が始まった。ここの構造とか戦場での動き方とか魔導具の使い方とか、そういうのを学ぶ暇が一切無かった。


 何かしたい、助けになりたい、なんて、立派な心掛けを気取っても、殺し合いの気配にすぐ怯える上に、目立った能力すらないのが僕だ。そんなのがあの中に混ざると、純度100%のジャマモノにしかなれない。


 だからエレノア様の判断は正しい。僕は今回、ここでこうしていることしかできない。


 じゃあ、そのエレノア様はどこに居るかと言えば………それがまた、僕を落ち着かなくさせる。


 あの人は一人で、魔物の群れの真っ只中に立たされているのだ。

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