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旅行前のゴタゴタ

 ◆


 ルナが目覚めたその日のうちに、ルナの葬儀は行われた。

 オルシア、ロバルト、ディルタ、イルヴァ、ダウリ。

 容態が急変し、死亡したという知らせを聞いた者たちは、嘆き悲しんだ。

 死体は保存されない。

 屍霊術による不死者化を防ぐには、そうするしかない。

 ルナの死体に別れを行うため、何人もの学生や衛兵たちが参列する。

 皆、慣れたものだ。行方不明になる生徒、魔物に殺される生徒。年に数人は存在する。

 ルナは嫌われることも多かったが、好かれてもいたようである。

 その葬儀の次の日、園外授業が行われることが通知され、生徒たちはそれぞれ指示された魔導師の元に集まった。

 オルシア、ロバルト、ディルタの三人は旅行用の荷物を持ち、リリアナに伴われてメルビムの元に集まった。

 集合場所が人里離れた森であることは気になったが、三人とも何も考える気力のない状態だった。


「やっほー! みんな元気そうで何より!」


 悲壮した表情の三人の姿を見て、髪を短く切ったルナが明るく言う。

 三人は何が起こっているのかわからずに、口を開けて呆然と立ち止まる。

 既にリリアナとメルビムは集合場所におり、もうひとり、兜をかぶった戦士風の男が待機していた。


「……元気そうで、なにより?」


「……」


「おま……おまえ、お前! 生きてんじゃねぇか!」


 ディルタが叫ぶ。


「なんで生きてんだ、お前! 死んどけよ! ボクの涙を返せ!」


「へぇ……、泣いてくれたんだ? ちょっとうれしいかも。見たかったなぁ、自分の葬式……」


「こいつ、マジ……。殴っていいの、殴っていいよね?」


「やめろ、ディルタ。こいつのペースに乗せられるな。

 それで。どういうことなのか説明してくれ。あの死体は……」


 そこでオルシアがルナに美しいタックルをかまし、二人は草の地面に倒れ込む。


「ぐへっ」


 オルシアはルナの腰に抱き着いたまま、ルナの腹に顔を埋めて何かを叫んでいる。


「ル……! 死んじゃ……⁉ わた……!」


「はいはい、鼻水付けないでねぇ」


 ロバルトがオルシアの襟首を持って引きはがす。


「お前が死んでからこの調子だ。幼児退行している」


「よしよし、生きててよかったでちゅねぇ」


「おい!」


 リリアナが呆れていると、メルビムが手を叩いた。


「はい、そろそろ出発するよ。話は空の上でね」


「「ええ⁉」」


 もしかして自分たちは全員死んでいて、今まさにお迎えが来ているのか、それに気付いてないだけなのではないかと思い始める。

 リリアナはメルビムまで何を言い出すのかと、肩を落とす。


「メルビム先生……、その言い方はかなり誤解を招きますわ……」


「そう? あたくしのお迎えはもうすぐだからねぇ」


 年老いた魔導師あニヤニヤしながら言う。


「笑えませんわ……。そう言う人ほど長生きするものです! 先生まで悪乗りするのはやまてくださいまし!

 さぁ、皆さん! 紹介したい人がいます。わたくしたちの護衛を務めてくださいます、戦士グリオン・パーシバルさまです。ご挨拶してください!」


 メルビムが話を進めないので、結局、痺れを切らしたリリアナが進行役を始めた。

 リリアナがそう言うと、木にもたれて様子を見ていた戦士が、兜を取って挨拶して見せる。


「……」


「え……」


 オルシアは見覚えある顔に驚く。


「オルシア・イーブンソードさま。その節は申し訳ないことをした。個人的な接触は禁じられていたため、この機会に謝罪させていただきたい」


 グリオンは胸に手を置き、頭を下げる。

 それを見たディルタが少し身構えて見せた。


「グリオン・パーシバルって、あのグリオンか。吸血鬼にされたっていう軍人の……」


「は? じゃあ、オルシアの家を襲ったやつか」


 ロバルトはオルシアをかばうように一歩前にでる。


「落ち着いてください、皆さん。グリオンさまは吸血鬼ではありませんわ。今は普通の人間です」


今は(・・)?」


 空気が張り詰める。


「ねぇ、話は道中でしようよ。レデクス村まで半日かかるって聞いたんだけど」


 無神経に言うルナに、ロバルトは怒鳴る。


「お前な! こっちは事情が何もわからないんだぞ! 少しは説明しろ‼」


 ルナは肩をすくめる。メルビムが代わって話し始める。


「オルシア、グリオンを許せないかい? もし、許せないのなら……」


 グリオンはまだ頭を上げていない。


「いえ……。グリオンさま、頭を上げてください。

 心情としては許せないところもあります。でも、操られていたのですよね。それであんなことを……。私もついこの間、自分自身を制御できず、友人を殺してしまうところでした。

