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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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大渦

 真っ暗闇の宝物庫。

 魔導石がビカビカ光り、複数で文字を、言葉をつづる。


 ネオン街の如き頽廃たいはい泥濘でいねい

 そこに集いし異形の影絵。


「良い報せと悪い報せがある」


「定型句ねェ……」


「お約束通り、悪い方からお願いする」


「変異型ノームの巣がエネクシアに押さえられた。カクォール卿とも連絡が取れず、現地では『デーモン討伐』の噂が流れている」


 沈黙の後、大きなざわつき。

 悪魔どもが混乱している。


「まさか!?カクォール様が敗北したと……!?」


「“十苦鳴叫とくめいきょう”だぞ!?Aスコアの冒険者でも来たと言うのか!?」


「Cランクなりたてに倒されたとか……いやこれは流石に眉唾だけどね」


「どうせエネクシアが作ったカバーストーリーかなんかだろ。『誰でもゼロから成功者に』って宣伝広告だ」


「その為に、絶対に勝てるだけの布陣を、秘密裏ひみつりに派遣した、ということ、か?」


「それにしたって、あれを殺せるものなの?ちょっとでも傷をつけられたらアウトよ?」


「第一それほど圧倒的な戦力が動いたとなれば、もっと騒ぎになっている筈!」


「そこは未確認。組合の反応が、思ったより過激だった、ってことなんだろうと思うんだけど」


「変異させたとはいえ、対ノームに切るカードでは……!」


 息を詰まらせたように、全員が黙りこくった。

 熱が引いていき、凍土の如く静かに固まる。


「……良い方は?」


「“例の物”が試験投入段階に入った」


「……なら、早速使うか、その巣穴に」


「それがいいわ。そうしましょう」


「そうだ。それで、殺せばいい。誰だか知らないが、それで終わりだ」


「最寄りの都市、キャドマスには、組合本部戦力が来るらしい。しかも天豫てんよきょうもそれなりの規模で、ゾロゾロお越しくださるみたいだ。ついでに“クライアント”の方にも、招待状を送っておいた」


「なるほどそれは——」


「ああ、そうさ。これは、これから——」


——楽しくなるぞ

——祭りになるぞ


 彼らは熱を求めるように、

 次の戦いへと邁進する。


 成功を。

 喪失を埋める為の、

 勝利を。




—————————————————————————————————————




 広大な幕をバックに、横に広く作られた舞台。

 そこに大挙して詰め掛けながら、黄色に輝く魔導具を持ち、今か今かと首を長くして、開演を待ち望んでいる者達。


「「「ア!マ!ネ!」」」「「「ア!マ!ネ!」」」

「「「ア!マ!ネ!」」」「「「ア!マ!ネ!」」」


 数千、数万規模の大群衆が、種族の別を全く問わず、互いにギチギチと押し合う前で、小さな火山が並んだかのように、白と黄色の火花が噴き出す。


「「「ウォオオオオオオオオオオオオッッッ!!」」」

「「「キャアアアアアアアアアアアアッッッ!!」」」


 魔導具が振られ、地上にケミカルな星天が現出する。


『“佳声恵国ライブ・アイドル・オン・ステージ”!!』


 詠唱と共にスポットライトに照らされて、それを檀上から見下ろすは、白地の黄色やチェック柄、フリフリだらけの衣装の少女。非対称ミニスカートにノースリーブ、アームカバーと小さな帽子。

 

 体毛の少ないエルフのような肌と、頭の横から脚にまで届く、黄金色こがねいろのツインテール。


 新生十二頭国トゥー・スィー筆頭ひっとう国主こくしゅ、アマネ・キミヅカ!


『みんなあああ!こーんアーマネー!!』


「「「こーんアーマネー!!」」」


『今日は来てくれてぇ、あっりがとおおお!!』


 大地を揺さぶる歓呼かんこ

 魔導的な機構で増幅された彼女の声を聞いただけで、数十人が同時に失神して、観客達の足踏みマットと化す!


 そこに叩きつけられる、腹から突き上げるような大音量メロディー!

 明るくアップテンポなそれが、祭典の始まりを宣言する!

 

『それじゃあ早速いってみよーっ!今日最初の曲はぁぁぁ——』




 その様子をモニターに映し、遠隔から観賞する少年少女、計11人。

 各々(おのおの)が自分用にカスタマイズした、机と椅子でくつろいでいる。


「やっぱ流石だなあ、アマネちゃん」


「うん、アマネちゃんがガンバってくれてるおかげで、色々やりやすくなってるよねー!マジ助かりんぐ!」


「私達の支持率も、一人残らず90%超えを維持し続けてる。すごいよこれ」


「っぱセージには若いカンセーがヒツヨーだったんだな!あーあ!日本のバカ大人どもがどんだけウスラハゲムノーだったかって、わかっちまった!」


「ローガイばっかっしょあんな国。ジジイとババアのゴキゲンばっか取って、オワコンになったクソ国家。あんだけエラソーにしといて、ウチらみたいなガキに負けるって、ハズくないんかな?」


