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楽しい学園生活 2

 ◆


 廊下を少し急ぎ足で歩いていたルナは、オルシアが足を止めたので一緒に足を止めた。


「ルナちゃん、ありがとう。助けてくれて。で、でも、無茶しないで。私なんかのために……」


「私がむかついたから反論しただけです。……すみません、少し大人げなかったですね」


 ルナは反省した。自分の方が長く生きているのだ。なんとか穏便に済ます方法を模索するべきだった。


「あの人はソリアーダン家の人だから……」


「どういう人なんですか?」


「え……。えと、私はあんまりよく知らないんだけど……」


「街の有力者の息子だよ。大商人の跡取りのボンボンってやつさ。そんじょそこらの貴族より金持ちで、この学園に多額の寄付をしてるってやつだよ」


 ルナたちが振り返ると、先ほど助けてくれた赤毛の少女がいた。


「あなたは……、先ほどは助かりました。お礼も言わずに立ち去って、申し訳ありません」


 ルナが丁寧に言うと、赤毛は少女が笑った。


「ひとつ貸し……。と言いたいところだけど、今回はオマケしとくよ。同室の友人としてのヨシミだしね」


「同室?」


「寮の部屋だよ。アタシは第四学位のイルヴァ。これからよろしく」


 イルヴァは手を差し出した。ルナは握手のために手を差し出すと、イルヴァはその手を掴んで体を引き寄せた。肩を抱かれて体をくっつけられると、ローブに隠れた彼女の豊かな体の感触に、ルナは赤面する。


「で? あんた、あの七魔剣の女なの? みんなはコネで入学したなんて言ってたけど、あんたの実力、その程度じゃないよね」


 ルナはムッとする。


「あの変態メガネの女なんて、絶対にお断りです。コネと言えばそうかもしれませんが、少なくとも試験で不正はしていません。そこにいるオルシアが証明してくれます」


 そう言ってオルシアを見ると、彼女は何か恥ずかしそうに体をヨジらせている。そして、ルナとイルヴァの間に割って入ると、ルナを抱きしめた。こっちはかなり痩せた体である。