 だから、許します。悪いのは魔物。魔王軍です」


 オルシアの言葉に、グリオンは顔を上げた。


「ありがとう……」


 メルビムが手を叩く。


「よし。和解も済んだところで、さっさと行こうか」


 ロバルトが疑問を呈す。


「徒歩ですか? 地図で見た限り、レデクス村に行くには一週間はかかりそうでしたが」


「いや、これで行くよ」


 メルビムが袖から取り出した人形を投げる。

 それは地面に降り立つと、どんどんと大型化していき、飛竜(ドレイク)の形へと変わった。

 ディルタが手を上げる。


「ボクお腹痛いんで、帰ってしてきます! ちょっと長くなりそうです!」


 走り出そうとしたディルタの足に、ルナの紐が巻き付いて倒れる。ディルタの体に紐が蛇のように巻き付いていき、身動きを完全に封じた。

 ディルタは飛竜型ゴーレムを見て、空の上を行くと察したのだ。

 彼は高所恐怖症、他にも多数の恐怖症を持っている。ルナも最初は気を遣っていたが、余りにも大げさなため、近頃はただやる気がないだけだと思っていた。


「ルナ、紐の魔術が上手くなりましたわね」


「そう? ふふん。まだまだアル先生には及ばないけどね」


 ロバルトが飛竜型ゴーレムを怪しげに見つめる。背中には搭乗用の席があり、竜というには多少(イビツ)である。


「これで飛べるんですか?」


「そうだよ。あんたたちが試験でやった、空飛ぶ絨毯ジュウタンを、ジルベルト殿下がイタく気に入ってね。オド学園長とあたくしで試作品を作ったのさ。翼膜はアルフォンスが作ったけどね」


 メルビムが竜に乗ろうとするので、グリオンが手伝おうとする。しかし、メルビムは体を浮かせて軽々と飛び乗ってしまった。

 オルシアが頷く。


「じゃあ、私が飛ばせばいいのですね」


「いえ。今回はわたくしとメルビム先生で飛ばします。少しコツが必要なんですの。

 オルシアには空の魔物が襲って来ないか、見張りをお願いしますわ」


 芋虫のように這って逃げようとするディルタに、リリアナはしゃがみ込んで声をかける。


逗留トウリュウすることになるお屋敷には、とても綺麗なお嬢さまがいるとのことですわよ。まだ初々しい同年代の家政メイドも多数いるとのこと。

 お友達になれるかもしれませんのに、良いのかしら?」


「……ボクがそんな甘言カンゲンに乗ると思っているのか、リリアナ。

 ボクは正常な男子であり、女子は好きだ。だが、節操なく口説くような男ではない。

 生涯ただひとりの愛すべき人を探す、愛の探究者なのさ……」


 ディルタが地面にホホを擦り付けながら、ました顔で言う。

 リリアンは顔を近付けた。


(考えても見てください。ロバルトにはオルシアがいるのです。となると、男子はあなただけ。緑一点ハーレムですわよ。

 つまり、いいところを見せる機会が多くあり、あなたから声をかける必要はありません。あちらがあなたに惚れてくれるのですわ。

 女の子を守る凛々(リリ)しい騎士役。しかも、将来が嘱望ショクボウされる魔術士。もしかしたら、お嬢さまとも懇意コンイにできるかもしれません。

 そんな幸運な場、一生に一度あるかどうか……)


 リリアナに耳元でササヤかれ、ディルタは目を瞑った。

 ディルタはグルグル巻きにされた状態で器用に立ち上がると、力尽くで紐の魔術を破り、跳び上がる。そのまま飛竜型ゴーレムに着地した。ゴーレムは痛そうにウメく。


「仕方がない。一緒に行くことにしよう。これはあくまでもリリアナ嬢、そして皆のためだ。ボクが村を守る。愛のために」


 ルナは何を小声で言われたか、だいたい察しがついたが、一応聞いておく。


「何言ったの? 逗留地に迷惑かけるようなことは……」


「大丈夫ですわ。ディルタは節操なく声をかけるような男ではありません。なにせわたくしたちの騎士ですからね」


「騎士……?」


 ゴーレムが嫌がって身をよじったので、ディルタが転がり落ちるのを皆で見守った。

 メルビムは揺られても、座席から全く落ちる気配がないのはさすがである。御年九十歳の魔導師は伊達ダテではない。


「さぁ、早く乗りなよ。グリオン、飛行準備」


「はい、マム」


 グリオンは生徒たちが乗り込むのを手伝い、座席に付けられたベルトを確認し、全員に付ける。荷物の固定を最後に確認し、グリオンが座席の先頭、飛竜の首元の席に座った。

 飛竜型ゴーレムは、ようやく飛べるのかと、大きな翼を広げて見せる。

 メルビムが中杖ロッドを掲げると、爽やかな風が起こり始め、ゆっくりと巨体が上昇し始める。

 今までは複数の人間と荷物を持つには、飛行用の魔道具か、飛竜を手懐ける必要があると考えられていた。

 魔術士が個人で飛行することはあっても、複数の魔術で協力して飛ぶという発想はなかったのである。

 個人で飛行でもかなりの魔力を消費するのに、複数人で統制の取れていない魔術士たちで飛行するなど、骨頂コッチョウだとすら考えられていた。

 何人かで協力することで、個々の負担を減らし、相乗効果を生む。

 この一見当たり前に見える発想が、貴族の血の魔法を中心として作られた国家には浸透していなかった。

 魔術士が個性と自由を重んじており、協力するには自己が強すぎるのが、発想を貧困にさせていたというのもある。魔術士自体の数が少なかったとことも原因だ。

 戦士と魔術士が役割分担をすることはあっても、複数の魔術士が組むということはほぼない。

 だが、学園・学校という場が、魔術の世界を変え始めている。

 学生から出た発想が認められ、国が研究を後押しする。

 史上、稀にしか見られない規模の、戦いに備えて。


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