「もう言ってやるなよ、全部過去の、どうでもいい世界の話だろ?」


 最後列に座る一人の言葉に、全員が振り返る。

 それだけで、誰がこの集団の中心か、それが分かろうというものだった。


「俺達がそこらの大人より優れてる、なんて、この世界に呼ばれて、特別な力を得た時から、分かってたことだ。みんなもっと、選ばれし者の自覚を持とうぜ?」


 彼らはその言葉で、それぞれの使命感を再燃させ、勇猛な顔つきで頷き合う。

 そう、彼らには役目がある。

 進んだ道徳をこの地にもたらし、邪悪な旧態きゅうたいを駆逐する、その役割が。


「エリーフォンをやっつけて、セラを統一して、平和にするんだ。民主的で実力主義な、理想の国家を作る!俺達なら、みんなとならきっと、いや絶対出来るさ!」


 自信満々に鼓舞する彼の言葉に続き、「オー!」だとか「よっしゃあ!」だとか、思い思いの形で沸き立つ。


「失礼します」


 そこに、中型肉食恐竜やコモドドラゴンのような頭の、鱗を持った知性体が入ってきた。


 武士のような甲冑のあちこちに、金色の曲剣きょっけんめいた立物たてものが取り付けられた鎧は、国主の一人が組織している、名誉衛兵隊の一員である証。


 その者は直属のあるじに駆け寄り、何やら耳打ちを行った。


「えー、なになにどしたん?」

「ユウスケ!ちょっといいか!ふざけた話が入った!」

 

 他より大柄で厚い体、鋭い目つきをした彼は、

 声にドスを利かせながら、今得た情報を中心人物に、

 ユウスケ・アオバに報告する。


「“アカリ”が見つかったぜ」


 室内の空気が、僅かにピリリとチリついた。

 ユウスケの目が、ストンとわる。


「どこにいた?」

「あー……なんつった?ああそう、エネクシア、だとよ。そこで“冒険者ナントカ組合”とかいう奴らが、ラチしやがったらしい。ナメられたもんだなあ!」


 彼らが打倒するべき“悪”が、一つ増えた瞬間だった。




—————————————————————————————————————




「あー、まだかなー……」


 エリーフォン領内の都市、その路地裏に、リカントの少女が座っていた。

 短髪の猫顔という彼女の外見は、同族だけにとどまらず、ダークエルフなどにも好かれがち。


 彼女はそれと若さを売って、その日暮らしをしているもの。

 いわゆる路上若年売春婦である。


「うぁー……、マジだるー……」


 都会暮らしに憧れて、地元を田舎とさげすんで、飛び出してきたはいいものの、そんなハネっかえり気質で、社会的生活に馴染める筈もなく、しかも逃げ帰る金も潔さも無かったので、こうやって違法な商売に、身をやつすことになったのだ。


「ふぁああ……」


 いずれ使えなくなる価値を、ただその場しのぎで換金するだけの日々。

 けれど彼女の様子に、悲愴感や切迫感はない。


 今もこのように、前屈運動をしながら欠伸あくびを一つ、客を探しに行くでもなく、餌が口の中に落ちるのを待つ、家畜のような余裕を見せる。


 それは彼女が刹那的で、楽観的で、現実を知らないから、と言うのもあるが、こうしていればなんとかなる、その確信を持っていたから。


 その、砂糖を煮詰めたほどにドロ甘な見通しは、しかしなんと裏切られなかった。


「ハァイ、元気しってるーっ?」

「あっ、ねえさん!」


 彼女の待ち人が、

 ラマ頭のリカントが、今日も顔を見せてくれたのだ。


「調子はどう?稼げてる?」

「聞いてよー!それがゼンゼンでさぁー!」


 真っ白でフワフワモコモコとした毛並みながら、腰回りはしっかり細く、シルエットには程よい起伏。身なりもパリッとしたスーツ姿で、まさに「成功者」といった佇まい。


 今(ちまた)で盛り上がっている、「自立した女性」そのものだった。


「ねえさん」と呼ばれているが、二人の間に血縁関係はない。


 このあたりを中心に、帰る所のない少女達を取りまとめ、生きていけるように手助けする、そんな活動に従事しているので、皆から慕われてそう呼ばれているのだ。


 冷たい都市の住民としては珍しく、優しくて頼りになるその人に、少女もまた例に漏れず懐いていた。


「そんなあなたにビッグニュース。良い話が入ったんだけど、乗らない?」

「え?なになに?オイシイ仕事?」

「上手くやれば、向こう1年は食べ物に困らないかも」

「まぁじでー?さっすがねえさん!」


 彼女は今までこの人のおかげで、この都市で生きてこられたのだ。

 手を引かれるままに従っていれば、これからも上手くやっていける。


 男を転がす術を教わり、金を貯めて自分を磨いて、いつか権力者に見初みそめさせる。それか、彼らに支払わせた資金で、自分の店を始めるのも、いいかもしれない。


 とにかく都会の一部となって、あんなクソ田舎に籠ってる芋の群れを、冷たく笑い飛ばしてやるのだ。お前達が「身の程知らず」とあなどった彼女は、このように稼いで成り上がったのだ、と。


「やることはいつも通りよ。ちょっとの間、1時間くらいかしら?イヤなことを我慢すれば、それだけで大金が手に入る」

「やぁりぃー!まっかせってよ!わたし、“びじねすうーまん”だし!」


 そして今日もまた、その人から言われた通りにして、大人の階段を一つ登ってやる、と、彼女はそう意気込んでいた。




 それが「自立」とは真逆の有り様であると、彼女にそう指摘してやる者は、


 最後まで、その周囲には現れなかった。


 


 村落において、若年の家出や行方不明というものは、珍しくもない。

 奴隷商に売ったことを、「居なくなった」と称する場合だってある。


 だから、生家を出奔しゅっぽんし、届出もなしに都市の暗部に住みつき、そしていつからか、路地裏にも現れなくなった少女、その失踪という事実は、


 統計上は、「よくあることの一つ」として、数字の中に埋没した。


 「何者かが特別な狙いで連れ去ったのではないか」、などという考えを持てるほど、世間はどこも暇ではなかった。

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