「……ダメです! ルナちゃんは渡しません! ルナちゃんは、私の友達です!」


 イルヴァは一歩下がると、頷いた。


「ああ……、あんたたちそういう……」


「違います!」


 何か別のことに勘違いされていそうで、ルナは急ぎ否定する。


「え……。お友達……」


 今度はオルシアが勘違いするので、ルナはこちらも慌てて否定する。


「違うっていうのは、友達じゃないって意味じゃなくて……。私たちは友達ですが、イルヴァさんが考えているような関係ではないってことです!」


「お友達……!」


 オルシアがさらに深く抱きしめるので、今はされるがままにしておいた。


「ふーん。ま、いいさ。もうひとりルームメイトがいるけど、そいつは後で紹介するよ。とにかく、よろしく。学位が違うけど、わからないことがあれば聞いてよ」


「はぁ。それはどうも」


「あと、もう一個訊いていい?」


「え、ええ。まぁ……」


 どんな質問が来るかと身構えたが、イルヴァはルナの足元に注目する。


「そのスカートどうなってんの? 膝が見えてるけど……」


 服装のことで注意されるのかと思ったが、イルヴァはマジマジとルナを眺めているので、純粋に興味があるのだと察した。


「ああ、これは……。ほら、この制服、体のラインも見えないし、全身覆ってしまって、野暮ったいじゃないですか。少し肌が見えた方が良いかなと思いまして」


「へぇ……。確かにこれだけの違いで、全然、雰囲気が変わるねぇ。時々見えるだけってのが、またいいね。自分で仕立てたの?」


「ええ、魔術で」


「いいね。今夜、アタシのもやってよ。それが助けたお礼ってことで」


 ルナは褒められて、少し嬉しくなる。微笑んで快諾した。


「じゃ、今後ともよろしく。オルシアも仲良くやろう」


 イルヴァはそれだけ言うと去っていった。残されたルナとオルシアはその背中を見送る。

 オルシアはルナの方を見ずに、口を尖らせた。


「ルナちゃん、寮に入ってるんだね。あの人と同室で……」


 なぜか小声で言われ、ルナは少し困惑して頷いた。


「そうみたいですね。オルシアは寮じゃないのですか?」


「家が近いから、通っているの。そっか。みんな、寮に入ってるんだ……」


 オルシアは何かを考えてから、ルナに笑いかける。


「ねぇ。私もスカート短くしてくれる?」


「え、ええ。いいですよ」


 なぜか少し押しが強くなったオルシアに、ルナは困惑しながら頷いた。


 ◆


 結局、オルシアはアルフォンスの講義を受けることにしたようである。

 だが、教室に入ったときには、既に席は埋まっており、ルナとオルシアが座れる席はなかった。百人が入れる大教室なのに、既に立ってまで待っている者たちまでいる。


「えぇ……。席が……ない」


「早く来たのにねぇ」


 ルナもオルシアも入口で立ち尽くす。


「どうしよう。立ったまま、講義受ける?」


 オルシアが言うが、それは避けたいところだ。ルナは良いとして、オルシアは一時間も立っていられるとは思えない。それを心配しながらでは、講義にも集中できない。


「何を止まっているのです。早く入ってください」


 アルフォンスが後ろから声をかけてきた。ルナたちは仕方なく、教室の隅っこに立つことにする。

 アルフォンスは何事もないように、扇状の教室の真ん中に置いてある教卓に就いた。


「では、講義を始め……たいところですが、まずは選別します。第二学位以下の人は去ってください。騙すことはできませんよ。もし去らないなら、守秘義務違反として退学にします」


 何人かの生徒の顔色が変わり、立ち上がって足早に教室を去る。それでも百人くらいは人がいそうだ。


「まだ多いですね……。半分くらいにするために、殺し合いをしてもらいましょうか」


「ええ⁉」


 生徒たちが驚くが、ルナは冗談だろうと相手にしなかった。


「冗談です。こうしましょう。今から私が指示を出しますので、それに従っていただければ、受講資格を与えます」


 そうして、アルフォンスは少し黙った。生徒たちはどんな指示があるのだろうと身構えたが、なかなか彼は話し出さない。

 そのうち、生徒のひとりが人差し指を一本立てて、手を上げた。さらにその謎の行動をする者が増えていき、中には両手の指を立てている者もいる。

 半数程度が指を上げたとき、アルフォンスは口を開いた。


「よろしい。では、指を上げた(・・・)方は出て行ってください。まだ実力不足です」


 指を上げていた生徒たちが落胆した様子で、出て行こうとする。だが、そこに声を荒げる者がひとりいた。


「待てよ! なんでだ! オレたちは指示に従っただろ! なんで指を上げた方が出て行かなきゃいけないんだ!」


 聞き覚えのある声だ。叫んでいるのは前に大食堂で会った、ロバルトという少年である。


「こんなのはおかしいだろ! オレを締め出すための策略だ……。あのヴェルデの頭のおかしな女に何か言われたんだろ!」


 アルフォンスがルナの師であることは、学内を一瞬で駆け抜けたようだ。彼はルナを一瞥イチベツしてから、ロバルトを見つめる。


「誤解があるようですね。私が出した指示を理解しておられない。あなたは指示を何と受け取ったのですか」


「……指を一本立てろ、必要ならば二本立てろ、だろ。間違ってないはずだ!」


 ロバルトが言うと、アルフォンスは自身の魔術をより濃く、太くした。それは魔力で作られた細い紐である。本来は細すぎて、肉眼では見えないものだ。

 それはアルフォンスの頭上で文字を描き、指示を出している。


『指を一本立てろ。必要ならば二本立てろ。ただし、講義を受けたい者は指を立てるな』


 紐はそう示している。


「……ハァ⁉ 最後の一文はなかったはずだ! ふざけん……!」


 アルフォンスが指を振ると、ロバルトの体は浮かび上がり、アルフォンスの元に吸い寄せられる。突然のことにロバルトは抵抗ひとつできなかった。そして、アルフォンスに胸元を掴まれると、耳元でササヤかれる。


