依頼開始
「待たせたな」
「いえ、それほど待っていませんよ?お茶菓子まで出していただいてありがたい限りです」
「ふんっ」
聖女…客観的に見れば器量のいい美人。身長は低めでおっとりとした雰囲気がある。隣で悪態をついているのは勇者。名前は知らない。俺はホムラに目線を向けて話を仕切るよう促す。
「では、早速本題に入りましょう。今回の話、魔王様は受けてもいいと考えています。ですが、対価は頂きます」
「それは勿論。我が国からの依頼、ですから」
「んじゃ、今から聞くことに嘘偽りなく答える事。嘘ついたらコールドスリープな。まず1つ、敵対勢力に目星は?」
「大きく分けて2つ、教会内の過激派と一部の生徒です」
教会…やたらと俺たちを敵視する国が元の宗教だったか?俺はその神様に任されたんだが。
「それにしても生徒か。とこぞの貴族が関わってるのか、外部で誰かと繋がっているのか…子供数人でできる事じゃないのは確かだな」
「そうですね。特に怪しい生徒は教員に陰ながら監視するよう命じています」
「そうか。それじゃあ逆に、絶対に信用していい人物はいるか?」
「…絶対、と言われれば分かりませんが、我々は信用してもらっていいかと」
「お前らを?お前らも潜入するのか?」
「いえ、私たちは元々その学園の教員なんですよ。私は神聖学と回復魔法を、この子は体術を教えています。あなたには魔法構築学をを受け持って頂くつもりです」
「分かった。ラスト、俺の部下を数人連れて行く、いいな?ポストは用意しなくていい」
「…分かりました。あなたの部下なら暴れることもないでしょうから」
勇者は暇そうにして聞いていないが、聖女は察してくれているようだ。これは俺の護衛のための部下じゃないと。…まぁ護衛とか邪魔だし。陰ながら情報を集めてもらう為だと。クオンはそこら辺得意だし連れて行くか。
「これで話はおしまいだ。報酬はまた後々話そう。ホムラ、用意出来次第、クオンと共に学園に向かえ。これは命令だ。俺は先に向かう」
「はっ。仰せのままに」
「今から向かっていいんだよな?」
「なるだけ早い方がいいですが…今からですか?今からだと着くのは真夜中ですよ?」
部分解放 竜翼。
半年も練習していたら無詠唱でリュウ化できるようになった。今思えば、魔法も展開とか言わないでいいな。今思えば恥ずかしっ。
「じゃあ先向かうから。ポストは頼んだぞ聖女。勇者は聖女に迷惑かけるなよ?」
「なんで私だけそんな辛辣なの…?」
ここから学園に向かうのだが、特に何もなかったので割愛する。
「魔王様…お楽しみ中失礼しますけど、そろそろ向かいますよ」
「あ、来たのか。これ美味しいな!」
チーズを肉の中に入れて焼いてチーズをかけてその上からレモンを垂らす。本当に美味い。
「ホムラとクオンは?」
「クオンさんの奥様が…」
「…よし行くか。あれは放っておくに限る」
「あそこまでの重症者は初めて見たわ…」
どんな種族でもヤンデレは怖いね。
「それでは扉の前で待っておいてください」
「分かった。すぐ呼んでくれよ?」
軽く頷いて教室に入ってしまった。…聞き耳を立てるとしよう。
「みなさん、席についてください」
「「「「はーい」」」」
「聖女ちゃーん、これ終わったらこの問題教えて?難しくてできなーい!」
「先生と呼んでくださいといつも…また後で教えますから」
「聖女ちゃんは顔よしスタイルよし性格よしだけど聖女だからなぁ…行き遅れなんだよなぁ」
ブフォッ。
「分かる。低身長の控えめグラマー体型なのに…」
「なにやら…楽しそうな会話ですね?」
「「…サーセン」」
「それではホームルームを始めます。今日はまず、紹介する人がいます」
「聖女ちゃんの彼氏?!どんな人?」
「…まだ何も言っていないでしょう?入ってください」
やっと出番か。後で煽ってやろう。俺は魔王だから良いのであって、良い子はしちゃいけない。役得だ。
「今日からここの副担と魔法構築学を担当する、憤怒の魔王、タツマだ」
