無茶振りすぎん?
…就活を失敗してしまった。高校を卒業して早2年。これといった趣味が無かったからこその貯蓄も底をついてきた。明日も明日で朝から面接と忙しい。そこの公園で遊んでいる子供の自由気ままが羨ましい。なんて考えていたらその子供がボールを追って道路に飛び出した。なんてベタな。
…まぁ、俺みたいな無職よりも未来のある子供の命の方が重いに決まっている。そんな安っぽい紙皿の天秤で命を比べ、子供を庇って俺はデコトラに轢かれた。どうせなら庇った子どもの顔見たかった。なんで死ぬ直前の風景がドアップのデコトラなんだよ。
「ということで、君には転生をしてもらいます」
「どういう事でお前は誰だ」
いや本当にどこだここ。ただ真っ白で殺風景。壁らしきものは見当たらないがすぐそこに壁があるような…感覚が狂う部屋だ。
「君ぃ、神様に対して礼儀がなってないなぁ?とりあえず自己紹介。僕はリンネ。名前の通り、輪廻転生を司る神様だよッ⭐︎」
「うわ…生粋の陽キャだ。離れよっと…」
神様?そんなの誰が信じるんだよ。
「…心の声と逆転させるならもう少しわかりやすくして欲しいかなぁ…?」
「ちょっとなに言ってるかわからない」
閑話休題。この自称神が言うには、俺を剣と魔王の世界…俗に言う異世界へと転生させるらしい。なんでも、今から送られる事が決定している異世界では人族と魔族が戦争をしていて、その原因は魔族側に絶対的な力の象徴である魔王が存在しないから。なので力の象徴になって戦争を止めろと。そして人族と和解しろと。
「いや無茶振りすぎないか?」
「君にならできるよ。ちゃんとチートスキル差し上げますんで」
「スキル?なんだそれ」
「魔法使いが魔法を使うように、剣士などの前衛はスキルを使うんだ。勿論、魔法使いだからと言ってスキルを使えない訳じゃないけど…ツリーが育ちにくいんだよ。逆もまた然り。この魔法とスキルは1人に一つづつだけ与えられる」
「…ツリーって?」
「魔法やスキルの成長分岐のことだよ」
…なんかムカつくなこいつ。
「君は…氷属性の適性があるね。これはまた珍しい。これなら努力次第で水も使えるから実質2属性だね。それなら…物理系のスキルにしておこうかな。はいこれ」
「…箱?」
開ければいいのか?…光の玉が入っている。
「おめでとう!君は過剰強化を手に入れたよ!」
「明らかに自壊しそうな名前してるんですけど?!」
「それは仕方ない。強いものには強いデメリットがつきものだからね。でも君にはそれを補う種族になってもらうし安心して?あと最初からフルパワーが使えるわけじゃないからさ」
「謎の箱の次はウィンドウか。…3種類?」
「そう。その3つの中から1つを…って、え?3つ?僕は2つしか用意してないよ?」
無視してまず1枚目。
・吸血鬼
血を扱う。特別な吸血鬼なので、日光に触れても死にはしないが不快感がすごい。
次2枚目。
・不死鳥
死なない。特別な不死鳥なので、水をかけられても死にはしないが行動が鈍くなる。
ラスト3枚目。
・リュウ
空を自由に飛べる。特別な竜なので、人になれるが完全なリュウの姿に戻るためには時間がかかる。
「…吸血鬼は氷属性と似たような感じで不死鳥もいざという時面倒だな。それに比べてリュウは…これといった悪いところがないんだな?」
「ちょ、っと待って?リュウ?少し見せて?」
「お、おう?」
なんだよ急に慌てて。…やっぱりリュウかな。かっこいいし。
「もう行っていいか?」
「あ、うん?!その前に一つ聞きたい事があるんだけど」
「聞きたい事?」
「君のご両親は…どこでなにをしてた?」
俺の両親?…どうだったっけ。
「だいぶ昔に死んだからよく分からない。なにかあったか?」
「…もう1つ、君に伝える事ができた。」
「なんだよ改まって。そんな深刻な事か?」
「…君は今から深い深い、身に覚えのない大きな罪を背負うかもしれない。それが君にとってどうなるかは分からないけど…絶対に悪用はしないで。いい
?」
…とりあえず頷いた。俺はなにかしたのだろうか。
そして今現在、戦地真っ只中に居る。あの駄目神…中性的な見た目しやがって。刺さる人には刺さりそうだな…。
「死ねぇぇぇ!」
「死ねぇぇぇ!」
うるさいな…。確か魔法の使い方は…。
『魔法を使う時はかっこいい名前を叫んで効果を頭の中に浮かべれば大丈夫!魔力が足りさえすればね!』
って言ってたな。ふっ、俺の厨二力が今発揮される…!