「この講義は、本来は第四学位以上の人しか受けられないのですよ。しかし、情勢をカンガみて、君たちにはさらなる成長を後押しする必要があるため、第三学位でも受けられるようにしました。ただし、実力も分別フンベツもない者には教えることはありません。私が一体何をしたのか理解できないのであれば、それまでです」


 その物言いは丁寧だが、アルフォンスの声は威圧的なものである。


「ロバルト・ソリアーダン君。このまま、摘まみ出されますか。それとも自分の足で出て行きますか」


「う、ぐ……」


 アルフォンスはロバルトが黙ったのを見ると、胸ぐらから手を離した。ロバルトは歯噛みしながら、エリを正す。


「誰がこんな講義なんか受けるか!」


 ロバルトは捨て台詞を吐いて、扉を乱雑に開けて出て行った。その後ろを取り巻きたちが、慌てて追いかける。アルフォンスは微笑んだまま、一瞥すらしなかった。


「どうして、あのロバルト君、指立てたんだろう。講義受けたくなかったのかな」


 オルシアが言うので、ルナは嫌味かと思って苦笑する。だが、オルシアは本気で言っている顔だった。


「魔力を物質化して、目に見えないほど細くした紐。慣れてないとあの空気の揺らぎは見えないし、最後の一文は、魔力すらほとんど感じないほど完全に近い物質化だった。それにあの子は気が付けなかったんだよ」


 ルナが言うと、オルシアが感心して声を上げた。


「へぇ~、すごい! 私は全然、わかんなかったよ。風魔術は元々目に見えないから、そういう細かいことはわかんなくなるんだよね……」


「え。それはそれで支障があるような……」


 ルナは風魔術を使ったことがないので、オルシアの言っていることが本当かどうかはわからなかった。だが、少なくともオルシアは最後の一文に簡単に気付いたのは事実だ。


「やれやれ、始める前にどれだけ時間を使わせるのですか。ルナ君、今日の出席者のリストを渡すので、次回からは君が代表して出欠を取りなさい。部外者は追い出しておいてください」


「は? なんで私が。絶対やりませんよ」


「なんでそんなに反抗的なんですか……。魔術教えませんよ」


 ルナとアルフォンスの睨み合いが始まった。そこに声がかかる。


「あの、出欠ならば僕が取ります。ヴェルデさんは入学したばかりですし、第五学位の僕の方が適任かと思います」


 そう言ったのはルシオである。彼はルナと目が合うと、軽く手を上げた。ルナは無視する。ルシオは苦笑して手を降ろした。


「君は?」


「ルシオと申します、フォルスター魔導師」


「よろしい。では、ルシオ君にお願いしましょう。こうやって目上の者には媚を売ることも必要ですよ。ルナ君」


 その物言いにルシオはさらに苦笑いするが、実際こうやって内申点を取ることは必要である。卒業後の就職に影響があるからだ。

 ルナはその言葉も無視して、席に着いた。オルシアも慌ててその横の席を確保する。


「ふむ。まぁ良いでしょう。講義を始めます」


 ◆


 授業はかなり重い内容だった。

 それは魔術による戦術、戦況の操作、命の奪い方・守り方を、個人ではなく全体を見てやる方法である。所謂イワユル、宮廷魔術師の仕事であった。

 他の生徒たちは皆、そのことを理解し、覚悟してここにいるわけだが、ルナはそんなことはつゆ知らずに授業を受けたため、その内容に衝撃を受けた。

 仲間と一緒に戦っていたとはいえ、それはあくまでも『戦術』であり、『戦略』と呼べる規模とは程遠い。たったの三人で世界を救うなどということは馬鹿げた考えだと、今更ながらに思い知らされた。


(世界を救うなら、世界を味方につけなきゃいけない……。そんなことにも気が付けなかったなんて、なんて若くて愚かだったんだろう……。そんなことを十四歳の子どもに押し付ける神さまって……)