「「「「…………」」」」
…この空気どうするんだよ。
「…あ、あの」
「ん?」
「「サ、サインください!」」
「うんちょっと待ってろ?聖女来い」
なんで不思議そうにしてるんだよこの聖女は。
「俺魔王だぞ?畏怖の対象だぞ?サインとかないぞ?!」
「…手紙に書いたでしょう?あなたから魔法を教わる事は学習意欲の向上に繋がると。それくらいあなたはいい意味で有名なんですよ」
「…そんなもんなのか。とりあえずサインは…感じでいいや」
龍磨、と。キャーキャー言っておられる。これが子供か。若いな。
「それではタツマ先生はそこに座っていてください。必要な資料がありますから」
「うい」
必要な資料…「調査報告書」。これか。確かに必要な資料だな。幸い、このクラスに怪しい人物が数名いる。その数名から調べるとしよう。
「…なので、気をつけてください。残りの時間はタツマ先生への質問タイムにしましょうか」
「なんでも聞いてくれー」
おー、大量だな。報告書の奴は…居るな。
「それでは…ギル。質問をどうぞ」
「はい」
ギル・クライア。この国の第二王子であり名実共に隙のない人物。確かに王家のコネならあり得る…のか?確か王位継承権は第一王子にあるから…まぁ怪しくはあるな。
「タツマ先生は普段、どのような仕事を?」
「色々だな。民の為に本当にいろんなことをしてる」
「センセーの趣味は?」
「ルカ。ちゃんと指名されてから聞きなさい」
ルカ。平民出身で明るいムードメーカー。貧乏というわけでもなく誰に対しても浅く広くがモットーって感じだな。何もないからこそ怪しい。
「俺の趣味は魔法の開発だ。いい暇つぶしになる」
「次は…ファシル。どうぞ」
「聖女ちゃんとの仲は?」
ファシル。2人目の怪しい人物。貴族出身の色ボケお嬢様。王家ほどではないがそれなりの貴族らしい。
「煽ったりお茶したり…まぁ仲はいいんじゃないか?」
「煽るのはあなただけです…よ…?」
「ほら高い高ーい」
「死ね」
…顎を蹴られた。痛い。
「と、まぁこんな感じだな。今日は1時間目から俺の授業だからちゃんと用意しとけよ?あ、教科書は無くてもいいがノートは取るように」
「「「「はーい」」」」
「じゃあ職員室行くぞ」
「そうですね」
扉をそっと閉めて職員室に向かう。
「…どうですか?」
「微妙だな。ギル、ルカ、ファシル。ルカ以外はどちらも利点がある。全員、というのも視野に入れた方が良さそうだ。だが…もしギルが噂の張本人として、新しく魔王を生み出すとしよう。その目的は?」
「…第一王子の暗殺、とまではいかずとも、失墜させる事ですかね?」
「そうだな。でもそれは魔王じゃなくてもできる。生み出した魔王が国が崩壊させるリスクと国王の座、その2つを天秤に乗せれば傾くのはリスクの方だろ?極論だが、俺に頼んでも良いわけだし。ファシルも同様」
「となると、1番警戒すべきなのはルカ?」
「あいつに関してはお前らが考え過ぎてるって事も否めないが…まぁそうだな。他のクラスにも怪しいやつはいるんだろ?そいつらも見てみないとどうにも」
正直に言えば、疑いをかけられている者達全員が手を組んでいる可能性も高いし、噂が本当なら最低でも4分の1くらいは犯人側だと考えている。だがそれをいうのは時期尚早だ。もしかすると、調査されていることに勘付く、もしくは勘付かれている可能性だって0じゃない。魔王を生み出そうとする奴らがみすみす諦めるとは思わないから、そうなれば確実にこちらを殺しに来る。能力で勝っていても物量で押されたらキツイしな。
「ま、1週間もすればあの2人から連絡が来るだろ。それを気長に待つとしよう」
「そうですね」
…一応、護衛をつけておくか。
「…【水廻囲】」
「何か言いました?」
「なんでも」
これでしばらくは様子見だな。
水廻囲は壁や床の隙間に潜っているので普段は視認不可能です。必要な時のみ対象を囲んで守る。




