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【第二章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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69.昨日も、今日も、明日も忙しく

「ごめんなさい。『信用』は大事にする方なの、私」


 組合支部屋舎上階、支部長室らしき場所に通されたエレノア。


「あの子には感謝してる。本当よ?それでも、一度受けた仕事は裏切れない。特に組合が依頼主なら、尚更」


 そこで待っていたのは、支部長である鹿のリカントと、今や見慣れたハピノイド、ウィリ=デだった。

 彼女がけた依頼は、測定に協力しながら、“ユイト”という人物を探ること。


 そして襲撃時、彼の信用スコア測定は、まだ終わっていなかった。正式な手続きで中断された、というわけでもなかった。そこで今回特例として、デーモン討伐への参加までを含めて、「測定」として扱う、ということになったのだ。


 その中でウィリ=デが得た、彼についての情報は、当然組合に共有されるべき、という理屈。これにより彼女は、仕事中に知ったことの全てを、組合に報告しなければならなかった。


 例えば、ユイトが新種の知性体であった、という秘密を。


「お気になさらず。想定していたことです」


 それについては、恨んでいないというのが、エレノアの本心だった。


 元はと言えば、自らの不注意、考えの甘さが招いた事態。

 ウィリ=デは外部委託された末端、使われる側でしかない、ということもあって、彼女については取り立てて、強い感情が働かない。


 大切な人が刺されても、ナイフを恨んだりはしない、それくらいの分別を、エレノアは当たり前に備えている。


「あー……、そんなに睨まないでもらえると、嬉しいのだけれど……」

「生まれつきこの目つきです」

「そう……」


 そうとも、彼女は怒っていない。

 仮に、万が一、怒り心頭に達しているのだとしても、それはウィリ=デに対してではない。

 

 その対象は恐らく、自身の不甲斐なさ、なのだろう。


「ままならないものですね、己の未熟というものは」

「まったくね……」


 互いに納得し合ったのを確認し、支部長がまず組合の判断を伝える。


「新規冒険者ユイト、彼の情報は、その異常な再生能力に至るまで、“名簿”にあまさず記させてもらう」


 「しかしながら」、その辺りで、彼は表情を柔らかくした。

 と言っても、目や口の形に大きな変化はなく、ただ空気感だけが変わっただけだが、けれど確かに、和らいだことを感じさせていた。


虜囚りょしゅうの身でありながらも心折れずに、エネクシアの治安維持に協力した実績と、その際にデーモンを、それも事実上複数のユニークを持つに等しいそれを討滅した、という大戦果。我々組合は、これを極めて好意的に受け止める」


 彼の言っていることは、こうだ。

 「約束への誠実さと、“実行能力”において、『ユイト』という冒険者を信用する」。


「よって、新規冒険者に対して与えることが可能な中で、限度いっぱいの等級、Cスコア冒険者として認定することを、ここに通達する」


 それは、“冒険者エメリア一行いっこう”と、今後とも仲良くやっていきたい、という意志表示とも言えた。


「彼の詳細情報は、Bスコア未満の者には閲覧不可となる。更に追加事項として、今回彼が挙げた、デマや誇張としか思えないレベルの戦績も、しっかりと公的なものとして記録する。彼はこれから上級冒険者達の、興味の対象となるだろうが——」


「“デーモンを殺せるCスコアの少年”、などという人物と、その勢力ごと敵対したがる者は、そうはいない」


 ユイトが未確認知性体である、ということが、広く知れ渡るのと共に、その勇名もまたとどろくことになる。


 少なくとも最初に懸念されていた、「売り払う為に誘拐しよう」、などと良からぬことを企む者達に対しては、大いなる牽制材料となるだろう。


 すなわち、「デーモン並にヤバいヤツと、戦ってまでそれをしたとして、採算は取れるのか?」、と躊躇ちゅうちょさせるわけだ。


「心遣いに感謝します」

「礼は無用。私は私の仕事を、忠実に果たしただけ」


 「その者が何者であるかは、その者の行いが教えてくれる」。

 エネクシアらしい落としどころと言えた。


「それで?」


 と、ここまでなら彼女にとって、歓迎すべき流れではあったが、


「本日の本題は?」


 これで終わり、ともいかないようだと、エレノアは既に見抜いている。


「その話をするのでしたら、私から彼への伝言ゲームにせず、本人も呼び付ければそれで済むこと。そうしないということは、何か()()用があるのでしょう?」


 「エメリア」とユイトが主従であると言うのは、エネクシアというシステムからすると、まだ「勝手に言ってるだけ」でしかない。正式な書面を作れていないのだから。

 