「【円陣展開 氷獄】」
…思ったよりも効果範囲が広いな。綺麗に凍った水面を想像したのに荒々しい氷塊になってしまった。もっと細かい想像が必要のか?難しい…。
「き、貴様…!何者だ!」
明らかに火属性の魔法を準備しておられる。
「第3の勢力か?この魔法を使えるとなるとただの魔法使いではあるまい!」
明らかに火属性の魔法を準備しておられる。
…魔法発射の準備されちゃってるよどうすんだよ俺。氷で防げるのか?相手は火だ。…いや、氷は溶けたら水になる。そうすれば火は消えずとも威力は落ちるはず。こうなればやけだ。円だと威力が発散しそうなので形を変えよう。
「【重芒星回転陣展開 氷槍】」
「魔法が打ち消された…!?くっ…お前達、早くそこから出てこい!魔法使いは肉弾戦に弱いはずだ!」
…数人、剣士が出てきたな。竜の力も使ってみるとしよう。
「【部分解放 竜腕】」
「なっ…!竜のガントレット?!おい、もっと質のいい武器よこせ!」
「んなもんねぇよ!」
「【部分解放 龍尾】」
「ごはっ!」
これは…アイスドラゴンってやつか。というか竜と龍?だからカタカナ表記だったんだな。さて、力を見せたから俺の名を教えてやろう。
「俺は………タツマ!氷を操りし魔王だ!」
「…なんだ今の間は」(コソコソ)
「本当に魔王なのか?」(コソコソ)
「えぇいコソコソするな!かっこいい名前を思い付かなかったから仕方ないだろ!」
「…え、あ?その…すまない?」
「…いいよ」
「ありがとう…じゃなくて、魔王だと!?…お前の担当はなんだ?」
担当…なんだそれ。おい駄目神。見てんだろ説明しろ!
『…憤怒』
あ?
『……』
逃げたなあいつ。
「…憤怒だ」
「憤怒だと…!?」
「だとしたら我々はなんという事を…!」
「…?」
「「申し訳ございませんでした!どうかお許しください!」」
…はぇ?
こうして戦争は終わった。そして俺は憤怒の魔王となり、魔族の国を治めることになった。
「魔王様こちら、5年分の税収と国家予算割振をまとめた資料です。目を通してください。それが終われば次は外交問題についての資料を作成してありますのでその問題に関しての対策をお考えください。あぁそう、民から農地拡大についての抗議が…」
「ブラック企業かよっ?!」
無職にこれはキツイ。こいつは側近の1人、ホムラ。鳥人族らしい。まだ魔王として働き始めてから半年でこれだ。鬼畜にも程があるぞこの側近は。そんな事を考えていると、部屋のドアが大きな音を立てて開かれた。
「タツマ!ホムラ!今度のライブの準備しようぜ!」
「「勝手にしてろ」」
入ってきたのはもう1人の側近であるクオン。狐人族だ。なんでも、スキルが音に関するものらしくいつの間にかライブに参加する羽目になった。
「魔王様ーッ!勇者一行が攻めて来ました!」
「茶菓子と紅茶を用意してテラスに座らせておけ。直ぐに向かう」
勇者パーティー。女勇者を筆頭にした、聖女、盗賊、騎士。全員が女のパーティーである。
「それと、聖女より手紙を預かっております」
「手紙?」
『魔王様へ。
堅苦しい文は嫌いだと思ったのでこのように書かせていただきました。
毎度の事、うちの勇者が申し訳ございません。友好の使者として我々を送っている国王もこれに関しては頭を悩ませているのですが、完全に信用できているわけでもないようで、万が一のために我々が送られています。パーティーメンバー一同、あのポンコツに説教をしておきますので今後とも、良好な関係を築けるようお願いします。
それはそれとして、あなたに一つ、国からの仕事を依頼したくてこの手紙を書かせていただきました。その依頼とは、我が国の魔法学園に教師として働いていただきたいのです。理由としては二つ、一つ目は、生徒達があなたから魔法について学べるという事は生徒全体の学習力向上につながります。何故なら、あなた以上の氷属性魔法使いは存在しませんから。二つ目は秘密裏に頼みたい事です。なにやら学校内に不審な動きがあるようで、どうもそれが新たな魔王を生み出すための何かだという噂が立っています。噂は噂なのですが、万が一の事を考えてあなたにお願いしたいと思っています。返事は後ほど。
聖女 アンス・リューム』
新たな魔王を生み出す、か。もしそうなら面倒だな。とりあえず今はテラスへ向かうとしよう。
「ホムラも来い。勇者に会えるぞ?」
「…流石にあなた1人では心配なのでお供します」
「クオンは?」
「お前分かってて聞いてんな?…せめて男がいりゃあよかったんだがな。妻に絞られちまう」
クオンはこの中で唯一の妻帯者である。そして大の愛妻家。クオンの妻はそれ以上の愛夫家である。つまり愛がとても重い。
「まぁなんだ…子供ができたら言ってくれよ?お祝いと有給やるから」
「祝いはありがたいが有給は遠慮しとくぜ。…何されるか分かったもんじゃない」
夫婦ってのは大変だと俺は思った。