「我々のようなメネル族は寿命が短く、若い時間も短い。つまり、ひとりで物事を進めるには、必ず限度がある。次の世代に繋ぐことも大事ですが、それ以上に効率良く力を使うことを考えるべきです。力の一極集中。つまり仲間を集め、高め合い、協力し合うことが必要なのです。その点、先ほどのロバルト君は賢いですね。取り巻きをあんなに連れているのですから」


 アルフォンスがそう言うと、乾いた笑いが起こった。アルフォンスは容赦がない。


「さて……。もう時間ですか。今日は選別で時間を取られて、消化不良ですね……。では、また来週。次からは実技も含めての講義になります。怪我をしても良いよう、覚悟はしておいてください」


 アルフォンスの脅しで講義は終わった。

 彼は窓の外を眺めて、少し険しい表情をすると、何も言わずに教室を去り、生徒の面々は解散し始める。

 講義中、アルフォンスがルナに絡んでくることはなく、平和に終わって安心した。


(言うこと聞かなかったこと怒ったのかな……? ま、いいか)


 ルナも気にせずノートを片付けると、机に手を置いた人物がいた。見上げるとイルヴァがルナを覗き込んでいた。彼女もこの講義を取っていたようだ。

 彼女は短くなったスカートを気に入ってくれたようで、持っている予備のスカートまでルナに短くさせた。


「よ。ルナ」


「イルヴァさん、この講義。結局、受けられたんですね」


「そうなんだよ。戦うのは得意じゃないんだけどね。ま、人脈作りの一環でね。……あんたたちがいて助かったよ」


「助かった? 何かしましたっけ」


「ほら、最初のとき、指を立てなかっただろ。あんたたちの真似したから、立てずに済んだよ。何か別のことが書かれているって気付けたからね」


 最初、イルヴァはアルフォンスが書いた文字を、最後までは読めなかったようである。それで指を立てようとしたのだが、ルナたちが立てていないことに気付いて、立てなかったのだ。目を凝らして魔力の流れを読み、何とか最後まで読めたとのことである。

 状況を見て判断するのも、ひとつの実力だ。

 イルヴァがルナに近寄ると、オルシアがその間に少し割って入るのは、ここ数日のいつもの光景だ。


「オルシア、あんたのルナを取り上げたりしないって」


「わ、私は別に……」


「知ってるかい? アタシたちの部屋にはもうひとつベッドが空いてるんだよ。誰か新人が入ってくるかもねぇ」


「え」


 オルシアが何かを考え込んでしまったので、その隙にイルヴァはルナと話す。


「それよりも街での話、聞いたかい?」


「街? いえ、まだ街に出たことがなくて。何かあったのですか」


「なんでも……、出るらしいよ……」


 イルヴァが勿体モッタイつけて言うので、ルナは息を飲んだ。


「……で、出る? まさか、幽霊ゴースト……?」


「は? ゴーストが出たって噂になんかならないよ。吸血鬼だよ、吸血鬼!」


「吸血鬼……」


 この世界でゴーストは下級の魔物でしかなく、魔術士の相手ではない。だが、吸血鬼ならば話は別だ。

 魔術士にとって吸血鬼は天敵だと言っても過言ではない。

 魔術士は準備して戦うのが得意である。前衛を用意して、その間に魔術を整え、確実に当てる。それが魔術師の基本戦術だ。そして吸血鬼は、奇襲を得意とする。魔術士の準備をすっとばして、いきなり懐に飛び込んでくるのだ。相性は最悪である。

 もちろん対抗するスベは存在しているが、それを準備するにも時間がかかるのだ。


「街の中に魔物が? でも、衛兵たちが対処しているのですよね」


「それが、もう犠牲者が何人か出ているみたい。オルシア、帰り道は気を付けなよ。学内に入ってくることはないと思うけど、あんたは家に帰るとき、街に出なきゃいけなんだからさ」


 オルシアはイルヴァに言われ顔を上げた。


「だ、大丈夫ですよ。変な人に絡まれたこともありませんし……」


「そうなの? ま、それならいいんだけど」


 街全体に魔物を遠ざける結界が張られており、さらに学園内には幾つもの結界による保護が為されている。この街は魔物に襲われる心配のない街として有名である。


(どうやって入り込んだんだろう……。まさか、魔王軍……?)


