教員の会話
「それでは職員朝礼を始めます。えー、今日から、タツマ先生が教師として、えー、ね。はい、魔法構築学を担当することになりました。皆さんもね、えー仲良く、してあげてください」
…どんな世界にもこういう先生っているんだな。多分この人学長だけど。
「タツマ先生、自己紹介。」
耳打ちしてくれた聖女に感謝しつつ俺は学長の隣に出る。
「今日から生徒達に魔法構築学を教えるタツマです。魔王ですが、特に暴れたいとかはありません。趣味は魔法開発です。もし信用がないならそれはまぁ…仕方ないですけど、そこの聖女が…じゃなくて、リューム先生が証人のようなものになってくれると思います」
こればかりは仕方ない。だって魔王だから。
「ありがとうございました。えー、今日は皆さん定時だと思いますのでね、えー、歓迎会を行いたいと思います。なので、参加できる方はなるだけ参加して下さい。他に連絡がある方ー?」
…特になさそうだな。そんなこんなで朝礼が終わり、授業が始まった。と言っても、みんな基礎はできていたのでその応用だが。そして夕方、数十人の教師達と共に酒場に来ていた。主催者は娘が誕生日らしく欠席しないとの事だ。流石に仕方ない。
「んじゃあマオーくん、仕切りよろしくぅ!」
「えぇ…。か、乾杯?」
「「「「「乾杯!」」」」」
こうして、飲み会が始まった。あの資料には教師の名前が載っていなかった。つまり、完全に信用するかは別としてそこまで警戒しないでも良いという事だ。気楽でいいな。
「…タツマ先生は飲まないんですか?」
「あー…俺、下戸だから。お持ち帰りは怖いだろ?」
「どちらかと言えばあなたがする方では?」
ぬかしおる…。俺は女も酒もさほど興味とこだわりがほぼない。強いて言うならおつまみは好きだ。特にエイヒレ。
「にしても魔王が新任の教師とは…暴れないでくださいよぉ~?」
「生徒たちもそうだが…お前らは恐怖という感情が欠損しているのか?普通はもっとビクビクされるから調子が狂う」
「それは違いますよ?」
違うも何も、今こうして酒を飲んでいるのが何よりの証拠だと思うんだが。
「我々はあなたに対して恐怖を持っています」
我々も人間ですから、と言うわりには余裕そうな表情をしている。でも、嘘というわけでは無さそうだ。
「でもそれと同時に魔法バカでもあるんです。将来、近代魔法構築学の偉人として教科書に出てきそうな人物がすぐ隣で働いているんです。これを利用しない手はないでしょう?」
「…なるほど。つまりはあれか、俺の技術を盗もうってことか」
「端的に言えばそうですね」
「面白い。まあ特に秘匿とかしてないし…助言くらいならしてやるよ、先輩方。」
そんなこんなで飲み会が終わる。2次会には行かず、俺は1人で買った煙草を吸っていた。
「こんばんは。今日は蒼月が美しいですね」
「…聖女か。今ヤニ摂取してるから離れといた方が…」
そう言うと聖女は胸元から一本の葉巻を取り出す。
「…お前本当に聖女なのか?」
「お酒も葉巻も、少しは嗜みますよ。人間ですから」
「はいはい。火、いる?」
「お願いします」
俺は氷魔法を使って火を起こす。本来は無理な芸当らしいが、氷魔法を理解して、適性があれば誰でも出来る気がするんだが。そもそも氷魔法は温度を変える魔法だ。それを操って氷魔法と呼んでいる。
「…体に染み込みますね」
「だな。…こっちの世界は煙草が美味い」
「前世では好きではなかったので?」
聖女には全て話している。前世の事も。それほど信用できる人物だと言う事だ。…向こうで煙草を吸ったのは、最初で最後だったな。あの時の味は、とてもじゃないが美味しくなかった。火すら直ぐに付かなかったっけ。
『龍。お前だけでも逃げろ!』
『若!こちらへ!』
………。
『お前のせいだ。お前さえいなければ我々は…!』
『あんたなんて疫病神でしかないただの蛆よ。さっさと失せなさい!』
「魔王様?」
記憶の海から引き摺り出された俺は、聖女を見る。なにか、心配したような目をしている聖女を。
「…何故、そんなにも苦しそうな表情を…?」
「え?」
「先程から、魔力が暗くて、濁ったような感じですし、何よりそんな暗い表情をされていては…」
…そんな顔してたのか、俺。まだまだって事だな。
「気にするな。今は煙草を楽しもう」
「…そうですね」
そう言った俺に対して、聖女は悲しそうな顔をしながら肯定した。