 その為、「ユイトの主人である彼女を代表として扱い、組合の意向を伝えた」、という対応は成り立たない。


 となれば考えられるのは、「エメリアに話があるので、まず態度を軟化させようと、クッションとしてユイトの話をした」、という説が妥当か。


「お察しの通りだ。これは一種の聴取と思ってくれ」


 もう濁す意味もないと見たか、切り込んでくる支部長。彼女に対する下手な腹芸は、やるだけ不利を負うことになると、それを悟れるだけの優秀さがあるから、彼はこの支部を任されているのだ。


「今回の案件、当初の想定以上にキナ臭くなっている」

「デーモン、ですか」

「これまたご明察だ」


 神格の末節、それも、歴史上度々(たびたび)現れては、人の社会に破壊工作を仕掛けて回る、災害級に迷惑な暗躍者達。その影が差したともなれば、神経質になるのも当然。


「後で本人にも聞くつもりだが、ウィリ=デの証言を参考にするなら、変異型ノームどもは、ユイトを『アタリ』と称したらしい。心当たりは?」


「愚問ですね。奴らは若い知性体を欲していただけ、ということは、捕獲した連中から聞き出しているのでしょう?」


「ああ。()()()()()()協力してもらっている。だが——」


 どうやら大した収穫はなかったようだ。

 末端は何も知らされず、言われるがままに子どもをさらい、長が何らかのルートでさばく、その繰り返しだったと言う。

 

「あの手慣れた様子では、ここ最近始めたビジネスではありませんね。荒らし回りながら、国境をまたいで拠点を変え続けることで、対策も討伐もされずに来た、と見るべきでしょうか」


「本部はまさにそう考えて、近隣諸国に探りを入れさせているところだ」


 「本部」。

 エネクシアの基幹部も、既にこの問題に本腰を入れ始めている、ということ。

 そして彼らは、人の流れを利用して、他の国々の情報を、できるだけ多く吸い出そうと動いており——


「その一環で、私の話を聞きたい、と」

「本当に話が早い。Bスコアに昇級したあかつきに、組合運営側に加わる気はないか?」

「考えておきます」


 エリーフォン出身の冒険者、というのはそれなりに少数派。その上、つい最近までエリーフォン領内に居たであろうダークエルフ、などという存在は、リアルタイムな情報源として、高度な希少性を有していると言っていい。


 であるからこそ、「デーモンは変異ノームを使って、エメリアを狙ったのではないか」、という疑惑も湧いているわけだ。


「念を押しておきますが、私の従者が攻撃を受けたことについては、恐らく単なる偶然でしょう」


 ユイトその他から聞いたデーモンの様子からしても、彼女達が本命だったとは考えづらい。


「けれど、エリーフォン領内の話をするなら、気になることがないわけではない」

「それは?」


 支部長とウィリ=デが身を乗り出す。


「予断をいだかぬように。これはまだ、線として結ぶには乱暴な点と点」

「構わない。今はどんなものでも取っ掛かりが欲しい」


 恐らくそのうち、本部から調査人員が派遣されてくる。それまでに「引継ぎ」の見栄えを良くしたいと、彼らも“信用”の為に急ぎ気味なのだろう。


「まず、私の知る限りの話をするなら、エリーフォンで特異な児童襲撃事件が起こっていた、という事実はありません。人攫ひとさらいはあるものの、飽くまでも()()()()範疇です」