 ルナは少し不安に感じながらも、街へ出なければ倍丈夫だろうと考える。そして、空腹感を我慢できなくなり、大食堂への道を急いだ。


 ◆


 中庭に出たアルフォンスが肘を上げると、そこに立派な羽根を持つ鷹が留まった。


「何か進展が?」


 アルフォンスが訊くと、鳥が答える。


「はい。新しい犠牲者が出ました。グリオンの痕跡があったため、追跡しています」


 グリオンとは、翼竜を駆り、空を支配する航空部隊、通称『竜騎兵』の隊長である。

 軍の虎の子である航空部隊の隊長格ともなると、その扱いは騎士に近く、少しでも手柄を立てれば、こぞって叙勲しようとする貴族がある。アルフォンスも彼とは面識があった。以前の彼は、冷静で、部下に好かれる傑物だった。

 だが、今の彼は違う。


(ルナ君の元の住処に送った調査隊。その生き残り……。調査隊派遣を軍に持ち込んだのはこの僕だ。僕にも責任の一端がある)


 軍に所属しているため、知り合いが死ぬところは何度も見てきた。だが、こんな状態になった者は、アルフォンスは知らない。

 彼ら竜騎兵に、ルナの住んでいた場所の調査の命令が下った。

 報告書によれば、彼らは任務の途中で襲撃を受け、グリオン以外は全滅した。グリオンは意識がなく、翼竜が傷付きながらも帰還する。その後、翼竜は死に、グリオンも意識は戻らなかったが、彼の手記により、魔王軍の存在が明らかになったのである。

 任務故に仕方がないこととはいえ、この有様にはアルフォンスも罪悪感を覚えずにはいられない。


「家族には」


「知らせていません。まだ任務中であると思っています。魔物と化した姿を見せるわけには……」


 まだ若い妻と幼い娘が二人いる。確かにこんな報告をするわけにはいかないだろう。もし、してしまえば、彼を追いかける妻があらぬことをしでかすかも知れない。


「……部下たちを失い、気が狂ったというわけではないのですね」


「死体に残った痕跡は、彼が吸血鬼と化したことを告げています。排除するしかないと思います」


 吸血鬼は人が変化したものと、生まれついての吸血鬼と、二種類が確認されている。

 生まれついて吸血鬼は、屍霊術によって造られた人造の存在である。その作成方法は既に失伝しているが、何千年も前に造られた吸血鬼の王(ヴァンパイアロード)は、未だに生き残っている。

 そして、もう一種の吸血鬼は、その吸血鬼の王から生み出される。吸血鬼の王は人間の血を吸い、殺してしまうが、中には血を吸われても生き残る者がいる。それが吸血鬼の従徒(レッサーヴァンパイア)だ。

 従徒に変えられた者は、吸血鬼の王の人形と成り果て、元の人間に戻ることはない。


「吸血鬼は、わざとグリオンを逃がし、その吸血鬼化を遅らせることで、街に侵入させた。高度な戦術だ。魔王軍の手の物だと思って間違いないだろう。ルナを追跡するため? いや、ここにいることはわかっていないはず。純粋にこの街を陥落させるためか……」


「可能性はありますね。ルナさんにこのことをお伝えしますか」


 鳥は言うが、アルフォンスは首を横に振る。


「彼女は確かに強い魔術士ですが、この件には関わらせるわけにはいきません。教えれば、ルナはグリオンを探そうとするでしょう。自分のせいだと思い込んで。わざわざ危険に近付けるわけにはいかない。それにこれは軍の問題でもあります。同僚にトドメを刺すのは、軍人がやるべきでしょう」


 鳥は何も言わずに飛び立った。


(グリオン。彼を救う方法は、どこにあるのでしょうか。私がもっと上手く魔術を使えれば、彼を救うことができたのでしょうか。何が七魔剣だ。友を救うことのできない、ただの愚かな男でしかない……)


 アルフォンスは拳を握り締めた。何かを破壊したい衝動に駆られるが、唇を噛んでそれを堪え、鷹が飛んで行った夕焼けの空を眺めた。


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