「『だが』?」


「早まらないようにと言っているでしょう?私が引っ掛かっているのは、首都メガラルブス下層、黒民街こくみんがいにおける、物価の問題です」


 方々に喧嘩を売り、今も複数正面作戦を展開中のエリーフォン。そういった事情もあって、特に奴隷の値段は高騰していた。


「気になったのは、未成熟な奴隷ですら、高値で取引されていたことです」


「子どもが?」


「ええ。市場に並ぶ数は多い代わりに、労働力としては今一つ足りず、育てる手間が大きい者達。有力な奴隷商人の下で教育を受けた、といった前提でもなければ、売れ残ることの多い商品」


 需要と供給のバランスが、圧倒的に供給に傾いているのが、幼年奴隷達である。その多くは、娯楽としての繁殖行為によって生まれ、経済的に面倒を見切れなくなって手放される、というケース。


 エリーフォン領内では、ハイエルフは除くとしても、ダークエルフやリカントのような多産種達が、毎日何十何百もの我が子を、最寄りの奴隷商に売り払っている。


 それが、今やバブル状態だ。


「私は記録を参照しただけですが、同程度と思われる条件の奴隷で比較して、10年前と比べて3倍ほど。それ以前に遡れば、10倍、20倍になっているという推計もあります」


 これには嘘が混じっている。


 黒民街にコネクションを持つ彼女は、20年ほど前からその傾向に、違和感を持ち始めていた。その時はまだ成人奴隷だって、そこまで跳ねていない頃だったのに、幼年奴隷というジャンルにのみ、高額商品化の傾向が出ていたのだ。


 彼女がスキャンダルによって追及され、国家反逆罪の容疑を掛けられて、様々なデータの閲覧権限を奪われていなければ、今も追っていたに違いない。


 ただ、それをそのまま素直に伝えると、彼女のエリーフォンでの立場や、寿命の長いハイエルフであることがバレかねない為、少しだけ空惚そらとぼけさせてもらったのだ。


「商人が私兵を揃えるにしても、欲するのは即戦力の筈。ここまで戦火が激しくなった状態で、今更育成必須な奴隷を、買い集めている者達が居る……?」


 戦時で働きざかりが持って行かれ、人手不足だから猫の手も借りたい、ということだろうか?だが、デーモンが絡んだ連続児童集団誘拐事案まで、時を同じくしているとなると、「気にしすぎ」と切り捨てるのは、危険過ぎるように思える。


「各国の幼年奴隷の物価変遷を、詳細に調査することをお勧めします。その高騰が、どこの国から始まったのか分かれば、」

「デーモンの仲介で、ノームと繋がっていた“顧客”の目星がつく、ということか」


 と、言いつつ、発生源となる国がどこか、エレノアには大体の見当がついていた。

 彼女が調べた時、大規模な奴隷の国外持ち出しなど、網に引っ掛からなかったのだ。ということは、それらは「内」で消費されたということ。




 エリーフォン領内に、デーモンが根を張っている。




——50年前とは、随分やり方を変えてきましたね


 何をどうするつもりなのか、それはまだ分からないが、どうやらエリーフォン攻略において、新たなアプローチを確立したようだ。


「ところで、組合本部が調査に来る、ということは——」

「ああ、申し訳ないが、しばらくこの街に居てもらう。勿論滞在費はこちらが出す」


 謝礼だけ頂いて、さっさと目的地に向かうつもりだったが、どうやらもう少し、ここで足止めされるようである。


「それならば、広めの建物を借りたいのですが」

「広めの?ああ、捕虜だったノーム達を従えたんだったか」

「あれらには、屋根のある場所で寝てもらわなければ、困りますから」


 思ったよりも優しげに聞こえる言葉が出てきて、面食らった様子の二人に向けて、「それは買い被り過ぎだ」と苦笑するエレノア。


「断っておきますが、あれらの快適な睡眠など、本来ならどうでもいいこと。ただ、仲間が一人でも野ざらしになっていると、素直にベッドで休んでくれない、そんな厄介な従僕を飼っているもので」


 それは結局、従者の心情を思い遣っているのではないか?


 ウィリ=デと支部長は顔を見合わせ、


 どうやら双方共に、その疑問を抱いたらしいと、


 ちょっとした通じ合いを体験したのだった。

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